ビジネスパーソンインタビュー

哲学って何なの? 学ぶメリットは?『史上最強の哲学入門』の著者がわかりやすく解説!

「哲学者って無職が多いですから(笑)」

哲学って何なの? 学ぶメリットは?『史上最強の哲学入門』の著者がわかりやすく解説!

新R25編集部

2019/02/15

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「哲学」

そう聞いた瞬間に「あ、ムリだわ」と心のシャッターを閉じてしまいませんか?

かくいう私も、「難しそう」「カタカナがいっぱい」「とりあえずニーチェ…?」というレベルの哲学初心者。

しかし、哲学を知ればビジネスにも役立てられそうですし、「好きなんだよね、哲学」なんて言うと、なんとなく周囲にドヤれそうな気がします。(ニヤリ)

そこで今回は、哲学を楽しくわかりやすく解説しているブログが大人気な『史上最強の哲学入門』の著者・飲茶さんに、哲学の定義や哲学を学ぶメリット、知っておくとドヤれるキラーワードなどを教えてもらいました!

〈聞き手:ライター・田中さやか〉

【飲茶(やむちゃ)】東北大学大学院卒業。哲学や科学などを楽しくわかりやすく解説したブログが大人気。著書に『史上最強の哲学入門』『史上最強の哲学入門 東洋の哲人たち』『最強のニーチェ』などがある

「哲学」はビジネスに役立たない!?

ライター・田中

今日は「私は哲学がわかるぜ!」とまわりにドヤれるようになりたくて参りました!

さっそくですが、哲学はビジネスにも役に立つというイメージがあります。そこで、ビジネスパーソンが知っておくと便利な哲学哲学者の名言について教えてほしいんですけど…

飲茶さん

あ〜完全に勘違いしちゃってますね…!残念ながら哲学はビジネスには役立ちません。

早くも取材終了

飲茶さん

そもそも哲学者って無職が多いんですよ(笑)。仕事もロクにしていないし、結婚もせずに生涯を終える…など、当時アウトローと呼ばれていた人がほとんどなんです。

ビジネスで成功したわけでもないので、その哲学者の言っていることを参考にして、ビジネスに役立てようとするのは違うと思いますね。

ライター・田中

哲学はビジネスでは役に立たないのか…

飲茶さん

たしかに、現在売られている哲学書のなかにはビジネスパーソンをターゲットにした内容のものも多いですが、本来のターゲットは働いている人でも学生でもないんですよ。

ライター・田中

え! では、哲学書は一体誰に向けて書かれているんですか?

飲茶さん

“思考の物語”を楽しめる人に向けて書かれています。要は考えることが好きな人向けですね。

なので、僕も哲学をビジネスで困ったときに役立てようとは思ってないです。

ライター・田中

根本的に勘違いをしていました…

「哲学って一体何?」と聞かれたらどう答える?→3つの定義がある

ライター・田中

哲学書のターゲットがビジネスマンではないということはわかりましたが…そもそも「哲学」とは一体何でしょうか?

飲茶さん

哲学とは、「考えるのってチョー楽しいじゃん!」が知れる学問です。

アバウトすぎる定義

ライター・田中

そんな単純な認識でいいんですか?

飲茶さん

はい。でももっと具体的に説明しようとすると、3つの定義が存在します。

1つ目は、一般的な哲学の定義として押さえておきたい「フィロソフィー(philosophy)」

ライター・田中

一般的な「哲学」の英訳が「フィロソフィー(philosophy)」なんでしたっけ?

飲茶さん

はい。これは「知恵を愛そう」、要するに「考えるのが大好き!」という意味です。

「哲学って何ですか?」を簡単に答えたいときは、このフィロソフィーの意味を答えるといいでしょう。

ライター・田中

つまり「哲学とは考えることを愛す学問ですよ!」ってことですね。

飲茶さん

そうです。

…ちなみに、ここまでは大丈夫そうですか?

ライター・田中

はい、ついていけてます!

飲茶さん

では続けますね。

2つ目が「メタフィジックス」「メタ」は上位、「フィジックス」は物質という意味で、これは、考えることで物質の新しい法則や本質、意味、価値に気がつくということです。

(あ、やっぱダメだ…)

飲茶さん

私たちの世界には、机やイスなどの触れられる物質、つまり「物」がありますよね?

この物をただ使うだけではなく、さらに上の思考、つまり物に触れたり見たりするだけではなく、「本質」を考える思考を指します。

ライター・田中

…飲茶先生(泣)。

飲茶さん

…よし、もっと噛み砕きましょう。

たとえば原始時代を思い浮かべてください。周辺には石があります。そこで頭のいい人は、単純に石を使うだけではなく、石しかないという状況から新しい法則を考えはじめます。

ライター・田中

新しい法則とはどういうことでしょうか?

飲茶さん

「石を落としてみるとみんな同じように下に落ちていく」というように、ただそこに転がっている石には「こんな落ち方をする法則があるんだ」と気がつくんです。

ライター・田中

なるほど。

飲茶さん

今まで物だけしかない世界で生きていた人たちが「あれ? これってなんだろう?」と気がつき、考えはじめる。それが「メタフィジックス」なんです。

ライター・田中

そうか…!

私たちは生まれたときから当たり前に、物の法則や価値を知っていますが、「なんでこんな物があるのかな? 何ができるのかな?」と先祖が考えたことによって、法則や価値が生まれてきたんですね。

飲茶さん

そうです。

そして3つ目は、僕が考えている定義で「哲学とは新しい価値・概念(言葉)を作り出す活動のこと」というのがあります。

ライター・田中

飲茶さんの定義が一番わかりやすいです。

もはやこの定義で説明するのが一番手っ取り早いですね(笑)。

飲茶さん

「メタフィジックス」と似ていますが、たとえばたくさんの石のなかに一つだけ綺麗な石があったら「ダイヤモンド」などの名前が付くはずですよね。

草木なども一緒で、食べられる草だと分かれば「草」ではなく「ヨモギ」などと見分けるために名前をつけるはず。

つまり価値を発見した瞬間に、新しい言葉や概念が発生するんですよ。

ライター・田中

「哲学=新しいものを生み出す考え方」とも言えますね。そう考えると、哲学のおかげで価値や言葉が生まれてきているのか…!

飲茶さん

そうです。哲学は「今ある価値を問い直す、更新する、正体を探ってバージョンアップする」というイメージだとよりわかりやすいかもしれません。

その定義で行くと、新R25には堀江貴文さんや西野亮廣さんなど、新しい価値観を持っていたり、新しい生き方をしている方が多く登場されていますから、みなさんはある意味哲学者とも呼べるでしょうし、新R25自体が哲学メディアとも言えるかもしれませんね。

「新R25は哲学メディア」

ライター・田中

すごい…一気に哲学へのハードルが下がった気がします。

哲学を学ぶメリットは「人間の思考の構造を知り、物事を俯瞰して見れるようになること」

ライター・田中

ところで、哲学を学ぶ人たちがどこにメリットや面白さを感じているのかが気になります。飲茶さんはどうして哲学を学ぼうと思ったんですか?

飲茶さん

正直、僕も最初は「哲学を勉強している!」とドヤりたかったんですよね…(笑)。

「哲学を勉強している」ってちょっとかっこいいですからね!

あなたもドヤりたかったんかい

ライター・田中

動機が私と一緒じゃないですか(笑)。いつから勉強を始めたんですか?

飲茶さん

高校生のころからです。クラスに好きな女の子がいたんですけど、その子は耳が不自由でクラスになじめず、ひとりで本を読んでいることが多かったんです。

そのときに彼女が読んでいたのが哲学書で、仲良くなるきっかけがほしくて僕も勉強しはじめました。

ライター・田中

(めっちゃ動機が不純…!)

飲茶さん

毎日学校の図書室に通って、哲学の本を読んでいましたね。

あ、でもちゃんと仲良くなれたんですよ!

ライター・田中

好きな人パワー、おそるべし。

でもそう聞くと、やはり最初は「頭が良さそうに見えるから」「かっこいいから」という理由で哲学に手を伸ばす人は多そうですね。

飲茶さん

それはありますね。でも、哲学書を読む人は基本的には人生に悩んでいて、自分の考えやマインドを変えたい、成功したいと思っている人が多いのも事実です。

哲学を学ぶと、「友情」や「愛」など、今僕たちが当たり前に知っていることが、何をきっかけにして生まれたのかを知ることができます。

そうすると、「僕たちの思考はこういう構造からできあがっているのか!」というのがよくわかるようになるんですよ。

飲茶さん

僕は高校生から哲学の勉強を始めましたが、物事を俯瞰して見られるようになったので、社会人時代の苦しいときも乗り越えられました。

「哲学ってどうしたら役に立つ?」と質問されることが多いんですけど、「役立つ」という言葉はどこから出てきたのか、その正体を逆に問い直すこと自体が哲学なんですよ。

ビジネスうんぬんではなく、自分自身の思考を深めるために学ぶことは有意義だと感じますね。

ライター・田中

なるほど。

特定の哲学者の言葉や考えを学び、それをそのまま自分に転用して活かすのではなく、哲学を通じて「思考の深め方」を知ることではじめて役に立つようになるんですね。

名言をかじるだけではなく、哲学は歴史に沿って勉強するのがおすすめ

ライター・田中

お話を聞いていると、哲学がどんどん楽しく感じてきました。

これから哲学を勉強したい人はまずどんなふうに勉強するのがおすすめですか?

飲茶さん

歴史やストーリーに沿って勉強すると頭に入りやすいですね。

哲学はタレスがきっかけで始まったといわれています。タレスは紀元前624年頃の哲学者で、最初に「世界はこういうものだよ」と言った人なんですよ。

どんなふうに哲学が始まり、どう変化したのかを時系列に沿って学ぶと、初心者の方もわかりやすいはずです。

ライター・田中

たしかにストーリーから入ると勉強しやすそうですね!

ちなみに「ソクラテス」や「ニーチェ」など、哲学者の名前や名言から勉強する人も多いですが、この勉強方法はどうですか?

飲茶さん

哲学者の名言やキーワードを取り出す勉強方法は、興味を持つ「入り口」としてはおすすめです。

ただ、それだけだと「ニーチェがこんなこと言っているよ」という断片的な知識になるので、ストーリーもセットで学ぶとより深く理解できると思いますよ。

ライター・田中

参考になります…!

使う言葉によって、その人が大切にしていることが見えてくる

ライター・田中

もし自分がこれから哲学を学んだら、日常生活でついそれっぽい哲学用語を使いたくなってしまう気がします(笑)。

自分のまわりにも日常会話で「メタ」「アウフへーベン」などの哲学用語を使いたがる人がいますけど…そういう人のことってどう思いますか?

飲茶さん

哲学者のなかにも意識高い系の言葉を使いたがる人が多いです。でもこれは単純にその人が「この言葉には価値がある」と思っているから使っているだけなんですよね。

考えてみてください。ビジネスマンも「アジェンダ」や「ロジック」などのビジネス用語を使っていませんか?

毎日使っています

飲茶さん

「アジェンダ」なんて、昔では聞かない言葉でしたよね。

でもどこかのタイミングで誰かが「アジェンダっていいじゃん!」と価値を見出して、それにみんなが納得したから、こうして使われるようになったんです。

ライター・田中

たしかにそうですね…

飲茶さん

たとえば、堀江貴文さんはよく「イノベーション」という言葉を使うじゃないですか。

それは、彼が「イノベーション」という言葉に価値を感じ、大切にしているからこそよく使っているだけなんですよ。

飲茶さん

だから使う言葉によって、その人が何を大切にしているかが見えてくるんです。

言葉の価値観は日本や海外でも大きく違うんですよ。たとえば、海外では兄も弟も「brother(ブラザー)」といいますよね?

でも日本では「兄・弟」と分けています。これは海外では兄弟というものは年齢関係なくフラットに扱われるもので、日本では上下関係を重んじている…とも考えられます。

ライター・田中

知らず知らずのうちに、自分で言葉や物事の価値の取捨選択をしているんですね。

そう思うと、まわりの人がどんな言葉を使っているのかに注目したくなりますね!

飲茶さん

冒頭でお話したように、何かに名前をつけるのも哲学ですし、すでにあるものに新しく定義をつけるのも哲学です。

哲学は今も生まれつづけていてゴールはないので、これからまた「アジェンダ」や「イノベーション」に続く言葉が出てくるかもしれませんね。

でも最後は…やっぱりドヤれるキラーワードが知りたい!

ライター・田中

あの…ここまでお話を聞いて、哲学の断片的な知識を知っているだけではあまり意味がない、ということは大変理解しているのですが。

飲茶さん

はい。

ライター・田中

でも…正直なところ哲学者の名前や名言を言えば、哲学をかじっているように見えるのも事実じゃないですか。

そんな、もしどうしてもドヤりたいときのキラーワードがあれば、最後に教えていただけないでしょうか?

飲茶さん

うーん…

さすがに無茶ぶりか…?

飲茶さん

「バイ、アリストテレス」と言いましょう。

キラーワードあったあああ!

ライター・田中

「バイ、アリストテレス」ですか?

飲茶さん

アリストテレスは古代ギリシアの有名な哲学者の名前です。

これは、僕が運営している哲学サロンのメンバーと話しているときに生まれた言葉なんですが、そもそも哲学者の言葉って難しいんですよね。

言葉だけ聞いたところでその言葉が生まれたバックグランドを理解していないと意味がないし、理解していても言い回しがまわりくどかったりして、総じてよくわからないものが多いんですよ。

ライター・田中

たしかに、「神は死んだ」といきなり言われても何のことやら、という感じですよね。

飲茶さん

でも、「哲学者が言っていた」と言われると、なんとなく信頼してしまったりするじゃないですか。「かのアリストテレスが言っていたならなぁ」って(笑)。

なので、もし会話中に何かを「こうじゃない?」と定義したときに、みんなが「え? 違うのでは?」と反論しそうだったら、ポンと語尾に「バイ、アリストテレス!」と付けてみてください。

そうすれば、どんなことも「なるほど〜」とみんな納得してくれるようになりますよ。(ニヤリ)

ライター・田中

まったく意味はないものに、意味を持たせるというか…

飲茶さん

それでいいんですよ。

意味のないことに、意味づけをしていくのが「哲学」ですからね。

正直、話を聞く前は「興味が持てなかったらどうしよう」と不安に思っていたくらい拒絶していた「哲学」。しかし、飲茶さんのお話を聞いて「哲学って面白いかも!」とイメージがガラッと変わりました。

普段何気なく使っている言葉や物事の価値は、遥か昔の偉人たちによって生まれたもの。「考えつづける」ことで人類は進化しているんですね。

もしかしたら、誰もが考え続けることで、いつか新しい価値や言葉を生み出す存在になれるのかもしれません。

「人は、誰もが哲学者」

…by アリストテレス。

〈取材・文=田中さやか(@natvco)/編集=いしかわゆき(@milkprincess17)〉

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