ビジネスパーソンインタビュー
木下勝寿著『ファンダメンタルズ×テクニカル マーケティング』より
あなたは“たった1行のコピー”から事業の成否を読みとけるか? 一流Webマーケターの視点
新R25編集部
「現在の『自称Webマーケター』の多くは『ただのデジタルオペレーター』だ」
そう言うのは、資本金1万円で創業した「北の達人コーポレーション」を東証プライム上場企業にまで育てあげた木下勝寿さん。
木下さんが結果を出せたのは、2つの方法を組み合わせた独自のWebマーケティングで、適切なターゲットに効率的にアプローチできたからなのだとか。
① ファンダメンタルズマーケティング
人間の感情をベースにしたコミュニケーションの設計方法
② テクニカルマーケティング
デジタルデータを駆使して利益を1円単位で計算しながら運用していく方法
その方法が惜しみなく書かれた新著『ファンダメンタルズ×テクニカル マーケティング』から、広告クリエイティブの伝え方について一部抜粋してご紹介します。
この記事はこんな人におすすめ!(読了目安:5分
)
・結果を出したい「Webマーケター」
・広告に携わる「Webクリエイター」
・競合の戦略を見抜きたい「経営者」
黒字軌道に乗れないスイーツ店のコピー「極上の四角形」
プロの飲食店経営者は店に入って10分もすれば、その店の売上や黒字か赤字かなど経営状態がわかるという。
その時間帯・曜日の客数から1ヶ月間の客数、メニューからは客単価、広さやテーブルの数から必要な店員の数、店舗の立地から固定費、料理の質から食材原価が割り出せるからである。
私自身もたった1行のコピーを読んだだけで、その会社の業績や将来を判断できる場合がある。
あるショコラを販売するとてもきれいなデザインのサイト(LP)を見た時のことだ。
そのサイトを見ると非常にきれいな四角形の抹茶ショコラの写真がドーンと目に入り「極上の四角形」というキャッチコピーが添えられていた。
私は、その「極上の四角形」という1行目のコピーを見て、「ここが黒字軌道に乗るのは難しいだろうな」と思った。
今のEC市場の獲得単価相場だと「何度もリピートが起きる」か「単価が高い」かのいずれかでないと採算が合わない。
このショコラの価格帯だとリピートが起きないと採算が合わないが、リピートが起きるコミュニケーション設計になっていないので、採算をとるのは難しいのではないかと思ったのである(感覚値だが、リピートなしで採算の合う価格の基準は7000~8000円以上くらいだと見ている)。
また、リピートをさせるには商品そのものが良いことは前提として、そもそも「リピートしやすい人」を顧客層の核として取り込む必要がある。
このLPはそれ自体が美しかったので、「スイーツに興味が薄い層」を取り込むことには成功するだろうし、おそらく作成者も「スイーツに興味が薄い人もほしがるLP」を意図して作ったのだと推測できる。
そこは広告屋としては正解かもしれない。
だが、事業観点で考えると、スイーツに興味が薄い層のスイーツのリピート率は低いという重要な視点が抜けている。
商品には「本質価値」と「付随価値」があるが、本質価値というのは食べ物であれば味であり、見た目の美しさなどが付随価値にあたる。
付随価値に惹かれた人も購入はするが、本質価値に惹かれた人しかリピートしないのだ。
この会社は、この商品の価格帯から見てもリピーターを獲得しなければ成り立たないビジネスモデルだった。
リピーターの獲得が命なわけだが、リピーターになってくれる人を獲得しようとすると、本質価値である「味」に興味がある人を獲得しなければならないのだ。
しかし、スイーツの味に精通している人からすれば、1行目で「極上の四角形」という「味」ではなく「形」をアピールされた時点で「一番の売りはビジュアルなのか」となって萎えるのである(もちろん個人差はある)。
説明の内容比率が「味」よりも「ビジュアル」のほうが高すぎると、「味に自信あり」の商品ではないと逆アピールする形になってしまうのだ。
これだと、美味しいものを探している「かなりのスイーツ好き」は他のもっと美味しそうなスイーツを探しにいってしまう。
「美しい四角形」なのは見たらわかる。
だからこそ、コピーでは味に言及するべきだ。
あくまでスイーツに興味がある人を購入者の核とし、その周辺の興味がない人はあとで取り込む形にしないと採算が合わないのだが、このLPはビジュアルばかりにこだわっていて、肝心の味が伝わってこない(「伝説の職人が作った」と言いながら職人の具体的な話もない)。
こうなると本当にスイーツに興味がある人を取りこぼす。
これは、イノベーター理論(まずはイノベーターが購入し、その次に一般的な人が購入するという考え方)で言うと、スイーツマーケットのイノベーターを取り込まず、デザインやおしゃれ、流行マーケットのイノベーターを取り込んでいる状態だと考えられる。
もちろんビジュアルに惹かれて購入した人も美味しければ一定のリピートはしてくれるが、やはり「味」にこだわる人に比べると、リピート率は低いだろう。
しかもスイーツにしては高価格であり、よっぽど美味しくなければ何度も買わない。
その上よっぽど美味しくても何度も買うリピーターはやはり、「かなりのスイーツ好き」に限られる。
だから、最初のユーザーはスイーツマーケットのイノベーターを取り込むことに注力し、この人たちを起点として「高いけど美味しい」という話題で周辺に広げていくべきである。
「ビジュアルが良い」という側面だけでSNSで拡散しても、一過性の広がりにしかならない。
私は、この「極上の四角形」を一番の売りにした売り方では核となるリピート客を取り込めないのでLTV(顧客生涯価値)が低くなり、採算を合わせるのが難しいと感じたのだ。
広告で「どう伝えるか?」より重要なこと
広告クリエイティブにおいては「誰に」「何を」「どう」伝えるかが重要である。
それでいうと先のスイーツの広告は、「何」の部分が間違っているということになる。
仮に「何(どんなこと・商品特徴)を」が弱い場合は、「どう(どのように)」の表現方法で工夫するしかなくなるのだが、どれだけ「どう(どのように)」の部分を頑張っても、根本的な「商品の差別化」にはならないことには注意が必要だ。
店頭POPのようにクリエイティブを見て“その場”で買うような場合は、衝動買いを誘発するので「どう(どのように)」の部分を頑張ることは有利に働く場合もある。
しかし比較検討が容易なWeb広告では通用せず、たとえ良い表現ができてユーザーの心をつかんだとしても、ユーザーは同じ性能の他の商品を検索して改めてどれを買うか決めることが多いのである。
そのため、「どう(どのように)」の部分を頑張っても「市場を広げる」ことには寄与する一方、自分の商品が売れることへの寄与度は小さく、仮にその表現方法が当たっても、競合にその表現方法を真似されて終わりである。
どれだけ美しい写真を載せても、写真はすぐに真似される。
だから、どれだけ良いクリエイティブでも10秒で模倣されるWebクリエイティブの世界においては、「どう(どのように)」伝えるかの部分よりも、その商品でしか言えない、そのユーザーだけ(今回はスイーツ好きの人)の心に刺さる「何(商品特徴)を」を発掘することのほうが数倍重要である。
それは先のスイーツであれば「味」であり、「見た目」ではない。
どれほど突飛な「どう(どのように)」伝えるかという表現方法の部分に工夫をこらしても、「誰(どんな人)に」「何(どんなこと)を」を外していると、「いい広告だけど、その商品に興味はわかない」という広告になってしまうのだ。
究極のWebマーケティングノウハウを知れる濃厚な一冊
同書は「こんなに詳細に教えてもらってよいのだろうか…?」と思うほど、再現性の高い具体的なマーケティングノウハウが詰まった一冊。
広告やメディアに関わっているWebマーケターなら誰でも、何かしらの気づきを得て視座が高くなったり、課題が解決したりするはずです。
ビジネスパーソンインタビュー
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