ビジネスパーソンインタビュー
銭湯付きコワーキングスペース、つくります!
“斜陽産業”なんて幻想だ。「銭湯2.0」を掲げる小杉湯が人を集められる3つのワケ
新R25編集部
皆さん、銭湯って行きますか?
日常的に行く人はそこまで多くないと思われますが、最近、「高円寺の小杉湯に面白い人が集まってる」という話をよく聞きます。“斜陽”といわれる業界で頑張るビジネスマンを追っている『新R25』としては見逃せない…。
いったい小杉湯に何があるのよ?というわけで、小杉湯三代目・平松佑介さんと、番台に立ちながらイラストレーターとして活動する塩谷歩波さんに取材を敢行。
銭湯というのほほんイメージからはかけ離れた(?)、どのビジネスにも応用可能な「人の集め方」を学んできました!
〈聞き手:天野俊吉(新R25編集部)〉
【平松佑介(ひらまつ・ゆうすけ)】住宅販売会社勤務、人材系ベンチャーの立ち上げなどを経て、2016年から「小杉湯」三代目として活動(写真右) 【塩谷歩波(えんや・ほなみ)】建築設計事務所勤務ののち、現在イラストレーター兼「小杉湯」番頭(写真左)
天野
開店前のお時間にありがとうございます! まず、お2人のかんたんなプロフィールをうかがっていいですか?
平松さん
はい。小杉湯は昭和8年創業で、僕の祖父が戦後に買い取ったそうです。
自分もいつか継ぐんだろう…と思っていたので、それまでは会社員として経験を積もうと、住宅の営業職に就きました。
“早めに勝負できる”業界がよかったんですね。4年目で「営業売上全国1位」と表彰もされたんですよ。
天野
おお、バリバリのデキる人なんですね。
塩谷さん
私は大学が建築学部で、設計事務所に就職したんですが、頑張りすぎちゃって…
心身を壊してしまったときに、友達から誘われて銭湯に行ったことがきっかけで、すっかり「銭湯マニア」になりました。今は小杉湯で働きつつ、イラストを描いてます。
【人が集まる理由1】「愛情が可視化されている」から
天野
今日は「なぜこの銭湯に人が集まっているのか?」という部分を聞きたいんです。
多くの銭湯が経営難に苦しんでいて、全国で“1日1軒廃業している”とも言われています。そんななか、小杉湯は売上をアップさせているそうですね。
平松さん
「人を集める」ことに関しては、かなり意識的にやってるんです。
小杉湯を継ぐ前に、人材系のベンチャーを立ち上げていたんですね。企業の採用のお手伝いをする、つまり「いかに企業を魅力的に見せるか?」ということをずっと考えていて。
天野
どういうことをされたんでしょう?
平松さん
そのときわかったのが、「中の人が会社を愛してないとダメ」だということ。
たとえば、大手タクシー会社の採用のお手伝いをしてたんですが、社内にも「タクシードライバーなんて…」って言っちゃう人が結構いたんです。
それじゃ魅力的には見えないので、仕事に愛や誇りを持ってる人を、広報や採用担当とか、外から見えるところに異動させたんですね。
天野
なるほど。楽しく働いている人を見れば人も集まりそうですね。
平松さん
カッコよく言うと「愛情を可視化する」といいんです。
そのためにクリエイティブは大事だなと思っていて、小杉湯を始めてからイラストレーターの塩谷ちゃんに声を掛けました。
塩谷さん
私はそのとき身体をこわして休職してて、SNSとかで銭湯の図解イラストをアップしてたんですよ。それを平松さんが見つけてくれて、「ぜひ小杉湯のパンフレットを描いてくれ!」と。
こちらが塩谷さん制作のパンフレット。かわいい~
たしかに愛情が可視化されている…
【人が集まる理由2】「好きなことをして生きている人が集まっている」から
天野
他にもいろいろ面白い取り組みをされてますよね。
塩谷さん
去年1年間やってたのは「銭湯ぐらし」っていうプロジェクトですね。
隣に(小杉湯所有の)アパートがあって、そこにクリエイターやアーティストが住む、という。私も住んでいて、まさに衣食住を銭湯とともにしてイラストやエッセイを書いてました。
平松さん
アパートの建て替えが決まって、1年空き家になるので、「なら住ませてくれ」と友だちの建築家が企画したんですよね。
家賃も、最初2~3万円ぐらい取ろうかなと思ってたんですが、そいつが「タダじゃないとお金なくて住めない」とか言うから結局タダで(笑)。
天野
住むほうからしたら最高ですね。ほかにも「銭湯フェス」ってイベントも主催されてますね!
平松さん
銭湯ぐらしでアパートに住んでた江本祐介くん(「ENJOY MUSIC CLUB」やCM楽曲の制作などで活躍するミュージシャン)が、「いつか銭湯でフェスがやりたい」と言うので、「祝日ならいいよ」と。
2017年5月におこなわれた「小杉湯フェス」の様子
天野
どっちもすごく楽しそうな感じはしますが…「人を集める」ことにどう効いてるんでしょうか?
平松さん
人がモチベーションを発揮するのって、YouTuberのキャッチコピーじゃないですけど「好きなことで生きている」ときだと思うんですよ。言い換えれば「自分の物語」を生きているとき。
銭湯ぐらしは、それぞれがフェスをやったり絵を描いたり起業をしたり、自分の物語を生きる場所を提供できていた。
天野
そうですね。
平松さん
これは急に怪しい精神論みたいになるんですが、そういう人が集まってるところって場所に「エネルギー値」がたまると思うんです。「場力(ばぢから)」みたいな。
そのエネルギーに引き寄せられてお客さんも自然と集まる…みたいな。ちょっとオカルトすぎますかね?(笑)
天野
いや…そんなことないです。わかるような気がします。
【人が集まる理由3】「さまざまな人の“暮らしにひもづけている”」から
平松さん
もちろん精神論だけじゃなくて、それなりにいろいろ考えてますよ。
僕は、「銭湯はITのストック型ビジネスと一緒」だと考えてるんです。この意味わかりますか?
天野
すいません、それは全然わからないです。
平松さんは元ベンチャー起業家なので、ビジネスモデルの話がガンガン出てきます
平松さん
「アドビがソフトを作ったら、それを月額5000円払ってたくさんの人が使う」みたいな。
例えば飲食店だったら、お客さんが増えればそのぶん食材費とか人件費も増えるから、儲けもそこまでではない。でも小杉湯は、番台と裏に1人いればまわるし、人を集めれば集めるほど、固定費が変動しないから利益が増える。だからこそいろんな人を集めようと考えてるわけなんですね。
流行の「シェアリングエコノミービジネス」(民泊など、すでに持っている資産をシェアすること)とも言えるかもです。
天野
そういうことか~。銭湯をそんな視点で見たことがなかったです…
平松さん
もうひとつビジネスっぽいことを言うと、フェスとかイベントをいろいろやっても「『単発』だからお客さんがつかないんじゃないか」とか言われることもあるんですね。
でも銭湯って「暮らしにひもづける」部分があるから、単発に終わらないんですよ。興味を持って来てもらえれば、いろんなスタイルの人の生活に合う。
塩谷さん
明け方まで仕事して、起きてすぐ一番風呂に入りにくるミュージシャンがいれば、夕方に入ってそのまま高円寺のスナックに出勤するママもいますしね。
あとは、私みたいに身体をこわした人や、スマホから離れて「デジタルデトックスしたい」という若い人にもオススメですね。
平松さん
家に風呂がなかった時代とは、人の集まり方が違う。そういう人をちゃんととらえて、銭湯のあり方を再定義していけば、人を集めることは不可能じゃないと思っています。
今風な言い方をすれば、「銭湯2.0」だと。
天野
(言い方がカッコいいな…)
【朗報】2019年、「銭湯付きコワーキングスペース」ができます!
天野
隣のアパートは現在建て替え中ですよね。ここはどうなるんでしょう?
「ランドリールームになる」というウワサを聞きましたが…
平松さん
こんな感じにしようと思ってるんですよ。塩谷ちゃん、あれ持ってきて!
塩谷さん
はい~!
ドン!
天野
すごい、なんだこれは…。完成予想図の模型ですか?
塩谷さん
そうなんです。私が以前いた設計事務所の上司につくってもらいました。
天野
小杉湯の隣に、オシャレな建物が…。これがランドリールームですか?
平松さん
最近おしゃれなランドリーカフェとか増えてるじゃないですか。1Fはそんなランドリーカフェを含めた地域コミュニティの場所をつくって、2Fはコワーキングスペースにしようと思ってます。
Wi-Fiを飛ばして、ここで仕事ができるようにと。疲れたらすぐ隣の銭湯に入れるみたいな。
天野
最高!!僕が断言するのもおかしいですが、絶対流行りますよ!
3Fは何になるんですか?
平松さん
3Fは、クライアントと打ち合わせをするようなミーティングルームや、ちょっとしたイベントができるスペースにしようと思ってます。
天野
クライアントを銭湯に呼んで打ち合わせを!!(衝撃)
平松さん
ちなみに2019年10月10日にオープン予定。「銭湯の日」ですからちゃんと書いておいてくださいね!(ニヤリ)
記念日はすべて「10月10日」にしているという平松さん。娘さんの誕生日も10月10日らしい
最後に。「自分の物語を生きる覚悟を決める」とは
平松さん
結局ね、「斜陽産業」って幻想なんですよ。
最初に入社した住宅販売でもそうでした。住宅不況といわれてたけど、活躍してる人はしてるし、結果出してる人は出してます。
どんな業界でも、中の人が一番「斜陽」って思い込んでて、何もしなくなっちゃってると思うんですよね。
天野
うーむ。どこの業界も明るい話題が少なかったりしますが、そんなときにR25世代が頑張って働くには、どうすればいいですかね?
平松さん
「自分の物語を生きる覚悟を決める」ってことですかね。
斜陽でもそれが自分の物語だと思えるか。なんとなく働いているだけとは、エネルギーの出方が違うと思います。
塩谷さん
私も、今思えば設計事務所での仕事は、「自分の物語」じゃなかったんだろうなと思います。
“銭湯×絵”というものを勝手に始めて、ようやく始まったところなんだと思います!
というわけで、ウワサの「小杉湯」に取材したところ、「集客」に効くブランディングのコツから、さまざまな業界で働くR25世代へのエールまでいただくことができました。
そして何より、2019年にオープンするという「銭湯コワーキングスペース」への期待が高まります! ワクワクしながら待ちましょう。
〈取材・文=天野俊吉(@amanop)/撮影=池田博美〉
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