ビジネスパーソンインタビュー
経営と現場の板挟みになる管理職の苦悩
いい上司が“リストラを実行しろ”と言われたら…?「過剰適応してしまう病」への処方箋
新R25編集部
「寝てない自慢をする先輩」「飲み会で昔話をする上司」「すぐに折れてしまう新入社員」…などなど、職場にはたくさんの“はたらく問題”があふれかえっています。
そんな職場の問題や働き方改革に切り込んだ、新木曜ドラマ『ハケン占い師アタル』(テレビ朝日)が2019年1月よりスタート。
杉咲花さん演じる派遣社員の的場中(アタル)が、占いの力を使ってまわりの正社員たちが抱える悩みを解決していくお仕事コメディードラマです。
今回は新R25の期間限定連載として、同ドラマとVoicyで配信中の番組「職場の治療室」のコラボ企画が実現!
カリスマ産業医の大室正志さんと組織人事コンサルタントの麻野耕司さんが、『ハケン占い師アタル』を観ながら、ドラマに登場するビジネスパーソンの悩みに効く処方箋を見出していきます。
第6話で語っていただいたのは、「過剰適応という病」について。
イベント会社で課長を務める、板谷由夏さん演じる大崎結は、中学生の息子から無視され、夫にもろくに話を聞いてもらえない、ため息交じりの朝を迎えていました。
そんな大崎に、及川光博さん演じる部長・代々木匠から「リストラ候補者を1名選べ」という非情な指令が下ります。
チームのメンバーは働く意欲に燃え、団結力を増している最中。誰ひとりとして切り捨てたくないものの、代々木の命令を突っぱねることもできず、果てしない葛藤と重圧に悩みます。
上司として、部下として、妻として、母として…仕事でも家庭でも完璧な対応をして疲れる女性管理職
板谷由夏演じる大崎結
麻野さん
今回の第6話からは、「過剰適応という病」を取り上げたいと思います。
大室さん
ボクは産業医ですが、この「過剰適応」に悩む方は、比較的女性の管理職に多い気がします。
なぜかというと、男性の管理職って「仕事さえできれば、家庭は0点でもいいだろう」と考える方がいる一方で、女性の場合は「いくら仕事ができても、家庭のことがちゃんとできていないと、失格だと思われる」という社会的プレッシャーを感じている方が多いからなんですよ。
麻野さん
本当は、そんなことないんですけどね。
大室さん
こういった方は、管理職になるくらい優秀なので、なんでもかんでも自分ひとりで完璧にこなそうとするんですよ。
役割をちゃんとこなそうとするのはすばらしいんですけど、「部下としての自分」「上司としての自分」「母としての自分」「妻としての自分」、これ全部を完璧にこなそうと思ったら、疲れますって。
麻野さん
大崎さん、ほんと大変ですよね。このドラマに出てくるメンバーの中で、一番マトモだと思う。
みんなのことを気遣って、仕事も成果出して、中間管理職として会社と現場の間に入っていつも誰かを悪者にすることなく、自分で責任背負って。一番損してる気がします。
大室さん
そうなんですよね。
ボクらがこの連載で毎回出している処方箋って、その人の尖っている部分にヤスリをかけにいくようなやり方です。
今回の大崎さんは、もともとヤスリがかかってる人だから、これ以上ヤスリをかけたら、消しゴムみたいになくなっちゃいますよ…
麻野さん
本当にね(笑)。
でも、大崎さんのように、四方八方に気を遣って、神経すり減らしてしまっている人、いるでしょうね〜。
「全方位に過剰適応している人」がリストラを実行しなければならない厳しい現実
大室さん
第6話で「このドラマ面白いな〜」と思ったポイントは、誰からも嫌われたくなくて、誰も嫌な思いをしないように行動してきた大崎さんが、「リストラ」という「どう対応しても、誰かからは嫌われてしまう課題」にぶつかってしまうこと。
実は登場人物の中に過剰適応な人はもう一人いるんですけど…
麻野さん
及川光博さん演じる部長ですね。
大室さん
そうです。ただ部長は「仕事だけに過剰適応」なので、リストラもさっさとやれるんです。
一方、大崎さんの場合は、「全方位に過剰適応」だから難しい。仕事だけに特化していればいいんだけど、全方位に過剰適応だと、部下の気持ちにも寄り添わないといけないし。
こんな「1人を殺せば5人が助かります。あなたはその1人を殺しますか?」みたいな選択、大崎さんのような人がするのは難しいですよ。
麻野さん
難しいよね〜。
大室さん
ボクは職業柄、こういった場面に遭遇する機会が多く、リストラで傷ついた方と数え切れないくらいお会いしています。
一方で、「じゃあ、リストラをする上司が完全に悪人なのか?」と言ったら、ボクが見ている限りだと必ずしもそうじゃない。
やっぱりリーダーというのは共感能力がありつつも、時には非情になれる人だと思います。この「時には」というのがポイントで、そのバランス感が大切だと思うんですよね。
経営と現場の板挟み。管理職に求められる能力とは?
大室さん
非情になるべきバランス感というのは、どうとればいいですかね?
麻野さん
管理職の役割って、「経営と現場をつなぐこと」じゃないですか。だから、どっちに偏ってもダメなわけです。
たとえば経営陣が、現場からすると「無茶だ」って思うような業績の目標設定をしたとしますよね。
そんなときに、現場から「いや〜、うちの経営ってほんと現場のことわかってないですよね」と言われて、現場に寄りすぎて「そうだよな〜。うちの経営は何もわかってないよな〜」って言ってしまう管理職はあんまりよくない。
ただ、経営に寄りすぎて、「うるせえ! お前らは、経営から与えられた目標を達成すればいいんだよ」と言うのも当然よくないですよね。
大室さん
どっちつかずの方がいいってこと?
麻野さん
「いい管理職」って、経営と現場の両方の意図を実現することだと思うんです。
「たしかに今回の目標は高いし、お前の気持ちもわからなくない。だけど、たとえばこんなやり方をやってみれば達成できると思うから、一緒に頑張ろうぜ」と言ってあげられるのがベストじゃないですか。
麻野さん
でも、今回めちゃくちゃよかったのは、大崎さんが成長したことによって、最終的に経営の意図も現場の意図も両方叶えることができたということです。
「リストラしなくても、削減したいコスト分の売上を上げるから、このメンバーでやらせてくれ」って。
経営の意図も現場の意図も実現するような提案を自分の意思でやれるのは、中間管理職として最高の仕事ですよね。
大室さん
リストラって、合併とか会社の都合で最初から決定している場合もありますけど、ほとんど手段としての場合が多いですよね。
あくまで目的達成のための手段なので、「目的を達成するために、本当に最適な手段はなんだろう?」という考えに立ち返ったのはいい例だと思います。
今回は「経営判断で社長が決めたことだと聞いていたのに、実は部長の独断だった」というドラマっぽいオチもあったものの、この「いつもいい顔をしている管理職が、自分の意思を持った」という事実は、非常にエポックな出来事だったんじゃないかなと思いますね。
麻野さん
すべての人に対して顔色を伺いすぎた結果、逆にみんなを不幸にしかけていた大崎さんが、自分の意思を持つことによってみんなを幸せに導く決断ができたっていうのは、第6話の深い部分だなと感じました。
大室さん
そうだね。大崎さんが最後に、これまで読み漁ってきたハウツー本を捨てるシーンがあるじゃないですか?
もちろん、「上司になったら最初に読む本」みたいな本に書いてありそうな、「1on1の面談はL字型に座った方が心理的距離が近い」みたいなハウツーも大事ですよ。
でもそこだけにとらわれないで、自分の意思を失わずにいることが過剰適応な方にとっては効果があるんじゃないかなと思いますね。
「過剰適応してしまう病」への処方箋
麻野さん
では、今回の「過剰適応」という病に対して、大室先生から処方箋を出してもらいたいと思います。
大室さん
今回は、「オリジナル問題の作成を」という処方箋を出したいと思います。
麻野さん
なるほど。その心は?
大室さん
過剰適応な方って、「べき思考」が強いと思うんですよね。メンタル不調を起こす方にも多い特徴なんですけど、「こうするべき」とか「こうあるべき」とか。
ただ、「こうあるべき」という姿は、他人が設定した問題じゃないですか。それに、仕事も家庭も、常に最適なカタチや在り方は移ろいゆくものです。
だからこそ、他人が設定した問題の範囲内でいい点数を取ろうとするのではなく、「自分はどうしたいか?」と自分で問題を作って、その答えを探しつづけることが重要じゃないかと思いました。
〈構成・文=小野瀬わかな(@wakana522)/編集=福田啄也(@fkd1111)〉
次回の放送は2019年2月28日(木)よる9時から!
「職場の治療室 大室正志×麻野耕司」はVoicyでも配信中!
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