ビジネスパーソンインタビュー
睡眠時間2時間で二刀流にチャレンジ
「干された」は間違いだった。YouTuber・カジサックとして始動したキンコン梶原の覚悟
新R25編集部
10月1日にキングコングの梶原雄太さんが、YouTuber『カジサック』としてデビューしました。
第1回目の動画では「2019年末までにチャンネル登録者数が100万人を超えなかったら、芸人を引退します」と宣言して話題になったので、見かけた人も多いと思います。
突然の発表に対して「芸能人にそれは難しい」「YouTuberを舐めるな」などの逆風も吹いているなか、新R25編集部は梶原さん本人に直接インタビューを敢行。
「なぜこんなチャレンジをしようと思ったのか?」
「YouTubeで何を実現したいのか?」
そんな質問に、真摯に答えていただきました。
〈聞き手=福田啄也(新R25編集部)〉
福田
『はねるのトびら』ドンピシャ世代としては、先日の「ギリギリス」動画を見てうれしくなりました。
今日はYouTuberデビューに至った話を聞かせてください!
梶原さん
そういう声が聞けるのはうれしいですね~。
オナシャス!(←これを流行らせたいそうです)
「梶原は干された…」ではなく、ひな壇バラエティが向いてなかった
福田
まずみんなが気になっていることから聞かせてください。
2012年に『はねるのトびら』が終了してから、梶原さんをテレビで見かける回数が減りました。
世間からは「梶原はテレビから干された」などという声も聞いたこともありましたが…これって実際どうだったんですか?
梶原さん
やはり気になりますよね。ボク自身、ネタで「干された」なんて言ってますが、実際はまったくもって違います。
単純にボクの実力が足りなかっただけなんですよ。
いきなりお笑い一切抜きで話してくれる梶原さん
梶原さん
バラエティ番組は、時代に合わせて変化しています。ボクはその変化の波に乗れなかったんです。
福田
どういうことですか?
梶原さん
『はねトび』でやっていたような、コーナーで体を張って笑いを取るというのは、ボクに合っていました。
ただ、今のバラエティ番組の主流は、『アメトーーク!』のようにMCがいてひな壇にたくさん芸人がいて…という座組みですよね。ひな壇の芸人がトークして、それをMCがイジる…というような。
その座組みのなかで笑いを取ることができなかったんですよ。
福田
なるほど…
それでいうと、相方の西野さんは10年以上前に「ひな壇に出るのは辞めます」と宣言されてましたね。
梶原さん
そうです。西野とボクは、どっちもひな壇が苦手なんですよ。西野は早々に諦めて白旗を上げましたが、ボクはできる限り1人で頑張っていました。
でも、ひな壇の仕事ではほとんど爪痕を残せなかったんですよね。「これは自分に向いてねえな」ってわかりました(笑)。
福田
言われてみれば、梶原さんがひな壇でトークしているイメージがないですね…
梶原さん
そうでしょう(笑)。
だから「干された」というより、ひな壇バラエティで活躍ができなくて、需要がなくなっていったというほうが正しいですね。
挑戦を続ける相方を横目に、全力を注げるものがないというストレスがあった
福田
ここ数年で、相方の西野さんは絵本作家になったり、オンラインサロンを開いたりと新しい活動を始めましたが、そこに対して焦りを感じることはありましたか?
梶原さん
それはないですね。「西野すごいな!」とは思ってましたが、負い目とかは一切感じてません。
福田
「オレも誘ってくれよ」みたいにも思わなかったんですか?
梶原さん
それもないですね。
なぜなら西野がやろうとしていることは、西野にしかできないことでしょう。ボクが入ることでめちゃくちゃプラスになるならまだしも、そんなこともないですしね。
ただ、西野が全力で挑戦しているなか、ボク自身が100%の力を注げるものがなかったのはすごくストレスでした。
福田
これまでに何かチャレンジしたことはありましたか?
梶原さん
ゴルフに自信があったのでプロゴルファーを目指してみたり、ダーツの大会に出場してみたりしましたね。
福田
それらの活動はあまりハマれなかったんですね…
梶原さん
自分のなかで、どうしても100%の力で続けていける未来が見えなかったんです。
「面白い」「楽しい」「わくわく」がどんどん薄れていっちゃう気がして。
福田
それじゃあ今回のYouTuberとしての挑戦は、ようやく見つけた…という感じでしょうか?
梶原さん
そうですね。今のところ、芸歴19年で一番楽しいです。
やっと自分の長所を発揮できる場所を見つけたと思ってます。
「ちょっと遅すぎましたがね(笑)」
YouTuberの人気ぶりを見て、ようやく時代の変化に気づいた
福田
YouTuberに興味をもったのはいつからなんですか?
梶原さん
去年の10月です。
赤坂サカスで行われたレッドブルのイベントにレポーターとして出たのですが、最後にスペシャルゲストとしてYouTuberのフィッシャーズさんと水溜りボンドさんが登壇したんですよ。
芸人が出てきたときは「ワァ」くらいの反応だった観客が、その2組のYouTuberが登場すると「ドォオオオオワワアアア」って沸いたんです。
梶原さん
その瞬間に、「あっ、ヤバい。芸能人の人気がYouTuberに奪われている。これは知っておかないとダメだ」って気がつきました。
それで帰りにYouTuberの動画を見てみたら、めちゃくちゃ面白くてドハマりしたんです。
ただ、有名YouTuberの動画をみていると、「ある程度知名度のある芸能人がYouTuberと絡んでいる動画がないな」ってことに気づきました。
“これは新しい挑戦になるかも…!”って思いましたね。
福田
それで今年の7月21日に、ラファエルさん(チャンネル登録者数200万人のYouTuber)の動画に出演されたんですね。
梶原さん
そうですね。ボクたちキングコングでも「毎日キングコング」というYouTubeチャンネルを持っていて、ある日その動画でラファエルさんのモノマネをしたんです。
その翌日にラファエルさん自身からご連絡をいただいて会うことになったのが、あの動画に出ることになったきっかけです。
今でもラファエルさんとは2週間に1回会って、動画制作の相談をさせていただいてますね。
ヒカルのアドバイスで、YouTuberになる決意をした
福田
ラファエルさんに会ったあと、8月にはヒカルさん(チャンネル登録者数277万人の人気YouTuber)の動画にも出演されていましたね。
約1時間におよぶトーク、めちゃくちゃ面白かったです。
梶原さん
ありがとうございます。あの動画が、YouTuberになる大きなきっかけですね。
正直、ヒカルさんの動画に出るまでは、「芸能人がYouTuberと絡むことで、何か面白い火おこしができないかな…」ってくらいにしか考えていませんでした。
ただ、ヒカルさんにその話をしたら、「梶原さん、火をおこすには何か明確な目標を設定しないと意味がないですよ」って言われたんですよ。
しっかりと考えていなかったボクの甘さを指摘されたんです。
福田
まるでビジネスコンサルタントみたいですね…
梶原さん
そうでしょう(笑)。そのときボクが出した答えが「二刀流」です。
梶原さん
芸能人でYouTubeチャンネルを持っている人は多いけど、誰も本腰を入れてやっていないなと思いました。
だからボクは、キングコング梶原として吉本に所属しつつ、YouTuberカジサックとしてYouTuberの事務所に所属したいって思ったんです。
そんなことをやっている芸能人ってほかにいないでしょう?
福田
確かに…
梶原さん
そのあと、吉本興業の社外取締役である坪田信貴さんが、たまたまボクがYouTuberに積極的に絡みにいっている動画を見たらしく、「一度お会いしたい」と声をかけてくださいました。
福田
坪田さんって、映画にもなった小説『ビリギャル』の著者の方ですよね。
梶原さん
そうです。坪田さんにこれまでの経緯を説明したら、「梶原さんは絶対にYouTube界でスターになるべきだ」って言われました。
さらに、「ボクも全力でサポートするので、吉本でやりましょう」って言って環境まで整えてくれたんですよ。
ヒカルさん、坪田さんとの出会いがなかったら、YouTuberとしての活動することはなかったです。
「芸能人はYouTubeで成功しない」とも聞きますが…?
福田
よく「芸能人はYouTubeで成功しない」といわれますが、その原因って何だと思いますか?
梶原さん
ボクの分析では、芸能人ってテレビで出ているときと同じキャラクターのままやるんですよ。しかも、テレビほど頑張らないイメージです。
福田
それはやる気がない…ということでしょうか?
梶原さん
言ってしまえばそうなんですよ。「YouTubeってこんな感じでいいんでしょ?」っていうスタンスでやっている。「とりあえず手を出しておくか」感。
それ、全部視聴者の方にバレてると思うんですよね。
逆にいうと、芸人のヒロシさんは成功者だと思っています。
福田
ヒロシさんは、3年以上も「ヒロシちゃんねる」でキャンプ動画を上げていますよね。
「ヒロシちゃんねる」のチャンネル登録者数は25万人弱。ヒロシさんのソロキャンプ動画やキャンプグッズの紹介など、趣味が高じて開設したチャンネルだ
梶原さん
あれは、テレビで見せていなかった姿ですよね。かつ、本当に好きなことをやっている。
それがバズを生んでいるんだと思うんですよ。つまり、やっぱり大切なのは本気度だってことなんですよ。
睡眠時間は2時間。YouTuberと芸人の二刀流生活
福田
「カジサックの部屋」では、ほぼ毎日動画が更新されているようですが、これってどういう体制で運営しているんですか?
梶原さん
チームで行っていますが、編集以外は全部ボクがやっています。
ゆくゆくは編集も自分でやりたいところですが、今はとにかく企画と分析に大きく時間を割いているんですよ。
福田
分析というと、自分の動画の反応を見る感じでしょうか?
梶原さん
そうですね。
あとはYouTube業界では新米ですから、HIKAKINさんやはじめしゃちょーさんといったトップYouTuberの方々の動画のすべてに目を通し、その技術を盗んでいます。
バズっている動画には、企画性、テンポの良い編集、BGMなど、ひもとくとたくさんの要因があるんですよ。
それらを自分の動画でも生かせないかって常に分析していますね。
福田
1つの動画を見るにしても、かなり時間がかかりそうですね…
芸人との両立ってかなり難しそうです。
梶原さん
正直、時間なんていくらあっても足りません。
芸人の仕事では、毎月漫才を30本やってます。あとは大阪でテレビとラジオのレギュラー番組を持っているので、大阪と東京を往復時間もかなりかかります。
睡眠時間は2時間もないですよ。
漫才を毎月30本…どこにそんな時間があるんでしょう…
目標はYouTubeとテレビの壁をぶっ壊すこと
福田
梶原さんがYouTuberになって成し遂げたいことって何なんですか?
梶原さん
よくぞ聞いてくれました!
ボクはね、テレビとYouTubeの間にあるぶ厚い壁を破りたいんですよ。
福田
ぶ厚い壁…とは?
梶原さん
今って、「テレビが衰退している」と言われています。その原因は、やっぱりYouTubeの影響が大きい。
YouTubeユーザーには、10代の学生たちも多いですよね?
福田
確かにYouTuberファンは、中高生が多い印象です。
梶原さん
そうでしょう。この10代が一番テレビを見ていない世代だと思っています。
特にバラエティ番組の需要は、YouTubeに奪われているんですよ。ボクがYouTuberになることで、彼らにテレビに興味を持ってもらいたいんです。
福田
それってかなり難しいことじゃないですか? そんな簡単にできたらテレビ業界は苦労しないでしょうし…
梶原さん
もちろん。
ボクのなかで2つのアクションが大事だと思っていて、1つ目はYouTuberとたくさんコラボレーションをする。2つ目は、必ずそのときに別の芸人も絡ませることです。
福田
1つ目は10代のYouTubeユーザーへの露出を増やすことですね。2つ目はどうしてなんですか?
梶原さん
芸人の本当の面白さをYouTubeユーザーに伝えたいんです。
というのも、YouTubeはテレビよりも芸人の本領を発揮しやすいんですよ。
ボクがいい例なんですが、ラファエルさんやヒカルさんの動画に出たとき、うれしいことに「梶原ってこんなに面白かったんだ」「テレビで見るより面白い」「芸人ってやっぱりすげえな」っていうコメントが集まったんです。
ここにヒントがあったんですよ。
梶原さん
今のバラエティ番組の座組みは先ほども話したとおり、MC×ひな壇の形式です。
これだと1時間番組で、芸人1人あたりの時間は10分もありません。この時間内に爪痕をしっかり残したとしても、3割くらいの力しか出せていないんです。
福田
団体芸の要素が強く、個々の力が発揮しきれないということですね。
梶原さん
そうです。本当はもっと面白いのに、今のバラエティの座組みでは表現に制限がある。
だからボクの動画に芸人を呼んで、彼らの面白さを存分に引き出すことで、10代のYouTubeユーザーが「芸人ってこんなに面白かったんだ。じゃあテレビを見てみようかな」って思ってもらえるようになればいいなと。
これは、芸人として活動しているボクにしかできないことだと思っています。
今のままだと、テレビのバラエティ番組がなくなってしまう。だから革命を起こしたい
福田
しかし、梶原さんの思惑通りにYouTubeユーザーがテレビを見たとしても、3割程度の力しか発揮できていない芸人の姿を見るわけですよね?
それだと意味がないのでは? と思ってしまうのですが…
梶原さん
そこなんですよ。だから、テレビ業界も変わらないといけないと思っています。
梶原さん
現状のバラエティ番組では、YouTubeユーザーの興味を引ききれていません。
今彼らにウケているのは、YouTuberの「やってみた」「挑戦してみた」「検証してみた」などの動画ですよね。
福田
言われてみると、YouTuber自身が体を張ったり、リアクションを取ったりする動画が多いですね。
梶原さん
一方、テレビのバラエティではそういったリアクション芸や顔芸とかはあまり見られない。
それはなぜかというと、ほとんどの芸人がツッコミになってしまったんです。揚げ足をとって笑いを取る風潮が強まってしまったので、ボケの数が圧倒的に減ってしまいました。
それが時代のニーズに合っていない。
今の時代にマッチしていながら、「ちゃんとボケる」「リアクションもする」番組を作らないといけないと思っています。
「『お前が何をエラそうに語ってるんだ』って思われそうですけどね(笑)」
梶原さん
今のままでは、小中高生がテレビのバラエティ番組を見ることはなくなっちゃうと思うんですよ。
そしたら、彼らが大人になっても見ないし、彼らの子どもたちも見なくなる。
そうなっていくと、バラエティ番組がゆくゆくはなくなってしまうと思います。
福田
その問題を解決したいんですね。
梶原さん
はい。それがボクの考える革命です。
今テレビのバラエティ番組を見ずにYouTubeを見ている10代に対して、芸人の魅力を最大限に発揮させてテレビに興味を持ってもらいたい。
そしてテレビには、芸人の本領を発揮できる番組をもっと制作してもらいたいんです。
福田
そのための足掛かりとして、YouTuberとしても成功したいということか…
梶原さん
そうです。いつかは、キングコングで新しいバラエティ番組を作りたいですね。
YouTuberとしてボクが成功して、絵本作家として西野が成功する。
そんな2人が作る番組って、絶対に面白いでしょ?
福田
楽しみです!
最後に聞きたいのですが、どうして「チャンネル登録者数100万人いかなかったら引退する」というチャレンジをされたのでしょう?
梶原さん
それは覚悟ですね。
ボクは「お笑い芸人でYouTuberとして成功した人はいないな」って思って挑戦したいと思いました。
では何を持って成功するのかって考えて、チャンネル登録者数100万人って勝手に設定したんです。
福田
「梶原には無理だ」「芸人として落ちぶれた」などかなり辛らつなコメントがありましたが、正直ヘコみませんでしたか?
梶原さん
それはないです。
ボクは21歳のときに病んだことがあって、そのときにアンチとかバッシングとかに対してヘコむという感情がなくなっちゃったんですよ。人間の底を見たので。
むしろ、叩かれれば叩かれるほどありがたいんです。そもそも「YouTuberになる」って宣言して、叩かれないわけないですからね。それはちゃんと関心を持ってくれているってことですから。
福田
それでは「チャンネル登録者数100万人なんて無理だろ」って言っている人とかも…
梶原さん
達成したら味方になる確率が高いと思っています。騒いでくれたほうがうれしいですね。
やっと本気でワクワクできることを見つけたので、それ相応の覚悟がないと自分も周りも本気になれないでしょう。
だから応援、オナシャス!
「テレビとYouTubeで革命を起こしたい」
「ボクにしかできない新しいことをやりたい」
この言葉を本気で言えるのは、芸人としてテレビで活躍し、そして苦しんだ経験がある梶原さんだからこそ。
現在チャンネル登録者数は、約20万人(10月19日現在)。新R25は、YouTuberカジサックの挑戦を全力で応援します!
〈取材・文=福田啄也(@fkd1111)/撮影=森カズシゲ〉
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