ビジネスパーソンインタビュー

残業時間の上限を規定する「36協定」とその特別条項を弁護士が解説! 違反した場合の罰則は?

不当な残業はホントに減る?

残業時間の上限を規定する「36協定」とその特別条項を弁護士が解説! 違反した場合の罰則は?

新R25編集部

2019/01/31

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私たちのワーク・ライフ・バランスを狂わせる「残業」。

定時を過ぎても仕事が終わらず、会社に残って働く人は、とても多いと思います。人によっては、止むを得ず休日出勤をすることもあるのではないでしょうか?

そんななか、法律の改定で「残業時間」が減るかもしれないという情報を入手!!

というわけで今回は、2019年春の法改定により時間外労働・休日労働などの残業時間の上限が規定される、通称「36(サブロク)協定」の一般条項および特別条項の内容や、違反が発覚した場合の罰則などを、アディーレ法律事務所の中西弁護士に聞いてきました。

【中西博亮(なかにし・ひろあき)】弁護士・弁護士法人 アディーレ法律事務所、東京弁護士会所属。2012年に岡山大学法学部を、2014年に岡山大学法科大学院を卒業。残業代請求など、労働問題に詳しい。スポーツ好きで、体力自慢! 依頼者のためにいつでも全力投球な弁護士

「36協定」とは、会社と従業員が締結する時間外労働や休日労働に間する協定

ライター・松本

恥ずかしながら、「36協定(さぶろくきょうてい)」という言葉を初めて聞きました。これはどういった法律なんですか?

中西弁護士

残業休日労働に関する決まりについて書かれた労働基準法(以下、労基法)第36条に基づき、会社と従業員の間で締結する協定です。

またの名を、「時間外労働・休日労働に関する協定届」といいます。

労働基準法 第36条

1. 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、これを行政官庁に届け出た場合においては、
第32条から第32条の5まで若しくは第40条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この項において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる
。ただし、坑内労働その他厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務の労働時間の延長は、一日について二時間を超えてはならない。

中西弁護士

労基法にはそもそも、「労働者を1日8時間、1週間だと40時間を超えて働かせてはいけない」という明確な決まりがあるんですよ。

(そんなホワイトな決まりがあるのか…)

中西弁護士

ただ、その時間内で終わらないケースもあるじゃないですか。

なので、本来この規定を超えて残業や休日労働をさせるのは違法なんですけれど、「36協定」を結べば、その違法状態を解消できるんです。

もちろん、企業はその分の割増賃金を「手当」として払わなければいけないんですけどね。

ライター・松本

つまり、36協定があれば1日8時間以上、もしくは1週間で40時間以上働かせてもいいということ…?

なんだかあまり労働者が守られてない気がしますが…

中西弁護士

たしかに残業させられてしまうような感じがしますが、「36協定」によって、使用者が残業させる場合には、労使間で話し合いを行わなければならないことが義務付けられているので、労働者は残業に関して使用者としっかり話し合うことができるんですよ。

ライター・松本

なるほど、「36協定」で「残業」できるようになるけど、労使間での話し合いの機会を設けることによって「残業しすぎ」を抑制してくれるんですね!!

大事な法律だ…

中西弁護士

もっとも、現実は、使用者側と労働者側でしっかりとした話し合いがなされず、際限なく時間外労働が発生しているケースも多いんですけどね…

「36協定」の改正により、曖昧だった残業時間などの上限が明確化

中西弁護士

ただ、これまでの「36協定」は「抑制」するための決まりが非常に曖昧でした。

実は、「残業時間を抑制する」と言いつつ、正直、何時間残業しても問題がなかったんですよ。

ライター・松本

えっ、どういうことですか?

中西弁護士

36協定には、労働時間の適正化のため1カ月45時間、1年360時間の限度基準が設けられています。

ただ、たとえば「クレーム対応で時間外労働が必要だ」といった「労働時間を延長しなければならない特別の事情」が生じたときは、前もって限度基準以上就業させる旨の特別条項の規定をつけた36協定を労働基準監督署(以下、労基署)に提出するんです。

でも、その特別条項には限度基準がなく、極端な話、「月に200時間ぐらい残業させます」と書いても違法とは言えないんです。

ゆるすぎる規則にびっくりです

中西弁護士

それが、2019年4月の法改正で、労働者のためにも特別条項に明確な時間の上限をつけることになりました。

ライター・松本

特別条項では、何時間まで残業が可能になるんですか?

中西弁護士

1カ月で100時間未満です。

え…? 100時間!?

ライター・松本

…みんな思うと思うんですけど、100時間でも多くないですか?

全然残業できちゃうじゃないですか!

中西弁護士

そうなんですよね…

ちなみに、1カ月限定なら上限は月100時間未満ですが、2カ月以上連続で残業が必要な場合は、平均して月80時間以内にしなければなりません。また、年間だと720時間以内にするという明確な上限も定まりました。

また、このような月45時間以上の残業ができるのは年6回(6カ月)までと決められています。

ライター・松本

年間720時間までってことは平均したら月60時間か…

それでも少なくない気がしますが、残業が月200時間を超えるような超ブラック企業で働いている人たちは救われるのかもしれませんね。

1カ月の残業上限「100時間未満」は何を基準に決まった?

ライター・松本

36協定の仕組みや改正の内容はわかりましたけど、この程度じゃ残業ってやっぱり減らない気がします。

中西弁護士

難しいところなのですが、多様な働き方がある現代だと、あまりガチガチに規定を設けるのも現実的じゃないんですよ。

業種によって事情も違いますし、むしろたくさん働きたい人もいるので、バランスが難しいんです。

だから、最低限の基準だと思ってもらいたいですね。

ライター・松本

では、その最低限の基準の数字として出てきた「80時間」とか、「100時間」って、何をもとに決められたんですか?

中西弁護士

これは、労災認定の基準との兼ね合いです。

思いのほか闇の深そうなワードが出てきた

中西弁護士

たとえば、働きづめの結果、脳疾患になってしまった方がいたとします。その人を「労災認定するかどうか」と判断するには、直近6カ月の働き方を見るんです。

そこで、何カ月も80時間以上残業しているとか、1カ月で100時間以上の時間外労働をしていることがわかれば労災認定がおりやすいんです。

だから、そこに到達しないところを特別条項では設定しているわけなんですね。

ライター・松本

…そこを上限にしちゃっている時点でダメじゃないですか?

生きるか死ぬか、ギリギリすぎません…?

中西弁護士

そうなんですよ!! 正直、働かせすぎだと思います。

…けど、世の中には労災認定の基準以上に働いている人がたくさんいるので、このルールで助かる人も多いんです。

私どもの事務所に相談に来られる方は、「働かされすぎて困って弁護士にすがるしかない」という状態なので。そんな過酷な労働を強いられている人が、この法改正で少しでも減ってほしいと思います。

ライター・松本

とはいえ、その時間を超えて働けてしまうような例外はないんですか?

中西弁護士

実はあります。「新技術・新商品の研究開発業務」をしている人は、80時間、100時間という規制が取っ払われるんです…

ライター・松本

やっぱり… 結局36協定結んでも無限に働かされる人が出ちゃうんですね…

中西弁護士

先ほどもお話した通り、やはり多様な働き方があるので、こういった例外を認めないとどうしても不満が出てしまうんですよ。

もちろんその分の手当は出す決まりになっていますし、会社は労働者の健康面にも気をつけなければなりません。

ただ、実際はこの業務に従事していないのに、「このチームにいる人はみんな新技術・新商品の研究開発業務の従事者」とざっくり会社に決められて働かされている人もいるかもしれません。

研究開発の補助的な業務に従事している人は、この規定に該当しないので、自らの業務が当該業務に該当するのか注意が必要です。

ライター・松本

自分の扱いが、会社から適切に割り振られていないかもしれないんですね。

中西弁護士

はい。その場合は不当な時間外労働をさせられている可能性があるので、まずは自分が会社からどういう業務の従事者とされているのか、それが実際の業務と合致しているかを確認してほしいです。

休日出勤をさせる場合にも「36協定」の締結は必要

ライター・松本

休日出勤のことも聞きたいんですけど、平日に終わらなかった仕事を、土日も会社でやらなければならないときは「休日出勤」になりますよね?

中西弁護士

実は、その休日が法定休日なら「休日出勤」、法律上の言葉でいうと「休日労働」になります。

法定外休日なら「休日労働」にはなりません。法定休日に労働させるためには36協定の締結が必要です。

ライター・松本

法定休日法定外休日は何が違うんですか?

中西弁護士

労基法では、労働者を「1週間に1日、もしくは月に4日休ませる」と定められています。この最低限の基準で設けなければいけない休日を法定休日といいます。

法定外休日は、会社で決められた休日のことです。

ライター・松本

じゃあ、法定休日を満たすことは大前提で、それにプラスして法定外休日があるっていうイメージですね!

✔法定休日の労働→休日労働
労働基準法で定められた「法定休日」(1週間に1日、もしくは週に4日休ませる)に働く場合

✔法定外休日の労働→時間外労働
会社の就業規則で定められた「法定外休日」に働く場合

中西弁護士

そうなりますね。労基法の基本的なルール「1週間の労働時間を40時間以内にする」に則(のっと)れば、月曜日~金曜日に8時間ずつ働けばそれだけでいっぱいになりますよね。

だからそれを超えないよう、法定休日に加えて法定外休日を1日つけて、週休2日制を設けている会社が多いんです。

ライター・松本

週休2日ってそういう流れで決まってたんですね。なんかややこしい…

中西弁護士

この辺をわかっていない方はとても多いですよ。

でも単純に労働者からしたら、週に1日だけの休みじゃイヤじゃないですか?

ライター・松本

イヤです。転職します(笑)。

でも思ったんですが、エステとかヘアサロンの人って週1日も休みがなくて、もっと連続的に働いていることがある気がするんですよね。

これは違法じゃないんですか?

中西弁護士

いえ、実は法定休日は、日曜日から土曜日の「暦週」で区切った1週間のなかに1日だけあればいいので、たとえば以下のように休みを設定すれば12連勤でもセーフになってしまうんです。

もっとも、週40時間の規制を超えないように1日の労働時間は調整しなければなりませんが。

ライター・松本

そういうことだったんですか! 制度上OKだとしても、なかなかハードですね。

正社員もアルバイトも、1日8時間以上働く必要がある人すべての労働者が対象

ライター・松本

この36協定は、正社員や契約社員などの雇用形態関係なく、全ての労働者が対象なんですか?

中西弁護士

残業が予定されているすべての人、といった方が正しいですね。全ての労働者は雇用関係を結んでいるので、まず労基法の対象になりますよね。

そのなかで、1日8時間以上働いて残業などをする必要があるなら、もちろん36協定は必要になります。

ライター・松本

業務形態で区別があるということではないんですね。

ちなみに裁量労働制(フレックス制)の人はどうなりますか? 明確に時間に縛りがないと思うのですが…

中西弁護士

あくまで裁量労働制は「仕事の内容を8時間とみなす」という形での働き方なので、たとえば裁量労働でも、1日9時間かかるとされている業務をするときは、36協定が必要になります。

ライター・松本

でも、「会社に住んでいるんじゃないか」というくらいに業務がある上層部の人って、そういう申請をちゃんとした上で働いているようには見えないんですけど。

逆に「いつ働いてるんだ? 」というくらい暇そうな人もいますが(笑)。

中西弁護士

管理監督者という方たちですね。

社長とか取締役とか…役職名だけで簡単には区切れないんですけど、会社の重要なことを決める役割で、出退勤の時間を特に決められていない方でそれなりの待遇を受けている人あれば、労働時間の規制の範囲外になるんです。

ライター・松本

なるほど、「部長が遅く来て早く帰るの、いいな」って思ってたけど、あれはそういうことだったんですね…!

そして逆パターンでいうと、36協定などで制限されないから、無限に働けてしまうことにもなるんですね。

中西弁護士

そうなってしまいますね。

みなさんが帰った後も、見えないところで苦労されてると思いますよ。

36協定違反をした場合は「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」

ライター・松本

ちなみに、36協定の対象になっている労働者が不当な時間外労働・休日労働をさせられたら、会社や使用者はどんな処罰を受けるんですか?

中西弁護士

「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」という罰則があります。

ライター・松本

懲役もあるんですね…!

中西弁護士

ありますね。それだけ、労働者を長時間働かせるのはよくないということですね。

そして、違反することで労基署からも厳しい目でチェックされるようになります。

ライター・松本

むしろ厳しく取り締まってほしいな…不当な残業なくなれ〜!

36協定の申請方法は? 協定の効力は1年間

ライター・松本

ちなみに、36協定って企業が労基署に申請するんですよね? これってどうやって申請するんですか?

中西弁護士

フォーマットをもとに書類を作成し、企業の管理監督者が労基署に提出します。

2019年の4月からは新たに内容も変わるので、その「新書様式」のフォーマットもすでに厚生労働省のサイトからダウンロードできますよ!

以下のものは、フォーマットの一例です。

ライター・松本

届け出は、時間外労働が必要なときにその都度出すんですか?

中西弁護士

基本的には「残業する人が出てくるかどうか」は事前にわかるはずなので、事前に提出します。

36協定の期限は1年間なので、時間外労働・休日労働が必要な企業は、毎年出さなければなりません。

ライター・松本

36協定を出してなかったけど急なトラブルで残業させてしまったときは、さかのぼって申請することはできますか?

中西弁護士

それはできません!

よかった…!

中西弁護士

というかこの時点で、36協定を結んでいないのに残業させたことになるので、違反になってしまっています。

業務内容を把握して、事前に対応してほしいですね。

本来の退勤時間より早い「タイムカードの打刻」はもちろんNG

ライター・松本

ただ、聞いた話によると、実際は残業しているのに、会社で決められている退勤時間にタイムカードを押すように言われている企業がけっこうあるみたいで…

場合によっては、自動的に退勤時間を「19時」「20時」とかに打刻されるところもあるらしいんですが、これってアリなんですか?

中西弁護士

もちろんなしです。企業が「労働時間の正確な把握」をするのは、基本中の基本ですよ!

ライター・松本

愚問だったんですね(笑)。

でもこの場合、訴えたい、告発したいときには証拠がありませんよね? 労働者はどうしたらいいんですか?

中西弁護士

「この時間まで会社にいて仕事をしていました」と主張できるものを用意してほしいです。たとえば、下記のようなものなどですね。

・パソコンのログインやログアウトの記録
・メールの送受信履歴
・入退館記録
・日報
・開店閉店時刻
・シフト表

中西弁護士

あとは、具体的な業務内容と、その業務が終わった時間をメモに残しておくのもいいと思います。

ライター・松本

なるほど! タイムカードの証拠がない以上、残業の明確な内容を自分で集めておくことが大切なんですね。

中西弁護士

はい。日本の人口はどんどん減っているので、忙しさは増すばかりじゃないですか。

だから働き方改革の一環で「みんなが働きやすくするための制度を作りましょう」という動きが生まれて、その流れで36協定も改正されるんです。

ライター・松本

なるほど。

中西弁護士

今回の法改定で全ての問題が解決されるわけではありませんが、時間外労働の明確な上限が決められたことは、とても意味があると思います。

不当に働かされている人が、36協定で認められている権利を使うことで少しでも救われればいいですし、今後、労働者にさらにより沿った内容に整備されていってほしいですね。

労働者のことを考えると、法律内容に改善の余地はまだありそう。ただ、現状の労働環境を改善するための第一歩を「36協定」が踏み出したということはわかりました。

多様な生き方が広まっているなかで、自分が納得して働き、不当な労働を強いられないために、私たちは労働者として持っている権利を把握し、適切かつ主体的に行使する意識を持つ必要がありそうです。

〈取材・文=松本紋芽(@Sta_iM)/撮影=いしかわゆき(@milkprincess17)〉

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