ビジネスパーソンインタビュー

『ぼくのりりっくのぼうよみ』の引退理由を本人にわかりやすく説明してもらった

引退前の奇行のワケは?

『ぼくのりりっくのぼうよみ』の引退理由を本人にわかりやすく説明してもらった

新R25編集部

2019/01/16

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2018年9月、「僕は天才を辞めます」発言で話題をかっさらった弱冠20歳の若き天才ミュージシャン・『ぼくのりりっくのぼうよみ』。

現在は、来たる1月末の「引退」に向けて、Twitterを炎上させたり、YouTuberを始めて1日で辞めてみたりと世間を賑わせている様子。

そんな天才に取材できることになったので、さまざまな記事を読み漁ってみたのですが、言葉が巧みすぎて何を言ってるのかよくわからない…。

結局『ぼくりり』が引退するのは、事務所とのすれ違いなの? 本人の意向なの?

そこで、今回は凡人である私たちにもわかるように、これまでの経歴と引退する理由、さらに今後のこともわかりやすく教えてもらいました

〈聞き手:いしかわゆき(新R25編集部)〉

ぼくのりりっくのぼうよみ

【ぼくのりりっくのぼうよみ(ぼくりり)】現役大学生、20歳。ビクターエンタテインメント所属。高校2年生の時、日本最大級の10代向けオーディション「閃光ライオット」でファイナリストに選ばれ、2015年12月、17歳でメジャーデビュー。言葉を縦横無尽に操る文学性の高いリリックは多方面から注目を集め、雑誌「文學界」にエッセイを寄稿するなど、音楽フィールド以外でも才能を発揮している。2018年9月、2019年1月をもって3年間のアーティスト活動に終止符を打つことを発表

ぼくのりりっくのぼうよみの経歴

2012年(14歳)ニコニコ動画に「【ニコラップ】One Night Stand and Rain」を投稿

2014年(16歳) 日本最大級の10代向けオーディション・「閃光ライオット」に出演し、約1万組の中からファイナリストに選出される

2015年(17歳)ビクターエンタテインメントよりメジャーデビュー

2016年2月 文芸雑誌『文學界』にエッセイ『地盤沈下』を寄稿

2016年4月 大学進学

2016年7月 1stEP『ディストピア』を発売。CDの遺影を模したアートワークや短編小説「Water boarding」で話題を集める

2017年1月 2ndアルバム『Noah's Ark』発売。クラウドファンディングで資金を集め、オウンドメディア「Noah's Ark」を運営

2017年5月 2ndシングル「SKY's the limit/つきとさなぎ」発売

2018年9月 「NEWS ZERO」に出演し、2019年1月をもって3年間のアーティスト活動に終止符を打つことを発表

2018年12月 4thアルバム『没落』と、ベストアルバム『人間』を同時発売

2018年12月 人気YouTuberグループ・へきトラハウスに加入。しかし方向性の違いにより、わずか1日で脱退

2019年1月東京でラストライブ「葬式」を開催予定

引退理由は「悪い大人のせい」じゃなかった

ぼくのりりっくのぼうよみ

2018年9月21日、ぼくのりりっくのぼうよみは「NEWS ZERO」に出演し、2019年1月をもって3年間のアーティスト活動に終止符を打つことを発表しました

「私はぼくのりりっくのぼうよみという“天才”を辞職します。自分で作り上げたこの偶像を破壊することで、3年間の活動を全うしたいと思います。終幕までぜひお楽しみください」

「僕は自由になりたい。文学的だとか天才だとか、哲学的な歌詞が素敵だと言っていただいて。できあがった偶像に自分が支配されてしまうことに耐えられない

などの発言が話題を呼び、20歳という若さも相まって「事務所やレーベルの方針に潰されてしまった若き天才」という憶測が飛び交い多くのファンが悲しみに暮れました。しかし…

いしかわ

「できあがった偶像に自分が支配されてしまうことに耐えられない」という発言から察するに…

端的に言えば、ぼくりりは悪い大人の餌食になった感じなんですかね?

ぼくりりさん

って思うじゃないですか。ありがとうございます!!!!

それ、計算通りです。

笑うぼくのりりっくのぼうよみ

えっ!? 

ぼくりりさん

ああいう発言をすれば、「あぁ〜この人は音楽業界に搾取されて辛かったんだろうな…! そしてこれが、早熟の天才が、最後に作った曲なんだ! ウゥ〜ッ!」って思ってくれるだろうなって考えて、ストーリーを組み立てました。

いしかわ

う、うそだ…! この曲なんて明らかになんかこう…今までと違ってリア充な感じじゃないですか!!

事務所に言われて泣く泣く作ったんじゃないんですか?

普段の鬱々とした雰囲気とは違い、レモンスカッシュのように爽やかな曲である

ぼくりりさん

いや、全然ないっスよ!音楽は初期から今まで一貫して自分の好きなものだけを作りつづけてきました。

この曲は「俳句」を書くような気持ちで作りました。俳句には文字数はこれで、季語を入れる、みたいなルールがありますよね。ポップスもある程度ルールがあって、そのなかで何点とれるかなぁっていうのに挑戦してみたくなったんです。

だから、僕にとっては全然不本意じゃないんですよ

いしかわ

うーん、そうすると「偶像に自分が支配される」ってどういうことだったんですか?

ぼくりりさん

僕はもともとマーケティング思考が強かったので、最初に『ぼくりり』をやろうと思ったとき、「アーティストはこうしたほうが売れるだろう」と純粋に思ったんですよね。

ぼくのりりっくのぼうよみ

いしかわ

なるほど。戦略的に『ぼくりり』をやっていたんですね。

ぼくりりさん

でも、そうやって最初は良かれと思ってやっていたことが、どんどん広がっていって、他者に定義されるようになった。

そうしたら、切り替え可能な仮面のひとつだったはずが、『ぼくりり』だったらこうするだろう」というふうに、その基準でしか考えられなくなっていたんです。それがすごく辛くて。

それで実は、2018年3月頃に鬱病になりました。歌を歌えなくなったんですよ。

ぼくのりりっくのぼうよみ

いしかわ

えっ…『ぼくりり』を演じることが辛くなるなんて…

ぼくりりさん

リハーサルで歌えなくなって、床に横たわるみたいな日々が続きました。身体がエラーを起こしたんです。

そのときに、「『ぼくりり』は失敗だったな」と思いました。

「ぼくりり」が失敗した原因は「柱」がなかったから。もうひとつは…

ニコニコ動画に投稿したラップをきっかけに、17歳という若さで華々しくデビューした『ぼくりり』。

「哲学的」と称される歌詞やどこか掴めないようなミステリアスな佇まいが人気を博し、デビュー以降、順調に階段を駆け上がってきたかのように見えましたが…

ぼくのりりっくのぼうよみ

いしかわ

うーん、側から見ると『ぼくりり』は成功しているように見えましたが、どうして失敗してしまったんでしょう?

ぼくりりさん

1番の理由は、「柱」がなかったことです。

いしかわ

「柱」?

ぼくりりさん

たとえば、建物を建てるときはまずでっかい柱を真ん中にぶちこむじゃないですか。あれがないまま、「なんとなく美しそうなもの」を建設してしまったと言うか。

要するに「目的」がなかったんですよ

いしかわ

14歳でニコニコに動画を投稿してから、トントン拍子にデビューが決まってしまったようなところもあるのかもしれませんね。

ぼくのりりっくのぼうよみ

ぼくりりさん

目的がないと、なんとなくみんなが喜ぶことや良さげなことをしようっていう判断基準になってしまうんですよね。

でも他人軸で考えると、「100%の正解」なんてないじゃないですか。あれが良いって言う人もいるし、ダメって言う人もいる。それに何度もぶつかると、脳がフリーズしちゃうんですよ。

正解を外部に求めるのが愚かだったんですそんな歪みの積み重ねで、ジェンガがどんどんズレていきました。だから、失敗したんです。

いしかわ

なんか話していると、その「失敗」すらも狙ってやったような気がしてくるんですけど…

ぼくりりさん

いやいや!! 完全なる失敗ですよ!「あ〜〜柱なかった〜〜〜!」って!(笑)

ぼくのりりっくのぼうよみ

いしかわ

その柱は…今からぶち込めないものなんですか!?

ぼくりりさん

いや、建物ってそんな作り方しないでしょ!(笑)

たとえば、ラーメンを作っているときに「カレーにしてよ!」って言われても明らかに無理じゃないですか。マズくなるだけですよ。

いしかわ

うう…あとから追加できるようなものじゃないんですね…

ぼくりりさん

そう。そもそもレシピがないまま作ってたんですよ。

なんか「冷蔵庫にあるやつを入れていきます〜」みたいなノリで。それで、そんなよくわからない料理をどうすればいいかというと、「辞める」のが1番いいな、と思ったんです。

逆に、「辞める」という選択を選ぶことで「柱」を無理やり通したんですよ。「辞める」と決めたら、「辞める」という目的に向かって突っ走ることができる。

そうすれば、よくわからない料理でも世の中にインパクトを残せる「作品」にできるなって思いました。

いしかわ

なんかやっと「辞職」の理由がわかってきた気がするぞ…

ぼくりりさん

あと、『ぼくりり』が失敗したもうひとつの原因は、「ファンがキモいこと」です。

口元に手をもっていくぼくのりりっくのぼうよみ

いしかわ

待って、これ言って大丈夫です!?

ぼくりりさん

その人たちが悪いんじゃないですよ。その人たちを狙って刺しにいったのは自分なんで。全部自分が悪いんですよ!!

いしかわ

一体何が起きたんですか…?

ぼくりりさん

どんなキャラで行こうかなぁ、と考えていたときに、「曲はめっちゃかっこいいのにショタショタしい感じの男の子でかわいい」という席が空いていたことに気付いたんです。

でも、ブルーオーシャンだと思って飛び込んだら、広さが瀬戸内海くらいしかないし、限界が知れているし、青く見えていたのが「水」じゃなくて「炎」だったみたいな。炎って温度高くなると青くなるじゃないですか!

いしかわ

えーっと、要するに自分で設定したキャラで行ったら自分の望まないタイプのファンがついたってことですか…?

いや、でも「ショタショタ」キャラで行った時点で…

ぼくりりさん

いや、よかったと思ったんですよ。そのときは!!(笑)

お金落としてくれるかなーとか思って。

笑うぼくのりりっくのぼうよみ

もう何も喋らないほうがいい説

いしかわ

…完全に思考がマーケターですよね。

ぼくりりさん

ターゲットを間違えましたね。そういう理由もあって『ぼくりり』を辞職することにしたんです。

YouTuberデビューやツイッターの炎上は「没落」の演出

2018年9月、Twitter上で引退に対し批判的なコメントをするアンチに向けて、「黙れよ説教ババア」と投稿して炎上した『ぼくりり』。

また、母親にiPhoneを没収され、1日限定で「リア友の竹田くん」がTwitterを運用したり、人気YouTuber『ヘキトラハウス』に加入して1日で辞めるなど、ファンのあいだで「やりたい放題の自暴自棄」と話題になりました。

ぼくのりりっくのぼうよみ

いしかわ

実際に『辞職』を発表し、「柱」ができてからどんな気持ちで過ごしているんですか?

「黙れよ説教ババア」ツイートで炎上したり、何かと世間を賑わせているようですが…

ぼくりりさん

まず、『ぼくりり』は3つの時期に分けられるんですよ。デビュー前からデビュー直後までが「インターネットヤンキー期」、2018年3月までは「メジャーアーティストっぽい振る舞いをしている期」、そして最後が今現在の「没落期」

『辞職』を決めたことで『ぼくりり』をとことん「没落」させようと思ったので、今はその方向に向かって突っ走っています

だから、ラストアルバムのタイトルは『没落』なんです。

いしかわ

なるほど…「没落」させるために具体的にどんなことをしているんですか?

ぼくりりさん

「どうでもいい力」をつけています。実はもともと「炎上」のような摩擦って苦手なんですけど。

ぼくのりりっくのぼうよみ

あんなに煽ってたのに…

ぼくりりさん

嫌じゃないですか、炎上なんて! めんどくさいし、場の空気も悪くなる。

でも、今まで品行方正にやってきた『ぼくりり』を「没落」させるために摩擦は必要だと思って、積極的に炎上させるようにしました。なぜならどうでもいいから。

Twitterも、もちろん意図してやっています。ラストアルバムの『没落』を良い感じに届けるためには、『ぼくりり』が『没落』にふさわしいキャラクターにならなければいけなかった

だから支離滅裂なことを言ったり、YouTuberを1日で辞めたり、「黙れよ説教ババア」的なツイートをしたんです。

いしかわ

なるほど、あれは「中の人」の本意じゃなく、作品を良い形で世に出すために『ぼくりり』を調整していたんですね。

ぼくりりさん

だって、「中の人」的にはテレビに出るとかあんま好きじゃないんです。「天才辞めたいです」とか絶対に言いたくなかったんですよ!!(笑)

ぼくのりりっくのぼうよみ

それも嫌だったんだ!!!

ぼくりりさん

嫌でしょ、そんなの普通に(笑)。柱を貫くために頑張ってるんです!!

ちなみに、「天才」という言葉も、意図的に出しています。

「天才」っていうのは可燃性の高い言葉なんですよ。ガソリンを染み込ませたスポンジみたいな。然るときに投げ込んでマッチをつけたらめちゃめちゃ燃える。

僕が「天才」かどうかはどうでもいいんです。これをテーマにみんなが語ってくれれば

いしかわ

議論を起こすには便利な言葉だと。

ぼくりりさん

各々から『ぼくりり』の勝手なストーリーが生み出されるのは避けられないので、じゃあそのストーリーが深みを増すように、より面白くなるように動いていこうかなっていうのが最近の仕事です。

「ぼくりり」の終わりは、次の始まり

ぼくのりりっくのぼうよみ

いしかわ

そうやって「没落」に向かってさまざまなことを仕掛けていることはわかったんですけど、自分が「ダメだな」ってわかってても、なんとなく続けている人のほうが多いじゃないですか。

そのなかで「辞める」という大きな決断ができたのはどうしてですか?

ぼくりりさん

「20歳」だから、という若さはあると思いますね。「中の人」的には今のうちに積み上げてきた『ぼくりり』というキャリアを手放すことができるのはすごく感謝してます。

安定を手放すことは怖いかもしれないけど、次で成功できたら、それは「いつでも自分を捨てて、ゼロからやり直しても立ち上がれるんだ」っていう自信にもなりますよね。

ぼくのりりっくのぼうよみ

いしかわ

「中の人」は、文才もあるし、ビジネスもできそうだなと思いますが、ゼロからまた新しいことにチャレンジするのは怖くないんですか?

ぼくりりさん

僕、「頭ごなしに捨てない」というのをすごく大事にしてるんです。音楽も知識ゼロのところから「とりあえずやってみよう」と始めましたし。

だって、楽器がひとつもできないのにミュージシャンになれたんですよ(笑)。

だから、やりたいならやってみればいいし、やりたくないならやらなければいいって思いますよ。僕は「やりたいことがやれるタイミングでできること」が幸せだと思っています

いしかわ

あの…こんなことを言ったらファンに怒られるかもしれませんが…

話を聞いていると『ぼくりり』の「引退」が全然悲しくないんですけど。

微笑むぼくのりりっくのぼうよみ

ぼくりりさん

そりゃそうですよ!

たしかに『ぼくりり』は辞職しますけど、「中の人」はこれからも存在しつづけるわけですから。

いしかわ

ということは…

ぼくりりさん

はい、明らかに次があります(笑)。「TO BE CONTINUED」がめっちゃ見えてる。

だから、僕は『ぼくりり』を早く終わらせたいんです。

終わりは、始まりなので。

ぼくのりりっくのぼうよみの横顔

〈取材・文=いしかわゆき(@milkprincess17)/撮影=森カズシゲ〉

お知らせ

絶賛没落中の『ぼくのりりっくのぼうよみ』が最後のオリジナルアルバム『没落』の収録楽曲、全11曲の制作秘話を語ったスペシャルヴォイストラックをAWAで独占配信中。

「ぼくのりりっくのぼうよみとしての3年間のすべてがこの1枚の為にあった」と語った本作品楽曲と、1曲1曲に込められた想いを聴きながら『ぼくのりりっくのぼうよみ』の「最期」を見届けましょう!

笑うぼくのりりっくのぼうよみ

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