ビジネスパーソンインタビュー
どんな状況でも、「熱意」を持つ方法とは
漢字も掛け算もスーパーで覚えた。小学校中退から社長になった男が選んだ「極端な働き方」
新R25編集部
仕事をしているなかでふと、「がんばるの、疲れたなぁ…」と思うこと、ありませんか?
私はあります。そんなときにどうやってモチベーションを取り戻せばいいのか、悩んでいました。
小学校中退、非行からの施設への強制収容というなんともドラマチックな人生の服部玲央さんは、スーパーのアルバイトからキャリアをスタート。
週7×14時間で働き、「異常な熱意で働くスタッフがいる」と地域で話題になったのがきっかけで、コンビニオーナーから引き抜きを受け、現在はコンビニチェーンを10店舗展開する会社の社長になりました。
なんでそんなにがんばれるの? 異常な熱意で働き続けることができる、モチベーションの源は一体?と気になったので、お話を聞いてきました。
〈聞き手:ライター・中村英里〉
もともとアメリカで育ったためか日本の学校が合わず、6日で登校拒否に…
【服部玲央(はっとり・れお)】1978年5月2日、兵庫県生まれ。15歳のときにスーパーマーケットでアルバイトを始める。19歳から大手コンビニチェーンで働き始め、20歳で店長、23歳でオーナーとなる。2008年に株式会社LEOXを設立。現在は神奈川県にコンビニエンスストアを10店舗展開
中村
小学校を中退されたとのことですが、どのくらい通っていたんですか?
服部さん
小学校1年生と2年生で合わせて6日くらいですかね。いくつか授業を受けてみて、合わないなと思って学校に行かなくなりました。
中村
6日って…! かなり早いですね。合わないというのは、どんなところが?
服部さん
もともと父の仕事の都合でアメリカにいて、そちらの学校に通っていたんですが、アメリカのゲーム感覚で楽しみながら学ぶスタイルと、日本の学校があまりにも違っていて。
最初に受けた算数の授業で、九九をひたすら暗唱させられたときに、何だこれは!? とびっくりして、そこで拒否反応が出てしまったんです。
中村
学校に行かないで、どう過ごしていたんですか?
服部さん
私が住んでいたのは不良が多い地域で、日中ぷらぷらしていたら、不良の人たちにかわいがられるようになって、そのうちつるむようになりました。
非行のニオイがしてきましたね
服部さん
友達のお兄さんに借りた原付に、小2で乗ったりもしていましたね。公道じゃなくて、敷地内で乗るくらいでしたけど…まぁいいことではありませんよね。
学校にろくに行かないし、当時は不良ブームで髪型もパンチパーマにしていたので、私自身も「不良予備軍」のように見られていました。
中村
ご両親は「学校に行け」とは言わなかったんですか?
服部さん
もちろん、何度も言われましたよ。でもそのたびに「絶対に行きたくない」と言い合いになって、だんだん親に対しての反抗心も芽生えてきて、ますます荒れていきました。
施設からの脱走! リーダーの「お前は馬鹿じゃないから、仕事をがんばれ」の言葉を胸に…
服部さん
それで10歳になったころに、全寮制の施設に強制的に入れられました。
両親は、荒れていく息子を見て、手に負えないと思ったんでしょうね。私としては、親から捨てられたような気持ちになって、ますます心がすさんでいきました。
中村
どんな施設だったんですか?
服部さん
「教育施設」という名目でしたが、実際はお金をもらって子どもをあずかるだけの場所で、なかなかひどい環境でしたよ。
しょっちゅう流血騒ぎの喧嘩もありましたし、職員からしつけと称して殴られることもありましたね。
中村
ええ…それはハードな環境ですね…
服部さん
でも、自分はそこまで被害を受けずにすみました。
施設には2つの派閥があって、片方の派閥のリーダーが、地元が近くたまたま顔見知りだった、カタギリさんという人だったんです。
中村
不幸中の幸いですね。そこで勉強はされなかったんですか?
服部さん
一応授業のようなものはありましたけど、受けたことはありませんでした。
毎日カタギリさんと一緒にいて、脱走を繰り返して、知り合いのところを渡り歩いては見つかって連れ戻され…を繰り返していました。
中村
脱走…!
その後施設を出たのは、何かきっかけがあったんですか?
服部さん
街で札付きの怖い人に、カタギリさんが目をつけられて、ひどい暴力沙汰になってしまったんです。
そのときに、目をつけられるのは自分だけでいい、と思ったカタギリさんに、「お前は本物の馬鹿じゃないから、これからは真面目に仕事をがんばれ」と言われたんです。
中村
なんと…マンガのようなエピソードですね…!
服部さん
カタギリさんは、まわりの大人が信用できないなかで毎日一緒に過ごしていた、家族のような存在だったので、彼の一言は重く感じました。
その言葉で、施設を出て社長になろうと決めたんです。
中村
「仕事をがんばれ」から、いきなり社長を目指そうと思ったんですか?
服部さん
社会から切り離されていたので、普通の常識がなかったんですよ(笑)。
自分なりに「仕事をがんばるとはどういうことか」と考えたときに、社長=仕事をがんばっている人だから、とにかく社長にならなければ、と考えたんです。
勝手に10時間働き、採用。がむしゃらに働いたスーパー時代
中村
施設を出て、最初にスーパーでアルバイトを始めたんですよね。スーパーを選んだ理由は何ですか?
服部さん
「スーパー」という言葉が、なんかすごそう!と思ったんです。「スーパーマン」のイメージで、強そうだな、みたいな。
「なんか強そう」って…
中村
スーパーマン。まさかそれだけですか?
服部さん
ええ、それだけです。
それで、近所のスーパーに電話をしたら「今は募集してないよ」って言われました。
中村
それで…?
服部さん
私、当時はなぜか、「みんな断られるところからスタートして、そこからやる気を見せて採用してもらうんだろう」と思い込んでたんですよ。
だから、A4の紙に名前や生年月日、「働かせてください」などのメッセージを書いた履歴書とも言えないようなものを持っていって、スーパーに直談判しに行きました。
中村
なぜそんな思い込みを…
服部さん
対応してくれた副店長も、びっくりしてましたね。
「働きたい熱意は伝わるけど、常識もないヤバイやつが来てどうしよう」という反応でした。
でも可哀想に思ったのか「じゃあちょっとだけ働いてみる?」と、言ってくださったんです。
中村
ちょっとだけ、ってどのくらい働いたんですか?
服部さん
その日は勝手に10時間、全力で働きました。
中村
へ!? 採用されてないんですよね?
服部さん
そうですね。まぁ、断られるところからスタートすると思っているので、ここでがんばって採用されないと!と思っていました。
中村
働くと言っても、最初は何をすればいいのかわからなくないですか?
10時間も何をしてたんですか…!?
服部さん
自分なりに「仕事とは?」と考えて「お客さんと接することだ」と思ったんです。
それで、小さい子どもにも「いらっしゃいませ」と声をかけたり、お客様の買い物カゴを持ってあげたりする、というのを3日くらい続けていたら、「ヤバイ奴だけどお客さんへの姿勢がすごい」と評価していただけて、採用されました。
中村
そ、そんなことあるんですね…
一般常識もない、漢字も計算もできない。スーパーの仕事からすべてを学ぶ
服部さん
そこからで働きだしたんですが、一般常識もありませんし、まともに勉強していなかったので、漢字の読み書きもできないし、計算も指を使った足し算と引き算しかできなかったんです。
スーパーの仕事をするなかで、すべて学んでいきました。
中村
すごすぎる…
どうやって勉強していったんですか?
服部さん
漢字は商品のPOPづくりで学んだのですが、絵として認識して意味を紐づけて覚えていました。
たとえば「品」だったら、ダンボールが3つ積まれているイメージと結びつけて、品物の「品」だ、というように。
中村
象形文字のなりたちみたい。
服部さん
計算は、商品の在庫管理や発注で学んでいきました。九九暗唱で小学校をドロップアウトしたので、掛け算が特に苦手で。
先輩に「電卓を使ったらいい」と渡されて、そこで初めて電卓というものを知りました。こんな便利な文明の利器があるんだ!と驚きましたね。
いや、逆に電卓を知らないことに先輩が驚いたのでは
服部さん
まわりとあまりにも違う生活をしてきたので、知らないことが多すぎることに、自分自身ものすごい不安を感じていました。
早く仕事ができるようになりたい、という気持ちから、シフトの時間に関係なく、週7×14時間働いていました。
中村
14時間!? それ、スーパー側に止められたりしなかったんですか?
服部さん
もちろん、止められましたよ。でも、やめませんでした。
自分の勉強のために勝手に働いていたので、給料もシフト分しかもらわないと決めていました。
不安な気持ちからとにかく逃れたい一心で、がむしゃらに働いていました。
「接客がありえないほど親切」と話題になり、引き抜きを受けてコンビニへ
中村
そのあと、スーパーからコンビニに移ったんですよね。どういう経緯で転職したんですか?
服部さん
スーパーで働きだして4年目のときに、コンビニのオーナーさんに、「うちのお店で働きませんか?」と声をかけていただいたんです。引き抜きですね。
くわしい理由は聞いていませんが、当時自分は、地域でちょっとした有名人だったので、噂を聞いて声をかけてくださったんだと思います。
中村
ちょっとした有名人?
服部さん
接客がありえないほど親切だ、というので話題になってたみたいです。
駐車場までお客様が買った荷物を運ぶのは当たり前にやっていましたし、お母さんが買い物をしている間、お子さんの相手をしたりもしていました。
あと、万引き犯を年間400人くらい捕まえてたんです。不良とつるんでいたからか、怪しい動きをする人がすぐにわかったんですよね。
中村
すごすぎる特殊能力…
スーパーを辞めることはすぐに決めたんですか?
服部さん
実はその少し前に、スーパーから正社員にならないか、という打診を受けていたんですが「自分の目標は社長だから社員じゃない」と思って断っていたんです。社長になるための次のステップを考えたいと思っていたところでした。
コンビニはスーパーと違って部門ごとに分かれていませんし、店長になると、トイレ掃除から従業員に給料を払うところまですべてやるので、ひとつの会社を経営するようなものだなと思って、コンビニに移ることに決めました。
忘れ物を群馬まで届けたことも。コンビニでも型破りのサービスを続ける
中村
コンビニでもスーパーのときのように努力を続けたと。
服部さん
そうですね。むしろ、もっと好き勝手やっていました。
中村
好き勝手というのは、たとえば?
服部さん
宅急便を持ってきてくださる方が信号の向こうに見えたら走って預かりに行ったり、コピー機に免許証を忘れたお客様がいたら、横浜から群馬まで直接届けに行ったり。
あと、花粉症の時期に、店で一番高級な箱ティッシュを開けて「ご自由にどうぞ」と書いていろんなところに置いていたこともありますね。
中村
そんなコンビニ見たことないです。
服部さん
ちなみに箱ティッシュを置いたときは、花粉症の人たちは喜んでくださったうえに、高級ティッシュの売り上げが400%に伸びたんです。
中村
へえー! すごい!
それって、ちょっと狙ってやったところもあったんでしょうか?
服部さん
いえ、まったく。お客様に喜んでほしいという気持ちだけでやったことでした。
人に認められない人生を送っていたので、「認められたい、誰かに必要とされたい」という気持ちが人一倍強かったんでしょうね。
中村
なるほど。
服部さん
「働く対価」として「お金」がありますが、自分にとっては誰かが喜んでくれたり、ありがとうと言ってくれたりすることが、ものすごく大きな対価だったんです。
損得勘定なしにサービスにこだわったことで、結果として店の売り上げも伸びましたが、目先の利益を考えていたらこの結果にはつながらなかったでしょうね。
ついに社長に!「自分の器が大きいほうが、人生を楽しめる」
中村
社長になったのはいつごろですか?
服部さん
30歳のときですね。それまでは個人事業主としてオーナーをやっていましたが、2店舗目を展開するタイミングで、会社を設立して「社長」になりました。
それ以降は家族もできましたし、休みを取るようになりましたが…。やっぱり昔のクセでつい全力投球で働いてしまう、というときも多々あります。
中村
服部さんがそんなに全力で働きつづけられるモチベーションの源ってどこにあるんでしょうか?
服部さん
そうですね…成長すること自体が面白い、というのが一番ですかね。
自分の器を少しずつ大きくしていくようなイメージです。
中村
器、ですか?
服部さん
人間の器って、生まれた時はみんな同じ大きさだと思うんです。器が大きい人と小さい人の違いは、いっぱいいっぱいになって、そこを乗り越えた経験がどれだけあるか。
いっぱいいっぱいの状態って辛いので、器が大きいほうが、当然人生は楽しめますよね。
だから、若いうちは全力で働いて器を大きくしまくって、50歳くらいで引退して悠々自適の人生を送ろう、なんて以前は思ってましたが、段々成長そのものが楽しくなってきたんです。
服部さん
昔と違うのは、いっぱいいっぱいな状態=成長のためのボーナスタイムというのがわかっている、ということ。
限界値を更新しつづけたその先に、自分の成長や、やりたいことにつながる道が続いていくというのがわかっているから、がんばれるんです。
中村
成長するのが楽しい、という境地に行くにはどうしたらいいんでしょうか?
服部さん
最初から大きな夢だけを描きすぎないで、小さな成功体験を得ることからスタートするのがいいと思います。
たとえば、「上に行けばきれいな景色が見える」と知っていたとしても、実際に景色を見ないと、心からがんばりきれない。
中村
体感することが大事なんですね。
服部さん
そう。夢を叶えるまでの間に、現実的なステップとして目標が存在します。目標をひとつずつ叶えていくことで道ができる。その道が自分にとっての信念です。
まずは小さな成功体験からスタートして、成長しつづける面白さを体感してほしいですね。
服部さんのお話を聞いて「がんばるの疲れた」となってしまう前に、小さなことでもいいから成功体験を重ねて、自分の気持ちを保っておくのが大事なのかもしれない、と感じました。
いっぱいいっぱいを楽しめる境地にはまだいたっていませんが、大きな夢を叶えるプロセスも楽しめるようになるべく、小さな成功体験を意識していきたいと思います。
〈取材・文=中村英里(@2erire7)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=森カズシゲ〉
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