ビジネスパーソンインタビュー
楽しいもつまらないも、ほんの小さな心掛け次第
魔女の宅急便の作者・角野栄子「想像力は目の前をカラフルにする魔法だと思うの」
新R25編集部
記事提供:Woman type
私たちは、どこにあるかも分からない「幸せ」というものに、いつも憧れて生きている。
人から見れば十分に恵まれた人生かもしれないけど、心はどこか満たされなくて、小さな不満や不自由を抱えている。何度答え合わせをしてみても、正解なんて分からない。きっとそういうものなのだろう、人の幸せなんてものは。
だからこそ、正解じゃなくていい。せめてヒントになるものを見つけたい。
そう思って、話を聞いてみたのが、児童文学作家の角野栄子さん。日本中を魅了した『魔女の宅急便』をはじめ、これまで400点近い著作を発表。
今年3月に「小さなノーベル賞」とも言われる国際アンデルセン賞を受賞した角野さんは、生き方がとても本質的。
【角野 栄子(かどの・えいこ)】児童文学作家。1935年生まれ。東京都出身。早稲田大学教育学部卒業。出版社勤務後、結婚。24歳の時ブラジルに渡り2年間滞在する。その体験をもとにしたノンフィクション『ルイジンニョ少年 —ブラジルをたずねて—』で作家デビュー。その後 『小さなおばけシリーズ』、『魔女の宅急便』『ラスト ラン』『トンネルの森 1945』 など数多くの絵本・児童文学作品を発表。2018年、日本人3人目となる国際アンデルセン賞を受賞した
既製の服は着ずに、自分の体型に合わせたオリジナルのワンピースを知人に仕立ててもらったり。自分のテーマカラーを“いちご色”と決めて、部屋の壁紙や本棚も全部いちご色で統一したり。
余計なものは好まず、常に自分が楽でいられることを大事にするライフスタイルは、悩み多き働く女性たちの理想形ではないだろうか。
83歳になった今も、少女のような瑞々しい感性と、大人の女性としての美学を持った角野さんに、幸せな生き方について、じっくり、たっぷりと語ってもらった。
どんなに辛いときでも光を見つけてくる力が、人間には備わっている
私、人にああしろこうしろって言うことはしたくないの。だって、人の人生だもの。皆、それぞれ生き方も考え方も違って当たり前。他人が何か決めつけるようなことはしたくないのね。
だから、今からお話しすることは、あくまで私の考え。合わなかったら、そのまま聞き流してくださっても大丈夫。そんなに構えずに、気楽に聞いてください。
毎日を幸せに生きるなんて、とても難しい話よね。私だって、我が身の不幸を嘆きたい日もあれば、落ち込む夜もある。そんなの皆、同じよね。
むしろ「不幸」を感じたことがないという人がいたら、そっちの方がおかしいんじゃないかしら。
でもね、そういった悲しみや暗い気持ちこそ、人を動かすエネルギーになるんです。まずそれを覚えておくといいですね。それだけで、ずっと気持ちが楽になるから。
人間ってよくできているもので、ずっと落ち込んだままではいられないの。どんなに気持ちが塞ぎ込んでも、ちゃんとそこから光を見つけてくる力が備わっている。
私の人生を振り返ってみてもそうでした。私が人生で最も沈みこんだのは、24歳でブラジルへ渡ったとき。大学を出て就職した私は1年半で寿退社。そこからもっと外の世界を見てみたくて、夫婦二人で2カ月間の船旅を経て、ブラジルへと移住しました。
でも、言葉も全然分からないし、お金もないし、生活様式も違うし、最初の半年間はお肉1枚買うのもひと苦労。自分で選んだくせに、とんでもないところに来てしまったって毎日ため息ばかりついていました。
小さな世界に閉じこもっていると周囲が「敵」に見えてくる。でも、外に出ればそれが思い込みだと分かるはず
でもね、人間ってよくできていて、そんなどん底みたいな生活もいつの間にか慣れてくるのね。ずっと家に閉じこもりきりの生活だったのが、半年を過ぎた頃から、ちょっとずつ外へ出てみたいと思うようになりました。
すると、あんなに怖かったはずの言葉の通じない相手とのコミュニケーションが、何だかとっても面白く思えたの。相変わらず単語の意味なんて分からないのよ。
でも、その言葉の持っている音やリズムを拾い取れば、大体相手の言っていることが分かる。そうしたら、どんどんブラジルの人たちと交流するのが楽しくなって。気づいたらたくさんのお友達ができていました。
誤解しないでほしいんですが、決して私は楽天的な性格ではないの。むしろ普段からいらぬ取り越し苦労ばかりするタイプ。
でも、ブラジルに移り住んで思ったんです。辛いことがあったとき、いつまでもじっとしていてはダメだって。人ってじっとしていると、周りが全員「敵」に思えてくるもの。でも、実際のところそんなのただの思い込みなのよね。それが、一歩外に出てみればよく分かる。
家の中でじっとしていたら空気が停滞するでしょう。そうすると、心持ちも自然と澱んでしまうもの。
だから理由なんて何でもいい。靴を履いて外へ出てみるの。外の風にあたってみることはすごく大事。それだけでほんの少し心の風通しが良くなる気がするでしょう?
私は結果的に2年間ブラジルで暮らしましたが、振り返ってみればとても楽しい毎日でした。
私が35歳で作家になったのも、「ブラジルでの生活のことを書いてみたら」という恩師の一言がきっかけ。もしあのとき、ずっと家の中で膝を抱えたまま誰とも関わることがなかったら、私は作家になっていなかったかもしれない。
そう思うと、ほんの少し気分を変えるために外へ出たことが、人生をがらりと変えることさえあるのよね。
想像力こそ、人間が持つ一番の魔法
小さい頃から本を読むのは好きでしたけど、自分が書く側になるなんて全く思ってもいませんでした。
それが気づいたら約50年、ずっとこの仕事を続けているんだから、人生って不思議なものですね。
どうして私が83歳になった今も物語を書き続けているのかと言ったら、答えは簡単。好きだから、ただそれだけです。
もちろん上手く書けなくて悩むことだってあります。でも、たとえどんなに苦しくても、それが好きなことなら続けられる。好きなことを見つけられて、それを仕事にできたという意味では、私の人生はとても幸せなものだと思う。
だから、まずは自分の好きなものが何か分かる人間になること。それが、幸せに生きるための一つの手がかりではないかしら。
でも、世の中、必ずしもそんな恵まれた人ばかりじゃあないかもしれない。自分の仕事を好きになれなかったり、やりがいを感じられない人もたくさんいます。
だからと言って自分の仕事を放棄しても、事態は何も変わらない。だったら、目の前のつまらないと思える仕事の中から、どうやったら楽しめるところを見つけられるか、そのために心を動かしてみるといいんじゃないかしら。
そこで必要になるのが、想像力ね。私、想像力って人間が持つ一番の魔法だと思うの。想像を膨らませるのはお金もかからないし、体力も必要ない。極端な話、たとえ体の自由を奪われることがあっても想像の自由だけは誰にも侵されない。
毎日同じように見える暮らしの中で、ちょっと想像力を働かせてみるの。自分の仕事がその先どこにつながっているのか想像をめぐらせてみてもいいし、どうすればもっとラクして簡単にこなせるか、創意工夫をするためにイマジネーションを使ってみてもいい。
そうしたら、ほら、ちょっと気持ちが明るくなるでしょう。想像力は、目の前の景色をカラフルにさせる。楽しいも、つまらないも、つまりはほんの小さな心掛け次第です。
「私はいまだに自分のことを18歳だと思っているの」
あともう一つ、幸せに生きるために忘れてはいけないことは、人のせいにしないこと。つい自分にとって悪いことがあると、誰かのせいにしてしまいがち。
でもそうやって人のせいにばかりしていたら、どんどん心が貧しくなる。そんなの余計に寂しいじゃない?
だからと言って、自分のせいだと考えすぎるのも良くない話ね。そうやって自分をダメだダメだと否定していても未来がない。
想像してみて。皆それぞれ名前があるでしょう。どの名前もきっとお父さんやお母さんが幸せな未来を祈ってつけたものだと思います。そんな場面を想像してみたら、もっと自分を大切にしてあげなきゃって思うでしょう?
せっかく生まれてきたんだもの、楽しく生きなくちゃ。
私は人の同情を買いたいときだけ「もう歳だから」って言うんだけど、実際のところ、自分が年齢を重ねたなんて考えたことがないの。いまだに自分のことを18歳くらいだと思っているところがある。
若い人と話をしているのも楽しいし、周りの人たちは誰も私を年寄り扱いしないから、一緒に歩いていても全然スピードなんて合わせてくれないし、荷物だって持ってくれないんです(笑)。でも、それがいいの。
自分から「歳だから」なんて言って年齢のせいにしていたら、少なくとも光はないわよね。
恐らくこれを読んでいるほとんどの方が私より年下。私から見れば、人生これからっていう人たちばっかりよ。私は、自分があと何年生きられるかなんて見当もつかないけれど、出来る限りはこれからもずっと物語りを書き続けていくつもり。
死ぬタイミングだけは誰も思い通りにできないんだから、せめて生きているうちは自分の思い通りに生きなくちゃ。
とてもシンプルだけど、結局のところ、それこそが私にとって幸せな生き方というものなのかもしれないわね。
〈取材・文=横川良明/撮影=赤松洋太〉
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