ビジネスパーソンインタビュー

本人にモノ申す。ホリエモンの『多動力』って売れてるけど極論じゃない?

「大事な会議でスマホをいじる勇気をもて」って…

本人にモノ申す。ホリエモンの『多動力』って売れてるけど極論じゃない?

新R25編集部

2017/09/19

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日本一R25世代の気持ちに寄り添うメディアになることを目指している新R25が、世の中にはびこる「極論」を撲滅していこうという本企画。

非現実的な極論を掲げる人たちに編集長の渡辺が対談を申し込み、最後にはその主張を訂正させる。そんな胸のすくような戦いをお見せしたいと思います。

今回のターゲットは、今年5月に刊行して異例のヒットとなっている堀江貴文著『多動力』

自分も買って読んでみたのですが、たしかに相変わらず僕たちの固定概念を壊してくれるエッジの効いた主張は面白い。

ただし、です。

他人の目を気にしすぎて、「自分の時間」を生きていない人が多い。

僕は打ち合わせ中も、終始スマホをいじっている。

「上司が話しているときは目を見て聞け」とか「会議中にはスマホをしまえ」と言われても、屈してはいけない。それでクビにされるような会社だったら早く辞めたほうがいい。

大勢のスタッフが集まる大事な会議で、あえてスマホをいじる勇気をもってほしい。

『多動力』より

まさに極論。これ読んで、「よし、やってみよう!」ってなりますかね?

ということで、さっそく堀江さんにディベートを申し込みました。

〜 数日後 @都内某所 〜

渡辺突然のお願いにも関わらず、予定を調整していただきありがとうございます。

『多動力』についてちょっと思うところがあり、今日はいろいろと質問をさせていただきたいと思っております。よろしくお願いします。

堀江:はい。 

渡辺:いきなりめっちゃスマホ触ってる。自分の時間を生きている)

「経費精算を自分でやるサラリーマンは出世しない」

渡辺:まずはじめに、ここについて聞きたいです。

普通の会社員に「経費精算を自分でやるな」というのもまた極論ですが、家事にしてもやっぱり「お金持ちじゃないとアウトソースできないのでは?」と思うんですよね。

堀江:それはね、今の時代だと言い訳。昔はそういう(アウトソーシング)サービスがほとんどなかったし、高かった。今だと1時間2000円くらいで依頼できるでしょ。

渡辺:それでも安くないと感じる人もたくさんいると思いますが…。

堀江:本にも書いたけど、自分の時間単価がそれより低いのはヤバイと思うよ。まずはそれを引き上げないと。

渡辺:ぐっ…。ちなみに、堀江さんは服選びまでアウトソーシングしてると言ってましたが、それもお金を払ってお願いしてるんですか?

堀江:いや、払ってない。服が好きなヤツ何人かに「ヒマな時間に選んどいてよ」って頼んでおいて、たまにメシおごったりするくらい。

自分のまわりにもいるでしょ? 服好きでヒマなヤツ。

渡辺:失礼ですし、いませんよ。あと、いてもそんなこと頼めません。

堀江:俺、スティーブ・ジョブズとかマーク・ザッカーバーグみたいにはなりたくないんだよね。

自分が出したいメッセージはあるので、そのためにある種の“メディア”である服はうまく利用したい。ただ、服を探すのはめんどくさい。

だから、そうやって服選びも仕組み化して、送られてくるリストから好きなものをポチポチ買うだけにしてる。今日の服も全部そう。

渡辺:このメッセージは…“チャレンジャー”的な?)

「電話をかけてくる人間とは仕事をするな」

渡辺:とりあえず次にいきますが、これもヒドイ主張ですよ。

正直、堀江さんのせいでめちゃくちゃ人に電話しづらくなりました。僕のまわりもみんな困ってます。

堀江:いいことじゃん。

渡辺:いや、困りますよ。それに、電話じゃないと難しいというか…ニュアンスが伝わらない仕事もあるじゃないですか。

堀江:ないでしょ。ニュアンスは逆にテキストのほうが伝わるはず。ログも残るから“言った言わない”もないし。自分は指示出しも全部LINEでやってるよ。

渡辺:う〜ん…。僕はふだん編集をやっているのですが、たとえばライターとのコミュニケーションのなかで「もう電話して伝えたい!」みたいに思うこともあるんですよね。

堀江:だったらさぁ、絶妙なニュアンスがわからないヤツと仕事しなきゃいいじゃん。ライターは他にいっぱいいるワケだし、なんでそんなできないヤツと仕事しなきゃいけないの?

渡辺:た、たしかに…。

堀江:俺は最近、雑誌の連載もどんどんやめてるよ。Skypeとかでインタビューできないヤツとは仕事したくない。

渡辺:対面取材申し込んじゃってすみませんでした。

渡辺:あと…この章だとここも引っかかりましたね。

上司に連絡や報告を入れるときに、メールやLINEを使うと怒る人がいるという。「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)は直接電話しろ。だいいち無礼だ」と叱りつける上司や仕事相手とは、付き合うのをやめるか、何度言われても、しぶとくメールやLINEでホウレンソウすればいい。

『多動力』より

渡辺:自分がやっている姿を想像してみたんですが、とんでもない空気になりました。これは無理です。

堀江:そう? そうやって迎合する人がいるから、いつまでたっても不便な世の中が続くんだよ。

そもそも上司って、部下が合理的な主張をしてくると「イヤだな」と思うもの。自分が上司の立場だったときもそうだったから。

理にかなっている主張をしてくるヤツを堂々と切るのは相当勇気がいることなので、しつこくやってれば上司のほうが折れざるを得なくなるはず。

渡辺:でも、超めんどくさい後輩として会社で名を馳せちゃいますよ。

あと、「会社に辞表を出すときだって2行のLINEでいい」ってのもさすがに極論じゃないですか? 2行ですよ! なんて送ればいいんですか?

堀江:一身上の都合で退職させていただきます

渡辺:ザ・テンプレート!!! でも「お世話になった上司には直接伝えるのが筋」とかあるじゃないですか。

堀江:逆にウザいよ。俺が上司なら「辞める話にワザワザ俺の時間取らせんなよ」としか思わない。経験上、どうせ慰留してもみんな結局辞めるんだから。

渡辺:この人は全くもって本気だ…)

「おかしなヤツとは距離を取る」

渡辺:これも行動が極端すぎるというか、ちょっとビックリしたんですが…

新幹線に乗っているときや道を歩いているときに、突然何の前触れもなく話しかけられるのも迷惑だ。僕はそういうとき、不快感を露(あらわ)にする。「失礼なヤツだ」と思われても、知ったことではない。

「堀江さんの本を読んですごく感動しました。ありがとうございます!」と言われても、「だから何?」としか言いようがない。

そんなことは感想文としてアマゾンのレビューやツイッターにでも書いてくれれば済む話だし、わざわざ人の足を止めて伝えるべきことではない。

『多動力』より

渡辺:ひどくないですか!? すごい好意的なファンなのに。

堀江:好意的だとか好意的じゃないとか、どうでもよくない

渡辺:え? どうでもよくないですよ!

堀江:なんで?

渡辺:なんで? なんでだろう!? ちょっとしばらく自分の心に向き合っていいですか?

堀江:Twitterに書いてくれたり755で言ってくれれば、5秒でリツイートしたりお礼返したりできるじゃん。

でも直接話しかけられると、「ありがとうございます!」「握手してください!」「写真撮ってください!」「もう1枚!」とかなるワケよ。いいだろ1枚で!!!

渡辺:話してるだけでどんどんイライラしてきてる…。すごい机叩いてる)

堀江:とにかく自分の時間を“無駄に”奪われるのがイヤなんだよね。だから特に写真撮られるのが大っ嫌い。あのときって何もできないじゃん。刑務所に入ってるみたいな感じで。

その一瞬があれば、俺はNewsPicksのニュースを見たい。いまはスキマ時間をどんどん有効活用できる時代だから、10秒あればそれだけ自分の知的好奇心を満たせる

渡辺:10秒がスキマ時間だなんて、知りませんでした。

堀江:あと冷静に考えてみてほしいんだけど、たとえそこで握手して写真撮っても、その日の夕ご飯とかでネタにして終わりでしょ? 結局、その人にとってもそれくらいで消費される程度のことでしかない。だから、「お前の晩メシのネタのために30秒使う気はないよ」と。ダメ? この考え方。

渡辺:すごい論理的だし納得しかけたけど、やっぱダメだと思います)

堀江:そういえば、昨日も超ウザいヤツいたわ!

『ホリエモン祭り in 香川』ってのをやってたんだけど、ペンも持たずにサインしてくださいって言ってきたヤツがいたのね。サインしてほしいならペンぐらい用意してこいよって思うじゃん。それはどう思う?

渡辺:それはさすがにそう思います。

堀江:でしょ? そのあと別の場所に移動したんだけど、そっちではスタッフにペンを借りてサインしてたのよ。そしたらまたさっきの“サイン野郎”が来て、「堀江さん、ペン持ってるじゃないですかぁ〜!」って言ってきて。

それで俺も一気に「うわぁあああああああ!!!」って頭にきて。「あのさぁ、これ俺がスタッフに借りたペンなんだけど。お前のそのスタンスはなんなの!? 人としてどうなの!?」って詰めまくったよね。

渡辺:自分のイベントに来てくれた人でも容赦ない。机叩きすぎて壊れそう)

「自分の分身に仕事をさせる技術」

渡辺:ちょっと落ち着いていただいて…あとはこの章の「原液をつくれ」のくだり。これもちょっと一般の人にはむずかしくないですかね?

堀江:…なんの話だっけそれ? ちょっと見せて。

渡辺:え、自分の本の内容覚えてないんですか?

堀江:なんで覚えなきゃいけないの?

渡辺:なんでっていうか…読み返したりしないんですか?

堀江:読み返す?なんで自分のアウトプットを自分で反芻(はんすう)する必要があるの

渡辺:いや、読みながら「俺やっぱイイこと言ってるよなぁ」みたいな…。

堀江:気持ち悪いよ。そんなことしてるヒマない。『多動力』も1回校正しただけで、それから1回も読んでないし。

渡辺:え、1回見ただけ!? もしかして僕らが刺激を受けたアノ本たちも!?

堀江:もちろんそう。本は出たら終わりだから。

「知らないことは『恥』ではない」

渡辺:でも堀江さん、この主張に関してはさすがに言動不一致ですよ。

たとえ専門外の領域だとしても、わからないことはどんどん質問してしまえばいい。

「こんな質問をしたらバカだと思われる」と恐れることはない。

『多動力』より

渡辺:だってこんな風に言ってるのに、堀江さん755でユーザーの質問に対してめちゃくちゃ冷たいじゃないですか! こんな雰囲気じゃ気軽に質問できませんよ。

堀江:いや、これは「まず自分で調べたうえで」わからないことがあれば聞けってことだからね。

渡辺:本にはそう書いてないですよ。

堀江:そんなこと当たり前でしょ。

でも、755でもちょっとググったら出てくることしか聞いてこないヤツばっかりだからな。それだったら、「いま恋をしてますか?」みたいな質問のほうがマシ。

渡辺:え、なんでですか? そんなバカバカしい質問アリなんですか?

堀江:バカバカしいかもしれないけど、それは調べても絶対にわかんないでしょ。だからそれを聞くこと自体は悪くない。

渡辺:堀江さんが塩対応する質問とそうじゃない質問の境界線がわからなかったんですが、そういうことだったんですね…。

渡辺:やばい、すごい納得させられている)

「ハワイに別荘なんてもつな」

渡辺:あとこれはちょっと、主張に対するツッコミではないんですが…

僕は自分の持ち家をもっておらず、ホテル生活を送っているくらいだから、別荘を買うことには最初からまったく興味がない。

カネ持ちになると、人は自宅だけでなく軽井沢あたりに別荘を買い、さらにハワイにまでもう1軒別荘を買いたがるようだ。

『多動力』

渡辺:これは完全に藤田(晋)のことですよね?

堀江:え!? 違うよ! あっはっはっは(笑)

渡辺:見たことない笑い方になってます。

堀江:あっはっはっは(笑)。いや、ホントに違うよ。他にもいるでしょ、軽井沢とハワイに別荘持ってる人。

渡辺:そうですかね…。ちなみに、堀江さんは別荘を持ってたことはないんですか?

堀江:ないない。別荘には一瞬たりとも心が動いたことがないね。人の別荘に行くのは好きだけど。

渡辺:いまもホテル暮らしだと言ってましたもんね。

堀江:まぁ、是々非々”で理解できるところと理解できないところがあるってのは自分のスタンスだから。別に特定の誰かの批判はしてないよ。「別荘買うぐらいなら、エアビー(Airbnb)でいいじゃん♪」っていう提案ね。

渡辺:あれ?はじめてちょっと優勢になったかも?)

渡辺:ただ、こんなくだらない質問に逃げていてはダメだ)

渡辺:ここから一気に盛り返す)

渡辺:まずい、でももう取材開始から1時間くらい経ってる)

渡辺:あとはですね…この「1晩10軒以上をハシゴしろ」ってのも極端な啓蒙というか、どう考えても太っちゃいそうだし、なんというか…たとえばですよ?

僕は毎日、分単位のスケジュールで動いている。

『多動力』より

渡辺:「10軒は言いすぎだった。せいぜい5軒くらいかな」とか…

つまらない人、ウザい人、そして電話をかけてくるタイプもそうだが、「自分の時間」を平気で奪うような相手とは意識して距離を取る。

『多動力』より

渡辺「面白くしようとして、ちょっと極論言ってたかも」とか…

グダグダと長ったらしい話をしたり、メールを書いてくるヤツに限って、結局何が言いたいのかわからない。

『多動力』より

渡辺そういう感じのことを言っていただいて…これまでの発言を訂正していただく、みたいな?

そういう人間に僕は言いたい。「お前にあげる時間はねえよ」と。

『多動力』より

渡辺:そんなことをする必要が…どこにありましょうか。

いやぁ、『多動力』はホントすばらしい本だと思います! 僕も納得のいくまでバッチリ議論できましたし、今日はこれで大丈夫です! お忙しいところありがとうございました! 

おわりに

実際に話してみても、堀江さんの主張はやっぱり極論だったと思うんです。

なんとかそれを本人にも認めさせたかったのですが、ロジカルに跳ね返されつづけた結果、「自分はいま、写真を撮る数十秒にも耐えられない人の時間を奪っているんだ」という気持ちが頭のなかで膨らんでいき、最後は場の空気に耐えられなくなってしまいました。

読者の皆様の期待に応えることができず、申し訳ありませんでした。

…そもそも、なんでこのインタビュー受けてくれたんだろう?

※極論ではなかった。自分の人生を1秒残らず使い切る生き方が詰まった『多動力』はこちら↓

〈取材・文=渡辺将基(新R25編集長)/撮影=長谷英史〉

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