ビジネスパーソンインタビュー
「信用経済時代」のトップランナー
ドキドキしないことはやらない。西野亮廣が大切にしている「信用のつくりかた」
新R25編集部
いま中国では、粗悪品が流通する個人間取引サービスへの不信感から、信頼できるインフルエンサーがオススメする商品が飛ぶように売れているらしい。
そんな時代にあって、キングコングの西野亮廣は「お金持ちじゃなくて“信用持ち”になるべき」「貯金じゃなくて“貯信”をせよ」と、しつこいくらいに信用の重要さを発信しつづけている。
そんな彼に、信用をつくるうえでの大切な考え方、そして自身が生み出そうとしている「信用経済」について話を聞いてきた。
※聞き手:渡辺将基(新R25編集長)
まずは「誰から信用を得るか」が重要。スタッフから信頼されても、彼らには決定権がない
渡辺:西野さんが信用を積み上げていくうえで、最も大切にしていることは何でしょうか?
西野:お客さん(のほうを向くこと)ですね。まず「誰から信用を得るか」というのがすごく重要で、たとえばベッキーでいえば、それがテレビスタッフだったと思うんです。
渡辺:ベッキーさんは(出演者向けの)番組の事前アンケートにもすごい丁寧に答えるみたいな話を聞いたことがあります。
西野:いつも期待に応えてうまいこと動いてくれるベッキーはスタッフからしたらめちゃくちゃありがたい存在だったはずだし、彼らからの信用はすごくあったと思うんですよ。
ただ問題なのは、そのスタッフに「決定権」がなかったこと。たとえスタッフがベッキーを使いたいと思っていても、番組で彼女を起用するかどうかを握っているのはスポンサーなので。それは危うい信用の稼ぎ方ですよね。
でも、いまはお客さんが面白いと思った人を直接支援できるじゃないですか。クラウドファンディングやオンラインサロンを通じて、自分の意志でダイレクトに課金できる。それなら、僕は自分の舵を握っていないスタッフに全体重を乗せるのはやめて、お客さんの信用を一番大切にしようと思ったんです。もちろん、スタッフとの関係をおざなりにするわけではないんですが。
「西野はいつもドキドキすることを仕掛けてくる」という信用をつくりたい
渡辺:ひとえに“信用”といっても、いろんな種類があると思います。西野さんはお客さんに対してどんな信用をつくろうとしているんでしょうか?
西野:「アイツはいつもドキドキすることを仕掛けてくる」っていう信用ですね。僕の場合は、「なんか次の西野のアプローチ、あんまりドキドキしないな…」というのをやってしまうと、たとえ正しいことをやっていても信用を失っちゃうと思います。お客さんが期待してくれているのもたぶんそこだから。
あと決めてるのは、噛みつくなら“上にいく”っていうこと。逆に、村八分に遭っている人は全力で肯定します。
渡辺:たしかに、西野さんが上に噛みついているのは見ていてドキドキします(笑)。
西野さんの打ち手って、やみくもに手数を出してるんじゃなくて、しっかり考えられてますよね。話題を生みつづける行動の裏側にそういう信条があったというのは納得です。
西野:「次こんな手で来やがったか」と思わせたいから、ドキドキしないことはやりたくないですね。
渡辺:西野さんが考える「ドキドキしないこと」ってどんなことでしょうか?
西野:たとえば、稼いだお金を(次のドキドキすることに)投資しないで、こっそり自分のために使うとか。僕がこっそり本の印税でキャバクラ行ってたらガッカリしません? それなら、オープンにしてクラウドファンディングでそのための資金を募りますね(笑)。
「自分はこれをやる人だ」と旗を立てれば、欠陥も愛される人になる
渡辺:そういう話を聞いていると、「誰から信用を得るか」に加えて、「どんな信用をつくるか」も重要だと感じます。
たとえば、川谷(絵音)さんはあの騒動のあともバリバリ活動できていますが、それは彼が「音楽」で信用をつくっていたからであり、その信用は不倫では傷つくことがなかったからではないかなと。むしろ音楽に深みが加わったりして、あの一件がプラスに作用している可能性すらありますよね。
西野:たしかにそうですね。「俺はこれをやる人だぞ」と旗を立てるのはわかりやすい。
渡辺:「とにかくきっちり仕事をする」という旗を立てている人はミスや遅刻で信用を失うかもしれませんが、信用のつくりかたによっては、同じことをしても大丈夫な人もいます。
西野:それでいうと、家入(一真)さんって、ガンガン遅刻してくるじゃないですか。僕、以前はじめて家入さんのイベントに呼ばれたとき、あの人会場に来なかったですからね。なぜかゲストの僕ひとりだけになって、「え、なにコレ?」って(笑)。
でも、彼がどれだけ遅刻しようがドタキャンしようが、別にいいんですよね。家入さんは一貫して「弱者に光を当てる」サービスをやっていて、そのやさしさが彼の魅力だということをみんな知ってるから。周りが期待しているのはそこだから。
ファーストペンギンは後ろから押されて飛び込んだ!? 「立てるべき旗」は周りが決めている
渡辺:でも、そもそも「自分が立てるべき旗」はどうやって見つけたらいいんでしょうか?
西野:それでいうと、最近その家入さんがツイートしてた内容が興味深かったです。実はファーストペンギン(※)は後ろから押されて飛び込んでたっていう。
(※)集団で行動するペンギンの群れの中から、魚を求めて最初に海に飛びこむペンギンのこと。転じて、リスクを恐れず初めてのことにチャレンジする者を指す。
渡辺:これ、僕も見ました。ちょっと勇気もらいました。
西野:でもたしかに、「自分の個性は他人がつくっている」みたいな側面ってありますよね。いきなり旗を立てるんじゃなくて、なんとなく周囲の期待を感じながら、だんだんと自分が立てるべき旗がクリアになってくるというか。
渡辺:周りの期待もその人の過去の言動の積み重ねが反映されたものだと思いますが、「旗」ってそうやって自然と見えてくるものなのかもしれませんね。
“信用持ち”には「文字」が集まっている。ただ、当初は文字を通貨にする発想はなかった
渡辺:信用されている人たちにはどういった共通点があると思いますか?
西野:まずは嘘をつかないですよね。あと、“信用持ち”には「文字」が集まっている。退職するときの寄せ書きにたくさんのメッセージが集まるみたいな。
渡辺:SNSの投稿へのコメントなんかを見ていても、そんな傾向がある気がします。その個人に集まった「文字」を数値化し、仮想通貨として取り引きできるようにするサービスが(現在開発中の)「レターポット」だということですよね?
西野:そうです。ただ、レターポットはもともと、「要らないモノを要らないと言える世界をつくりたい」と思って、贈り物に変わるサービスとして構想したんです。
いまの時代はモノで溢れているから、たとえば昔みたいに食べ物をもらうことがイコール幸せではない。僕らの世代は、持ち物をコンパクトにして、好きな時に好きなモノを手に入れたいじゃないですか。
でも「要らない」というと、「差し入れは気持ちなんだから」みたいに言われて攻撃されてしまう。これは誰が悪いわけでもなく時代の変化なのですが、何か解決法がないかなと思っていて。
お金を贈ってくれたら一番いいんですけど、プレゼントの本質はそこにかかっている時間だから、それだけだとやっぱり寂しい。だったら「お金に時間がかかってればいいんだ」と思って、「文字をお金で買って贈る」ということを思いついたんです。たとえば1文字10円だとして、友だちの誕生日に500文字分を買って、思いのこもった500文字とともに5000円を振り込む。
だから、はじめは別に通貨をつくろうと思ってたわけじゃないんですよ。
いまのトレンドは信用経済じゃなくて「人気経済」。認知がない人にもお金が集まる仕組みをつくりたい
渡辺:そこから通貨に発展していったのにはどういういきさつがあったんですか?
西野:僕、ずっと信用をお金に替える両替機みたいのがあればいいなと思ってたんですけど、いまクラウドファンディングやVALUでお金を集められる人って、SNSにたくさんのフォロワーがいるとか、結局は“認知”のある人たちなんですよ。「あれ、これ信用経済っていうか、人気経済だな」と思って。信用と認知の両方を兼ね備えてないと恩恵を受けられない。
渡辺:言われてみれば、たしかにそうですね。
西野:でも、世の中の人みんなが有名になりたいわけでもないじゃないですか。だったら、「信用はあるけど、認知がない人たち」にもお金が落ちるような仕組みをつくらないといけないなと思ったんです。それが実現してはじめて「信用経済」だと。
そういうことを同時並行で考えていたときに、「そういえば、信用がある人って文字集まってるよな」と思って。それで、さっき話した構想を拡張して、贈ってもらった文字を他の人にも振り込める“通貨”にすれば、信用がある人にお金が集まる「信用経済」がつくれるんじゃないかと思ったんです。
渡辺:最後に、西野さんがレターポットで光を当てたい人のイメージを教えてほしいです。
西野:たとえば、ウチの父ちゃんみたいな人です。ウチの父ちゃんって、絶対嘘つかないし誰の悪口も言わないような人なんですけど、本当によく手紙をもらうんですよ。退職してからも年賀状めっちゃ来るし、父ちゃんに集まってる文字数ってすごいなと思って。
でも、いまから父ちゃんにTwitterをやれとも思わなくて、いまのまま周りの人たちを裏切らずに、真っ当に生きていてくれればそれでいい。あとは僕が、時代をそっちに持っていきます。
おわりに
「西野ならやってくれる」
これは、ワクワクするほど大きな目標を掲げ、その達成可能性を示した者だけが獲得できる信用だ。しかし、これほどプレッシャーのかかる信用はない。そんな戦いを続ける彼だからこそ、そのメッセージには説得力があり、見ている者たちを鼓舞する。
信用経済時代をリードしている西野亮廣は、自らが実験台となり、これからも僕たちに時代を生き抜くヒントを与えてくれるに違いない。
〈取材・文=渡辺将基(新R25編集長)/撮影=藤木裕之〉
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