ビジネスパーソンインタビュー
ずっとコンプレックスでしたよ。「僕は何者なんだろう」って。
「芸人と言われるのが一番しんどかった」片桐仁が回顧する“なんでも屋のモヤモヤ”から脱した瞬間
新R25編集部
2019年、予想を裏切る展開の連続でSNSの話題を席巻したドラマ『あなたの番です』(企画原案を秋元康氏、脚本は福原充則氏、監督は佐久間紀佳氏が担当)。
12月10日、「もしドラマの1話で違う展開になったら」というifの世界を描いた映画、『あなたの番です 劇場版』が公開されます。
今回新R25は、『あなたの番です』とコラボ企画「ここからが、“オレの番”です」を実施。ご自身のキャリアを振り返っていただき「オレの番が来た!」と思えるようなタイミングについてお話を伺います。
1本目の袴田吉彦さんに引きつづき、2本目にご登場いただいたのは、作中で「モテない独身整形外科医・藤井淳史」役を演じた片桐仁さん。
ラーメンズとして芸能界デビューし、その後は俳優・粘土アーティストとマルチにご活躍される片桐さんは、どこで「オレの番が来た!」と感じたのでしょうか?
〈聞き手:福田啄也(新R25編集部)〉
【片桐仁(かたぎり・じん)】1973年生まれ。埼玉県出身。多摩美術大学卒業後は、芸人、俳優、彫刻家。現在、テレビ・舞台を中心にドラマ・ラジオなどで活躍中。1999年より俳優業の傍ら彫刻家としても活動を開始。2021年12月19日まで東京ドームシティ Gallery AaMoにて『粘土道20周年記念 片桐仁創作大百科展』を開催中
「美大合格」「オンバト人気」片桐仁が“オレの番だ”と思った瞬間
福田
今日は『劇場版 あなたの番です』のコラボ企画として、片桐さん自身がこれまでの人生の中で「オレの番がきた」という瞬間を聞かせてください。
片桐さん
どこなんだろうな〜。
僕のキャリアってず〜っと“自惚れ”と“ぬか喜び”の連続なんですよね。
なんだか深そうだぞ…
福田
“自惚れ”と“ぬか喜び”…では、最初に「オレの番が来た」と自惚れた瞬間はどんなときなんですか?
片桐さん
NHKの『爆笑オンエアバトル』に出たときですね。
一気に知名度が上がって、若い子に知られるようになって。
これまではコントをやっても「気持ち悪い」と言われていたのに、番組に出たことで完全に風向きが変わりました。
福田
「ラーメンズ」がコンビとして一躍有名になったと。
片桐さん
そこが最初の“自惚れ”です。
完全に自惚れてましたね。モテるし。
映画での役はまったくモテないですけどね…
片桐さん
でも、すぐそれが“ぬか喜び”だってわかっちゃったんですよ。
テレビのバラエティ番組に呼ばれるようになったものの、面白いことをまったく言えなかったんです。
ラーメンズとしてツアーを回っているときはキャーキャー言われるから、自意識ばかり肥大しちゃっていたんですよ。
福田
でも、その後は俳優としての活躍、さらには粘土アーティストとしても注目を浴びていきますよね。
それも全部自惚れとぬか喜びだったんですか?
片桐さん
まさに。「うまくいった!」と「思ってたのと違うなあ…」の繰り返しでした。
スタートダッシュはいいけど、モノにできない。何をやっても全部そんな状態で。
これねえ…今思うとスタンスがよくなかったなと本当に反省しています。
福田
スタンス?
片桐さん
僕、どこに言っても「これが本業じゃないんで」みたいな顔してたんです。
俳優をやっているときは、「僕の本業は芸人なんで」という逃げ場をつくって。
一方のお笑いの現場に行ったら俳優のふりをして。それが通用しない場所だったら、アーティストのふりをしていたんですよね。
福田
うまくいかなかったときの予防線を張りたい気持ちですね…それはちょっとわかるかも…
肩書をたくさん持つ人、陥りやすい一面かもしれませんね。
片桐さん
ずっとコンプレックスでしたよ。「僕は何者なんだろう」って。
でもなんだかんだ…結局「芸人」と言われるのが一番しんどかったんですね。
片桐さん
「本業は芸人」とか逃げてるクセに、そこに対しての自信もまったく持ててなくて。
僕は相方の脚本力のおかげでウケていただけで、お笑いの実力がないまま持ち上げられてしまうのがだんだん辛くなっていった。
正直、逃げたくなったときもありました。
がむしゃらにやっていたからこそ見えた「縦ではなく横に広がる生き方」
福田
自分が何をやってる人なのか?と自信を持って言えず、モヤモヤしているビジネスパーソンも多いと思います。
片桐さんはその状態からどうやって脱出できたんですか?
片桐さん
「何者でもないなら、いっそなんでもやってやる」と振り切ったんです。
片桐さん
全部中途半端にしかならず悩んでいたとき…ある演出家さんが、僕が「ダメだ」と思った演技を「それ面白い!」とちょっとビックリするくらい絶賛してくれたんです。
些細な出来事だったんですけど、「あれ、これも自分の魅力になるのかな?」と思えるようになって。
思わぬところを褒めてもらって、自信を持てずにいた「中途半端なカードたち」の見方がちょっと変わったんですよね。
片桐さん
そこからは、話をいただいたらとりあえずがむしゃらに乗っかるようにしたんです。
「スケジュール空いてるし、いただいた仕事だし、やってみるか」って。
福田
今までの「なんでも屋」スタンスを、さらに加速させたと。
片桐さん
20代のときは、「芸人として売れてテレビで人気者になる」という未来しか見えてなかった。だから役者をやっていても中途半端だったんですよね。
でも、全部がむしゃらにやるようにしたら…
“売れて上に登る”という一本道から、急に僕の知らない横の広がりみたいなものを感じはじめて。
福田
なるほど。
「なんでもがむしゃら」にというと、具体的にどんなことをやったんですか?
片桐さん
役者としてどんな現場でも貢献できるように、ボイストレーニングに通ったり、パントマイムの教室に行ったり、いろいろ習ったりしましたね。
役者の世界ってちゃんと声が通らないといけないから、アナウンサースクールとかに通ったり。
福田
そんなことまで!? 実際にそれはちゃんと活かせたんですか?
片桐さん
いや、ある程度声が出るようになったと思ったら、今度はドラマの撮影で「うるさいよ君」って怒られました。
そこからはもう通ってません。
オ、オチが切ない…!
片桐さん
でも、自分の視野が広がったんですよね。
「何者なんだろう」じゃなくて、なんでもやって誰にも真似できない「片桐仁」になっちゃえばいいかと思えて、肩の力が抜けました。
40代になってもまだ不安…それでも片桐仁が前に進める理由
福田
僕はもうすぐ30代なんですが、まだ「オレの番が来ない」って正直焦っていて…
片桐さんはどうやってターニングポイントを呼び寄せたのかなと思っていて。
片桐さん
なるほどな~。
お兄さんはまだ20代ですよね?
僕が40代の先輩として言いたいことは、「もし“オレの番”が来たとしても、不安はなくならないよ」ということですかね。
福田
そうなんですか!?
片桐さん
当たり前じゃないですか。
若いころは「全然ダメだな…」ってなるし、年を重ねても「今のままで本当にいいのかな…」という薄暗いネガティブはずっとありますよ。
福田
ゆ、夢も希望も…それって楽になる方法はあるんですか?
片桐さん
これは俳優としていろんな役を演じるなかで発見したんですけど…
「ダメな自分を切り離すこと」ですね。
福田
切り離す?
片桐さん
たとえば「会社での自分」と「家に帰った自分」って、期待されていることが違うじゃないですか。
仕事はだめでも、お父さんとしてはちゃんと頑張れてるぞってこともある。
つまり、仕事ができないからと言って人生のすべてがダメになるわけではなくて、その役の自分がダメなだけだと切り離して考えるんです。
福田
なるほど…たしかに今の僕は、仕事がすべてだと思っているからこそ苦しくなっているのかも。
何かひとつがうまくいってなくても、自分を嫌いになる必要はないと。
片桐さん
そうそう。少なくとも僕は、そういう割り切りがあるからこそ今生き残れているのかもしれません。
『あなたの番です』で共演した袴田吉彦さんと野間口徹くんとは同い年なんですけど、いつも「よくここまでやってこられたね」と話してて。
シリアスな展開のなか、コメディタッチな存在感を発揮するトリオとして共演した袴田吉彦さん(左)『あなたの番です 劇場版』より
片桐さん
僕からしたら、今役者として『あな番』のような話題作に出られているだけでも本当に光栄なことなので…
もしかしたら、今この瞬間が「オレの番」なのかもしれません!(笑)
取材後、片桐さんが「20代後半かぁ...戻りたいな〜」と懐かしそうな顔でつぶやいてました。
片桐さんとっての20代は、“自惚れ”と“ぬか喜び”の連続でモヤモヤであがいていた時期。それでも、「なんかできるかも」という希望でとにかく楽しかったそう。
「まだオレの番が来ていない」と思っていた筆者も、その横顔を見て、こんなかっこいい40代になれるようにまだあがいてみようと思えました。
〈取材・文=福田啄也(@fkd1111)/編集=サノトモキ(@mlby_sns)/執筆アシスタント=山田三奈(@l_okbj)/撮影=森カズシゲ〉
片桐仁さんが出演する『あなたの番です 劇場版』が絶賛公開中!
企画・原案を秋元康氏が企画・原案、脚本を福原充則、監督を佐久間紀佳が担当し、予想を裏切る展開の連続でSNSの話題を席巻したドラマ『あなたの番です』。
12月10日、「もしドラマの1話で違う展開になったら」というifの世界を描いた映画、『あなたの番です 劇場版』が公開されます。
片桐さん演じるモテない独身外科医「藤井淳史」は、今作でもシリアスな作品のなかで“笑い”をつくってくれる貴重なキャラとしても登場してくれます…!
ドラマ版につづき予想を裏切る展開の繰り返し、ifの世界がどのような結末を迎えるのか、ぜひ劇場でご確認ください…!
ビジネスパーソンインタビュー
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