ビジネスパーソンインタビュー
「身の振り方で悩んでるアイドルって、本当に多いんです」
元“ハロプロ劣等生”中西香菜は、なぜ卒業後にふたたびアイドルを始めたのか?
新R25編集部
“元アイドル”だけで構成された、異色のアイドルグループが注目を集めています。
その名も「Youplus」。
元アンジュルム・中西香菜さんが発起人となり、乃木坂46、モーニング娘。、フェアリーズのOGが集まって結成された、アベンジャーズ並みの(?)豪華グループです。
ただ…アイドルというと、卒業後は別の道に進むのが一般的なイメージ。実際Youplusのメンバーも、全員一度は芸能界を引退し、それぞれの道を歩んでいたそう。
なぜ彼女たちは、業界の慣例を突き破ってまで、アイドルという世界に戻ってきたのか?
発起人の中西さんに、“キャリア選択の真意”を聞いてみました。
〈聞き手=石川みく(新R25編集部)〉
「アイドルの“新たなキャリアの選択肢”を作りたかった」
石川
中西さんは2019年にアンジュルムを卒業したあと、2021年にYouplusとして再デビューされたとのことですが…
アイドルが卒業後にもう一度アイドルをやるって、あまり聞いたことがないなと思って。
中西さん
そうですよね。私自身、「アンジュルムの名前に甘えてちゃいけない」って気持ちで卒業したのに…
まさか自分がもう一度アイドルをやるなんて思いもしませんでした(笑)。
中西さん
それに私は、もともと人前に出るのが苦手で。
見た目もコンプレックスだらけだし、鏡を見るのもイヤ。実際「ブス」「死ね」みたいな中傷を受けたこともたくさんあります。
石川
そこまでツラい思いをして、なぜまたアイドルを…?
中西さん
アイドルって、本当に“セカンドキャリアの選択肢”が少ない職業なんですよ。
学歴や職歴があるわけじゃないから、卒業後にいきなりどこかに就職するのは難しくて。
石川
そうなんですね…
中西さん
私だけじゃなくて、身の振り方で悩んでるアイドルって本当に多いんです。
レッスンの休憩時間にみんなでタウンワークを見ながら、「私たちをもらってくれる会社なんてないよね」とか言ったりして…
リアルすぎるアイドルの裏側
中西さん
私も居酒屋でアルバイトしたり、アクセサリーブランドをやったりと、いろいろ社会勉強をしてたんですけど、選択肢の少なさを痛感していたんですね。
そんなとき、いろんなご縁が重なって、「もう一度アイドルをやってみない?」とお声がけいただいて。
石川
ほう…!
中西さん
びっくりしましたけど、逆にそこで腹を括れたんですよ。
いっそ、私がアイドルの“セカンドキャリアの選択肢”を1個増やしてやろうって。
それで、前の事務所の後輩、高校の同級生、友達と一緒に「Youplus」を結成しました。
「“前と同じことをしてる”わけじゃない」セカンドキャリアならではの強みとは
石川
別のグループを卒業したメンバー同士で新たなグループを立ち上げるって、あまり前例がないと思うんですが…
アイドルファンの方の反応はいかがでしたか?
中西さん
…正直、厳しい声も多かったです。
「卒業したのに結局また同じことやってる」とか「スポットライト症候群だろ」とか言われることもあって。
石川
えっ、やば…
中西さん
でも本来「環境を変えて、もう一度チャレンジする」って、べつに何も変なことじゃないと思うんです。
たとえば社会人の方だと、職種は同じまま、別の会社に転職することもありますよね?
石川
たしかに! ビジネスパーソンがキャリアアップのために転職するのは普通のことだし、そういうときは大体「今までのスキルを活かして転職しろ」って言われますね。
中西さん
だったら、アイドルがスキルを活かして、別の環境でもう一度アイドルをやってもいいんじゃないかなって思うんです。
言われてみると、アイドルだけ「卒業したら終わり」なのはむしろ不自然なのかも…
中西さん
社会人の方にとっても、もう一度同じ挑戦をするのか? それとも新しいチャレンジをするのか? って、すごく難しい問題ですよね。
実際ファンの方が、「私も転職するとき、まわりから“同じことをやるなら今の会社にいればいいじゃん”って言われて悩んだんです」っておっしゃってて。
石川
あ〜、ビジネスパーソンあるあるの悩みですね…
中西さん
でもその方から「Youplusのみんながアイドルを続ける姿を見て、もう一度挑戦する勇気が出ました」って言葉をいただいて。
本当にうれしかったし、アイドルだけじゃなくてキャリアに迷っているすべての方の背中を押せるようなグループに成長させようって改めて思いました。
中西さん
それに私自身、「卒業前と同じことをやってる」とはまったく思ってません。
同じアイドルでも、前と今ではなにもかもが違うんです。
石川
なにもかも、ですか?
中西さん
はい。ダンスの覚え方ひとつとっても、まったく違います。
同じ事務所のアンジュルムとモーニング娘。ですら、雰囲気もルールも違うし、表現してきたことも違う。
「こんなやり方もあるのか!」って勉強になるし、毎日以前とは全然違う成長を実感できるんです。
中西さん
それに、前のグループではメイクも髪型も事務所に言われる通りにしてたし、お仕事の調整もスタッフさんに任せきりだったんですけど…
今は全部、自分たちで意見を出し合いながら決めてます。
まったく違う経験をしてきた“元アイドル”たちの掛け合わせだからこそ、出てくるアイデアがあるんですよね。
石川
「セカンドキャリアとしてのアイドル」ならではの強みだ…!
中西さん
そうですね。みんな、一度は芸能界を引退して、別の道に進もうとしてたメンバーなので。
「1人でできることはたかが知れてる」ってみんなわかってるからこそ、意見をぶつけあうことにも抵抗がないんだと思います。
「アイドル2回目」の私たちだからこそできること、本当にいっぱいあるんです。
「逃げるくらいなら、弱みを見せるほうがマシ」劣等生・中西香菜のリーダー論
石川
中西さんはYouplusの発起人で、リーダーでもあるんですよね。
まったく別の環境で過ごしてきたメンバーをまとめるのって、けっこう大変じゃないですか…?
中西さん
私の場合は…本当にリーダーなんて器じゃないので。
できないことはどんどん相談するし、どんどん任せるようにしています。
石川
任せる、ですか。
中西さん
もちろん、最初から「任せよう」と思ってたわけじゃなくて…むしろ「自分がみんなをまとめなきゃ」と空回りしてた時期もありました。
でもそんなときに、事件があって…
石川
事件?
中西さん
Youplusの前身として、「カオスピピス」というYouTubeユニットをやってたんですけど…
そのときに私のせいで、悪い大人に騙されてしまったんです。
石川
急に怖い話じゃないですか!
中西さん
グループのサポートをお願いしていた私の知り合いに、あとから「企画代・編集代」という名目で、びっくりするような金額を請求されちゃったんですよ。
自分が撒いた種だから、すごく責任を感じました。みんなもこんなことに巻き込まれたくないだろうし、相談したら離れていっちゃうかも、って。
中西さん
でも思い切って、メンバーや今のプロデューサーさんに相談してみたら…みんな離れるどころか、全力で私を助けてくれて。
1人でなんとかするよりもみんなに頼ったほうが、結果的にはうまくいくんだなって学びました。
石川
Youplusの場合、メンバーのみなさんも百戦錬磨ですしね。
中西さん
はい! そのあたりのカバー力も、全メンバーが「2周目」だからこその心強さはすごくあります(笑)。
「リーダーだろうと自分の弱みは隠さずに曝け出したほうがいい」と思えるようになったのも、このチームだからというのが大きいですね。
石川
とはいえ、私なんかは「自分の弱みを見せるのが恥ずかしい」と思ってしまうことも多くて…
中西さんは、まわりに弱みを見せることに抵抗はないのでしょうか?
中西さん
抵抗がないわけじゃないんですけど…
逃げるくらいなら、弱みを見せるほうがはるかにマシかなって。
中西さん
私、スマイレージ(現・アンジュルム)に入った頃から、本当に劣等生だったんですよ。
同期がみんな3年以上レッスンをしてたのに、私だけ歌もダンスも素人の状態でポンっと加入してしまって。
1時間予定のレッスンが、私のせいで5時間かかっちゃうみたいな状態だったんです。
石川
なかなかツラい状況だ…
中西さん
とにかく申し訳なくて、「私なんてグループにいないほうがいいんじゃないか」って気持ちがふくらんでしまって。
あるとき、誰にも言わずに新幹線に飛び乗って、地元の大阪に帰ってしまったんです。
!?
中西さん
当時の私は「迷惑をかけたくない」一心だったんですけど…結果的には、それまで以上にたくさんの方に迷惑をかけてしまって。
それ以来、どんなに辛くてももう二度と逃げないって決めたんです。
石川
そんな過去があったんですね…
中西さん
それに、いざまわりを見たら、私のことを「迷惑」扱いする人は誰もいなくて。
私がレッスンで手間取ってると、同期のみんなが「一緒にやろう」って言ってくれて、できるまで支えてくれました。
そのころから「いつか自分が経験を積んだら、今度は自分がサポート側に回ろう」って気持ちがあったんです。
石川
そのころの決意が、今のセカンドキャリアにつながっていると…!
中西さん
そうですね。アンジュルムでの経験がなかったら、自分でメンバーを集めてアイドルグループを作るなんて絶対できなかったと思います(笑)。
あのつんく♂さんが「ハロプロ史上最強の素人」と評していた中西さん。思った以上に、努力の人だ…
まわりの声は気にしない。「セカンドキャリアとしてのアイドル」の今後
石川
今実際に活動をされていて…
中西さんが切り開いてきた「セカンドキャリアとしてのアイドル」という道は、後輩にも勧められる選択肢になりそうですか?
中西さん
はい、なります!
特に、少しでも「あのときこうすればよかった」って後悔とか、仲間のステージを見て「うらやましい」って気持ちがあるなら、もう一度チャレンジしたっていいと思います。
石川
じゃあ…中西さんは、生まれ変わってもアイドルになりたいですか?
中西さん
…以前の私なら、「無理です」と答えていたと思います。
でも今の私は「なりたい」と答えられるし、そう言えるようになっただけでも、Youplusを初めてよかったと思えます。
石川
おお…!
中西さん
Youplusの活動は、学生時代に味わえなかった青春を取り戻してるみたいで楽しいですし…
なにより一度離れたことで、やっぱり私は音楽が好きで、歌って踊るのが好きだって再確認できたので。
中西さん
正直これからも、「いつまで同じことやってるの?」とか「前のグループのほうが…」とか言われてしまうことはあると思います。
でも、そう言われるってことは、逆に「Youplus、いいね」って思ってくれる方もたくさんいるはず…だと思うので。
今はただ、もっともっと私たちのことを知ってもらって、好きになってくれる方を増やしたい。
それができたら、本当の意味で「セカンドキャリアとしてのアイドル」を確立できたと言えるのかな、と思います。
私たちビジネスパーソンにとっても、キャリアにおいて“再挑戦”という道を選ぶのはとても勇気がいること。
でも、中西さんのお話を伺う限り、「同じことの繰り返し」なんてないのかもしれません。
「もう一度やりたい」と思ったなら、その気持ちに正直に、何度でも挑戦したっていい。
中西さんの2度目のアイドル人生が、光で溢れたものであるように。そして、すべてのアイドルが、すべてのビジネスパーソンが、何度でも「本当にやりたいこと」に向き合えるように。
陰ながら祈りつつ、自分自身のキャリアについても改めて思いを馳せてみようと思います。
〈取材・文=石川みく(@newfang298)/編集=サノトモキ(@mlby_sns)/撮影=森カズシゲ〉
Youplusの第二弾シングル『Delight』、好評発売中!
2021年末に鮮烈なデビューをしたYouplusの、第2弾シングルが好評発売中。
“キミに出会えた今日が記念日になる”というコンセプトの表題曲は、出会いの歓びを綴った名曲です。
中西さん
『Delight』は聞くだけで「あ、優しい…!」って気持ちになれるので、癒しがほしいビジネスパーソンのみなさんに聞いていただきたい曲です(笑)。
私自身、Youplusの楽曲のファンでもあるので。ぜひ私たちの表現を楽しんでいただけたらうれしいです。
『豆プラス “revenge” 〜 Youplus vs 豆柴の大群 2MAN LIVE 〜』
公演中止となっていた、豆柴の大群との2マンライブのリベンジ公演が開催決定。 注目の共演をお見逃しなく!
【日時】2022/7/17(日)18:00開演 (17:00開場)
【会場】恵比寿 the garden hall
チケットはこちらから
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