ビジネスパーソンインタビュー
大喜利対決もしてもらいました!
あと“半歩”面白くするアイデアを。『ねほりんぱほりん』Pが語る「企画脳」をつくる秘訣
新R25編集部
R25世代のみなさん、Eテレの『ねほりんぱほりん』という番組をご存じでしょうか? 「元薬物中毒者」「ネトゲ廃人」「元国会議員秘書」など、顔出しNGな訳ありゲストの暴露トークが人形劇で楽しめるという画期的なバラエティです。
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『ねほりんぱほりん』は3月にシーズン2が終了(「また帰ってくるかも?」とのこと)
放送時はツイッターで「NHKが攻めすぎててヤバイ」「ゲスい話を丁寧に作りこむのが公共放送クオリティなのか(困惑)」といったツイートが流れており、実際に僕も「NHKってお堅いイメージがあったのに、こんな面白い番組やってたのか!」と驚きました。
知り合いの放送作家にその話をしたところ、
「NHKは文化・教養を継承していくという大テーマがあり、それを伝えるためにめちゃくちゃ企画を工夫してる。だから、
企画力に優れたプロデューサーが多い
んだよね」
とのこと。僕らビジネスマンにとっても、何かと必要となる「企画力」。ぜひ話を聞いてみたい…!
※聞き手:福田啄也(新R25編集部)
スタンスは“NHKのぜい肉”!? 欠かせないものじゃないからこそ、自由度がある
というわけで、『ねほりんぱほりん』プロデューサーの大古滋久(おおこしげひさ)さんに話を聞きにきました。
編集部・福田
Eテレの「企画力」について話を聞きたいです! 今日はよろしくお願いいたします。
大古さん
お役に立てるかどうか。お願いします。
編集部・福田
『ねほりんぱほりん』はかなり攻めていた印象でしたが、NHK的に大丈夫だったんですか?
大古さん
Eテレの番組制作というのは、“知る”ということが大事なんです。あれは「人間っておもしろい」っていう学びになりますので。
編集部・福田
まさしく『ねほりんぱほりん』は、「人間」を知るというテーマですね。
でも、登場人物が全部人形で、テーマも「腐女子」とか「薬物中毒」とかヤバイのばっかりじゃないですか。Eテレのイメージと全然合わないんですけど…
大古さん
その自由度がEテレのよさなんです。
僕はNHK入局後は広島放送局のディレクターだったんですが、その後、異動したのは東京のファミリー番組部(今の青少年教育番組部)でした。それは、当時の先輩の「ファミリー番組部はNHKの“ぜい肉”だ」という言葉に惹かれたからなんですよ。
編集部・福田
“ぜい肉”? どういうことですか?
大古さん
NHKの番組で、ニュースや朝ドラや紅白歌合戦は欠かせないじゃないですか。
それに比べて、ファミリー番組は絶対に必要なわけじゃない。「だから“ぜい肉”みたいなものなんだ」と先輩に言われたんです。
「でも、ぜい肉が生き生きしているNHKっていいだろ? だから来いよ」って誘われたんですよ。僕はそれを聞いて「なんでもできるってことか!」って思って異動希望を出しました。
そのファミリー番組部が青少年教育番組部になって、僕もEテレに多く関わることになっていったんです。自由度もより広がったように思います。
編集部・福田
いいエピソード。“ぜい肉”を許容できるっていい会社ですね…
企画力に長けたEテレのプロデューサーは、大喜利も得意なのか!?
編集部・福田
…いきなりですが、私と大喜利で勝負してくださいませんか?
大古さん
は?
編集部・福田
「企画力」に優れているなら大喜利も得意なのかなって思いまして…。こう見えて私は中学から高校まで、ラジオのハガキ職人だったんです。
大古さん
分かりました。受けて立ちましょう。
編集部・福田
それでは森さん(カメラマン)、問題をお願いします。
カメラマン・森さん
えっ、僕ですか? 急だな…
じゃあそうですね、NHKっぽく「こんな速報はいらない。いったいどんなニュース?」っていうのはどうです?
編集部・福田
それで行きましょう。
こんなふざけた企画に、真剣に取り組んでいただきました
~2分後~
カメラマン・森さん
では、回答をお願いします。
当時のラジオネームは茨城県・ぽん酢
「ブラジルで今朝、雨が降りました」
カメラマン・森さん
自分から勝負を持ちかけたとは思えないほど普通。
編集部・福田
(赤面)…大古さんはどうですか?
大古さん
いきますよ。
「10時をお知らせします(時報10回ピンポン)」
編集部・福田
なるほど、時報をテレビの速報でお知らせされても! という。ベタではありますが…
大古さん
(さえぎって)まだまだ行きます。
編集部・福田
ん?
「おかあさんといっしょ 今始まりましたよ〜」
「おかあさんといっしょ 30分後に終わります」
「これは? これは?」と言いながらどんどんフリップを出してくる大古さん。怒涛の「おかあさんといっしょ」攻めだ。
編集部・福田
解答数多くないですか!? なんだこのスピード感?
…気を取り直して、2問目お願いします。
カメラマン・森さん
じゃあこれはどうでしょう?
「25歳男性の視聴率が50%を超えた番組、どんな内容だった?」
やばい、全然思いつかない…
~2分後~
編集部・福田
これでどやあ!
「25歳限定、最後まで見たら金塊!」
カメラマン・森さん
すんごい強引な企画。率直に苦しい。
編集部・福田
ちなみに、6年間で採用ネタ数は2本でした。
大古さん
僕のほうはこんな感じです。ありえない番組でもいいんですよね?
「平成5年生まれの男があぶない!?」
大古さん
テーマは健康、お金、厄年などで、危機感をあおる内容にします。
でも、これじゃ50%は無理だから、いっそのこと…
「まさか!こんなことが!! 視聴率計 爆発!!」
大古さん
視聴率計がある家の人はびっくりしてテレビを付けるでしょう。
視聴率は極論をいえば視聴率計のある家の人が見たかどうかで決まるので、これで100%いけます!
編集部・福田
そんなのありかよ!「天下のNHK」の発想じゃない!
「ドラマ 視聴率計 殺人事件」
大古さん
ちょっとやわらげてドラマにしてみました。
編集部・福田
どういうドラマ? しかしよくそんなにポンポン浮かびますね…!
…で森さん、勝負はどっちの勝ちだと思いますか?
カメラマン・森さん
大古さんの圧勝だね。回答数の多さに圧倒されてるわ。
編集部・福田
ホントそうですね…
2分で3つ答えを考えるということは、数十秒にひとつアイデアが出てるってことだもんな。どういう頭の回転してるんだ?
趣味の時間でも、常に企画のアイデアを考える訓練をしておく
編集部・福田
大古さんのアイデアの源はどこにあるんですか?
大古さん
僕はスポーツ新聞から番組のアイデアを練ることが多いですね。
編集部・福田
それは、時事ネタからヒントを得るってことです?
大古さん
いや、見出しのワードから企画に発展できないか考える訓練をするんです。スポーツ新聞の見出しってキャッチ―じゃないですか。
それに「テレビ」「番組」とかをつなげて考えてみるんです。
編集部・福田
?
大古さん
例えばね…
この日のスポニチの一面はテニスの大坂なおみさんでした
大古さん
「爆笑!! 爆勝!! 爆裂天然女王」ってあるでしょ。それをもとにテレビの企画を考える。
「爆笑テレビ」は分かるけど、勝つほうの「爆勝テレビ」ってなんだろう? めちゃくちゃ勝つ場面を見せつけるとか、勝つことを目的にした番組。
じゃあ次は何に勝つ番組にするか…って考えていくんです。
編集部・福田
なるほど。スポーツ紙の見出しから無理やり番組のテーマを生み出して考えるってことか!
大古さん
そういうことです。ほかにはね…
大古さん
「ハリルに反抗!強気!」って見出しがあるでしょ。これなら「反抗強気テレビ」ってどんな内容だろうって考えるんです。
編集部・福田
アナーキーな仕上がりになりそうですね。
大古さん
あとは、そうだな…
大古さん
相撲の記事に「付き人」というワードが…。「付き人テレビ」とかどうだろう?
誰かの付き人を徹底的にやってみる番組になるのかな? スポーツ選手や俳優、落語家でもいいね。
付き人を通して主役を見つめることで、舞台裏はもちろん、本当の苦労などが見えてくるんじゃないかな?ほら、番組っぽい。
編集部・福田
すごい、設定が湯水のごとく出てくる。
ちなみに、なんでスポーツ新聞なんですか? 雑誌でもよさそうなのに。
大古さん
それはただの趣味です。
編集部・福田
深読みしすぎました。
大古さんは気分転換にスポーツ新聞を読むのが趣味だそうです
大古さん
たとえ趣味で新聞を読んでいるだけのときでも、常に考える癖をつけておくんです。それがストックされて、気が付くと企画のヒントになってるんですよ。
僕の場合は「○○テレビ」って何かにつけて考えるようにしていますが、編集者、営業マンなど、それぞれの職種に当てはめてもできる訓練だと思います。
企画ができたら、あと“半歩”だけ面白くするアイデアを出しつづける
大古さん
あと、企画のベースができたら、そこから「あと“半歩”何かできないかな」と考えることも大切。
『ねほりんぱほりん』だったら、最初に山ちゃん(山里亮太さん)とYOUさんのトークを音だけで収録しています。
そこから編集や人形演出を加えていくんですが、その過程で小道具を用意したり、効果音を工夫してみたり、テロップで遊んでみたりと“半歩”ずつ面白さを考えていくんです。
編集部・福田
半歩だけ…ですか。なぜ一歩ではなくて“半歩”なんですか?
大古さん
一歩変わるような面白いアイデアはなかなか出ないから、それを考えようとすると疲れちゃうんですよね。
ちょっと乗っけるくらいの気持ちでいいんです。それだとプレッシャーなくアイデアがどんどん出るんですよ。半歩だったら、くだらなくてもいいですよね。
そんなくだらないアイデアこそ、視聴者に「面白い!」と思ってもらえる可能性があります。
大古さん
たとえば『ねほりんぱほりん』の「腐女子(ふじょし)」の回では、つなぎの場面で「富士吉田市→ふじょしだし」っていうダジャレを入れるために、わざわざディレクターは山梨県の富士吉田市の看板を撮りにいったんです。
編集部・福田
一瞬しか映らないただのダジャレのために!?
大古さん
それが「あと半歩足す」ってことだと思うんです。
編集部・福田
なるほど、その半歩の積み上げが、『ねほりんぱほりん』の面白さの秘訣だったんですね。確かに「秀逸な小ネタが満載」ってイメージあったもんなあ…
今日は勉強になるお話を聞かせていただき、ありがとうございました!
大古さんによると、企画力に欠かせないのは、常に企画のヒントを探しつづける姿勢。自分だったら、家でYouTubeを見たり漫画を読んだりしているときに発想する癖をつければいいのかも。さっそく今日から試してみます!
〈取材・文=福田啄也(新R25編集部)/撮影=森カズシゲ〉
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