ビジネスパーソンインタビュー
ホストの親が来店するように…?
歌舞伎町で15年ゴミ拾いを続ける元カリスマホストが「自分は普通だ」と主張する理由
新R25編集部
あなたは「ホスト」と聞いたとき、どのような姿を思い浮かべますか?
チャラい。女慣れしている。金遣いが荒い…。ちょっとアウトローな、”普通じゃないよね感”を感じてしまう人もいるかもしれません。
今回お話をうかがったのは、そんな世界で活躍する元カリスマホスト、手塚マキさん。
現在は、ホストクラブや飲食店を経営しつつ、歌舞伎町のゴミ拾いをするボランティア団体「夜鳥の界」の代表を務めているお方です。
手塚さんの活動や思いを聞いているうちに、自分のなかで”普通ってなんだっけ?”と、価値観が揺らいでくるのを感じました…!
〈聞き手:ライター・高城つかさ〉
「普通の人生」を疑って飛び込んだホストの世界は、“不良の全国大会”だった
高城
手塚さんは、進学校を卒業後、中央大学理工学部に入学されたんですよね。
かなり珍しい進路だと思うのですが、なぜホストの道を選んだのですか?
手塚さん
いわゆる“普通の人生”に疑問を感じていたんですよね。
大学を卒業して、サラリーマンになって、結婚して…という道筋が「普通」だと言われる時代のなか、「それって本当?」と学生時代からずっと思っていて。
もともと早く働いて社会に出たいと思っていたので、どうせならこれまでの人生と真逆の世界をのぞいてみようと思い、在学中にホストになりました。
高城
当時は今以上に荒れていたというホスト業界ですが、実際に飛び込んでみていかがでしたか…?
手塚さん
うーん、日本中の不良が集まった、“不良の全国大会”みたいなところでしたね(笑)。
就職活動では「〇〇大学出身の…」みたいなことをアピールすると思いますけど、ホストに必要なのは不良の履歴書だったんです。
僕はその履歴書が真っ白だったんで、大変でした。
今は監視カメラが設置されたり、キャッチの規制があったりと、歌舞伎町もずいぶん健全になりましたけどね。
「目立ってやろう」と400万円を寄付。そこで待っていたものは…
高城
“不良の全国大会”とおっしゃっていましたが、なぜ手塚さんはそのなかでホストが歌舞伎町でゴミ拾いをする「夜鳥の界」のような活動をするようになったのでしょうか?
手塚さん
きっかけになったのは、2004年に起きた新潟中越地震の際、新潟県庁に400万円寄付したことで。
高城
400万円も寄付を… !?
手塚さん
はい。「ホストが大金を寄付すればニュースになるかもしれない」「目立ってやろう」と、仲間のホスト4人とタクシーで新潟まで向かったんです。
でも、いざ避難所で「歌舞伎町のホストの皆さんが、400万円寄付してくれました!」と紹介された瞬間、わーっと大きな拍手が起きて。
避難生活中のおばあちゃんや子どもたちが「ありがとう」と寄ってきてくれたんです。
手塚さん
そのときはじめて、僕らが何者かに関係なく、人は僕らが「やったこと」を見てくれているのかもしれないと思えて。
「ホストのくせに寄付をしたら目立つだろう」と、当時は何事もまわりの偏見ありきで考えていたのですが、そう思い込んでいたのは誰よりもまず自分だったと気づいたんです。
お腹の中にあるガラスがパリーンと割れたような感覚でした。
手塚さん
結局ニュースにも取り上げられなかったし、目立つこともなかったのですが(笑)、ちょうど独立してホストクラブ「Smappa!」をオープンした時期でもあったので、その感覚を部下の若いホストたちにも感じてほしくて。
「ゴミ拾い」なら、無料で手軽に始められて、まわりの人にも見てもらえるだろうと思い、ボランティア団体「夜鳥の界」を設立しました。
「夜鳥の界」を始めて、親や友達を店に呼ぶホストが増えた
手塚さん
ただ、「夜鳥の界」を立ち上げた当初はまだホストによるキャッチが規制されておらず、キャッチ中のホストが捨てたゴミを拾わなくちゃいけなくて。
それはとにかく屈辱的でした。
高城
ホストがホストのゴミを拾う…!
正直、「ゴミ拾いをしよう」と言ってもおとなしく従ってくれない従業員の方もいたんじゃないでしょうか?
手塚さん
始めたころは全然やらなかったですよ(笑)。
彼らは子供時代に学校や社会に味方が少なくて不良になった子が多いので、規則やルールで納得させることはできないんです。
ましてや「みんなやっているから」とか「普通だから」なんていう右にならえ的な教育は無意味で、一つ一つ本人たちが納得する説明をしなければいけない。
だから、「まわりがみんな不良で悪いことしてるなら、ちゃんとしてたほうが目立てるよ」「それやったら、○○が悲しむよ」と、「そういうルールだから」以外の言葉で伝えるように努力しましたね。
高城
そんな工夫があったんですね。今どれくらい続いているんですか?
手塚さん
もう15年ほど続けられていますね。
今では若手を自主的に「今月は何日があいてる?」と日程を決めて、月に1時間ゴミ拾いをしてますよ。
高城
友達と遊びに行くみたいな感覚で…!
手塚さん
新人には初回必ず参加してもらってますが、一度ゴミを拾えば捨てなくなるので、その1回だけでもいいと思ってます。
義務にしなかったからこそ続いたのかもしれません。
高城
ゴミ拾いの活動によって、お店で働くホストたち意識も変わったんでしょうか?
手塚さん
まあ、意識が変わったというよりは「この会社では悪いことはできないな」というちょっとした抑止力になっているくらいかな。
でも、悪いことをしたヤツに対する「あれダサいよね」という文化はできてきたし、家族や地元の友達を店に連れてくる従業員も増えてきました。
親御さんもうちの活動を知って「あんたの会社、いいところじゃない!」と言ってくれたりして。
「〇〇なのにすごい」という偏見ありきの褒め言葉
高城
逆に、ゴミ拾いを始めてデメリットなどはありましたか?
手塚さん
デメリットいうかは微妙ですが、あるときから、「ホストなのにゴミ拾いをするなんて、エライね」という言葉は、聞き飽きれるほどいわれるようになりました。
高城
ありそうですね…
手塚さん
「◯◯なのにすごい」という偏見ありきの褒め言葉はきっと、普通か・普通じゃないかの二択でカテゴライズするから生まれると思うんです。
ホストは「普通じゃない」職種として見られていて、そんなヤツらが「ゴミ拾い」という、”普通にエライこと”をしていると「ホストなのにすごい」と言われる。
でも、二択にカテゴライズできないグレーゾーンの人たちもたくさんいるわけで、一人ひとりが違うという意識を大切にしなければならないと感じます。
高城
最近では、フリーランスや副業、転職などさまざまな選択肢が増えてきたなかで、“普通の人生”みたいな言葉を軸に賛否両論が生まれることも多いですよね。
「普通の人生とは違うからかっこいい!」だったり「普通の人生と外れているけど大丈夫?」だったり。
手塚さんは“普通の人生”ってどういうものだととらえていますか?
手塚さん
僕が「普通から外れてる」なんてことを言われたら「君はタイムスリップをしてきたの?」とききますけどね!(笑)
高城
タイムスリップ?
手塚さん
そりゃ、高度経済成長期の終身雇用が当たり前だった時代は、就職先で定年まで働くのが“普通”だったかもしれない。
でも、現在ではもうそんなの保障されていないじゃないですか。
もはや今は、“普通の人生なんてない”が「普通」になるべき時代なんだと思います。
「普通」を壊す合言葉「本能はファンタジー」
高城
でも、やっぱり生き方や働き方を選択するときに“普通”を基準にしてしまうこともあると思います。
手塚さん
そんなときは「本能はファンタジー」という言葉を思い浮かべるといいかもしれません。
高城
「本能はファンタジー」?
手塚さん
はい。たとえば、男がおっぱいに興奮するのも、あれ、ある種のファンタジーなんですよ。
手塚さん
いやいや、これ真面目な話で、おっぱいに興奮するのって全然当たり前の話じゃないんですよ。
つまり、裸で生きていたら当たり前の景色なのに、服を着る文化が生まれて、いつの間にか「おっぱいはエッチだ!」と刷り込まれている環境で育つ。
そうするとおっぱいに興奮する人が多い社会になる。それでも全員ではないと思うんですよね。
つまり、一見遺伝子レベルの話に思える「本能」と呼ばれているものは、実は育つ環境が作り出したファンタジーのひとつであると考えることができるんです。
高城
なるほど…!
本能ですらファンタジーかもしれないと思ったら、“普通の人生”なんて刷り込みでしかない気がしてきました。
手塚さん
だから、まわりから「○○が普通だから」と言われたときは、その発言の本人にとってはそれが普通だと思っているのであって、それ以上でも以下でもないと、気楽に思った方がいいですね。
高城
これまでは、「当たり前だから」「普通だから」の言葉にモヤッとすることはあっても、「自分がおかしいのかも…」と思っちゃってました。
もっと疑っていっていいんだ!
手塚さん
たしかに、「普通」とか「普通じゃない」とか、わかりやすいカテゴライズで括ったほうがいろいろと効率的だとは思いますよ。
世の中でよく声の通る人はだいたい論理主義で、効率よく、早く成りあがるような人たちだし、そういうスマートなやり方を指示したくなるのもわかる。
でも、僕はそれとは真逆の立場でいたいんです。
成り上がりたい人たちに「こうすれば上位10%に入れるぞ!」ってメッセージを発信する人が多いと思うけど、僕はそこに入れない90%の人たちがどうすればハッピーに生きていける社会になるのかを考える側でいたい。
次回があれば、そういう内容をもっと偉そうに言わせてください!(笑)
「みんな効率的で論理的なことばかり追いかけがちだけど、僕は、非効率的なことや、無駄に思えることにこそ価値があると思っています」と話されていた手塚マキさん。
たしかに、ビジネスを行うならカテゴライズして仕事を振り分けたほうが効率はいい。
そのなかで、一人ひとり見て接することは遠回りになるかもしれません。
でも、一見非効率的な積み重ねをみんなが続けることで「普通」にとらわれない社会になるのなら、私もまずは「〇〇な人」と決めつけず、目の前の相手一人ひとりと向き合ってコミュニケーションをとってみようと思います。
〈取材・文=高城つかさ(@tonkotsumai)/編集=サノトモキ(@mlby_sns)/写真=森カズシゲ〉
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