ビジネスパーソンインタビュー
タイムトラベルが現実に? メタバースなら“人生をやり直せる”というのは本当か

佐藤航陽著『世界2.0 メタバースの歩き方と創り方』より

タイムトラベルが現実に? メタバースなら“人生をやり直せる”というのは本当か

新R25編集部

2022/04/08

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メタバース

インターネット上に3次元の仮想空間を作ることができるテクノロジーで、自分の分身であるアバターがバーチャルの世界を自由自在に移動できる、話題のバズワードです。

メタバースの今後の可能性に早期から着目していたのが、著書『お金2.0』が20万部を超えるベストセラーとなり、2018年のビジネス書で売上日本一を記録した起業家・佐藤航陽さん。

そんな佐藤さんが解説する、「“今”メタバースに注目するべき理由」とは?

担当編集者・箕輪厚介さんも絶賛する新著『世界2.0 メタバースの歩き方と創り方』より、一部抜粋してご紹介します。

タイムトラベルが現実になる

好きなアスリートや芸能人のブログのアーカイブ(過去記事)を、延々とさかのぼって読んだ経験は皆さんにもあるはずです。

2次元のテキスト情報が蓄積されたアーカイブは、木を輪切りにしたときに可視化される年輪と似ています。

時間軸は過去→現在→未来へと一方向へ流れ、2次元のテキスト情報はさらに蓄積されていくわけです。

仮想空間では、2次元ではなく3次元の視覚情報を大量に集積できます。

2022年1月1日に年が切り替わる瞬間、どこで何をしながら新年を祝っていたのか。朝起きたとき、おせち料理のどの品目をおいしく食べ、家族と何をしゃべったのか。

あなたが過ごした時間が、空間情報と共に3DCGで蓄積されていきます。

メタバースでできることは、現実世界をそっくりそのままコピーするだけではありません。

現実世界とは別に、仮想空間上でのあなたの行動も3D情報として記録されていきます。

YouTubeのリンクをクリックしたら動画再生が始まり、30秒前であろうが1分後であろうが自由に時間を行き来できるように、10年前の今日・30年前の今日に戻ることが簡単にできるのです。

バーチャル空間で、人は瞬時に時間軸を飛び越えてタイムトラベルできるようになります。

RPGのように人生を歩むことができる

2021年初頭、日本でクリストファー・ノーラン監督の映画『TENET』(テネット)が公開されて「難解すぎる」と話題になりました。

『TENET』の世界では、時間は一方向だけに流れません。回転ドアをくぐると、時間の流れは逆向きに変わります。

そこで1分1秒を過ごすと、時間は「1分1秒後」ではなく「1分1秒前」に巻き戻されるのです。回転ドアを再びくぐると、時間は「逆行」→「順行」へと元に戻ります。

現実世界をコピーして時間単位で保存しておけば、過去のその時点での空間に移動することができます。

つまり、メタバースにおける「時間」とは実際に移動できる一つの「次元」もしくは「方向」を指すことになるのです。

VHSやDVDを再生して、小さいころの運動会や思い出の場面を見るような感覚で、過去の空間に移動して当時を追体験できるのです。

今私たちは、ブログやSNSを見て過去の人々の経験を擬似体験しています。

ただしそれは2次元のテキストベースですから、その人の五感がどう感じたかは、頭の中で想像するしかありません。

メタバースができれば、まるで自分がそこにいるかのように、当時に戻ってスーパーリアルにタイムトラベルを楽しめるのです。

メタバースに順応した人間の脳は、今まで眠っていた能力が開花してぐんと発達するでしょう。

「40分前の空間に戻ろう」と思った子どもが、当たり前のように40分前に戻って人生を生き直してみる。

ロール・プレイング・ゲームをやり直すかのように、別の選択をして歩んでみる。

世界中の人々が過ごした人生の膨大な「時間」をメタバース上で高速で追体験できる未来の人類は、現代人よりもはるかに賢くなっているはずです。

ちょうどスマホや検索を使いこなす現代人は江戸時代の人々からすると信じられないぐらい賢く感じるのと同じです。

過去のアーカイブを検索するように、3DCGの視覚情報空間をジャンプしまくり、タイムトラベルしまくる。

こうなると、人間の生き方は異次元のレベルで重層的になります。

人生の価値観や思想も大きく変わっていくでしょう。

肩書き感覚で人格を使い分けられる

空間と外見を選べるようになった次の世代では誰しもが多重人格であり、空間と外見に合わせて人格を使い分けるスキルを獲得していることが想像できます。

未来の優秀な人は魅力的な人格を作るのがうまい人ということになり得ます。

私の好きな芸人に「ジャルジャル」という2人組がいます。

特定のシチュエーションでのコントを膨大に作って、毎日YouTubeに上げていくというスタイルを取っていて、現在は130万人以上のチャンネル登録者がいます。

見ていて驚いたのが、彼らの「キャラクターを生み出す能力」です。

シチュエーションごとに、極めて味のある(癖の強い)個性的なキャラクターを何十人も作って自分たちで演じて、コントによって自由自在に使い分けています。

そして、シリーズ化して色々なシチュエーションに当てはめてみたり、自分たちが作り出したキャラクター同士をコラボさせたりと、2人しかいないのに何十人もの演者を抱えている劇団のようです。

加えて、彼らが演じるキャラクター自体にもそれぞれでファンが作られるという多重構造になっています。

その意味でジャルジャルの2人は「魅力的な人格を作り出す天才」といえるでしょう。

今後メタバース上で、アバターによって身体まで選択できるようになれば、ジャルジャルのような「魅力的な人格を作る」というニッチなスキルが重宝される時代が到来することでしょう。

その時は、漫画家・作家・プロデューサーなど限られた職業の人だけがやっていた仕事を、万人が頭をひねって考える必要性が出てきます。

それはまるで、iPhoneやInstagramが普及したことでカメラマンが考えてきた写真の構図・エフェクト・加工を誰もが考えるようになったり、YouTubeやTikTokが普及したことで番組を作る放送作家や現場監督だけが考えてきた構成・尺・テロップなどを普通の人が考えなければならなくなったりした現象とよく似ています。

人は環境にすぐ適応することができる生き物ですので、メタバース・ネイティブ世代が主流になってくれば、このような変化も取りこんでいけるはずです。

敢えて今存在するもので喩えるとするならば、名刺に書かれている「肩書き」のような感覚で「人格」を使い分けていく世界観が広がっていくと思います。

昔は社会における肩書きは一つしかありませんでした。

今はマルチキャリアや副業によって、個人が複数の肩書きを持つということは(一般的とは言えないまでも)珍しくありません。

近未来では人格も現在の肩書きのような感覚で環境に合わせて気軽に使い分けていくようなものになっていくと思います。

「個性の格差」は仮想世界にも存在する

一方で、この人格やキャラクターというものは非常にやっかいで、先天的な要素に強く影響され要素分解も難しいため努力で磨き上げるということが難しいのです。

そして、頭が良い・知能が高いということともほとんど関係がありません。ノーベル賞受賞者のYouTube配信を見ても面白いと思う人は少数でしょう。

編集者の佐渡島庸平さんに、面白い漫画とはどうやって作るのか聞いたことがあります。

私はストーリーの緻密さが重要なのかと思いこんでいたのですが、佐渡島さんは漫画は「キャラクター」こそが一番重要だと答えてとても驚いたことをよく覚えています。

漫画などのコンテンツは人々を惹きつけるキャラクターを生み出すことができれば、ストーリーが多少粗くても何とかなることが多いらしいのです。

確かに売れた漫画を思い出してみてください。

『ドラゴンボール』『ワンピース』『こち亀』『鬼滅の刃』など、主人公から敵キャラまで魅力的なキャラクターに溢れています。

メタバースによって現実世界の制約から解放された場合も、漫画と同じような状況に近づくことが想像できます。

ただ、漫画のキャラクターと違って、自分自身のキャラクターというのは「自分らしさ」というアイデンティティの問題と複雑に絡み合っています。

容姿・学歴・職業よりもさらにセンシティブな根っこの問題です。

生まれつき美しい人、生まれつき背の高い人、生まれつき運動ができる人。

彼らは現実世界ではさまざまなチャンスに恵まれて、生まれつきそれらを「もつ者」と「もたざる者」の間に圧倒的な格差を作り出してきました。

同様に、メタバースでも生まれつき人から好かれるキャラクターをもつ人にはさまざまなチャンスが集まる一方で、そうではない人は必死にそれらを身につける努力が必要になってきます。

現実世界と同じ構造の格差はメタバースでもより深いレベルで発生し得るのです。

生まれつき他人から愛されるキャラクターをもっている人はゲームをやったり歌を歌ったりおしゃべりしているだけでも人気者になり、お金も稼げて周りからも認められますが、そうではない人は何をやっても空振りという残酷な状況はあり得ます。

かつて格差を生み出していた要素(容姿・学歴・職業)はある程度は努力によって克服できる面がありましたが、キャラクターは自分自身のアイデンティティと紐づいているため努力の方向性がより難しいはずです。

ただ、より美しくあるために化粧や整形などの手段が発達したり、良い大学に入るために塾や家庭教師が普及したり、年収を高めるために資格を取ったり職業訓練を受けたりと、生まれつきの要素によって発生する格差を後天的な努力によって埋める手段を人類は見つけてきました。

メタバースが普及して個性の格差が生まれても、それを埋めるための手段を人類はまた見つけることができると信じています。

新しいテクノロジーに触れてみたくなる一冊

世界2.0 メタバースの歩き方と創り方』は、メタバースを中心とした新たなテクノロジーを丁寧に噛み砕き、理解しやすくまとめられた一冊。

そして、それらが「人格」や「価値観」といった「個」と密接に関わっていることを学べます。

最新技術に抵抗感を覚える人も少なくないと思いますが、人生観にきっとよい影響をもたらしてくれるはず。ぜひ読んでみてください。

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