ビジネスパーソンインタビュー
人生のハードルを下げよう
「人から諦められるって、すばらしいこと」家入一真が“期待”を毛嫌いする理由とは
新R25編集部
「連続起業家」として知られる、家入一真さん。22才で株式会社paperboy&co.(現:GMOペパボ株式会社)を立ち上げ、現在ではクラウドファンディングサービス「キャンプファイヤー」の創業者としても知られています。
そんな家入さんのツイッターを見ていると、こんなツイートが目にとまりました。
とにかく「期待することをやめよう」と提言しているのです(しかも数年前から…)。
でも、期待って相手を信頼しているからこそのポジティブな感情のはず。家入さんは、なぜここまで「期待」を毛嫌いするのでしょうか?
疑問をぶつけてみると、「呪い」「仏教」という言葉が返ってきました。それって一体…。
〈聞き手=天野俊吉(新R25副編集長)〉
【家入一真(いえいり・かずま)】株式会社CAMPFIRE 代表取締役CEO。1978年生まれ、福岡県出身。株式会社paperboy&co.(現GMOペパボ)を創業し、JASDAQ市場へ上場。退任後、クラウドファンディング「CAMPFIRE」を運営する株式会社CAMPFIRE創業、代表取締役社長に就任。他にもBASE、partyfactory、XIMERAの創業、駆け込み寺シェアハウス「リバ邸」の全国展開、ベンチャーキャピタルNOW設立など
期待こそが、人間を不幸にする原因だ(言いすぎじゃ?)
天野
家入さんは、なぜそんなに「期待」を嫌うんでしょうか?
家入さん
それを説明するにはまず、家入家がロクでもない家だったということから話さないといけないですね。
ロクでもない家…なんて哀しい目をしているんだ…
家入さん
自分の父は自己破産していて、逮捕されたおじさんもいたし、火事をおこしてしまった親戚もいました。
ところが僕は、そんな家入家の“長男の長男”だったんですよ。父が3人兄弟の長男で、僕がその長男。
天野
あ、自分もそうです。長男の長男って、一族からのヘンな期待を受けますよね…
家入さん
そうなんです。期待は「呪い」と言い換えられる。僕は「親は子どもに呪いをかけるものである」と思っていて。
天野
呪い…
家入さん
親の夢を子どもに託す、ということもあるし、一概に悪い意味でもないんですけどね。
親が何気なく発した一言がずっと心に残って、その後の人生に大きな影響を与えてしまうんですよ。冗談で「勉強しないとお父さんみたいになっちゃうよ」とか。逆に「お父さんみたいに立派になりなさい」というのもそうですよね。
その子どもが大きくなって、次の世代にも呪いをかける。連綿とつづく呪いを受け続けながら、僕らはここにいるわけなんですよ。
なんか重い話から取材がスタートしてしまいました
家入さん
「期待する」って往々にして相手に見返りを求めることにつながりますよね。恋愛でも夫婦関係でも仕事でも、「夫婦なんだから○○してほしい」とか「もっと○○してくれると思ってた!」って。
見返りがある前提で人と接するのは、見返りがないときに関係が崩れてしまう。人と対峙するときの態度としてよくないんですよ。
天野
公私ともに波瀾万丈な家入さんが言うと説得力があります。
家入さん
ハッキリ言えば、僕は「期待」こそが、人間を不幸にする原因だと思ってます。
天野
人間を不幸にする…!
親から“諦められる”ところから人生が始まった
家入さん
そんな家入家で、一応自分だけは、ちゃんと育ってほしいと期待されていた。
でも僕は学生時代、ずっとイジメられてて引きこもっていたんですね。
天野
中2から引きこもってたと聞きました。
家入さん
とうとう、あるときから親に期待されなくなった。諦めてくれたんですよ。
ほんとに「呪縛から解放された!」という気持ちになったんですよね。それが僕のなかで強烈な原体験としてある。人から“諦められる”ってすばらしいことだなって。
そこから急に自由に動けるようになった気すらします。「お前には期待していない」ってところからはじまるんですよ。伝説は。
天野
伝説は…!
※カッコいい言い方をしてますが、引きこもって親に見離された話をしています
家入さんが仏教に学んだ「諦める」のポジティブな意味とは
家入さん
「諦める」って、どちらかというとネガティブなことだととらえている人が多いじゃないですか。
天野
そうですね。根性がないみたいな。
家入さん
僕、一時期仏教や哲学についてずっと調べていたことがあって、そのなかに面白い話があったんです。
「諦める」の語源って知ってますか?
天野
いや~…わからないです。
家入さん
諦めるの語源って、仏教的には「明らかにする」だと言われているんですよ。
天野
明らかにする?
家入さん
真実や真理が明らかになる、って言うじゃないですか。
諦める、つまり執着を捨てることで、「真実が明らかになって理解できるようになる」ってことらしいんですね。
天野
なるほど!!
家入さん
彼女から連絡が返ってこない、浮気していないだろうか…とか執着していると、何も見えない。でも、「もういいや」と諦めたとたんに「こういうことだったのか」と真理が明らかになる。そんな経験ありませんか?
僕が「期待するのをやめよう」というのは、執着こそが、自分も他人も不幸にしてしまうと思うからなんです。
家入さんのように、遅刻やドタキャンをしても“諦められる”キャラになるには?
天野
家入さんといえば、遅刻やドタキャンで有名ですよね。
それって「もうこの人は遅刻するし、しょうがないや」と諦めてもらえるようなキャラ付けをしたんですか?
家入さん
それは完全にありますね。ハードルを下げると生きやすくなるので、ありのままの“ダメな”自分を発信してます。
天野
やっぱり効果ありますか?
家入さん
もう最近はハードルが下がりまくっていて、登壇するイベントとかも、普通に行くだけで「来てくれただけでありがたい!」みたいに言われるんですよ。
…おかしな話じゃないですか。大々的に来るって言って集客してるんだから。
おかしいという認識は自分でもあるようです
天野
そういうポジションにいけるの、正直うらやましいんですよ。
どうやったらそんなキャラになれますかね? 遅刻しても平然としてるとか?
家入さん
いや、それはただの開き直りなんで微妙ですね。ここは誤解しないでほしいんですけど、僕はやらかしたときに開き直らないんですよ。
ハードルは下げているけど、遅刻とかドタキャンして「これが僕のキャラだから問題ないでしょ」とは思ってない。毎回めちゃくちゃ謝っているんです。
天野
え、謝ってるんですか?
家入さん
そうですね。そういうとき、根本には申し訳なさしかないですよ。
申し訳なさのあまり謝りの連絡すらできなくて、そのままになってしまうことはあるんですけど…
じゃあ毎回謝ってなくない?
家入さん
今日も18時からDMMのイベントがあるんですけど…たとえば「今日は調子よくないな」と思っていても、申し訳なさが強すぎてギリギリまで言えないんですよ。
それで結局5分前ぐらいになってしまって、携帯の電源落として布団にくるまっちゃうことも…
天野
完全にドタキャンする人の思考回路だ…。今日は行ってくださいよ!?
天野
つまり、キャラとして“諦めてもらえる”ようになるには…?
家入さん
本気で頑張ろうとしても、どうしてもムリだ!という本当の弱みを見せることですよね。
申し訳なさはあるけど、どうやっても自分はダメなんだ…っていうレベルの弱みなら、やっぱり諦めてもらえると思いますよ。
天野
ちなみにですけど、ダメな部分をさらけ出すことで、まわりからの評価が下がったらいやじゃないですか?
家入さん
う~ん、下がるのかなあ…? 下がらないと思いますけどね。
自分の苦手なことや弱みをさらけ出すと、支えてくれる仲間が必ずいるはずで。
熊谷晋一郎さんという東大医学部の先生(脳性麻痺で車イス生活を送る。障害者の立場から“当事者研究”を行う)がいるんですけど、彼の言葉に「本当の自立とは、依存先を増やすこと。希望とは、絶望を分かちあえること」というものがあるんです。
天野
いろんな人に依存してしまうことが自立…。さらけ出すと強さを得られるってことかあ…
隠していた「黒歴史」が、誰かの希望になることに気付いた
天野
それで言うと、家入さんはいつから弱みをさらけ出せるようになったんですか?
家入さん
起業した当初は、イジメられていたなんて誰にも言ったことなくて、ずっと隠してたんですよ。
家入さん
あるときインタビューを受けたんですけど、起業の理由を深堀りされて、「もともと引きこもりで…」みたいな話をする流れになってしまった。
「まあ、原稿を確認するときにお願いして消してもらおう」と思っていたら、事前チェックなしで「引きこもりから社長へ!」と記事をバーンと出されちゃって。
天野
あ~、そういうメディアもありますよね。
家入さん
そしたら、すっごい量の「共感しました!」というメールが来て。引きこもりの子どもを持つ人とか、引きこもっている当事者とかから。
そのメールに全部目を通して、「自分の弱みが、他人の希望になることがあるんだ」と思ったんです。はじめてコンプレックスを肯定された気がした。
家入さん
恥ずかしい過去を「黒歴史」って言って、みんななかったことにしたがるじゃないですか。
天野
はい…
家入さん
でも、それはタイムマシンがないから無理なんです。だったら、武器にしたほうがお得感あるなと。
別に僕の体験に再現性はないので、みんなに「こうしろ」というわけじゃないですが、自分の行動次第で“なかったことにしたい過去”に意味をつけられるんですよね。
他人への不寛容が広がりつづける社会…。この先どうなるの?
家入さん
僕が期待を嫌う理由は、こんなふうに、いろんなハードルを下げていく考え方が日本に広まれば、みんながもっと生きやすくなるはず…と思うからなんです。
天野
現状はどうですか? 広まりそうですかね?
家入さん
いやー、完全に真逆になってますよね。
ネットを見れば、電車にベビーカー押して乗ったら怒る人がいるとか、家の近くに児童養護施設ができるのを反対するとか…
天野
不寛容が広がってますよね。なぜそうなっちゃうんでしょうか?
家入さん
みんなが、あまりにも自分のメリットだけを追求するようになったからでしょうね。
天野
では、この先どんどん不寛容な社会になっていくのかな…
家入さん
ただ、日本の経済がこれから伸びにくいフェーズに入って、そこから徐々に変わっていくと思います。メリットを追求しているだけだとしんどい社会になるので。
シェアリングエコノミー(物、スキルなどをWebを通じてシェアする仕組み)に関するサービスが多く出てきているのも、多くの人のなかで「そろそろお互い支えあって生きていこう」という感覚が芽生えはじめているからでしょうね。
家入さん
旅行で東南アジアとか行くと、ふっと楽になる瞬間ないですか?
天野
あー、わかります。
家入さん
あれって、みんなが他人の目を気にしていないからなんですよね。もちろん旅行で行ってるから気にならないという可能性もあるけど。
ヨレヨレのシャツを着ていたり、メイクしてなかったりする人も多い。他人の目がないように生きているんだけど、かといって完全に他人に無関心というわけじゃないし、何かあれば助けてもらえる。
もう少ししたら、日本もそういう社会になるんじゃないかな。
家入さんが「期待」を嫌う理由。それは、身近な人間関係のみならず、社会全体が「見返り」「メリット」を求めてしまうことへの危機感でした。
しかし、ここで僕のなかに、あるひとつの疑問が浮かんできました。
人に期待しないというけど、それでさまざまな企業組織を率いることができるんでしょうか…?
明日公開の後編では、「人に期待しない経営者・家入一真」が、どうやってチームをマネジメントしているのか?その秘密に迫ります!
〈取材・文=天野俊吉(@amanop)/撮影=福田啄也(@fkd1111)〉
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