「そろそろ上がる」ってずーっと言ってない?

「好景気というけど、結局いつ給料上がるの!?」経済評論家に聞いたら驚きの見解が…

お金
「経済の好循環が実現しつつある」。安倍晋三首相は今月21日の経済財政諮問会議で、開始から丸5年になるアベノミクスの成果に胸を張った。

だが、堅調な企業業績とは裏腹に、個人消費は伸び悩みが続く。大手企業では徐々に賃金が上がっているものの、全企業の9割を占める中小企業や働く人の4割を占める非正規雇用への波及が鈍いためだ。

出典 2017年12月26日付『毎日新聞』

アベノミクス」のおかげで、日本はかつてないほどの好景気のなかにいるらしい。だが、一向に給料は上がらないし、ボクら一般庶民は全然それを実感できない…

安倍首相や経済学者たちは、「じきに一般庶民まで波及する」「トリクルダウン(大企業などから業績が上向き、しだいに労働者が好景気の影響を受けること)がある」と言うけど、それ、ずーっと言ってない?? いったいいつ、ボクらにまで好景気の影響が来るのか? 誰かハッキリ言ってくれよ!

給料がなかなか上がらないのは、日本が「製造業中心」だから…ってどういう理屈よ?

というわけで直撃したのは経済評論家の加谷珪一さん。さあ、答えてもらいましょうか。
加谷さん

加谷さん

確かに2年前も3年前も、「もうすぐ好景気が一般家庭まで波及する」って言われてましたね…。政治家はアピールのために、「景気よくなってます」って言いがち。2013年からいわゆる「アベノミクス」が始まりましたが、正直2015年ぐらいまでは、あまり効果もなく、景気はよくなかったんです。なぜなら世界全体の景気がよくなかったから。

ただ、2016年から効果が出てきて、増収増益の大企業も増えています。そこから2年経っているので、そろそろ社会全体に恩恵がおよびはじめる時期ではあります。今、アメリカの景気も、トランプ大統領による法人減税やインフラ投資などの影響ですごくいいですしね
編集部・天野

編集部・天野

大企業は業績が上がってるんですよね? 儲けが出たらすぐ給料を上げてくれればいいじゃないですか。なんでそんなに何年も時間がかかるんですか
加谷さん

加谷さん

製造業中心の日本の経済は、何段階も踏まないと好景気が波及しないようになっているからです。日本の産業の中心は、トヨタみたいな自動車会社。まずはトヨタの給料が上がって、そのあと下請け会社の給料が…というように、最短でも2年以上はかかってしまうんですよ
編集部・天野

編集部・天野

それだけで何年もかかるんですかね…?
加谷さん

加谷さん

あと、昔は日本で自動車を作って海外へ輸出していましたが、今は“地産地消”といわれるように、為替変動リスクや貿易摩擦などの問題から、日本の企業もアメリカで造ってアメリカで売るようになっています。

こうなると、日本の工場がうるおうとか、日本の労働者がうるおうとかいう部分がないんですね。なので時間がかかるんですよ
出典

編集部作成

編集部・天野

編集部・天野

なるほど…。つまり2016年から好景気がスタートしたと考えると、2年後の2018年ごろになれば我々のもとまでその恩恵がくるということですよね?
加谷さん

加谷さん

ようやく…と言いたいところなんですが危なくなってきています。景気っていうのは短期でいうと3、4年周期で循環するんですよ
出典

編集部作成

加谷さん

加谷さん

なので2019年には低調になる可能性が高い。

さらに、本来であれば少し低調になるだけなので問題はないはずなんですが、2019年って消費増税がありますよね? さらに先日税制改正が発表されましたが、2020年にはサラリーマンは増税となります。なので、消費が冷え込み、不景気ともいえる状態になってしまいそうです
編集部・天野

編集部・天野

好景気の影響を受けるには2年から3年かかるのに、悪影響はすぐ来るんかい

【景気をよくする方法1】年金や社会保障の不安をなくして消費意欲を高める

加谷さん、結局どうすれば日本全体の景気がよくなるのかわからないんですけど…?
加谷さん

加谷さん

製造業に頼るのではなく、国内の需要を高める、つまり『内需拡大』という方向に舵を切らなければといわれています。

日本にいる人々がお金を使うようになればいい…ということですが、いま最大のネックは『社会保障』です。若い方は、自分たちは老後、あまり年金をもらえないんじゃないか、と感じていると思います。『生涯節約をしなければ』というマインドが根付いているでしょう
編集部・天野

編集部・天野

だからみんなお金を使わない…という話ですか
加谷さん

加谷さん

そうです。基本的に今の政策は、高齢者ばっかりが得するようになっていますよね。これを言ったら怒る人もいるかもしれないけど。

今働いている人たちが安心してお金を使えるように、少し高齢者のぶんを削ってでも、年金や社会保障の仕組みを変えないと、経済はよくなりませんよ
編集部・天野

編集部・天野

それって、よく聞く「若者の投票率が低いからそうなる」っていう話ですね…なるほど…

【景気をよくする方法2】人材の流動性を上げて、新たな事業やサービスを生み出す

加谷さん

加谷さん

また、人材の流動性も上げないと、景気はよくならないでしょうね
編集部・天野

編集部・天野

うーん、それも新聞とかではよく聞く話ですけど、景気回復とどう関係するんですかね?
加谷さん

加谷さん

日本の生産性が低いといわれているのって、人の移動がないからなんですよね。何十年も同じ人材が同じ会社にいるような、現在の日本の働き方だと、新しい事業が出てこないんです。新しいサービスが生まれず、消費も活発化しない
加谷さん

加谷さん

ドイツでは、企業はいつでも、どんな理由でも正社員を解雇していいんです。そのかわり、失業した場合は手厚い失業保険と再就職プログラムを受けられる。たとえば、不動産の営業マンがクビになったとしても、プログラミングのスキルを身につけて、ITに強い不動産マンが誕生するわけです。

ただ、このようにする、つまり『終身雇用制』を撤廃することには、日本では根強い抵抗があるようです
編集部・天野

編集部・天野

それ、すごいいいじゃないですか。日本のどんな人が反対してるんですか?
加谷さん

加谷さん

表立って主張はしていませんが、「連合(日本労働組合総連合会)」の主張を解釈すると、“終身雇用を守ろう”ということだと思います。

連合は労働組合の集まりですから、労働者の権利を守ろうとするわけです。その権利とは何かというと、「同じ会社にいつづける権利」だと…
編集部・天野

編集部・天野

でも、それが結局労働者の首を絞めている気がしてしまう…

戦前には日本にも多くの起業家が誕生したが、“戦中”に終身雇用が確立され…

編集部・天野

編集部・天野

「新しい事業をつくるために起業家を育てるべき」みたいな話もよく聞きますよね
加谷さん

加谷さん

そうですね。ただね、それってもう30年ぐらい前からずーっと言われつづけてるんですよね。ところが日本ではベンチャー企業ってうまくいかない。「メルカリ」みたいなtoCのサービスであれば、最近はいろいろ登場してますけどね
編集部・天野

編集部・天野

いいじゃないですか、メルカリ。そういうベンチャーが今後どんどん増えていけばいいんですよね?
加谷さん

加谷さん

ただ、海外ではベンチャーの主流は企業相手の製品やサービスをつくる会社(toB)なんですよ。ところが日本ではこれが出てこない

例えばベンチャー企業A社と東芝が同じような製品をつくって、東芝のほうが値段が5倍だとする。大企業の会議で、どちらを採用するかとなると、「A社のやつは実績がないから東芝さんのやつを採用しよう」ってなってしまうんです
編集部・天野

編集部・天野

なんでそうなっちゃうんですか??  日本人は大企業が好きなんですかね…?
加谷さん

加谷さん

民族性、国民性の問題だと言ってる人もいるんですが、私はそうは思わないです。戦前は雇用の流動性があって、いろいろなベンチャー企業が誕生してきたわけですから。

結局は終身雇用制、一括昇給の居心地がよすぎて、大企業信仰が社会に染みついてしまっているんだと思いますね
編集部・天野

編集部・天野

たしかに、松下もホンダも戦前に誕生したわけですもんね。終身雇用は戦後からのものなんですね
加谷さん

加谷さん

いえ、これは“戦中”からのものです
編集部・天野

編集部・天野

…というと?
加谷さん

加谷さん

諸説ありますが、1938年に出された『国家総動員法』が終身雇用制の起源だと言われています。会社も工場も、すべて国のため、戦争のために動かそうという法律ですね。そのために、画一的な制度が作られ、雇用の流動性が制限されたんです。

現在我々が当たり前だと思っている終身雇用制は、空襲のなかゼロ戦を造っていた時代の遺物なんですよ

結局いつ好景気の恩恵を受けられるの? 結論はまさかの…

編集部・天野

編集部・天野

話がだいぶ脱線してしまいましたが、結局、我々が好景気を実感できる日はいつなんですか??
加谷さん

加谷さん

悲観的な経済学者は、2018年後半から2019年には日本経済が失速すると予想しています。2018年は賃上げがあるかもしれませんが、2019年には期待できないでしょう
編集部・天野

編集部・天野

つまり、結論としては…?
加谷さん

加谷さん

「じきに、一般庶民でも好景気を実感できるようなときが来ます」と言っていたけど、結局来ないということですね
編集部・天野

編集部・天野

ええー!!
加谷さん

加谷さん

これから、いい話は何もないです。内閣府も2020年以降の成長率見通しを下げちゃったんですよ。

ニトリの似鳥昭雄会長なんて「2018年で終わりだ。大不況がくるぞ」と言ってるぐらい。感度の高い財界人はかなりキビしめに見ていますね
出典

Rodrigo Reyes Marin/アフロ

都心への出店が話題になっているニトリだが…
編集部・天野

編集部・天野

結局アベノミクスでは大企業がうるおって、トリクルダウンはしないということなのか…希望がなさすぎる…

【結論】給料には期待しないで、副業でなんとかするしかないらしい

編集部・天野

編集部・天野

つまり我々ビジネスマンは今後どうしたらいいんでしょうか…
加谷さん

加谷さん

ハッキリ言って賃上げが進む要素はありません。副業に賭けるしかないと思いますよ
編集部・天野

編集部・天野

そ、そうか、政府も副業解禁を打ち出してますもんね(副業を認めた「モデル就業規則」を作成予定)
加谷さん

加谷さん

本当は経団連は、副業解禁したくなかったはずです。企業からすれば、社員は自社の仕事だけやらせたいわけですから。

ただ、賃上げができないので労働者の収入が確保できない。政府としても「働き方改革で副業解禁します!」とアピールできる副業解禁はちょうどいい落としどころだったんです
出典

ロイター/アフロ

経団連会長で東レ会長でもある榊原定征氏
編集部・天野

編集部・天野

そんな事情が…。副業解禁って“新しい働き方!”みたいないいイメージでしたけど、会社の給料に期待できないことの裏返しでもあるんですね…




えー…ということで、まさかの「恩恵なんて来ない」という結論になってしまいました…。大人は嘘つきや…!!

加谷さんは「終身雇用制が今後20年も30年もつづくとは思わない。いずれなくなり、雇用の流動性が高まる」と話していました。

しかしそれから「新サービス登場」→「内需拡大」→「好景気」→「給料上がる」を待つなんて気が遠くなる! やっぱり副業をガンバるなど、会社に頼らずに収入アップを目指すのが、いまのビジネスマン的には正しい道のようです。

〈取材・文=天野俊吉(新R25編集部)/撮影=飯本貴子〉