ビジネスパーソンインタビュー
「一番しんどかった」活動停止を振り返る
「苦しいなんて誰にも言えなかった」亀田興毅が語る“踏み込まない勇気”の大切さ
新R25編集部
各業界の第一線で活躍するあの人にも、乗り越えられなかった“失敗”や、いまだに引きずっている“挫折”がある。本連載では、そんなR25世代が憧れる先輩たちの知られざる過去をフカボリする。
今回インタビューしたのは、元プロボクサーの亀田興毅。2017年5月には、AbemaTVで『亀田興毅に勝ったら1000万円』という特別番組が放送され、大きな話題となった。そのスピンオフ企画『亀田×ジョー プロボクサーへの道~3ヶ月でデビュー戦~』では、人気YouTuberのジョーを指導し、彼のプロテスト合格を支援している。
ジョーは9月1日にテストを受験したが、結果は残念ながら不合格。取材は最悪のタイミングで行われた…。
選手が結果を出せないのはトレーナーの責任。テレビ側の意向にOKを出してしまった後悔もある
――残念な結果に終わってしまいましたね…。
「うーん…、教えるのって難しい。結果がすべてですから。選手が結果出せないのは、ちゃんと教えられてないってこと。トレーナーの責任です」
“自分の責任”を強調する亀田。だが、それとはまた違った「後悔」もあるという。
「正直、時間もなかったんですよ。練習を始めて2カ月ですから。ホンマは9月末にプロテストを受けるっていうはずだったのが、TV側の意向で9月頭になった。3カ月しっかり練習して、最後の1カ月はスパーリングをパーン!とやって、それでテストだと思ってたわけですから。ちょっと無理があった。実戦練習が足りなかったんですよ。でも結局、『GO』を出したのは自分ですからね。そこは後悔してます」
失敗するときは、失敗の予感がある。「やめとこう」と言える感覚を磨くべき
「勘ってあるんですよ。今回も『うーん…』とは思ってたけど、止められなかった。『やめとこう』って言えるか言えないかも、人間のセンス。見極めが大事なんです」
これまでのボクシング人生でも、嫌な勘が働いたことは何度もあったという。
「しっくりこないときはたいがいダメ。負けるときは大体そうですよね。ポンサクレック(2010年に初黒星を喫した対戦相手。WBC世界フライ級王座から陥落することになる)のときなんか、完全にそう。やっぱり流れがおかしかった」
――R25世代のために、“しっくりこない”というのがどういう感覚なのか教えてください!
「どういう感覚かは、なかなか口じゃ説明できないけど(笑)。でも、みんなそういう感覚あるんじゃないですか。というか、それを磨いていかないとアカンと思う。この先の人生のなかで、『あの失敗したときとよう似てる感覚やな』っていうときが出てくるから、ちょっとずつ、毎日勘を磨いていかないと。ボクシングも人生も同じ。いざというときに踏み込むか、踏み込まんか…。勘が冴えてる人間は適切な状況判断ができる。それができるようになるために、日々実戦訓練ですよ」
ライセンス停止の非常事態…「もうちょいでイケるはず」引き際が分からず毎月赤字に
亀田の苦難の歴史として記憶にも新しいのが、2014年、所属する「亀田ジム」の会長とマネージャーのライセンスが更新されず、活動停止に追い込まれた事件。
亀田が「これまでで一番しんどかった」と挙げたのは、この一件だった。
「亀田ジムが新しくオープンしたタイミングでライセンスが停止されて、日本じゃ活動できなくなってしまった。2年でたった2試合しかできなかったんですよ。それで何がしんどいって、やっぱりお金ですね。お金ってめちゃくちゃ大事じゃないですか。毎月赤字が続いてましたから」
ライセンスを停止されたものの、ジムとしての経費は当然ながらかかりつづける。
「もっと早くジムをたたんでればよかったと思うでしょ。でも、ジムだってお金かけてつくってるし、思い入れもありますからね。『もうすぐライセンスが戻るかもわからん』なんて話もちょいちょいあったりして、当時は『もうちょっとしたらイケるんや…』っていうのが、どっかで頭の中にあったんですよ」
「これはビジネスでも同じ。人間ってそうなんですよ。始めるときは熱い思いを込めて、『絶対成功する!』と思って始めるんですけど、なかなかうまくはいかない。そこで引き際が分からなくなってしまう」
勉強不足、学習不足、世間知らず。「苦しい」なんて誰にも言えなかった
「海外で道を探して2試合しましたけど、でも結局は赤字。スタッフの飛行機代とか経費だけで全部吹き飛んでしまうようなファイトマネーでしょ。もうまったく前が見えない。長いトンネルに迷い込んでしまって真っ暗…って感じでしたね」
結局亀田ジムは一旦営業を停止し、2016年10月からは、自身がデビュー時に所属していた協栄ジムに三男の和毅が所属することに。同ジムとはファイトマネーをめぐって裁判沙汰になっていた過去があるが、長い時間を経て和解が成立。ふたたび日本ボクシング界で“三兄弟”が活動できるようになったのだ。
「ようやくうっすらと光が見えてきましたね。今はその光に向かって猛ダッシュしてる状態ですよ。今だから言えますけど、あの当時は『苦しい』なんて誰にも言えなかった。マスコミには『亀田興毅』って名前が常に出てて、どう見られるかだけはやたら気になって。知らん間に背伸びをしてましたね」
――強い自分を見せようと無理をしていたんですか?
「そうそう。有名になると、見栄を張ってしまう。勉強不足、学習不足、そして世間知らずだったからね…。子どもすぎたよね」
「もっと現役できてた。5階級制覇だって」後悔はあるけど、いまはボクシング界に貢献したい
今後の活動のテーマを聞いてみると、“ボクシング界への貢献”だという。
「ボクシングっていう業界自体の認知を高めたいと思ってますね。世界戦はテレビで放送されるけど、たとえば4回戦の選手とか、まったく知られてないじゃないですか。その差がありすぎる」
――亀田さんが現役のころは、かなり注目が集まっていたじゃないですか?
「いや、結局自分たちが注目されてるだけだったんですよ。たとえば、野球好きな人はベースボール自体にも、いろんな選手にもみんな興味を持ってるじゃないですか。サッカーもそうでしょ? ボクシングの場合、たとえば内山さん(内山高志。元WBA世界スーパーフェザー級スーパー王者)モデルのグローブとか、亀田モデルのグローブが出たら飛ぶように売れるか? 残念ながら売れないですよね。ただ、まだまだボクシングは進化する。改善すべきところが多すぎるからね」
最後に、亀田はこう話した。
「まだまだ現役できてたな…といまだに思ったりする時もある。『ちゃんと練習さえしていたら、もっと成績残せたんかな』とか。正直、5階級制覇だってできた自信はありますよ。でも、いまさら何を言っても時間のムダ。だからこれからの子どもたちには、後悔のないボクシング人生を送ってほしい。彼らが、ボクシング以外の余計なことを考えなくてもいい環境が作れたらと思います」
<取材・文=天野俊吉/撮影=森カズシゲ>
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