ビジネスパーソンインタビュー

魅力はコスパだけじゃない。3000軒の大衆酒場を飲み歩いた男が語る「想像を超えた体験」

大衆酒場で超一流のフレンチも?

魅力はコスパだけじゃない。3000軒の大衆酒場を飲み歩いた男が語る「想像を超えた体験」

新R25編集部

2018/09/25

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私はお酒が好きなんですが、いまだに開拓できていないのが、浅草や上野、赤羽に多くある、赤提灯を掲げた“大衆酒場”と呼ばれる飲み屋。

会社の近くになかったり、「ハズレたら怖い」と思ってしまったりして、友人と飲むときにはついついお手頃かつ無難なチェーン店で済ませがち…。

そこで、大衆酒場を紹介するエッセイ『酒場っ子』(スタンド・ブックス)の著者であり、休肝日年間0日(?)&これまで訪れた大衆酒場は計3000軒(!)、無類の「大衆酒場オタク」であるパリッコさんに、その魅力を時間の許す限り語ってもらいました。もちろん、居酒屋で。

〈聞き手:宮内麻希(新R25編集部)〉

【パリッコ】DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター、酒場ライター。酒好きが高じ、雑誌やWEBなど、様々な媒体でお酒や酒場に関する記事を執筆中。著書に『酒場っ子』(スタンド・ブックス)『晩酌百景』(シンコーミュージック・エンタテイメント)『酒の穴』(シカク出版)など

パリッコさん

すみませ~ん、ホッピー中(ナカ)ください!

※パリッコさんはこの日、お仕事の関係で先に飲んでいたので、ほろ酔いの状態で取材がスタートしました。

宮内

生、お願いしま~す!

酒場っ子』、表紙がビニールになってますよね(笑)。この理由、居酒屋で1人読んでるときに気がついたんです。

パリッコさん

気がつきましたか!

宮内

テーブルの上に置いても、お酒で濡れないように(笑)。

こんな感じで、飲みながら読めます

「こんなに飲んで2000円!?」偏愛の原点は、20代で訪れた高円寺「大将」

パリッコさん

宮内さんくらいの年齢(24歳)だと、大衆酒場ってあんまり行かないですか?

宮内

開拓したいとは思ってるんですけど、なかなか…。やっぱりチェーン店が多くなってしまいますね。

パリッコさん

僕も20代のころは、“酔っ払ってワイワイすること”に酒を飲む楽しさを感じていて、2時間の飲み放題に数品ついて3000円ちょっとのチェーンによく行ってました。

でもある日、友達と「たまには違うところで飲むか~」と話しながら、高円寺の「大将」という大衆酒場を見つけて、ふらっと入ってみたんです。

パリッコさん

そしたらね、焼き鳥とお酒をたらふく頼んでお会計がたったの2000円で。しかもこれまでのチェーン店より、ずっとおいしかったんです。

え、こんな世界があるの!?」って驚いて。

宮内

それがパリッコさんの大衆酒場偏愛の原点なんですね。

パリッコさん

そこから、大衆酒場にハマりました。

ちなみに「大将」の焼き鳥は、すべての大衆酒場における平均かつ理想というか、サイズも値段も味も、「これこれ!」って納得できるよさがあるんですけど…

話すと長くなりそうなので、ぜひ行ってみてください。

「いい店を見つける嗅覚」なんてない! まずくても “個性”を楽しむ姿勢が大事

宮内

なんとなくなんですが、大衆酒場って「料理のあたり/はずれ」が激しそうなイメージがあって、なかなか挑戦できなかったりするんですよね。

パリッコさん

うなぎ屋とか、洋食屋みたいな専門店でおいしくなかったら、腹がたってしまうと思うんですけど、大前提として大衆酒場で楽しむべきは、そういうところじゃないんです

このうずらの卵の煮物みてください。これが、スイーツみたいに甘かったらどうです?

宮内

えっ!? 気持ち悪いですね…

パリッコさん

僕はね、「超ラッキーだな」って思うんですよ。おっもしれ~って。

宮内

ホントですか? さすがに「まずっ」てなりません…?

パリッコさん

大衆酒場って、お店ごとの個性を楽しめるのがいいんですよ。そこの大将とか、お客さんの人柄とか、味付けのクセとか。

だから、純粋な美味しさとは違う「良い味」というものがあると思うんです。

パリッコさん

いろんな大衆酒場を渡り歩いて、記事を書いていると、「いいお店を見つける嗅覚はどこで養ったんですか?」ってよく聞かれるんですよ。

でも、そんなのなくて。というか、ないのが魅力なんです。

だから、「まずいことを楽しめ!」っていう姿勢しか伝えられない(笑)。

宮内

いつも隠れた名店を紹介されているので、見極めるワザがあるのかと思ってました。

パリッコさん

あえていえば、僕が重要視しているのは、地域に根付いているかどうかです。

外から見てわかりやすいのは、のれんの年季入り具合。古いほど、昔からつぶれずにやってきたわけだから、「地域に愛されてる、まちがいない」っていう安心感にもなるんです。

「安くてうまそう」という視点じゃなくて、「ここは他と違うのでは?」という視点でお店を選んでみる。そうすると結果的に、面白い人や、そこでしか食べられない奇跡の料理に出会えるんですよね。

超一流のフレンチが出てくる!? 想像を超えた体験が待っているかも

パリッコさん

西武新宿線の武蔵関という駅に、汚いっていうと失礼なんですけど、煤(すす)けた「丸忠」っていうお店があって。

宮内

煤けた(笑)。

武蔵関って、これまたマイナーな駅ですね。

パリッコさん

そこにね、坊主頭でねじりはち巻き姿の「ザ・居酒屋の大将」がいるんですけど、ノッてくるとスピリチュアルとか宇宙の話をしてきたりして

もう、怪しさMAXじゃないですか(笑)。

宮内

私だったら、ひよってごはんを頼めないかも…

パリッコさん

店内はあきらかに大衆酒場なのに、ところどころ洋食屋にありそうなメニューがあるんです。そのなかに、オムレツ(300円)があったので、試しに頼んでみたんですよ。

そしたらね、これがもうすごい

出てきたのは美しいくらいに継ぎ目のない、なめらかな表面の芸術的なオムレツ。食べてみると、バターの香りがきいていて、プルップルのトロトロなんです。

宮内

中目黒のバルでもそんな完璧なオムレツなかなかないですよ…

パリッコさん

それがよくよく聞くとその大将、「ナポリタン発祥の店」で知られる横浜の有名レストランでフレンチシェフを務められていたそうなんです。

しかも、伝説と言われていた料理人の弟子だったという噂もあって。

宮内

すごい! そんな人がまさか、武蔵関の横丁でねじりはち巻きしてるなんて思いませんね(笑)。

パリッコさん

若いうちは高いお店に行くのは難しいから、そういうところにデートで行ったら最高じゃないですか?大衆酒場で一流のフレンチですよ(笑)。

パリッコさん

大衆酒場だと、そんな自分の想像を超える体験に出会えるんです。

そういう体験って、まるで良作な文学小説を読みきった後みたいな、自分の糧になったような気持ちになるんですよ

大衆酒場の「常連」にビビったら、「同じのひとつ!」で乗り切る

宮内

我々が大衆酒場に入りにくい理由のひとつが、「一見で入ると、常連さんだらけで気まずくなりそう」ってことなんですよね…

そういうときはどうしたらいいですか?

パリッコさん

僕もよくありますよ。

そういうときに常連さんと仲良くなる秘策は、隣の人がなにかを注文した瞬間に、「あ、僕もそれひとつ!」って、さりげなく同じものを頼むんです。そうすると、そこから会話がはじまる。

宮内

なるほど~。

でも、人見知りでそれすら厳しいって人はどうしたらいいですかね?(笑)

パリッコさん

そういう時はね、短冊を見てるといいですよ

宮内

短冊!?

パリッコさん

よく、店内の壁にメニューが貼ってあるでしょ。ほら、ここのも面白いですよ。

パリッコさん

煮込みがメインのお店なのに、突然うなぎがあったり。

宮内

本当だ~。よく見ると変なメニューもちらほら…

パリッコさん

飲み食いしながら眺めてると、「あれ? こんなのあったっけ?」っていう発見が永遠に繰り返されるんです。

これなら、常連さんの会話に入れなくても、「自分は短冊メニューを見ている男だ」っていうアピールもできるから、さみしい感じが出ないでしょ。

店だけにとどまらず…“チェアリング”で最高の酒場をつくろう

パリッコさん

少し前に、同じく酒好きライターのスズキナオさんと一緒に、「自分たちで最強の飲酒シチュエーションをつくったらいいんじゃないの?」って話になって。

そこで考案したのが、“チェアリング”なんです。

宮内

チェアリング…?

パリッコさん

自分の好きな場所にマイ椅子を置いて、景色をつまみに飲む活動です。

浅草ならスカイツリーを見ながらチェアリングできるので、よかったら一緒にどうですか?

宮内

ぜひ! お願いします!

というわけで、移動を開始…

パリッコさん

あ、そこのコンビニでお酒を買ってきますね。

宮内

チェアリングに最適なお酒ってあるんですか?

パリッコさん

カップ焼酎と、割材としてソフトドリンクを500mlペットで買うことをおすすめしてます。理由は後ほどわかるかと!

今回は、炭酸水と紅茶を用意しました。炭酸割と、紅茶ハイができますね。

宮内

でも、そのキャンプ用の椅子持ち運ぶの大変じゃないですか?ベンチではダメなんでしょうか…

パリッコさん

ベンチだと、もう場所が決まってるじゃないですか。

チェアリングは、自分が選んだ場所と空間のなかに、自分の椅子でパーソナルスペースをつくるんです。実際にやってみるとわかりますけど、ベンチじゃこの感動は味わえないんですよね。

パリッコさん

川沿いがいいですね。よし、この辺で。

宮内

あ、なるほど!

先にペットボトルのソフトドリンクを少し飲んで空間をつくってから、そこに焼酎を入れるのか…!

パリッコさん

そうそう。自分の好きなチューハイをつくることができて、しかもフタつきなので簡単に持ち運べるし、こぼしにくい。チェアリングにぴったりなんです。

椅子は3段階リクライニング付き(ホームセンターにて2000円で購入)

宮内

(さけるチーズ、そうやって食べれば手が汚れないんだ…)

ちなみに、チェアリングする際の注意点ってありますか?

パリッコさん

一番は場所ですね。街中はお酒が嫌いな人もいるので避けるべきです。

公園や河原、水辺なんかでやるのが最低限のマナーですね。

パリッコさん

あとは装備。キャンプではないので必要最低限にしましよう。

いや~、目の前にスカイツリー、贅沢ですよ。

「船がかっこいいですね!ほら!」

パリッコさん

これすごいのがね、座った瞬間にさっきまで見ていた風景が、急に自分だけのものに思えてきて

まるで、自分の居場所を開拓していく感覚なんです

パーソナルスペースが完成しています

宮内

“自分だけの風景”…。そんなに没頭できるものなんでしょうか。

パリッコさん

座ってみてください。

あ…すごい

宮内

語彙力がなくてうまく表現できないのが編集者として悔しいけど…

これは、パーソナルスペースだ!!

…というわけで、大衆酒場の知られざる魅力から「自分だけの飲酒スペースのつくりかた」まで、たっぷりお伺いしてきました。

これまで自分も無類のお酒好きだと自負していましたが、酒の道を突き詰めているパリッコさんを目の当たりにし、安易に酒好きを名乗っていたことを反省しております。

ちなみに、パリッコさんが初心者におすすめする大衆酒場は、上野にある「大統領」とのこと。私も早速、今週末にでも行ってみようと思います!

〈取材・文=宮内麻希(@haribo1126)/撮影=土田凌(@Ryotsuchida)〉

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