ビジネスパーソンインタビュー
表面は違ってるけど、根っこの価値感は同じ
「野生の猿みたいな僕を人間にしてくれた」はあちゅうとしみけんの補い合う関係性
新R25編集部
2018年7月、AV男優・しみけんさんとの事実婚を発表したはあちゅうさん。
その彼女が“旦那・しみけん”との生活をインスタグラムに連投したエッセイマンガ『旦那観察日記 〜AV男優との新婚生活〜』が書籍化されることになりました。
同書には、彼とのなれそめ、異なる価値観に対する驚き、葛藤や衝突を経て強まった夫婦の絆、ほっこりした日々の幸せなどが、キュートなサルのイラストで綴られています。
今回は書籍化を記念し、おふたりに結婚や夫婦関係に関する考え方をお話しいただきました。
※本記事は、書籍『旦那観察日記 〜AV男優との新婚生活〜』内のインタビュー記事のノーカット版となります。
AV男優のしみけん、はあちゅうの旦那のしみけん
はあちゅうさん
結婚しても、ふたりの関係は何も変わらなかったんだけど、周囲がびっくりするくらいお祝いしてくれたんだよね。
それで改めて、けんちゃんと夫婦なんだって思うことが増えた。ふたりの絆がより強固になったかな。
しみけんさん
そうだね。まわりから祝福されることで、結婚っていいなあって。
はあちゅうさん
あとは、楽になったよ。まわりが結婚してると知ってくれているので、堂々としていられる。
けんちゃんは最初、結婚を公開したくないって言ってたけど、まわりがけんちゃんを変えてくれた。
しみけんさん
僕は18歳からAV男優だから、AVの世界しか知らないし、AVという職業に感謝してる。僕を救ってくれた職業だからね。
でも、だからこそ「結婚しました、幸せでーす」という姿を見せるってことによって、「抜きづらい男優」になるんじゃないかという心配があった。
AV男優は「ミステリアスな存在」であるのも、ひとつの魅力だから。
はあちゅうさん
AV男優は私生活を出さない。
しみけんさん
うん。身近な存在になりすぎることによって、見ている人が抜きづらくなるのかもしれない、と。
でも、はあちゅうやまわりの人たちの意見を聞いて、考え方を変えたら「AV男優のしみけん」と「はあちゅうの旦那しみけん」、2つのキャラがぽこーんと生まれたのもおもしろかった。
はあちゅうさん
私はもともと、人生全部をコンテンツにしようと思っている人間だから、結婚生活も、落ち着いたらなにかしらの形で発信したいなと考えてた。
それが今回の『旦那観察日記〜AV男優との新婚生活〜』なんだよね。
『旦那観察日記』誕生の理由
しみけんさん
自分のことについて描いてあるにもかかわらず、僕はこのマンガのファンだし、いつも更新を楽しみにしてるよ。
はあちゅうさん
描こうと思った理由は、大きくふたつ。
まず、私はけんちゃんがAV男優という仕事に誇りを持っていることも、「地下クイズ王」であることも、ダンスや筋トレが好きなことも、全部素敵だなと思ってる。
だけど、一緒に過ごしてきて、まだ表に出ていないチャーミングな部分をたくさん発見した。そこをたくさんの人に知ってほしかったんだよね。
はあちゅうさん
もうひとつは、けんちゃんのいるAV業界への偏見って業界への理解がないから起こっている部分もあると思っていて。
パーソナルな部分を知ってもらえたら、少しみんな理解しようとか「自分と一緒だ!」って思ってくれるんじゃないかと思った。
けんちゃんはすごくハッピーな人だし、AV業界の「中」に身を置いているから、偏見を感じる機会が少ない。でも私は、けっこう傷つくことを友達から言われたりもしたんだよね。
けんちゃんという人の魅力が職業だけで判断されて、中身を見てもらえないのがすごく嫌だった。「しみけんさんと付き合ってる」じゃなくて「AV男優と付き合ってる」と言われる状況が、悔しくて。
だから、どうしても発信したかったけど、文章で書けば炎上するし、インスタにふたりの写真をアップしたら、イタいカップルって言われる。
かと言って、けんちゃんが自分で発信すると、なんだかナルシストに見えちゃう。そんな時、iPadに出会ったんだよね。
しみけんさん
iPadを買ったのは本当に人生の転機だったんだね。
はあちゅうさん
これでけんちゃんをサルの絵に見立てて描こう!って。
おもしろいと思ってないことが、おもしろい
しみけんさん
実は「サルの絵」は、結婚前の同居時代からずっと我が家にあったよね。
お互い仕事で帰りの時間がバラバラだから、互いに置き手紙をしていたんだけど、そこにはあちゅうがサルを描いてた。
はあちゅうさん
けんちゃん、サルみたいだなと思ったから(笑)。
しみけんさん
最初はマンガにするつもりはなかったんだよね。
でも、試しにサルのイラストを僕に見立てて発信したら、いいリアクションが返ってきた。それがおもしろくて。
はあちゅうさん
ネタは、よっぽどデリケートな話題じゃない限り、けんちゃんには何も言わずに描いて、投稿してから後で見せてたね。
けんちゃん、まず1回見て、にこーってして「おもしろい!」って言って、その後見てくれた人からのコメントを読んで、さらにもう2回くらい読んでくれる。
勝手に描いても怒ったりしない人で、本当によかったよ。
しみけんさん
ムカついたことは1回もないよ。恥ずかしいことは数回あったけど。
はあちゅうさん
ほかの原稿の締め切りが迫っているとき、書籍化用の原稿を1日にまとめて150枚描いた日が2日あった。我ながら、よく描いたもんだよ。
しみけんさん
僕も一緒に考えてネタを提供してたけど、ボツばっかり…
はあちゅうさん
けんちゃんのやつ、使えないもん。
あのね、けんちゃんが自分でおもしろいと思ってないことが、おもしろいんだよ。
しみけんさん
ああ、まばたきのエピソードとかね。
はあちゅうさん
けんちゃんと私が出席していたある集まりで、私はすごく疲れてたけど、みんなはすごく楽しんでるから言い出しにくくて。
そうしたら、それを察知したけんちゃんが、「帰りたかったら、まばたきして」って言ってくれた。この回には、「いいね!」がすごくたくさんついた。
しみけんさん
あれの元ネタは某組織に捕まった人が、まばたきでモールス信号を送ってた、という殺伐とした話なんだけど。あんなにロマンチックに描かれるとは思わなかったよ…
あ、でもロマンチックな話にするなら、太平洋戦争で通信兵だった僕のおじいちゃんが、ばあちゃんにモールス信号でプロポーズした話があって…
はあちゅうさん
なにそれ、知らない!
しみけんさん
おじいちゃん、毎日片道30kmを自転車こいでばあちゃんに会いに行ってて、夜はモールス信号で「おやすみ」とか打ってたんだって。
うちらが今LINEでやってることを、モールス信号でやってた。
で、プロポーズもモールス信号。つまり、僕はじいちゃんの血を受け継いでる(笑)。
はあちゅうさん
まばたきの件はたしかにいい話だけど、けんちゃんは変な天然がいっぱいあるよね。
ほら、雑誌の「ゲーテ」を「ゴエザ」って言ってたじゃない。「幻冬舎の『ゴエザ』って雑誌で取材でさあ」って。
「GOETHE(ゲーテ)」じゃないの?って(笑)。
しみけんさん
それでよくわかったよね。すごいよ、はあちゅう。
はあちゅうさん
けんちゃん、英語の知識と一般常識がないからね…
以前乗ってたアメ車にナビの代わりについてた方位磁石もさ、「E」と「W」が「イースト(東)」と「ウエスト(西)」のことだってわかんなかった。北がNってのはわかってたみたいだけど(笑)。
はあちゅうに出会って変わったこと
しみけんさん
車と言えば、以前は稼ぎをぜんぶ車につぎ込むほど入れ込んでたのに、はあちゅうと付き合うようになって、車にぜんぜん執着がなくなった。
はあちゅうさん
付き合い始めた当時は5台も持ってて、駐車場を確保しなきゃいけないからって、駅からすごく遠い家に住んでたよね。
ふたつの駅のちょうど真ん中らへんで、まわりになんにもない。私は半同棲してたとき、近所を出歩いたことがなかったよ…
しみけんさん
まわり、畑だったからね。
はあちゅうさん
でも、ふたりで本格的に一緒に住むことになって、私が「絶対、都心」って主張したんだよね。
今までの家賃からすると高くなるから、ふたりとも頑張らなきゃいけなくなるけど、意を決して都内に引っ越した。
そうしたらけんちゃん、都会暮らしが気にいっちゃって。ジムも美容院も近いし、なにより仕事の現場が近い。それで車は毎年1台ずつ処分してくれた。
しみけんさん
過去の自分に言いたい。お前、クズだねと。
はあちゅうさん
しかも、それまでは外車にしか乗ってなかったよね。
左ハンドルだから、料金所で変なマジックハンドを使ってる。私、それを見て「バカでしょ」って思った。
それで試しに国産車を見に行ったら、あっさり乗り換えて今は国産車。
しみけんさん
国産、超乗りやすい(笑)。
はあちゅうさん
iPhoneもGoogleカレンダーも抵抗してたよね。
私が勧めたら、最初はしぶしぶ使ってて「なんだよこれ、使えねえ」とかブツブツ怒ってたけど、今は…
しみけんさん
「iPhone以外の人、信じらんねえ。紙の手帳に予定書いてる人、信じらんねえ」ってなっちゃってる(笑)。
「野生の猿」が人間になる
はあちゅうさん
付き合っている時からよく車には乗せてもらってたけど、車のダッシュボードをなにげなく開けたら女性用の性具が入ってたことがあって、あればびっくりしたよ。
やっぱりAV業界の人なんだなあって。
しみけんさん
サンプルでもらったやつね。
はあちゅうさん
出版社さんから届く見本誌も、私は新書の新刊とかなのに、けんちゃんはコンビニの本棚の端っこのほうにあるやつ。
私が今までの人生で、大人から「見ちゃいけない」って散々言われつづけてきた雑誌や本が、次々と家に届けられる(笑)。
しみけんさん
エロ以外だと、「事故物件を渡り歩いてみました」みたいな記事が載ってる雑誌。
はあちゅうさん
私もけんちゃんも本は好きだけど、本棚の中身がぜんぜん違う。
こないだも、けんちゃんが家ですごく熱心に本を読んでたのでのぞいてみたら、「性感帯が」「クリトリスが」って文字が…
しみけんさん
電車内で読めないやつ。しかもマーカーを引いて読んでた(笑)。
はあちゅうさん
だから、つくづく違う世界の住人なんだなあって思う。
私は一般人だし、慶応からの電通だから、どっちかというと「お嬢」の部類に入る(笑)。
しみけんさん
キラキラしてるよなあ、その経歴。
はあちゅうさん
だから、野生の猿と結婚して毎日びっくり、みたいな感じ。
価値観のスタンダードがぜんぜん違う。私、けんちゃんをうまく「人間」にしたなーって、ほんと思うよ。以前は冷蔵庫の中に、セブン-イレブンのおそうざいと、エナジードリンクの「レッドブル」と「モンスター」しか入ってなかった人だから。
一緒に暮らすようになって、「あのね、野菜は大事だよ」って。
しみけんさん
もともと野菜は採ってたけど、料理が一切できなかったからね。
シリコンスチーマーというものを教えてもらって、ブロッコリーが食べられるようになった。石器時代の人が文明の利器を手にしたみたいなもの。
はあちゅうさん
「これは洗って、切って、シリコンスチーマーに入れてチンするんだよ」って、何回も何回も何回も教えたよ。
最初は逆ギレしてたもんね。「ブロッコリーはどうやって茹でんだよ、アアン?」って。
…だいたいね、昔は喧嘩っ早かったよ。
一度、デート中にけんちゃんのことを待ってる間にナンパされて、そのことをけんちゃんに言ったら、「どこのどいつだ!殺す!」って。それチンピラじゃん…。運転してたときも…
しみけんさん
いや、もうそれ以上言うな(笑)。
はあちゅうさん
今じゃ、だいぶ性格が温厚になったよね。
しみけんさん
おかげで、まともな人間になれました。
違ってるけど、根っこは同じ
はあちゅうさん
お互いぜんぜん違う場所で、ぜんぜん違う生き方をしてきたふたりだよね。
自分とまったく違った人生を歩んできた人同士が一緒になるというのは、やっぱり大変。
私とけんちゃんも、喧嘩したり、うまくいかなかったりすることもあるけど、「それでも一緒にいたい!」という気持ちをこういう形で発信することが、誰かのちょっとした勇気になってくれたらうれしいね。
はあちゅうさん
実際、『旦那観察日記』には、まさにそういう人からの反響が大きかった。
お相手が在日外国人の方だったり、元風俗嬢の方だったり、犯罪歴のある人だったり。ふたりの国籍や社会的立場が違ったり、まわりから反対される恋愛をしている人からのメッセージをいっぱいもらっています。
しみけんさん
はあちゅうは、僕が今まで見たことがなかった世界を見てきた人。言葉のチョイスがすごくうまいし、同じものを見ても、捉え方がこんなに違うんだと感心するよ。
はあちゅうさん
でも、根っこみたいな、本質的なところは共通してる。読む本は違っても読書自体はふたりとも好きだし、ふたりともメモ魔だし。
しみけんさん
なにかの集まりに参加して、「帰りたい」と思うタイミングがだいたい一緒だったりね。表に出ている価値観は違うかもしれないけど、根っこの価値観は一緒。
お互いのすごいと思うところ
はあちゅうさん
けんちゃんはいつも幸せそうだよね。私、一緒にいて暗くなる人はダメなんだけど、けんちゃんはなんでも前向きに考える。ポジティブで毎日が楽しそう。
そして、なんと言っても感情表現が豊か!表情がくるくる変わるから、見ていておもしろい。
けんちゃんは、「今、楽しいんだろうなあ」「今、不満なんだろうなあ」って感情が、すぐ顔に出る。すごく人間らしい。
私はあまり表情が変わらなくて、ぜんぜん感情が出てないってよく言われるから。以前、起業家の家入一真さんに「はあちゅうはロボットみたい」って言われたよ(笑)。
はあちゅうさん
あとは、他人にいい意味で流されないよね。
AV男優という職業に関しても、自分がやりたいことを18歳から突き詰めてきて、誰に何を言われてもやめない。生涯現役の男優でいたいという目標が全然ぶれない。
大会もないのに、コツコツ毎日クイズを勉強してるのもすごい。自分の好きなものが何かがちゃんとわかっていて、人になんと言われようと自分の道を進む。他人からどう見えるかを気にしない。
私は人にどう見られるか、どう受け止められるかということをすごく考えてしまう病み体質なので、自分とは真逆の部分に惹かれたんだよ。
しみけんさん
僕の中で、はあちゅうは錬金術師。
お金だけじゃなくて、物の新しい価値とか、感情とか、幸せとか、いろんな素晴らしいものを生み出す天才だと思う。
僕みたいに、ずっとAV男優しかやってなくて偏った考えのやつを、人間らしくしてくれた。野生の猿みたいに動物的だった僕を、辛抱強く正してくれた(笑)。
そして、僕がなにげなくやってることを、「これ公開したらおもしろいよ!」と、サルのマンガにしてくれた。本当に錬金術師。尊敬してます。
〈構成=稲田豊史/撮影=竹中智也〉
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