海外の事例と比較してみると…

アナ雪は18万円→5億円に!? JASRACの「映画の音楽使用料アップ」は批判されるべき?

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JASRAC(日本音楽著作権協会)が、洋画に使われている音楽の使用料を改める方針を発表。現在は1作品につき定額の18万円を配給会社から徴収する決まりだが、将来的には興行収入の1〜2%を直接劇場から徴収する従量制へと移行する見通しだ。

たとえば、興行収入が254億円だった「アナ雪」の2%だと使用料は総額5億円にものぼり、事実上の大幅な値上げとなる。

この“大幅値上げ”に対し世間からは批判の声が上がっているが、周辺事情を整理するとまた違った見方になりそうだ。

坂本龍一氏も「安い」と主張。定額18万円という使用料は、30年前から変わっていない

まず、そもそもJASRACの役割は、音楽の著作者の権利保護。楽曲の不正利用を取り締まるのはもちろん、使用料を徴収し、著作者へと分配しているのだ。

この役割を考えると、作品によっては18万円の利用料は安すぎるという意見もある。坂本龍一氏も、BuzzFeedNEWSの取材に対して以下のようにコメントしている。
18万円は非常に低く、とても妥当とは言えないと思います。映画業界は音楽の価値を認めて、興行収入に連動したインセンティブを導入してもいいのではないでしょうか。いま音楽だけで生活していけるのは、ごく一部のアーティストだけです。日本ではインセンティブ契約はまずありませんし、(楽曲の)買い取りのような形が主流なので、作曲家は大変です」
音楽を専業にできる人がごく一部とは、なんとも寂しい話…。映画1本に複数の音楽家が起用されていた場合は、18万円からJASRACの管理手数料を引いた金額を分割することになるため、それぞれの懐には微々たる金額しか入らない。

またこの料金設定、じつは1985年時のままのようで、さすがに“替えどき”感は否めない。

「興行収入の1〜2%」はヨーロッパでは一般的。“安すぎる”と海外から圧力を受けていた JASRAC

今回JASRACが導入を求めている「興行収入の1〜2%を徴収する」という従量制の仕組みは、実はヨーロッパでは一般的。年間の徴収額を比べると「海外に比べて著しく低い」とJASRACが訴えたくなるのもわかる。

“フランスのJASRAC”である著作権管理団体・SACEMは興行収入の2%を徴収し、年間の映画上映使用料の徴収額は約22億7000万円(2014年調べ)。さらにイタリアのSIAEは2.1%を徴収し17億円、イギリスのPRSは1%の徴収で14億3000万円と続く。

一方、JASRACの徴収額は1億6000万円にとどまり、この年の興行収入2000億円に対し、徴収額の割合はわずか0.08%。これは先述の国の10分の1以下の低さなのだ。
JASRAC作成の資料
このデータをふまえると、今回の値上げが“アコギ”というより、むしろこれまでが“超割安”だったという見方が正しいのかもしれない。JASRACは会見で、こうした現状を見た海外の著作権管理団体や著作者から長い間是正を求められていると明かしている。

ミニシアターの経営圧迫→入場料の高騰→映画離れ…の流れを懸念してJASRACも慎重な構え

とはいえ、この“実質値上げ”はまったく問題がないというわけではない。批判の争点のひとつになっているのが、街のミニシアターの経営圧迫問題だ。

そもそもこれまで、楽曲の使用料を負担するのは劇場ではなかった。映画制作会社から作品を買いつけ、劇場に卸す配給会社が支払っていたのだ。だが、今回の改定が実現すれば、支払うのは劇場となる。「細々と経営しているミニシアターや名画座を潰す気か?」と怒りを買うのも無理はない。
出典

Rodrigo Reyes Marin/アフロ

渋谷ミニシアターの先駆けであった「シネマライズ」
やがて経営の立ち行かない劇場が増えれば、飲食代や入場料も高騰し、映画離れを悪化させる恐れも。坂本氏も先述のインタビュー内で、2%への急激な引き上げには慎重な姿勢を示していた。

とはいえ、法律上の著作権使用者は「配給会社」ではなく「劇場」であり、興行収入を把握しているのも劇場。劇場に支払いを求めること自体は真っ当な変更に思える。

JASRACはあくまで「業界の方々の実情をしっかりとお聞きして、現実的にどういう金額にさせていただくのが望ましいのか探らせていただく」と語っており、興行収入に対するパーセンテージは落としどころを探る構え。劇場側の負担を理解し、段階的に進めていく配慮もあるようだ。
出典

Rodrigo Reyes Marin/アフロ

JASRAC本部
JASRACを批判する声ばかりが目立っているようだけれど、今回の発表の主旨は「日本の映画の楽曲使用料、18万円は安すぎない?」という問題提起でもある。また、この実質値上げは6年も前から協議をしていたもので、JASRAC主導というよりも、海外からの圧力で動いたという側面も強いよう。

音楽教室からの著作権料徴収問題など、嫌われ者になりがちなJASRACだけど、今回は冷静に捉えていい案件なのかも。

〈文=佐藤宇紘〉