ビジネスパーソンインタビュー
「やめる」に必要なものは…
やめるときの注意点は? 1本3000円のガトーショコラを売るカリスマシェフの「やめる哲学」
新R25編集部
社会人として仕事をしていると、いつの間にかタスクが増えてしまっていて、取捨選択ができずに忙殺される…。そんな状態に陷っている人も多いのではないでしょうか?
そんなR25世代のために、11月26日発売『余計なことはやめなさい! ガトーショコラだけで年商3億円を実現するシェフのスゴイやり方』(集英社)の著者・氏家健治さんに仕事がうまくいく「やめる哲学」を教えてもらいました。
1968年東京生まれ。ケンズカフェ東京オーナーシェフ。数々の高級店で修業を重ね、調理および製菓・製パンの技術を体得。29歳で独立し、新宿御苑前に「ケンズカフェ東京」を開店。1本3000円の高級ガトーショコラは「ガトーショコラの最高峰」として多くのメディアで話題に
本当に「やめるべきこと」を見極めるために、若いうちは「余計なこと」も必要
編集部・N
自分もそうなのですが、仕事にまつわるすべてのことが余計と思えなくて、見極められないビジネスパーソンも多いと思います。「余計なこと」を見極めるには、まずなにが必要ですか?
氏家さん
「余計なこと」ってそもそも、いろんな経験をしてこないと生まれないものですよね? 最初から「これ1本でいこう」と決めて、会社を決めたり起業したりできる人のほうが少ないと思います。
本当に自分がやりたいことや得意なことは、「余計なこと」も含めていろんな経験をしてきたなかで初めて見えてくるものです。その目を養うために、むしろ若いうちは「余計なこと」が必要なのかもしれないです。
編集部・N
(いきなり本のタイトルを覆す発言!)
ちなみに、氏家さんの経験から「若いうちはやめておいたほうがいい」と思うことはありますか?
氏家さん
節約はやめたほうがいいでしょう。美味しいものを食べたり、旅行をしたり、趣味にお金を使ったり…そうして養った感覚は、のちに何かしらの形で生きてきますからね。
レストラン業をやめてガトーショコラ1本に絞ったことで売上が急成長
編集部・N
氏家さんは料理の道を極め、カフェ&レストランのオーナーシェフになり、料理人としては経験値を十分高めたところで、普通では考えられないような思い切った「やめる」を選択されたんですよね。
氏家さん
はい。まずランチ営業にはじまり、ディナー営業、宴会営業をやめました。ガトーショコラ1本に絞ってからもネット通販や、最終的には自らのシェフ業までやめましたね。
イベントなどで見せるシェフ姿は「コスプレ」です(笑)
編集部・N
どの「やめる」も相当なインパクトですが、なかでも一番効果のあったものはどれですか?
氏家さん
やはりランチ、ディナーを含めたレストラン業をやめて、ガトーショコラ1本に絞った製造販売業へ転換したことです。
最後までつづけた宴会営業をやめたときには、年商1億500万円にまで成長。これは自分でも予想していないことでした。
編集部・N
なぜレストラン業をやめることを決断できたんですか?
氏家さん
ガトーショコラはレストラン業時代にデザートとして提供していたものでしたが、お客さまから「持ち帰りたい」というリクエストがあまりに多かったんです。
だから「これはいける」という直感と自信からこれに賭けてみようと。そこからガトーショコラの製造販売に特化しました。
氏家さんが「余計なこと」をすべてやめたどり着いたガトーショコラ。なんと1本3000円! にもかかわらず本店の年内予約はいっぱいなのだとか…
売上の7割を占めていたネット通販までやめてしまった理由は?
編集部・N
製造販売に特化したのなら、ネット通販も重要な販路ですよね?
氏家さん
当時、売上の7割はネット通販でした。
編集部・N
なんと! それをやめてしまうって…何かあったのですか?
氏家さん
たしかに、普通に考えたらやめないですよね(笑)。
売上が減ってもいいからやめようと思ったのは、ネット通販による手間とスタッフの精神的・肉体的負担を考えてのことです。
編集部・N
と言いますと?
氏家さん
ネットで売れれば売れるほど、注文を受けてから発送するまでの手間は増すばかりだったんです。
それに伴って、クレーム相当増えました。到着が遅れた、ガトーショコラの形が崩れている、箱が凹んでいる、到着が少し遅れたという理由でタダにしてほしい…もうキリがありませんでした。
編集部・N
それはつらい…
氏家さん
ですから、売上よりも大事なものがあるんじゃないか、ネット通販がスタッフやお店にとって必要なのかと考えた結果、「やめる」選択に至りました。
それが結果的に正解だったんですけどね。
編集部・N
なぜそれで売上が伸びたんですか?
氏家さん
ネットで対応するのは受付までにして店舗販売に特化したことで、お店に行かないと買えないという「希少性」が加わったんです。また、お店で焼きたてを提供することで、品質をより高めることもできました。
それで口コミサイトでの評価がどんどんあがり、テレビや雑誌でも取り上げられるようになったんです。
やめる決断をする際に重要なのは、「戻る準備」と「仮説」
編集部・N
ネット通販は「やめた」ことでガトーショコラの価値が高まった成功例ですが、うまくいくケースばかりではないと思います。やめるときに気をつけるべきことはありますか?
氏家さん
やめて失敗したらすぐに元に戻せるよう、常にリスクヘッジをしておくことです。
氏家さん
僕もこれまでさまざまな「やめる」決断をしつつ、万が一失敗したとき元に戻せるだけの体力は残しておきましたからね。
保険もなく賭けに出るような次への一歩は踏み出さないことが、成功につながる「やめる」には必要だと思うんです。
編集部・N
リスクヘッジをせずに、「仕事がイヤだから」「社風が合わないから」といった理由で“取りあえずやめる”という選択をしてしまう人もいます。
氏家さん
物理的なリスクヘッジがむずかしいなら、実際にやめる行動に出る前に、次にどうなるかの仮説を立てることが重要です。
ビジネスパーソンの方々だと、たとえばいまの仕事をやめたあとに転職先ではたらく自分の姿をどれだけ想像できるか。その想像力が「やめる」の成否を分けると思います。
ノートに書き出すだけでもいい。自分と向き合う「本質タイム」を習慣化しよう
編集部・N
ところで、本のなかでは「自分は何がやりたいのか」「どこへ向かいたいのか」「誰に喜んでほしいのか」を考える「本質タイム」の習慣化を推奨されています。
こういう本質的な悩みって、若手ビジネスパーソンにもつきものなので、具体的にどういう時間で、どうやって習慣化したらいいのかをお聞きしたいです!
氏家さん
ランニング、散歩、ヨガ、瞑想など「無」になれる時間を使うとよいと思います。多くの成功者も実践しているようですが、無になることで自分がやりたいこと、やるべきことの「本質」が見えてくるんです。
編集部・N
なるほど。ただ、どれも意外と習慣化するのがむずかしそうですね…
氏家さん
そうであれば、いつもは忙しくてシャワーだけですませているのを、週末くらいはお風呂やサウナにゆっくり入るとかでもいいわけです。
それもむずかしいなら、一度自分がやりたいこと、向かいたい方向性をノートに書き出す時間をつくってみるだけでもいいですよ。
成果を出すマネジメントの極意は、「やめる」と「任せる」
編集部・N
R25世代のビジネスパーソンは大量の仕事に忙殺されたり、効率的にタスクをこなせずに悩んだりしている人も多いと思います。そんな人たちに何かアドバイスはありますか?
氏家さん
優先順位の低いものからさっさと片づけてしまって、本当に重要な仕事に集中すべきだと思います。小さな仕事をそのままにしておくと、仕事のパフォーマンスにも悪影響を及ぼしますから。
氏家さん
また、人に任せられることは思い切って任せること。全部自分でやろうとすると、大事な仕事もそうでない仕事も中途半端になりがちです。
編集部・N
つい「自分でないとやれない」と思って抱えがちです…
氏家さん
本当にやるべき仕事、会社にとって必要な仕事を見極めるためにも、自分ですべてを抱え込もうとしないことです。
編集部・N
本のなかでも、シェフ業をやめてガトーショコラの製造はスタッフに任せているとありました。自分が思い入れのある仕事まで人に任せて不安はなかったんですか?
氏家さん
信頼できるスタッフですので不安はありませんでしたよ。シェフ業をやめて5年になりますが、100%経営に集中できるので年商3億円にまで拡大できました。
編集部・N
すごい! 人を信頼して大きな仕事に集中すると、やはり成果につながるんですね。
氏家さん
特に経営者やマネジメントをする立場にある人は、人に任せられないとダメですよ。
ただ、まずはすぐれた戦略を立てることが重要です。勝ちにいくためには、『余計なこと』を見極めて『やめる』意思決定をすることをおすすめします。
氏家さんのように「やめる」ことで成功を収めるために、若いうちはたくさんの「余計なこと」をして経験と知識を手に入れることが必要、というお話には勇気をもらいました。
氏家さんの新著『余計なことはやめなさい! ガトーショコラだけで年商3億円を実現するシェフのスゴイやり方』は、最近小さなチームを任されはじめたR25世代にとっても参考になる考え方が詰まった1冊。マネジメントに悩んでいる人は一度手にとってみてください!
〈取材・文=新R25編集部/写真=冨永智子〉
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