藤野義明著『エガちゃんねる革命』より
3割前後が広告掲載NG。それでも、「エガちゃんねる」が収益化できている理由
新R25編集部
企業でもYouTubeチャンネルを運営するのがスタンダードになりつつある今、どうしたらバズる企画を生みだせるのか、頭を悩ませている方もいるのではないでしょうか?
そんな方へのおすすめ本が、「エガちゃん」こと江頭2:50さんのYouTubeチャンネル「エガちゃんねる」(チャンネル登録者数278万人/2022年2月時点)の仕掛け人・藤野義明(ふじの・よしあき)さんが上梓した『エガちゃんねる革命』(宝島社)です。
これまで「内村プロデュース」「『ぷっ』すま」などの人気番組を手掛けてきたプロのテレビマンである藤野さんが、作り手視点で人気YouTubeの裏側を語り尽くす一冊。
そのこだわりや仕掛け方を、一部抜粋してご紹介します。
乳首をなにで隠すか…「エガちゃんねる」広告掲載までの道のり
「自由」が売りのユーチューブですが、なにをしてもいいわけではありません。
著作権侵害にあたる行為は当然NGですし、下品な言葉、暴力的でショッキングな映像、性的内容を示唆するコンテンツなど、ユーチューブを運営するグーグル社が「有害」と判断すれば広告掲載は不可。
もっとも厳しい処分としては、チャンネル自体の閉鎖やアカウント停止…いわゆる「BANされた」状態になります。
「エガちゃんねる」でとりわけ注意しなければならないのが、「下品な言葉、暴力的でショッキングな映像」と「性的内容を示唆するコンテンツ」の部分。
「存在そのものが卑猥」「放送禁止芸人」と言われることもある江頭さんなので…。
でも、「そうは言っても上半身裸くらいは大丈夫だろう。テレビでもずっとやってきたんだから」という勝手な思い込みのもと、これまで同様、黒タイツだけをはくスタイルでやっていこうと準備を進め、迎えた初回動画の収録前日。
たまたま人気ユーチューバー「カジサック」の制作スタッフと会う機会があり、「明日いよいよ、江頭さんのユーチューブを撮るんだよ」と世間話のつもりでしゃべったところ、「江頭さんの乳首、どうするんですか?ユーチューブは乳首ダメですよね」と真顔で心配されました。
それを聞いた瞬間は、「え!? もう明日なんだけど!江頭さん、服着る?」と少し焦りました。
でも、テレビのバラエティ番組でも、このような不測の事態はよくあること。
むしろ、こういった逆境をいかに笑いに変えられるかが重要です。
このときも江頭さんと相談し、「なにか笑える隠し方はないか」と、まずは「乳首をなにで隠すか考える会」と題して、この乳首問題そのものをネタに1本動画を撮ることにしました。
たとえば、ペットボトルのキャップはどうか?吸盤にフックが付いた100円グッズを乳首に付けたら隠せるうえに便利!といった具合にいろいろ考え、それで1本動画は作りましたが、それはあくまでもネタとしての話。
検討の結果、最終的には「シンプルに×の字のガムテープで隠して『NG』と書くぐらいがかわいいし、わかりやすいのでは?」「ガムテープならいつもADが持ち歩いているから、急きょの撮影でも対応しやすいはず」と、「乳首にバツの字ガムテープ」で初回の撮影に臨み、それがそのまま「エガちゃんねる」の定番スタイルになりました。
今ではこの「乳首NGテープ」も「エガちゃんねる」の一つのアイコンになって、「NGテープ」デザインのTシャツがグッズとして販売されるまでになりました。
前日に訪れたハプニングも、結果的にはいいブランディングになったと思っています。
3割前後が広告掲載NG。「好きなことで、生きていく」が難しい「エガちゃんねる」
「好きなことで、生きていく」がキャッチコピーのユーチューブ。
しかし、江頭さんがやりたい体を張った過激なネタや、下ネタ・セクシー系のネタは、グーグルの広告審査に落ちてしまい、なかなか「好きなことで、生きていく」が難しい「エガちゃんねる」。
割合としては3割前後が広告NGでしょうか。
というわけで、ここで僕たち制作側から見た、ユーチューブにおける広告審査のお話を。
広告審査の一般的な流れは、動画公開の際、まずは機械的なAI審査が入ります。
そこで問題がなければAI審査だけで終了。
もしAIの広告審査で落ちた場合、納得ができないときは人力の審査を申請することが可能です。
今までも、「そりゃ落ちるだろうな」と思うときはそのままで、納得できないときだけ人力の審査を申請してきました。
ただ、AI審査で落ちたときは人力の審査を申請しても結局落ちることがほとんど。
ごくまれに、人力審査を経て合格するときもある、という感じです。
また、AI審査は通ったにもかかわらず、動画公開後しばらくしてから急に広告掲載が不可になるパターンも。
これについてはグーグルに問い合わせをすることもできず、謎の部分が多いのですが、我々の予想では、AI審査は通ったものの動画を見た視聴者の誰かがグーグルに通報し、そこで人力審査が入って、「これはダメでしょ!」と広告が落とされた、という流れではないかと考えています(ここは臆測ですのでご注意を)。
“嫌われ者”の案件動画は、あえて“案件感”を出して攻める
「エガちゃんねる」では、定期的に「ここは収益ナシでもしょうがない!」と、初めから広告審査をあきらめてトンガった企画をやることがあります。
でも、できることなら、収益も確保できて、やりたいこと・攻めた企画をやれたらありがたい。
そこで助かるのがいわゆる「案件動画」。
企業や商品・サービスの宣伝のため、プロモーション料をいただいて制作する動画です。
基本的にユーチューブの世界で「案件動画」は、視聴者が「なんだ、宣伝のための動画か」とガッカリしてしまうことが多いです。
しかし僕らとしては、プロモーション料をもらったからといって、つまらない動画、視聴者をガッカリさせてしまう動画を作りたくはありませんでした。
この言わば“嫌われ者”である案件動画の扱いをどうするか、江頭さんと話し合って決めたのは、「案件動画のときこそ、広告なんて絶対無理な、いつも以上に攻めた動画を作ろう!」という方針。
その姿勢を、タイトルから表した企画があります。
「案件が来たから美女と一緒に広告が付かないコトやってみた」です。
とある企業から、エアロバイクを紹介してほしいという依頼が来ました。
そこで僕らが考えたのは「バイクを漕げば漕ぐほど、面積がほとんどない水着を着た女性のいるステージの幕が開く」という、ザ・昭和のバラエティ。
下品な内容だから企業からNGが出るかも…と心配しましたが、企業的にはまったく問題なし。
むしろ、「最高ですね!好きなようにやってください!」と言ってもらえました。
「エガちゃんねる」に依頼するくらいの広告主さんですから、肝が据わっていることが多いです。
当然、その動画は広告審査は落ちましたし、今どきこんなネタ、テレビではコンプライアンス的に絶対NGです。
でも、案件で制作費をいただけるのであれば怖くありません。
振り切ってくだらないことができる。
サムネイルでも「案件って最高!※拝啓、広告あきらめました」と“案件感”を打ち出して遊んでみました。
案件のときほど攻めた動画、という共通認識ができると、視聴者のみなさんも「今回は案件だ。攻めた動画が見られる」と、むしろ案件ウェルカムに。
今ではもう、「案件が楽しみ」「案件動画で面白いのが『エガちゃんねる』」と言ってもらえるようになりました。
案件のいいところは、制作費に余裕ができるので、仕掛けに凝った企画ができること。
さらに、発想次第で商品・サービスの告知もユニークに、面白くできること。
たとえば、大手通信会社からの案件では、「やりすぎプラン」というサービスの宣伝をしてほしいという依頼でした。
そこで、「やりすぎドッキリ」というテーマを考案。
シャワートイレの水が放水車の水圧だったら江頭さんの黄金のお尻は耐えられるのか、というドッキリ。
放水車の手配と特別なトイレセットにはかなりの金額がかかりましたが、これも案件だからこそ実現できました。
案件動画を受ける基準は「面白い動画が作れるかどうか」
案件をいただけると、月に数本は広告審査に落ちても、運営的にはなんとか大丈夫。
そのぶん、ふだんの動画でも無茶がしやすくなります。
そうなれば、あたおかのみなさんにも喜んでもらえるし、企業も宣伝ができる。
なので「エガちゃんねる」では、案件動画は「Win Win Win」の構図を作ることができています。
ただし、江頭さんの面白さが引き出せない、という商材・テーマの場合は、依頼金額にかかわらずお断りすることもあります。
逆に、予算が厳しい場合でも「江頭さんらしさを生かせる企画だ」となればお受けできる場合も。
すべては、面白い動画が作れるかどうかです。
また、案件の場合、「内容を事前にチェックさせてほしい」といったお願いをされる場合ももちろんあります。
商品やサービス回りの説明などで間違いがあってはいけないので、そうしたチェックにはできるだけ対応します。
ただ、一つだけ依頼主からの要望でも受け入れていないのは、動画のアップ時間について。
「視聴者が多い時間帯にアップしてほしい」とお願いされる場合がありますが、深夜2時50分公開が「エガちゃんねる」の大事なポリシー。
なので、そこはこちらもしっかり説明して、納得いただいています。
むしろ、案件動画だけ時間を変えてしまうと、企業のわがままに見えて、逆に炎上しかねないですし。
ちなみに先日、もつ鍋を紹介させていただいた動画では、そのもつ鍋が動画公開後3日で1万食が完売となり、売り切れ状態に。
企業様にはとても喜んでもらえましたし、視聴者のみなさんにも楽しんでいただけました。
そしてこういった結果が出ることは、「エガちゃんねる」を誇りに思えるときの一つでもあります。
ワクワク探って、着実に結果を残すチャンネル運用の裏側
ワクワクすることを追い求めて手探りで新しいチャレンジをしながら、登録者数や再生回数を伸ばしてきた「エガちゃんねる」。
『エガちゃんねる革命』(宝島社)は、“伝説の神回の誕生秘話”や“ボツにしたサムネ案”など、「こんなネタバラシして大丈夫?」の声もあがったというほど、チャンネル制作の裏側をたっぷり知れる一冊です。
YouTubeに限らず、逆境をチャンスに変えて面白い企画を打ち出したい方は、ぜひ読んでみてはいかがでしょうか。
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