ビジネスパーソンインタビュー
「遠い世界のことだから批判する」
F1でも話題の「レースクイーン廃止」どう思う? 現役レースクイーンたちが語った本音
新R25編集部
モータースポーツの最高峰、「F1」。そのF1が先日、「グリッドガール(※)」を廃止すると発表した。
※サーキットでドライバーの名前や番号が書かれたボードを持つ女性。日本でいうレースクイーンのような存在
これを受けて「レースクイーンは女性を売り物にしている時代に合わない存在」「日本でもレースクイーンを廃止すべき」「いや、女性の仕事を奪うべきじゃない」とネット上では大激論。
しかし、「車離れ」だなんだと言われているR25世代にとって、モータースポーツやレースクイーンって、正直かなり縁遠い存在…。
そんなレースクイーンの仕事内容とはどんなものなのか? 本人たちは「廃止論」をどう思っているのか?3人のレースクイーンを招いて座談会を決行。その実態を教えてもらいました。
※聞き手:天野俊吉(新R25編集部)
レースクイーンって、どういう人がやってるの?
――皆さんは、どういう経緯でレースクイーンになったんですか?
Aさん(30歳)
私はもともとファッション系のモデルをやってて、ある時サーキットに行く機会があって、「超楽しい!」みたいな。それでレースクイーンに応募して、始めてもう5年目ですね。
Bさん(29歳)
私はもともと芸能の仕事に興味があって。身長が割と高いので、レースクイーンになれば武器になるなと思って…。今4年目です。
Cさん(24歳)
私は菜々緒さん(元レースクイーン)に憧れて、大学入学と同時に始めました(笑)。今2年目です。
――まわりのレースクイーンの方も、大体そんな感じですか?
Bさん
芸能界に行きたくて、そのためのステップとして…というコもいますね。グラビアをやりながらみたいな。
でもそういうコは1年ぐらいで辞めちゃうんです。両方やってても「グラビアアイドルです」としか言わない。
レースクイーンは「チームの一員」という意識
代表撮影/ロイター/アフロ
鈴鹿サーキットで行われる「F1日本グランプリ」の様子
――今回の騒動を受けて、どうですか? 女性が露出度の高い衣装を着て“お飾り”的に扱われているという意見が多いようですが…。
Bさん
露出…そうですね。個人的な意見をいえば、たとえば最近のモーターショーとかの衣装は、スーツみたい(露出度が低い)でテンション上がらないです。
――水着みたいな衣装を、半ばムリに着させられるようなことはないんですか?
Aさん
いや、前年度のそのレースの衣装がかわいい! と思ってオーディションを受けてるので。そこは誰かに強制されるものじゃないですね。
――“好きでやっている”ということですか?
Aさん
簡単にいえばそうです。チームスポーツなので、私は「レースチームの一員」という意識でやっています。
Bさん
レーサー含め、チームの先輩がいろいろサポートしてくれるんですよ。例えば「笑顔の作り方」も教わりましたし、「ノックの仕方」みたいな、それこそ会社の新人研修みたいなことも…。
レースクイーンって派手な印象だと思いますけど、普通の会社と同じように、チームの一員っていう感じで働いてますね。
1レースの平均給料は1万5000円程度。安いとゼロのことも!?
――給料はどういうシステムなんですか?
Cさん
レースのスポンサーから事務所にお金が入って、そこから4割ぐらい抜かれて、私たちに来ます。だいたい1レース1万5000円ぐらい。交通費、旅費は別途支給されます。
――高い・安いの幅もあるんですか?
Cさん
1レースにつき、安くてゼロ、高くて4万円って感じですかね。
――ゼロって…なんでタダでやるんですか?
Cさん
需要と供給のバランスがおかしくて、タダでもレースクイーンをやりたい女の子のほうが多いんです。“タダだけどやりたいなら(サーキットに)立っていいよ”みたいな。
――それ、やる女性側にはどんなメリットが…?
Aさん
レースクイーンっていう肩書きがほしいんですよ。それでDVD出したいとか、撮影会するとか、パチンコ屋さんの営業につなげるとか…。
レースクイーンには年間の売上ノルマがある
Aさん
あと、所属する事務所によってはノルマがありますね。
――ノルマ?
Aさん
旅費とか交通費とかを事務所が出してくれるかわりに、撮影会やチェキ販売などで当然売上を立てないといけなくて。基本的に1年契約なんですけど、年間でいくら稼げっていうノルマがあります。
――営業みたいですね…。
Aさん
ギャラがいいレースに呼ばれないと、そのノルマが結構しんどくて、それで辞めたがるコもいるんですけど、契約があるから辞められないとか…それで弁護士が介入したみたいな話も結構聞きますね。
Cさん
ひどい事務所だと、レースへの行きも帰りも1人で行かされるんです。サーキットって山奥にあるんですけど、そこまでバスで1人で。
レース中は座っちゃいけないって言われるところもあるみたいです。すごい高いヒール履いてるのに。
――かわいそう…。
「夜、スポンサーが部屋に来たこともある」
Cさん
あとは、夜は絶対スポンサーを接待しなきゃいけないとか。24時ぐらいまで接待して、翌朝は5時起き。でもマネージャーには「ちゃんとかわいくしといてね」って言われることも…。
Bさん
そういうところにいっちゃうコは、大体疲弊して辞めちゃいますね。
Aさん
私も1回そういうのありました。泊まりで地方のレースに行って、最初は交通費もホテル代も出るっていう話だったのに、結局立て替えたまま払ってもらえなくて…。
――ヒドイですね。どういうことですか?
Aさん
聞いたところによると、そのレースのスポンサーさんが私にいやらしい意味で興味があったみたいで(笑)。
結局何もされなかったんですけど、お金は払ってもらえずにうやむやにされてます。
――話の流れが危ういですね。スポンサーっていうのはどういう会社なんですか?
Aさん
いろいろですよ。車の部品会社だったり、スポーツウェアの会社だったり、パチンコメーカーだったり…。歯医者さん、整体師とかの場合もあります。
そして、まさかの…
Cさん
ぶっちゃけ、スポンサーが夜に私の部屋にノックしに来る…みたいなこともありました。
――うわー、出た!それは完全にアカンでしょう。
Bさん
私はそこまではないですね。
Cさん
女の子によって、隙があるコは狙われるって感じです。まともなコにはまともなチームから声がかかるし、そうじゃないコにはヤバいチームから声がかかるみたいな…。
でも必ずしもまともだから売れるってわけでもなく…いい意味でも悪い意味でも、ズル賢いコが生き残るなと思ってます。
――うーむ…。
「自分が住んでいる世界と遠いから、“すぐ正せる”と思って批判する人が多い」
――日本でレースクイーンが廃止されたらどうしますか?
Bさん
結婚して引退する(笑)。
Aさん
(笑)
Bさん
まあそれは冗談ですけど、今レースクイーン(グリッドガール)を廃止しようと言ってる人って、多分、レースクイーンじゃない人じゃないですか。自分の住んでる世界から遠いからそういうことを言うんだと思うんですね。
――そうですね。
Bさん
自分から遠いから、「すぐ正せる」と思って批判しているのかもしれないけど、たとえばレースチームの人たちとか、衣装を作ってる人たちも、影響を受けちゃうわけですよね。
――“時代の流れだから当然”という声もあるようですが…。
Bさん
でも、そこを攻撃したら、結局自分の首を絞めると思うんですよ。
女性に噛み付くのは大抵女性なんですけど、「女性が飾りだ」みたいな仕事を攻撃していったら、まわりまわって、結局女性が社会に進出しづらくなると思います。
――今日のお話を聞いていると、かなり玉石混交で、ひどいチームやスポンサーもあるみたいじゃないですか。それでもやりたいものなんですか?
Aさん
うーん、でもそれは一般の会社でも同じじゃないですか?
Cさん
少なくとも私たちは、仕事をしたくないチームは避けて、やりたいものを選んでます。純粋に頑張ってるコも多いんですよ。
…というわけで、当事者のリアルな本音を聞くことができた座談会となりました。スポンサーから“狙われる”というエピソードは、やはりどう考えても普通じゃない。
しかし「添え物」「お飾りの女性」という見方に関しては、当の本人たちは明確に「NO」と否定します。そういった意味で、「時代に合わない」という批判とは少し違った側面が見えたような気がします。
個人的には、今回語ってくれた3人のレースクイーンには、今後も彼女たちの希望通り、サーキットで輝いてほしいと思っております!
〈取材・文=天野俊吉(新R25編集部)〉 ※見出し画像:ロイター/アフロ
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