ビジネスパーソンインタビュー
マネージャーにとっての“正しい努力”とは?
「部下をコントロールするなんて傲慢」マネジメントを履き違えた社員に新R25社長が喝
新R25編集部
「複雑なはずのビジパの悩みを、単純化して取材していた」「本質的じゃない悩みをでっちあげていた」
という反省のうえ、「個人のリアルな悩みにひもづいた取材」を改めてしていくことを方針とした新R25編集部。
“ビジパの悩みインサイト”企画、第10回は、編集部の森久保が「メンバーのやる気を引き出せない」という悩みを話し始めます。
森久保の悩み「チームメンバーのことを理解してあげられない」
森久保
半年前くらいから、マネジメント的なことをさせていただけるようになったんですが。
メンバーの目標設計をしたりするなかで、自分とまったく考え方やモチベーションが違う後輩・部下のことをまったく理解してあげられないという悩みがあって…
天野
うん。
森久保
“こういう目標でやっていきましょう”ということは言えるんですけど、彼ら・彼女らの本当の意味でのモチベーションとのすり合わせがうまくいかなくて…
本心から乗り気になってくれることがないというか。
渡辺
昔、サイバーエージェント人事部長の曽山さんが「数値目標は数値だけで終わらせず、個々のモチベーションが湧く意味の持たせ方をしないといけない」みたいな話をしていたことがあって、それに近い話なのかもしれないなあ。
森久保
1on1をしても、相手が気持ちよく「これでいきましょう!」という感じになっていないことがわかるんです。「やります」とは言ってくれるんですけど…
でもみんな、我々の上司である須田瞬海さんと1on1をやった時なんかは、同じ仕事をするにしても、「これは自分の人生やこれからのキャリアにとって必要な仕事だ!」って。“乗り気になってる度”が、全然違うんですよ。
こういうことを僕がリーダーとしてできてないのは申し訳ないし、メンバーを不幸にさせてるんじゃないかって…結構ガチ悩みしてるんです。
渡辺
瞬海さんって、確かに1on1の達人だよね。1on1を終えるとみんな開眼して部屋から出てくる(笑)。
あれ、何話してるんだろうって気になるよね。
渡辺
ちなみに、この人はこういう価値観なんだっていうのを表面的に理解することと、本当の意味でやる気に火をつけることって、ちょっと壁あるよね。
「うん、わかるよ、わかるよ」って言うだけだと…
天野
“わかるよおじさん”になっちゃう(笑)。
渡辺
だからムズいよね。マネジメントって。
火をつける、やる気を出させることが最終目標であって、 深く理解したり共感することが目的ではないもんね。
森久保
そうですよね…
渡辺
やる気スイッチは人それぞれ違う部分かもしんないけど、もしかしたら、やる気スイッチの汎用的なスイッチがあって、そこをつけてないというだけの可能性もある。
あと、前、「森久保が人として浅い」って話あったじゃん。
森久保
あれ、掘り返します?
でもちょっと自分でもわかるかも…(涙)
渡辺
元気野郎が、「やりましょうよ!」って言ってくる感じ。
天野
しかも、その元気もホンモノじゃなくて、つくった元気。
渡辺
空元気野郎に、私のやる気を引き出してほしくないみたいな(笑)。
森久保
僕、急所突き続けられてるんですけど、今(笑)。
「部下のやる気の引き出し方」について、社長に相談しました
【須田瞬海】新R25を運営する株式会社CAM代表取締役(従業員数182名)。サイバーエージェント入社2年目でマネージャーに就任し、翌年に子会社社長に。2018年より、新R25運営会社の代表取締役として経営を担っている。
森久保
メンバーのやる気を出させる、みたいなことがどうしてもできなくて。
「こういうことをやってほしい」ということがあっても、業務の押し付けっぽくなってるんじゃないかなって…
須田
だろうね。 見てて感じるよ(笑)。
森久保
やっぱりそう思います?
どうすればいいですかね…
須田
まずは悩みを整理したほうがいいと思うんだけど、森久保が言ってくれたことは、3つの悩みが混ざってるなと思ってて。
まず、チームメンバーを理解してあげられないという悩み。これが1つ目。
須田
2つ目は、リーダーとかマネージャーとして、どういう方向に努力をすればいいかわからないという悩み。
たとえば、いい動画を作る、営業を頑張るとかは、努力の方向性が想像つくじゃん。
でも、リーダー職って「こういう努力がこう使える」みたいなものがないから、何を頑張ればいいかすらわからなくなるっていう…
森久保
たしかに、言語化はできてなかったですけど、それが核心かもしれません。
須田
3つ目は、シンプルに(渡辺)将基さんが言ってたチームメンバーの火のつけ方。
森久保
それもありますね。
須田
この3つの悩みが絡まってたことを整理したうえで、本題に入るんだけど…
1つ目の「チームメンバーを理解する」みたいなことって、俺は無理だと思ってる。
あっさり
須田
だって、本当の意味で理解なんかできなくない? 違う人だし。
俺は、長い間一緒にいる奥さんのことすらも、理解しきれてない部分がある。
森久保
たしかに、僕もそうです。
須田
奥さんのことも、子供のことでさえも、全然理解しきれない。
だから、他人を理解できると思うこと自体がおこがましいかもと思っていて。
須田
もちろん、「この人はどういう人なのか」という情報を得る努力はするんだよ。
ただ、それも「相手のことを理解できてない」という前提に立ってるから。
森久保
なるほど…
須田
だから、森久保の「チームメンバーを理解したい」というお題設定が、そもそも間違ってるかもね。
リーダーやマネージャーとして頑張るべきは、もっと別の部分なんだと思う。
「部下の悩みを何でも解決しよう」は、売れない営業のすること
須田
じゃあ、どの方向に頑張るべきかって話に移るんだけど…
そのためにあえて辛辣なたとえ話をすると、森久保の悩みは、売れない営業っぽいなと思って(笑)。
森久保
グサッ
須田
将基さんも森久保もさ、営業とか商談が得意なタイプではないじゃん。
でもそれには理由があって。何を売ろうか決まっていないのよ。
森久保
どういうことでしょう…?
須田
「なんでも解決できます!」みたいなコンサル営業って、何もできない人じゃない。
自分が在庫を持ってない商品のことをお願いされても、結局売れないわけだから。
森久保
たしかにそうですね。
須田
つまり、ビジネスでは常に、先に売らなきゃいけないものが決まってる。
自分が提供できる武器から全てを逆算しないといけないのよ。
須田
今回の悩みに戻ると、チームメンバーに「何に悩んでるんですか?」「なんでも解決しますよ」というスタンスで話してしまったら、そりゃ事業と紐づけられないわって話。
森久保
本当にそうですね…
須田
じゃあどうするのかって話だけど。
俺が思うに、マネージャーが頑張るべきは、「メンバーに提供できる武器を増やすこと」だと思う。
森久保
メンバーに提供できる武器を増やす…
須田
ちなみに、森久保は、チームメンバーにどんなことを提供できる?
森久保
メンバーの目標と頑張りを把握して、評価者である瞬海さんにそれを伝え、きちんと評価してもらえるようにする。
…というのは、1つ提供できることかなと思います。
須田
そうだよね。
1on1や面談って、カードゲームみたいなものなんだよ。
自分が切れるカードを整理しておくこと。かつそれを日々増やす努力をしておくこと。そのうえで、それを最適なタイミングで提供すること。
これがマネージャーの仕事であり、努力すべき方向性だと思う。
須田
たとえば、将基さんと面談するとしたら「本当は売り上げとかつくりたくねえんだろうな~」って思うじゃん(笑)。
森久保
いいコンテンツをつくることに集中していたい人ですもんね(笑)。
須田
そうそう。
物づくりに熱中したい人は、物づくりに関わらないことのストレスを下げたら喜んでくれるんだなってことがわかったとする。
じゃあ、自分が提供できる武器は「外に出て営業してくる」とか「将基さんが欲しい人材の採用や育成をする」とか、たくさんあるよね。
森久保
その武器を整理して、増やして、提供することが、マネージャーの仕事か…
未経験の職種で先輩9名の上司に。マネージャーとして“弱者”だった若手時代
須田
ここまで話した戦略を考えた背景には、自分がマネージャーとして“弱者”だった過去がある。
森久保
弱者ですか。
須田
自分がマネージャーになったのは社会人2年目だったんだけど、いきなり部下が10人いて、そのうち9人が先輩だった。
しかも、担当することになった広告運用コンサルの業務は、自分が未経験の領域。
その道のプロの先輩方がたくさんいるのに、歳下で未経験の自分が急に入って、マネージャーになるという。
森久保
地獄ですね…
須田
当時のチームメンバーのなかには、新卒時代の研修を担当してくれた先輩とか、なんなら自分の元トレーナーとかもいて。
普通に考えたら「サイバーエージェントあるあるの、若手抜擢のなんちゃってマネージャー来ちゃったよ(笑)」じゃん。
森久保と同じで「俺がマネージャーで申し訳ないな」と思ったんだよね。
森久保
想像するだけで胃が痛くなります…
そこからどうしたんですか?
須田
自分のグループに所属させてしまった皆様に対して、せめてでも自分にできることはないか考えた。
実際にやったことは、まさに森久保と同じで、チームメンバーの成果をサイバーエージェントの役員たちに伝えつづけること。
ベテラン社員になればなるほど「自分はこんなに頑張ってます!」ってアピールしづらくなるから、多少は喜んでもらえたと思う。
森久保
とにかく、自分は何を提供できるかに集中したんですね。
須田
自分なんかに、相手の人生のすべてを変えることはできない。
でも「ここだったら一助はできるんじゃないか」っていうポイントはある。
チームメンバーの自己実現やキャリアのアップのために、自分が多少なりとも貢献できるポイントだけに集中するのが、今でも続く俺のスタンスだね。
「そこに悩むんだ」という発見は、最高の成長のネタ
森久保
僕、すごい傲慢でした。
メンバーに目標をおろして、コントロールしてって考えていて、僕がギブするみたいな発想では全然なかったので…
須田
そうだね。
森久保
そのうえで、自分が提供できる引き出しは、本当にスカスカだなと思って。
成果を吸い上げて上司に伝えるっていうこと以外、今のところできることがないです。
須田
そうだね。でも「やべ、俺の手札1枚しかない」って自覚することが第一歩じゃない?
それさえわかれば、チームメンバーとの面談も、友達との飲み会も、すべてが引き出しを増やす機会になるから。
森久保
どういうことですか?
須田
将基さんが「本当は売り上げとかつくりたくねえんだろうな~」ってことがわかれば、「じゃあ自分は営業をやろう」という努力の方向性がわかる。
同じように、「この人ここに悩むんだ」ってわかればわかるほど、「じゃあこの武器を提供できるようになろう」ってレパートリーが増えていくじゃん。
つまり、他人の悩みをストックすることが、自分にとって最高の成長のネタなのよ。
森久保
なるほど…!
僕、最悪なことに「悩んでないで、いいからやれよ」のスタンスで振る舞ってしまってました。
須田
短期的に見れば、そう言いたくなる気持ちもすごくわかる。
でもそこで、「おっ、新しいネタ来たな」っていう風に捉えられたほうが、自分の成長につながるし、心も健全だよね。
ほとんどの悩みは、小さく分ければ解決する
須田
これまで話したことは、マネジメントの仕事をするのであれば、ずっと本業として磨かなければいけないという長期的な話。
一方で、まったく別のアプローチとして、明日から実践できることもある。
森久保
なんでしょう…?
須田
いかに分けていかにつなぐかを意識すること。
悩みが解決できないほとんどの原因は、ごちゃごちゃ絡まってるからなのよ。
須田
今回の森久保の悩みも、悩みが3つ混ざってたよね?
同じように、チームメンバーの悩みも、絡まってるから解決できないだけのことが多い。
だから、俺たちマネージャーは、絡まってるものをどう解いてシンプルにするかに集中することがポイント。
森久保
なるほど…
いきなり解決しようとするのではなく、まずはシンプルにすると。
須田
たとえば、新入社員は、キャリアや人生みたいな壮大な話で悩みがち。
でも、話を聞いたうえで、じゃあ最初の1年、最初の3か月、今月どう頑張ろうかっていう風に整理したら、意外とシンプルなアクションが多かったりする。
森久保
たしかに…
須田
先のことは変数が大きくて、考えても無駄になることも多い。
だから、想定できる範囲内に区切って、未来のために今日何を頑張ればいいのかということをクリアにしていく。
でも実は、今日やることって、元々の目標とあんまり変わってなかったりするんだよね。
森久保
僕の場合、チームメンバーの将来の話を聞いたうえで、ごちゃごちゃしたまま解決しようとしていたから、上手くいかなかったんですね。
須田
そうだね。
「チームメンバーを理解したい」みたいなお題設定が、完全に間違ってんなと思って。
そんなことしてたら、社員の数が増えれば増えるほど、理解しないといけなくなるから…難易度が無限になっちゃうよ(笑)。
「チームメンバーのことを理解できてる上司」は権力がなせてる技でしかない
須田
もしも「自分はチームメンバーのことを理解できてる」と勘違いしているとしたら、それは権力がなせてる技でしかないと思う。
森久保
みんなが言うこと聞いてくれてる“風”ってことですね。
須田
そうそう、“風”、なだけ。やっぱり上司に対しては、みんな本音を言わないじゃない。
つまり、裸の王様になってしまうリスクは常にある。
だから、「チームメンバーを理解なんてできない」と思っててちょうどいいし、理解できないからこそ、せめてその人の“ネタ”を拾うべきなんだよ。
森久保
このまま行くと、すぐに裸の王様になってしまうところでした…
須田
マネジメントとか、モチベーションとか、それっぽいワードを言ってるうちはダメ(笑)。
超シンプルに、目の前の人に自分が何を貢献できるかという泥臭いことだけでいいんだよ。
森久保
肝に銘じます…! ありがとうございました。
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