ビジネスパーソンインタビュー
お風呂客より、サウナ客を狙うべし
「こうやってハマってもらうんです」温浴業界最強コンサルタントが明かす“儲かるサウナのウラ側”
新R25編集部
最近、若いビジネスパーソンの間でブームになっている“サウナ”。ただ、熱狂的な愛好家が存在する一方で、まだそのよさを理解できないR25世代がいるのも事実。
そこで11月の特集「サウナ、イカナイ?」では、さまざまな角度からサウナの魅力を徹底解剖していきます!
みなさん、「安い銭湯やサウナって、ビジネス的にどうやって成り立っているんだろう?」と気になったことはありませんか?
これまで3つの記事を通じてさまざまな角度からサウナの魅力を伝えてきましたが、最終回のテーマは「サウナビジネスのウラ側」。
「温浴業って、そもそも儲かるビジネスなの?」
「儲かるサウナと儲からないサウナは何が違うの?」
そんな疑問を“温浴業界最強コンサルタント”として日本各地の施設を黒字に導いてきた、(自称)サウナ王・太田広さんにぶつけてきました。
〈聞き手=渡辺将基(新R25編集長)/文=サノトモキ〉
【太田広(おおた・ひろし)】船井総合研究所でチームリーダーとして活躍後、 独立。温浴施設のコンサルティング業務を中心 に行う株式会社楽楽ホールディングスを設立、同社代表取締役。これまでの400施設以上のコンサルを行い、黒字化に導いてきた
銭湯って、どうしてあんなに安いの? 儲からないと思うんですが…
渡辺
サウナに入るために銭湯に行くといつも思うんですけど、あんなに安くてやっていけるんですか?
サウナ王
やっぱり不思議に思いますよね(笑)。実は、銭湯はさまざまな形で行政に守られているんです。
水道代が安かったり、固定資産税が減額されたり、補助金が出たり。お金も通常の金利よりも安く借りられます。
渡辺
そうなんですか。どうしてそんなに優遇されてるんでしょうか?
サウナ王
もともと銭湯って、国民の生活向上を目的につくられたものなんですよ。
昔は日本中どこにもお風呂がなくて、よほどのお金持ちしか入れなかった。でもそれだと不衛生だし病気にもなってしまうということで、町の銭湯ができました。
石油王ばりの貫禄があるサウナ王
サウナ王
だから、あくまでも一般の国民が入れるような料金じゃなきゃダメだということで、公衆浴場(※)は、物価統制令によって低料金になってるんです。
※温浴施設は公衆浴場法に基づき、銭湯と呼ばれる「公衆浴場」とスーパー銭湯や健康ランドのような「その他公衆浴場」に分けられるが、「公衆浴場」は物価統制令によって都道府県ごとに入浴料の上限金額が決められている。
渡辺
なるほど。だから東京の銭湯はどこに行っても460円以内なのか。
サウナ王
はい。銭湯は国民の衛生上必要な施設として、行政からサポートされているからこそ成り立っている部分もあるんです。
ただ、それでも毎年後継者不足やエネルギーコストの高騰により、廃業する銭湯が後を絶たない状況ではあるのですが。
温浴施設ってどれくらい儲かるの? →年間売上10億超えの施設も
渡辺
銭湯がなんとかやっていけるのはわかったのですが、実際のところ儲かるビジネスなんですかね?
サウナ王
私のクライアントはスーパー銭湯などの「その他温浴施設」が多いので、そちらメインの話になってしまうのですが、繁盛店では一施設で年間売上10億円を超えることもあります。
渡辺
一施設で!? 想像と桁が違いました。
サウナ王
儲かってるところで月間売上が7000~8000万円くらい。利益はだいたい売上の20~30%ですね。
一方で、繁盛していないお店は月の売上が1000万円程度です。
サウナ王
温浴施設って、お客さんが0人だろうが100人だろうがお湯は沸かさなきゃいけないじゃないですか。
そうなると、数百万から1000万くらいの「お湯を沸かすためのエネルギーコスト」が毎月固定で発生するわけです。
この壁を大きく超えられるような売上を出せるかどうかが、勝敗の分かれ目なんですよ。
渡辺
なるほど、その損益分岐点を超えたらどんどん儲かっていくビジネスなんですね。
儲かっている温浴施設は「サウナ客」にフォーカスしている
渡辺
では、どうすれば「儲かる温浴施設」になれるんでしょうか?
サウナ王
結論から言うと、ポイントは「サウナ」です。
ようやくサウナの話ができてうれしそうなサウナ王
サウナ王
温浴施設にはお風呂好き・サウナ好きのお客さんの両方が来ますが、私のクライアントが成功しているのは“サウナ客に注力にしているから”なんです。
渡辺
お風呂メインで来る人も多い気がするんですけど、なぜサウナ客にフォーカスすべきなんですか?
サウナ王
まず、サウナは壊れにくいんです。浴槽だと、ろ過機や熱交換器などいろいろな機械が稼働しているので、3年も経てばどこかしらに設備不全が起きてしまうんですよ。
一方でサウナに必要なのは、電気サウナなら電気、ガスストーブだったらガスだけ。よほどのことがない限り動かなくなるということがないんですよね。
渡辺
なるほど、勉強になります。
サウナ王
あとね、サウナはお客さんをハメやすいんです。
渡辺
ハ、ハメ…?
サウナ王
サウナ→水風呂→休憩というサイクルを繰り返すと、身体を興奮モードにする「交感神経」とおやすみモードにする「副交感神経」が交互に刺激されて、身体が快感を覚えていきます。
こうして一度でも快感を味わってしまうと、人はそこから抜けられなくなるんです。
だから、お風呂客よりサウナ客のほうが浮気しないんですよ。
サウナ王
さらに、副交感神経が働くと、今度は食欲がわいてくる。汗をかくから、お酒も飲みたくなる。サウナの中だけで「食べたい、飲みたい」という状況を作れるんです。
実際にサウナ客は、お風呂目的の人と比べて3倍近くお金を使う傾向があります。
渡辺
お風呂客とサウナ客でそんなに客単価が違うんですね。
選ばれるサウナになるためのポイントは、0.1℃単位の絶妙な温度調整
渡辺
サウナ客にフォーカスしている施設のなかでもうまくいっているところとそうでないところがあると思うのですが、「選ばれるサウナ」になるにはどうすればいいのでしょうか?
サウナ王
一番大切なのは「温度」なんですよ。
渡辺さん、サウナや水風呂の温度って施設ごとに固定されていると思ってませんか?
渡辺
え、違うんですか?
サウナ王
こだわっているところだと、サウナ、水風呂、その他のお風呂のトータルバランスを考慮して、お客さんの反応を見ながら、0.1℃単位で温度調整しています。
1日のなかでも昼と夜で温度を変えたり。
ちなみに、サウナー・非サウナーの両方を取り込める水風呂の温度は16℃だそう
渡辺
そこまで地道なことを…そんなに温度って大事なんですか?
サウナ王
はい。
たとえば「サウナ」「水風呂」「不感温度バイブラ」の絶妙な温度調整、そしてサウナを出たあとの「食事」で利用客がハマる流れを完璧につくっている施設は、客が離れません。
渡辺
あ、やはり「不感温度バイブラ」は重要なんですか。自分も大好きですが。
※不感温度バイブラとは、人間の体温と同じくらいの水温で、熱くも冷たくも感じない気泡浴のこと。
サウナ王
サウナと水風呂で交感神経を緊張させたあと、温度変化がなく副交感神経しか働かない不感温度バイブラに入ると、ものすごいリラックス効果があるんですよ。
さらに、身体に当たる気泡の不均一なリズムが「1/f揺らぎ効果」を生んで更なる快感へと導き、より深くハメられます。
人間の身体についても知り尽くしているサウナ王。「ハメる」を連発しすぎて怖い
サウナ王
温度調整まで含めて、この「お客さまがハマる流れ」がきちんとできている施設って意外とないんですよ。どこかで間違えちゃうんです。
だからこそ、それがきちんとできていれば「他にも美人がいるんじゃないか」と浮気しかけたお客さんも、「やっぱりこの子だ」と戻ってくるんです。
渡辺
そのうえ、食事で胃袋までつかまれちゃったら…
サウナ王
「美人なだけじゃなくて、料理もうまいじゃん!」って。
そうなったらもう、抜け出せませんよね。
渡辺
(これは自分も知らぬ間にサウナ王にハメらていた可能性がある)
「日本初」をつくるのは難しくない。面白ければSNSで拡散してもらえる
渡辺
他にも選ばれる温浴施設になるためのノウハウはありますか?
あまりお金をかけられない施設もありますよね。
サウナ王
そういう場合は、他にはないコンテンツをつくって、一点突破を図るといいです。
施設としての総合力が足りなくても、「日本初」とか「東京一」と言われると一回行ってみようかなと思いませんか?
渡辺
たしかに、“他では経験できない感”を出されると気になりますね。
サウナ王
たとえば、僕がコンサルしている熊本の『湯らっくす』は、施設としては決して大きくないんですけど突出しているものがあって。
渡辺
それは何ですか?
サウナ王
水風呂の深さが、171㎝なんです。
提供画像
渡辺
それ、溺れますよ(笑)。
サウナ王
日本人男性の平均身長です(笑)。
提供画像
『湯らっくす』のTOPページに出演しているサウナ王
渡辺
でも、サウナのあとにそこに頭まで入ったらめちゃくちゃ気持ちよさそうですね…
ただ、そういう「突出したもの」ってそんなカンタンにつくれますかね? ネタ切れしちゃいそうだなと。
サウナ王
そうですか?「日本一」をつくるのは難しくても、「日本初」ならいくらでもつくれますよ。
ポイントは、施設を運営する人の“好きなもの”と掛け合わせることです。将棋好きなオーナーだったら、岩盤浴のなかで将棋をするイベントをやるとか。
渡辺
なるほど。それならつくれそうですし、そういう熱量って利用者に伝わりますもんね。
サウナ王
はい。今は無理に広告を打たなくても、面白いもの、いいものをつくればSNSを通してお客さんに拡散してもらえるから、実は小さな施設こそチャンスがある時代だと思います。
人気メニューの味をちょっと濃くしてパクる!? 地域の繁盛店を研究せよ
サウナ王
あとは、サウナ以外も含めた“地域の繁盛店”を研究するのも大事ですね。
渡辺
サウナ以外の繁盛店?
サウナ王
町で一番繁盛している飲食店や施設などに実際に行って、人気の理由を調べるんです。
そこには必ず、「この町の人に選ばれるヒント」がありますから。
サウナ王
わかりやすい例で言えば、成功してるレストランの人気メニューをパクるとか。
渡辺
パクる(笑)。
サウナ王
そうです。とにかくいいものを全部フィードバックするんです。それが成功しているんだから、まずはアレンジしたりせずにそのまま持ってくる。
渡辺
でもそれだけじゃダメのような気もしますが…
サウナ王
サウナで副交感神経を働かせたあとは食欲が増進していますから、普通のお店で食べるときより美味しく感じるんですよ。
渡辺
同じメニューを出しても、サウナだからこそのアドバンテージがあると…!
サウナ王
さらに言うと、そのうえで料理の味をちょっとだけ濃くしてみると良いです。
サウナで汗をかくと塩分が失われるので、身体は塩分を求めます。
そんな状態で、町一番の人気メニューをちょっと濃い味つけで用意されたら…
(じゅるり)
渡辺
…ハメられちゃうわけですね。
サウナ王
ということです。このようにして、いろいろな角度からサウナ客の心をつかむ努力が温浴施設の経営には必要なんです。
まだまだノウハウはありますが、これ以上は企業秘密ということで(笑)。
温浴施設が勝ち残るカギはサウナにあると知った今回の取材。普段気軽に入っていたサウナが、お客さんを“ハメる”べくここまで徹底して考え尽くされている空間だったとは思いもしませんでした。
取材後、「これからはサウナに入っていても常にサウナ王の顔が浮かんでしまいそうだ」と頭を抱えていた編集長の渡辺も、きっとまた今日も帰るべきその場所へと足を運んでしまうことでしょう。
ぜひみなさんも、“一度ハマったら抜け出せない”サウナの世界へ!
〈取材・文=サノトモキ(@mlby_sns)/取材=渡辺将基(@mw19830720)/編集・撮影=宮内麻希(@haribo1126)〉
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