ビジネスパーソンインタビュー
人に迷惑をかけてなければ、世間体は関係ない
「やめたほうがいい理由は、誰も説明できない」セーラー服を着て激変した“普通のおじさん”の人生
新R25編集部
みなさんは、セーラー服姿で街に現れる白ヒゲの男性、「セーラー服おじさん」をご存じですか?
彼はその風貌と親しみやすいキャラクターから、ときおりツイッターのタイムラインやメディアをにぎわせる人物で、一部では「会うと幸せになる」ともウワサされています。
Photo: Hitoshi Iwakiri
調べたところ、「セーラー服おじさん」の正体は、都内で会社員として働く小林秀章さんという男性のよう。
彼はなぜ、人目も気にせずセーラー服姿で街を歩くようになったのでしょう? 小林さんに取材を依頼してみたところ、快諾いただくことができました。
ただ、メールには気になる文言があったんです。
「変身」…?
〈聞き手:ライター・森伽織〉
【小林秀章(こばやし・ひであき)】1962年生まれ。早稲田大学理工学部数学科卒、同修士課程修了。現在は印刷会社に勤務しつつ、「セーラー服おじさん」として活動中。今回はいつも変身で使うカラオケボックスで取材しました
ライター・森
変身ということは、普段はセーラー服を着ていないんですか?
小林さん
平日は仕事があるので、普通の男の服を着ていますね。この姿に変身するのって結構時間がかかるんですよ。
ライター・森
ちなみに、変身にはどのくらい時間がかかるんでしょう?
小林さん
髭を伸ばして36段の三つ編みにしているので、これを編む時間も入れると、1時間くらいはかかります。
ライター・森
ええっ! 取材のために、わざわざありがとうございます…!
リボンが巻いてあって芸が細かいです
きっかけはラーメン屋の企画。ずっとかわいい服を着たいという欲求を抑えていた
ライター・森
率直な質問ですが、小林さんはなぜセーラー服を着ているのでしょう…?
小林さん
自分に正直でありたいって思ったからですね。
ライター・森
それは女性になりたい願望がある、ということでしょうか?
小林さん
いえ、心は男性ですよ。
ただ、小学生のころからずっとかわいいものが好きで、女の子が着ているヒラヒラした服装をうらやましいと思っていたんです。
でも男がそんな格好をするのはおかしいので、その願望を抑えて暮らしてきました。
ライター・森
なるほど…では、どんなきっかけでセーラー服を着るようになったのでしょう?
小林さん
初めてセーラー服を着たのは2008年の春。
仲間内で花見をしたとき、余興として女装したんですよ。このときは、まだ悪ふざけの一環でしたね。
今のようにセーラー服を着て外出するようになったのは2011年の6月。
鶴見にあるラーメン屋で「セーラー服を着て来店した30歳以上の人には、ラーメン一杯無料」という企画をやっていて、そこに行ってみようと思ったのがきっかけです。
ライター・森
なんてユニークな企画!
小林さん
そうでしょう(笑)。
この企画を知ったとき、「堂々とセーラー服を着て出歩ける口実できた」と思いましたね。
誰かに「なんでセーラー服を着ているんですか?」と聞かれても、「ラーメンが一杯無料になるんです」と答えられますから。
ライター・森
実際のまわりの反応はどうだったんですか?
小林さん
それが、誰にも声をかけられないままラーメン屋に到着してしまったんですよ。
最寄り駅の改札を通るのも電車に乗るのも緊張していたのに、みんなスルー。ちょっと珍しい目で見られましたが、それをとがめられることはありませんでした。
「自分は法律に反しているわけでもないんだから、別に女装しててもいいじゃん」と吹っ切れましたね。
そこから毎週末には、特に用がなくてもこの格好で過ごしています。
ちなみにセーラー服は秋葉原にあるコスプレショップで買っているそうです
セーラー服で「どこまでいけるか限界をみてみよう」と裁判の傍聴へ
ライター・森
まわりの目が気にならなくなったとはいえ、やはりセーラー服を着たおじさんは目立ちますよね。
警察に声をかけられることはないんですか?
小林さん
地方だと目立つみたいで、何回か職務質問を受けたことはあります。
でも東京だと、警察の方も気にしないんですよ。だからスルーされすぎて、「この格好でどこまでいけるか限界まで試してみよう」と、いろんなところに行ってみましたね。
ライター・森
へええ。具体的にどんなところに行ったんですか?
小林さん
遠くてフランスやキューバですね。入国手続きも問題なく通れました。
あと、知り合いの裁判の傍聴に行ったことがありますが、そこでも止められることはありませんでした。
ライター・森
(裁判を見ていた人は集中できなかっただろうなあ…)
小林さん
ただ、友達の結婚式の二次会で行ったホテルニューオータニでは警戒されましたね。
不審者だと思われたらしく、ロビーを歩いているあいだスタッフが後ろから付いてきていたようです。
受付で「この人は知り合いなんですか!?」と確認されたそうです(笑)
セーラー服を着て行動をしているだけで、普通のおじさんが有名人になった
小林さん
セーラー服を着ていて一番よかったのは、普通のおじさんが有名人になれたことです。
あるとき街を歩いていると、「写真を撮ってもいいですか?」と声をかけられて、SNSにアップされました。
するとその投稿がバズって、WEBメディアや雑誌、テレビと次々に取材依頼が来るようになったんです。
ライター・森
確かに、ツイッターやWEBメディアでよく見た記憶があります。アイドルのMVにも出演されていましたね。
小林さん
そうです。1日出かけただけで、SNSに「セーラー服おじさん」というワードが何百件も投稿され、写真も50枚くらいあがっていました。
ボクを撮影しようと人だかりができるので、原宿の竹下通りを通り抜けるのに3時間もかかっていた時期もありましたよ。
ライター・森
大人気じゃないですか…!
小林さん
そしたら次は、海外のメディアからも声がかかりました。インターネットには国境がないから、私の写真がどんどん世界中に拡散されていったんでしょう。
タイのバンコクでたまたま入った喫茶店や、ロシアでイベント帰りに寄ったスーパーで、現地の人に「コバヤシサン!」と声かけられたこともあります。
中国のアニメ・漫画関係のイベントにはゲストとして10回以上招待されているんだとか
小林さん
あとは、セーラー服を着たことで性格も変わったと思います。
もともとボクはとても内向的な性格で、聞かれた質問には最小限の返事だけするような人だったんです。
ライター・森
かわいくポーズをキメて撮影に応じている姿からは想像できませんね…
小林さん
有名になると「写真を撮ってもいいですか?」と聞かれることが多くなります。
そのなかで、自分から「学生さんですか?」「どこか行くんですか?」と、コミュニケーションを取ることも覚えました。
誰も「コスプレをやめたほうがいい理由」は説明できない
ライター・森
小林さんが「セーラー服おじさん」として活動していることに関して、会社の人からなにか言われることはないんですか?
小林さん
総務とは何度か話をして、「あくまで個人でやっていると明言し、自分からは会社名を出さない」という約束をしました。
また、「会社の品位を下げるような行為はしないように」とも言われています。
ライター・森
「その格好をやめなよ」と言ってくる人はいなかったのでしょうか?
小林さん
もちろん当初は、心配して「やめたほうがいいよ」と言ってくる人もいたんですが、誰も「やめたほうがいい理由」は説明できなかったんですよ。
ライター・森
なるほど…
小林さん
結局みんな、無責任なことしか言ってこないんです。
まわりの目に振り回されるくらいだったら、もっと自分のやりたいことを貫けばいいのにって思います。
もちろん人に迷惑をかけない範囲で、ですよ(笑)。
思いきって自分を貫いたことで、世界的な有名人になり、社交的な性格まで手に入れた、小林さんのシンデレラストーリー(?)。
ついまわりにどう思われるかを気にしてしまう私にとって、他人の目から解放されて人生を楽しんでいる小林さんの姿はとても眩しく映りました。
取材終わりに、「最近は声をかけられることが少なくなって寂しい」と漏らしていたので、みなさん「セーラー服おじさん」を見かけたらぜひ声をかけてみてください!
〈取材・文=森伽織(@orca_tweet1)/撮影・編集=福田啄也(@fkd1111)〉
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