ビジネスパーソンインタビュー
笑いは脳の緊張→緩和から起こる現象
笑いのセンスは磨ける? 茂木健一郎に「どうやったら面白くなれるのか」聞いてきた
新R25編集部
「面白くなりたい」って思いませんか? ドッカンドッカン大笑いをとれるようになりたいですよね。
ボクは職場でちょっとでもボケたらすぐに「スベってる」と言われ、いつも悔しい思いをしているんです。
では、どうやったら面白い人になれるのでしょうか? 人が笑うとき、脳の中で何が起こっているんでしょうか?“笑い”を科学したい!
ということで、脳科学者の茂木健一郎先生に相談してきました!
〈聞き手=福田啄也(新R25編集部)〉
笑いは脳の緊張→緩和で引き起こる現象だった。「不安」が笑いにつながる!
福田
ブギギギッ! いつも「面白くない」って言われて悔しい!
みんなを大爆笑させたいんですが、どうすればよいんでしょうか?
茂木先生
そうですか…。笑いというのは、恐怖や不安などのマイナスを、プラスに転換するために脳が発達して生まれたという説もあります。
そして、笑いとは「脳の緊張が緩和することで引き起こる現象」。そのメカニズムを理解できれば、面白くなれるんじゃないですか?
福田
脳が緊張? もう少し具体的に教えていただけますか?
茂木先生
笑いで一番古典的だと言われれているのが、“くすぐり”です。
くすぐりって、自分で自分の体を触ってもくすぐったくないですよね。でも、他人にくすぐられると笑ってしまう。
脳にとって「他人に体を触られる」というのは、怖いことなんです。それが、「これは悪いことではないんだ」って解釈が好転して緩むので、つい笑ってしまうんですよ。
ノートを真面目にとっているようなヤツは、はたして面白くなれるのか…
福田
くすぐりでなぜか笑ってしまうのは、そんなメカニズムだったんですね。実際に、話で笑わせたいときは何を意識すればいいんですか?
茂木先生
脳内が緊張しやすいのは、“わからないもの”に直面したときです。答えがわからないものに直面すると脳は強張り、それが何物かわかったときに緩みます。そのギャップで笑いが起こるんですよ。
だから、笑いは人が持っている「不安」と結びついている。それぞれの人生のステージにおける「新しい不安」などに伴うことが多いんです。
福田
人生のステージにおける不安…
茂木先生
たとえば、子どもってトイレネタでゲラゲラ笑うじゃないですか。それはトイレや排泄が、子どもにとっては新たな発見であり、不安だから。
R25世代なら、会社や人間関係、恋愛やセックスなどに不安を感じ、「わからない」という人が多いですよね。だからそういう話題なら笑いが取りやすい。
お年寄りなら年金とか老いとか。それぞれの世代で必ず“課題”になる旬ネタがあるんですよ。
福田
なるほど! 言われてみればそうかもしれません。
笑いは本能だけでなく、文化によっても成立する。日本は「同調圧力の笑い」が多い
福田
漫才を見て笑ってしまうのも、脳の緊張が関係しているんですよね?
茂木先生
そうです。漫才だと、ボケがわけわからないことを言って観客の脳を緊張させ、それをツッコミが緩和させているんです。
たとえば、ウーマンラッシュアワーの村本さんが過激なことを言って、それを中川パラダイスさんが常識的なほうにもっていくとか。
ほかにも、世界のなかでも日本は「同調圧力」を使った笑いの文化が優れていますね。
福田
そこまで考えたことがなかったです。日本特有の笑いというものがあるんですね。同調圧力というと…?
茂木先生
昔、テレビで片岡鶴太郎さんが、時代劇みたいな設定で、子分に熱々おでんを食べさせられるっていうコントをやってたんですよ。
親分の鶴太郎さんは本当はおでんを食べたくないのに、子分たちに無理やり食べさせられちゃって、我慢しておいしいフリをしている。
そういう笑いは、日本人の同調圧力が生み出しているものですね。
福田
リアクション芸とかは、まさに同調圧力を感じます。
茂木先生
昨年のM-1でも、和牛が旅館の仲居さんとお客さんのネタをやったじゃないですか。
あれも、「仲居さんとお客さんが気を遣いあう」っていう日本の「同調圧力」が前提にあるから成立する笑いですよね。西洋式のホテルだとホテルマンにあまり気を遣わないじゃない。
国の文化によっても、「何を面白いと思うか」は大きく変わるんです。
「あの漫才は面白かったよね」
笑いのセンスとは、自分が相手からどう思われているのか客観視できる能力
福田
よく笑いにはセンスが必要だと言いますが、ぶっちゃけ「笑いのセンス」って本当に存在するんですか?
茂木先生
笑いのセンスは存在します! 僕らの領域では「メタ認知」と呼んでいますね。
メタ認知…?
茂木先生
脳の前頭前野が行う、自分を客観的に見る能力のことです。
福田
そのメタ認知がどうやって笑いにつながるんですか?
茂木先生
人に面白いと思われるには、意外性を突かないといけません。
自分がどんなことを言えば、相手の脳を緊張させられるか…と知るためには、メタ認知が優れていないといけませんね。
福田
なるほど。例えば、自分が周りから怖いと思われているとしたら、意外性を狙って“自虐ネタ”を言えばいいってことですね。
茂木先生
そうです。「この人急に何言い出すんだ…?」って脳を緊張させられるので、笑いにつながるはず。
もともと他者から「怖くない」と思われていたら、自虐ネタはしらけるだけですよね。
笑いのセンスは先天的? 実際に鍛えられる方法はあるの?
福田
笑いのセンスというのは、先天的に備わっているものなのでしょうか?
茂木先生
ドーパミン系の働きなど、一部は遺伝で決まると言えそうですが、メタ認知能力は磨くことができますよ。
福田
よかった…。メタ認知はどうやって磨けばいいんです?
茂木先生
その方法は教科書的になっちゃうけど、「他人という鏡」を使わないといけません。
ボクの場合は、落ち着きがないっていうのが圧倒的な欠点なんですが、これはずっと自分の中では「普通だろ」って思っていたんです。
それが、他人と比べて初めて欠点だとわかりました。
福田
確かに、人に指摘されて初めて自分の欠点がわかることが多いですね。
茂木先生
そういうこと。だから、なるべく自分と違うタイプの人と出会わなければいけない。そこで、違和感を抱くことで、自分を客観視するきっかけが出てくるんですよ。
福田
その蓄積で、自分が周りからどう見られるのか、どう思われやすいのか、ということを確実にしていくと。
そうすれば、相手の脳を緊張させる意外性を生み出しやすくなるってことですね。
「ツイッターで炎上しちゃうのもボクの欠点だよな…」って最近わかったそうです
笑いのIQも存在。適切な笑いを提供するには、とにかく事例をインプットすること
茂木先生
あと笑いを生み出すには、センスに加えてIQが必要です。
福田
センスとは違うんですね。IQが高いと、どんなメリットがあるんですか?
茂木先生
IQは、笑いのパターンをどのくらい知っていて、それをちゃんとアウトプットできるか…ということで測れます。その場に合わせた笑いをちゃんと提供できる人は、笑いのIQが高いと言えますね。
あとは、“間”をちゃんととれる人も笑いのIQが高いです。
福田
間をとる。
茂木先生
プロのステージって何か言った後に十分な間を置くんですよ。それだと最初ウケてなくても、だんだん客が面白さに気づいて、どんどん大爆笑になるんです。
笑いのIQの低い人は、ボケた後にすぐ不安になって「今のダメだったかな」って言っちゃうんですよ。あそこでこらえることができるのも、プロの間を知っているということになります。
福田
ボクは確かに何かしゃべった後に、その場がシーンとなると、「今のはナシで!」ってすぐに回収しちゃいます。それじゃダメってことですね…
では、そのIQを高めるためにはどうしたらいいですか?
茂木先生
とにかくいろんな笑いを見ることに尽きます。どんな話し方が面白いとか、どんな切り返しが評価されるとか、そういうところを意識してください。
笑いに詳しくなることは、面白いものを人に提供するための必須事項です。
「お笑い番組とかYouTubeを見て意識的に勉強してください」
結論:みんなが不安に思っていることを“リスクを取って”笑いに変えろ!
福田
今回の話をまとめると、笑いとは、不安→緊張という作用がトリガーになっている。
そして面白い人間になるには、自分のキャラクターを認識し、たくさんのパターンをインプットしなければならない…ということですよね。
じゃあ、こういうことを言えば必ずウケる!という答えはないんですか?
「話聞いてなかった?」っていう顔をされました
茂木先生
最初に言った通り、「笑い」とはもともと、危機やリスクなどネガティブな状況と密接に関係していいます。
だから強いて言うなら、笑わせたい人が不安に思っていることをいじれば、笑いが起こりやすいんです。
福田
会社だったら、みんなが怖いと思っている上司をいじればいいってことですかね…。でも、それをやったら怒られません?
茂木先生
やってみないとわからないですよ。
あるアメリカのコメディアンは、笑いって外科手術に似ているって言っています。外科手術って練習できないじゃない? それと同じで、コメディアンって何がウケるかステージに立たないとわからないからね。
そのリスクを取れる人になれれば、面白い人になれると思います!
面白い人になるには、リスクを取らないといけない。つまり、たとえ「スベってる」って指摘されても、めげずにチャレンジしつづけないといけないんですね…。
大爆笑は一夜にしてならず。今日も帰りに「ドキュメンタル」を見て精進していきます!
〈取材・文=福田啄也(@fkd1111)/撮影=冨永智子〉
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