ビジネスパーソンインタビュー
深井龍之介著『世界史を俯瞰して、思い込みから自分を解放する 歴史思考』より
なぜ略奪や暴力を繰り返す「チンギス・カン」が英雄になれたのか?
新R25編集部
「コロナの流行」や「価値観の変化」など、前例のない悩みと向き合い決断を迫られるビジネスパーソン。
しかし「大半の悩みは古代の人々が考え尽くしている」と、歴史事業を展開する株式会社COTEN代表・深井龍之介さんはいいます。
歴史をこよなく愛する深井さん。いま多くのビジネスパーソンや経営者が夢中になって聴いているポッドキャスト「歴史を面白く学ぶコテンラジオ(COTEN RADIO)」では、ユニークかつディープなエピソードを紹介して歴史の“小難しいイメージ”を覆しています。
深井さん初の著書『世界史を俯瞰して、思い込みから自分を解放する 歴史思考』より、読めばきっと悩みが軽くなる「ブッとんだ偉人エピソード」を一部抜粋してお届けします。
私たちを悩ませる“常識”と“価値観”。その前提を崩すのが歴史
そもそも、悩みとは何でしょうか。
ビジネスパーソンなら「収入が低い」とか、プライベートの領域なら「性の対象が同性だ」といったものが悩みかもしれません。
でも、そういう人々はなぜ悩むんでしょうか?
「収入が高くて困っている」とか「自分は異性が好きなんだけど、どうしよう」と悩む人がいてもよさそうなのに、見当たらないのはどうしてでしょうか?
それは、僕たちが生きる社会には無数の「当たり前」があり、そこから外れる人が悩んでいるのです。
僕たちが生きる現代の日本社会では、お金を稼げることは「良いこと」とされています。
また性的少数者の権利が注目されているとはいえ、男性は女性を、女性は男性を好きになることが「普通」とされています。
しかし、多かれ少なかれ、そういう「良いこと」や「普通」から外れる人はいますよね。
つまり、悩みの原因は僕たちの社会にある常識や価値観なんです。
ところが歴史を学ぶと、僕たちを取り巻いている常識や価値観が、決して当たり前ではないことに気づけます。
今の例でいくと、お金を稼ぐことが「良いこと」だった時代は実はとても少ないですし、男性が男性と恋愛をするのは、洋の東西を問わず、よくあることでした。
このように、僕らの「当たり前」が当たり前ではないと分かると、みなさんを苦しめる悩みの前提が崩れます。
したがって、悩みから解放されて楽になれる…というわけです。
弱肉強食が“常識”の社会で上り詰めた遊牧民「チンギス・カン」
たとえば、「帰る家がある」のは人類の当たり前ではありません。
大昔の僕たちのご先祖は定住しない生活を送っていましたし、今も昔も、定住しない生活を送っている「遊牧民」と呼ばれる人たちもいます。
そんな遊牧民から、世界的な有名人が出たことがありました。
チンギス・カン(1162年-1227年)です。
世界史を俯瞰して、思い込みから自分を解放する 歴史思考
イラスト/iziz
12世紀から13世紀にかけて生きた人で、最盛期にはユーラシア大陸の3分の1を支配したともいわれるモンゴル帝国の創始者です。
チンギス・カンが育った遊牧民の社会は実力社会でもありました。
体力、馬に乗る能力、そして武力―。
今の僕らの社会では暴力的に思えますが、そういう能力に優れた人間だけが集団のトップになる弱肉強食のサバイバルな社会が、遊牧民社会でした。
そんな社会で上り詰めて世界帝国を築いたのがチンギス・カンだったのです。
チンギス・カンはもともと「テムジン」という名前でした。
これはチンギス・カンのお父さんが戦っていたタタル族の武将の名前らしいです。
なんでお父さんがその名前を息子に与えたかというと、ちょうどチンギス・カンが生まれたころに、敵であるタタル族のテムジンという武将を殺したらしいんです。
それを記念して、息子にその名前をつけた。
僕たちから見ると、生まれたときから血塗られている感じですよね。
さらに言うと、チンギス・カンのお母さんは、チンギス・カンのお父さんが別の部族から奪ってきた娘でした。
本来の相手との結婚式を襲撃して奪ったという話もあります。
もちろんそこでも血は流れたことでしょう。
ヤバいですよね。
略奪や暴力が当たり前なだけじゃなくて、それを悪いことだと思っていない節がある。
悪いことだと感じていたら、息子に、自分が殺した相手の名前なんてつけないでしょうから。
チンギス・カンや周囲の人々の考え方は、今の価値観でいうと「殺伐」としていました。
弱い人は死ぬしかないし、略奪も人殺しも当たり前。
いや、むしろ賞賛されていたかもしれない。
今日の僕らの「当たり前」とかけ離れていたのは、彼らの生活を取り巻く環境だけではありません。
彼らの考え方や価値観もまた、僕らとは全然違っていたのです。
チンギス・カンたちは別に世界史上の例外ではありません。
戦国時代の日本だって殺し殺されることが日常茶飯事でしたから、今の時代から見ると、彼らの生きる世界は「殺伐」としていたといえるでしょう。
いま“当たり前の価値観”は、長い歴史からみれば例外
暴力に限らず、たとえば性愛に関しても、僕たちの価値観は決して絶対ではありません。
「男性同士のセックスは特殊なこと」という価値観だって、歴史的には特殊なんです。
例外と言ってもいい。
「同性愛=悪いこと」という価値観が行きわたっていたのは、ほぼキリスト教などの一神教の世界だけです。
古代ギリシャや中国、近世までの日本では、男性同士だって普通にセックスしていました。
古代ギリシャではソクラテスが有名ですし、日本では織田信長、武田信玄、江戸幕府三代将軍徳川家光などが有名です。
ところが、日本は明治以降に欧米の影響を強く受けましたから、そのせいで、男性間セックスは特殊なことという価値観に変わってしまいました。
このように、価値観は絶対ではなく、場所や時代によって変わります。
「家がある」とか「飲み水がいつでも手に入る」といった僕らの生活環境が当たり前ではないように、「人殺しはダメ」とか「体が弱い人には親切にしよう」といった僕らの価値観も当たり前ではありません。
歴史を知るというのは、こういうことです。
決して退屈なお勉強ではなく、僕らの「当たり前」が、当たり前ではないことを理解するということなんです。
僕はそれを、「メタ認知」と呼んでいます。
「メタ」は超えるという意味なので、「メタ認知」は今の自分を取り巻く状況を一歩引いて客観的に見る、といった意味です。
悩んだり苦しんだりしている人は、近視眼的になっていることがほとんどです。
メタ認知力があれば、目の前にある悩みにとらわれずに済むこともあるはずです。
だって、悩みの原因になっている「当たり前」が当たり前じゃないことに気づけるんですから。
そして、歴史を知ることによるメタ認知のことを、この本では「歴史思考」と呼びます。
歴史を知ること、そして「歴史思考」を身に付けることは、悩みから解放されることでもあるんです。
人間味あふれる“偉人エピソード”で新しい視点がひらける
世界史を俯瞰して、思い込みから自分を解放する 歴史思考この本には、覚えるのが大変な年号はありません。
そうではなく、歴史上の偉人たちのおもしろいエピソードがたくさん詰まっています。
みなさんはそれを、僕らのポッドキャストを聞くように、楽しんで読んでくれればそれでOKです。
同書に登場する歴史上の偉人たちは、ソリッドでありながら人間くさい魅力を持ち合わせていて、必死で暗記した偉人たちとは少し見え方が違います。
偉人たちの新たな一面に自己投影できるので、読み終わりには自分を取り巻くモヤモヤがなんでもなく思えるはず。
未知の悩みに直面したときや新しいモノの見方・考え方を得たいとき、歴史を面白く学び直したいときに、ぜひ手にとってみてはいかがでしょうか。
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