ビジネスパーソンインタビュー

辺野古への基地移設に「反対」の市民が6割なのに、なぜ「容認派」の市長が当選したの?

ポイントは名護市の経済状況!?

辺野古への基地移設に「反対」の市民が6割なのに、なぜ「容認派」の市長が当選したの?

新R25編集部

2018/02/22

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2018年2月4日に投開票がおこなわれた名護市長選挙。普天間飛行場の辺野古移設反対を掲げ、2期8年を務めた稲嶺進(いなみね・すすむ)氏が敗れ、(事実上の)移設容認派といわれる新人・渡具知武豊(とぐち・たけとよ)氏が当選した。

しかし、選挙当日の出口調査では、6割以上が「反対」。…なぜ逆の結果になってるの?

よくわからないので、2013年から2014年にかけて沖縄県副知事を務めた琉球大学名誉教授の高良倉吉(たから・くらよし)氏に聞いてみた!

【おさらい】「辺野古」「普天間」ってどこ? 何でモメてるんだっけ?

編集部作成

「辺野古」は、名護市にある土地。90年代から、宜野湾市にある「普天間飛行場」をそこに移設する案が浮上中…。

→2009年、鳩山由紀夫氏が「普天間基地の国外移設」「最低でも県外移設」を掲げ、総理大臣に。

→アメリカに押し切られ、やはり「辺野古周辺」に移設すと発表。

→国と沖縄県、名護市が移設工事をめぐって大モメに…。

変わらず"移設反対"の気持ちがありつつも、「街をよくしてほしい」という思いも…

編集部N

高良先生、本日はよろしくお願いします。

今回の名護市長選挙は、どうしてこのような結果になったのでしょうか?

高良先生

まず理解してほしいのは、「基地は地域経済に一定の影響をおよぼす」という考えがあることです。

編集部N

基地で働く人や近隣の繁華街、それに交付金などですね。

高良先生

そうです。沖縄の基地問題は、そういった経済的なメリットと、事故や米兵による犯罪などのデメリットが存在すると考えてください。

稲嶺前名護市長は市長を8年間、翁長(おなが)沖縄県知事は知事を4年務めましたが、両者とも「あらゆる権限を行使して辺野古埋め立て工事、移設を阻止してみせる」と言ってきました。

編集部N

つまり、デメリットを重く見て、やはり基地はないほうがいいという主張が支持されていたんですね。

高良先生

稲嶺前市長の2期目までは、まだ"阻止できる可能性"を多くの市民が感じていて、それに懸けた人が多かった。

だけど、そこから4年経って、国の主導によって工事は着々と進んでいるし、名護市の経済は活気を失っている…。その現実を認めなければならないという思いを持った市民も多かったのではないでしょうか。

編集部N

移設に反対ばかりしていても苦しい。であれば、生活がよりよくなるほうが…ということですね。

でも、出口調査で「基地移設反対」が多かったというのはどういうことですか?

高良先生

「移設には反対」という気持ちの市民が多いということは紛れもない事実でしょう。

今回当選した渡具知氏もおっしゃっていましたが、市民の感情はYESかNOかでは決められない複雑なものだと思います。

編集部N

では、以前と比べたら「基地移設容認」派の市民が増えたということなんでしょうか?

編集部N

渡具知氏に投票したからといって「基地移設容認」派というわけではありません。渡具知氏自身、移設問題については賛成とも反対とも明確に示してはいないわけですから。

市民としては、やんわりと"反対"の気持ちを持ちながらも、最後は街をよくしてほしいという思いが勝った…というのが実情ではないでしょうか。

編集部N

渡具知氏は、どう「街をよくする」と言っているんですか?

高良先生

「学校給食費、高校生までの医療費無償化」や、「名護湾のロングビーチリゾート形成」などを掲げています。

基地問題にフォーカスするのでなく、"市民目線"で課題に取り組もうとしている印象を受けますね。

沖縄は観光客が増えてるらしいけど…そんなに名護市の経済はよくないの?

編集部N

最近、沖縄での軍用機事故などのニュースを多く目にします…。そんなデメリットもあるのに、基地を容認したくなるほど、名護市の地域経済はよくないんですか?

高良先生

私は経済の専門家ではありませんが、平成28年度末の市債(市の借金)は350億円で、増え続けている状況です。

また、名護市のなかでも地域内格差があって、辺野古のある東側は、市街地のある西側に比べて"取り残されている"という思いが強いんです。

編集部N

沖縄自体、観光客の数が増えていて「ハワイを超えた」ともいわれているようですけど、それでもダメなんでしょうか?

高良先生

沖縄全体の数字としてはそうですが、名護市は目立ったリゾートも少なく、素通りされているんです。沖縄観光が元気なのに、名護には効果がおよんでいないことを市民も実感しているんでしょう。

長い間名護をキャンプ地としていた北海道日本ハムファイターズが、「球場整備の遅れ」を理由にキャンプ地を海外に変えてしまったことも大きいですね。そうした観光客を誘致する要素のロスなども、閉塞感に影響しているようです。

「期日前投票」と「当日の出口調査」でも結果が違う! 原因は世代間の意識の差?

期日前投票の出口調査では、若年層から現役の勤労世代までの6割が渡具知氏に投票したという報告が出て、ネットでも話題になった。

一方で"選挙当日"の出口調査では、「55.3%が稲嶺氏、44.7%が渡具知氏に投票」という報告も。なんでこんなに逆の結果になるの?

調査をおこなった『沖縄タイムス』の西江昭吾(にしえ・しょうご)氏に話を聞くと…。

「はっきりとは言えませんが、一般的に期日前投票は若者や、現役で働いている世代が多いので、そういった世代は、経済的な恩恵がありそうな渡具知氏に多く投票したのかもしれません」

「また、出口調査とは、その名の通り投票場の出口で投票先を聞くものですが、今回取材した記者からは『答えてもらえなかった』という声が多かったです。実際には渡具知氏に投票したにもかかわらず、名護の住民として『(事実上の)移設容認派に入れた』とは言いにくかったのかもしれません」

なるほど。ここにも複雑な住民感情が隠されているようだ。

今秋は沖縄県知事選! 「辺野古移設阻止」を掲げる翁長知事はどうなる?

2018年11月には「沖縄県知事選」がある。現職の翁長雄志(おなが・たけし)知事は、稲嶺前名護市長と同じく「辺野古移設阻止」を掲げて政府と対峙してきたが、どうなるのだろう…? 同じく、『沖縄タイムス』の西江氏に聞いた。

「県庁のなかでは、翁長知事は出馬しないのではという声もあります。いくら翁長知事が『民意は生きている』と主張したとしても、今回の市長選で示された"名護市の民意の変化"を見れば、支持が得られない可能性は高いからです」

「辺野古への移設工事はすでに始まっていますが、政府と沖縄県が裁判で正当性を争っている状態。3月には裁判の結果が出て、そのまま夏になれば辺野古の海を埋め立てる『土砂』が投入される予定です。そこまで工事が進めば、沖縄に"あきらめ"の空気が広がるでしょう。そうすると、翁長氏の出馬可能性はさらに低くなると言えます」

編集部N

つまり、3月に結果が出る裁判が、大きなカギを握るということか…。先生は、この沖縄の現状をどうとらえていますか?

高良先生

今の日本の安全保障は、「日米安保体制」が前提とされています。それに基づいて米軍基地が設置されているわけですが、沖縄だけに集中しすぎている。

本来は、日本国民全体に必要な安全保障のための同盟なのに、沖縄だけがこの議論をしているのはおかしいと思いますね。名護市や沖縄県だけではなく国民的な課題として議論していくべきです。

辺野古への基地移設は反対、でも停滞する地域経済をよくしてほしい…複雑な市民感情が浮き彫りとなった今回の名護市長選挙。11月に控えた沖縄県知事選はどうなるんだろうか。

高良先生が「国全体で議論してほしい」と言うように、ボクらにとっても他人事じゃない問題だということは意識したい。

取材協力

高良倉吉

琉球大学名誉教授(文学博士・琉球史)

沖縄県伊是名島生まれ。琉球史、特に琉球王国の内部構造、対外関係をテーマに研究し、NHK大河ドラマ『琉球の風』(1993年放送)の監修やNHK時代劇『テンペスト』(2011年放送)の時代考証を手がける。仲井眞弘多(なかいま・ひろかず)県政のもと、2013年から2014年まで沖縄県副知事を務めた。

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