僕ら日本人が“言われたがっている”こと
日本に意見したいことなんかない!? なぜ厚切りジェイソンは日本人へのアドバイスをやめたのか
新R25編集部
2014年に「Why Japanese people!?」のネタでブレイクして以降、日本のさまざまな問題に切り込む「平成の黒船」としても大きく注目を集めた芸人・厚切りジェイソンさん。
なかでも、ストレートな言葉で核心をつくジェイソンさんのTwitterにはフォロワーからの悩み相談が殺到し、フォロワーとのやりとりをもとに書かれた書籍「日本人のみなさんにお伝えしたい48のWhy」は瞬く間に10万部のベストセラーになりました。
…しかし、現在ジェイソンさんがフォロワーからの悩み相談に答えることはほとんどありません。あれだけ反響を呼んでいたのに、どうしてアドバイスをくれなくなってしまったんだろう…? もしかして、どれだけアドバイスをしても変わることのできない日本人に、愛想をつかしてしまったのだろうか…?
いろいろと気になったので、今回はジェイソンさんがなぜ日本人にアドバイスをしなくなったのか、ご本人に直接本音をお伺いすることに。
…この企画、ジェイソンさん本人にかなり“言いたいこと”があるテーマのようでした。
〈聞き手:ライター・サノトモキ〉
【厚切りジェイソン(あつぎりじぇいそん)】1986年生まれ。アメリカ出身。2011年に渡日し、2014年デビュー。2015、2016年には「R-1ぐらんぷり」でファイナリストに。お笑い芸人としての活動と並行して、IT企業で役員を務める。著書に『日本のみなさんにお伝えしたい48のWhy』(ぴあ)など
フォロワーの目的は、「有名人から返事がほしかっただけ」
ライター・サノ
ということで今回はジェイソンさんに、「どうして日本人にアドバイスをしなくなってしまったのか」についてお聞きしたいです!
ジェイソンさん
…はい。よろしくお願いします!
ライター・サノ
(…? なんだかちょっと元気がないぞ…?)
さっそくですが、日本人フォロワーからの悩み相談に答えなくなってしまったのには、何か理由があったのでしょうか?
ジェイソンさん
いただいた質問のほとんどが「やりたいことがない」、もしくは「やりたいことはあるけれど、挑戦する勇気がない」のどちらかだったんですけど、それに対する僕の答えは何十回と答えたはずなのに、まったく同じ相談が延々と来つづけたんだよね…
半年から1年くらいは頑張ったつもりだけど、僕に言えることは言い尽くしたし、この2つの相談に対する僕なりの解決策はすべて本にまとめたつもりだったので、これ以上自分にできることはないなと思ってやめちゃいました。
ライター・サノ
そうだったんですね…
つまり、ジェイソンさんとしてはあまり手応えがなかったのでしょうか…?
ジェイソンさん
思ったより力になれてないな、と感じていました。
もちろん、サイン会で「この本を読んで、実際にこんなふうに行動を起こしました!」と言ってもらえたときなんかは、「やってよかったな」と思えましたよ。
でもそれも、1時間で200人くらいサインするうちの1人、2人。それに対して、数千人、数万人の人が「本、読みました!」と言いながら、本に書いたはずのことについて聞いてくるわけですから、メッセージが届いていない感じはしました。
ジェイソンさん
しかも、返事をした質問者のツイートを見に行くと、大体みんな「わ~い、有名人から返事来た~」みたいなことを書いてるんですよ。
ライター・サノ
えっ。それって…めちゃくちゃ腹立ちませんか…?
ジェイソンさん
腹立ちますね。
結局、本当に変わりたくて質問したというよりは、ちょっと大げさな人生相談をしてチェックマークのついた有名人のTwitterアカウントから連絡が欲しかっただけだったんだなって。
安定志向が強い? なぜ日本人は“なかなか変われない”のか
ライター・サノ
でも、「やりたいことが見つからない」「やりたいことはあるけど、挑戦する勇気がない」って、多くのフォロワーが本気で抱えていた悩みだと思うんです。
日本人って、現状維持を選んでしまう「安定志向」が強い気がするんですけど、ジェイソンさんは「日本人がなかなか変われない」のはどうしてだと思いますか?
ジェイソンさん
まあ単純に、変化しないほうが楽ですからね。
新しいことに挑戦すると失敗する可能性もあるし、自分でどうすればいいかを考える必要があるんですよ。
「自分で考える」って、労力がかかるし怖い。だから、誰かに「これをこういうふうにやりなさい」と一から説明書みたいに教えてもらって、それを文字通りにこなしておくほうが、考えなくていいし、「あの人に言われたから」と責任も押しつけられるから楽なんです。
ライター・サノ
正直、何かを決断するとき誰かに背中を押してもらって自分の責任を軽くしたい…みたいな気持ちは、ものすごくよくわかります。
ジェイソンさん
たまに、「ジェイソンに言われたから会社辞めました」と言う人がいますけど、あれもどうかと思うんですよね。
僕に責任を負ってもらいたいのかもしれないけど、あなたたちがどう生きるかは僕には一切関係ない。僕の意見や本はあくまで一つのきっかけでしかなくて、そこからどういう行動を起こすかは本人の責任。
だから、変われない人って「自分の人生に自分で責任をもって生きる」という感覚が足りないんだと思うよ。
ジェイソンさん
…だけどそれは、「日本人が」ということじゃないんですよ。「人間が」…という話です。
「変わりたいけど変われない」なんて、アメリカ人も同じ
ジェイソンさん
「変わりたいけど変われない」なんて、アメリカ人だってまったく同じですよ。「やりたいことがわからない」も、「やりたいことはあるけど、挑戦する勇気がない」も、たぶんみんな世界共通。
「日本人だから変われない」なんて、まったく思ってないです。
ジェイソンさん
厳しい言い方になるけど、できない人ができないだけなんです。日本にだって、柔軟に変化できる優秀な人はいっぱいいる。僕が言っているのは、アメリカと日本の比較じゃなく、できる人とできない人の比較なんですよ。
だけど僕が言うと、「アメリカ人が日本人にモノ申す」というフィルターを通されてしまうんです。「アメリカ人はこんなに柔軟に変われるけど、日本人は変われない」みたいな話にされちゃう。僕はそんなこと、全然思っていないのに。
そうなってしまうのは、みなさんがどこかで、僕にそういうキャラクターであることを求めているから。
ライター・サノ
…たしかに僕も今、「『日本人は』なぜ変われないのか」と、無意識に「アメリカ人から見た日本人」みたいな話を求めてしまっていました…
ジェイソンさん
でしょ!? 「日本人はなぜ変われないか」なんて、そんなの知らないよ(笑)!! 変われないやつは、どこの国にもいるよ!以上!
でも、最初から「『日本人』は変われない」という前提で質問されるんだから、僕はライターが答えさせたいようにしか答えられない。
本当は「変われない」って言われたがってるんじゃないですか?
「ニヤリ」
ライター・サノ
うっ…。そっか、それも「誰かに責任を取ってもらって、安心したい」みたいな気持ちなのかもしれないです。
ジェイソンさん
そう。「アメリカ人がこう言ってるんだから、やっぱり日本人は変われないんだ」ってね。
僕は日本が好きだから今ここにいて、相談してきたフォロワーの人たちに自分の考えをお伝えしていただけで、その人たちがたまたま日本人だったという話でしかないんです。「日本人」や「日本のあり様」に意見をしたいわけじゃない。
ライター・サノ
アメリカ人と日本人の比較ではなくて、あくまで1対1の人間同士としてコミュニケーションをされていたんですね…
僕もジェイソンさんのこと、無意識のうちに誤解してました。
どうすれば他の国のやり方を受け入れられるようになる?
ジェイソンさん
「アメリカ人が日本人にモノ申す」というふうに受け取られると、「上から目線だ」とか「人種差別だ」みたいに捉えられてしまうことも少なくないんです。
そして、「日本人をバカにしてる」「アメリカに帰れ」となる。
ライター・サノ
う~む…どうしてそんな無理解が起きてしまうんでしょうか…?
ジェイソンさん
プライド…なのかな。自分の人種、生まれた場所、自分たちの暮らしのほうがいいと、誇りを持ちたいんじゃないですかね。
でもそれも、アメリカも同じですから。アメリカでも、外国人が何かモノ申したらやっぱり「帰れ!」ってなるんですよ。
僕が言うと、「日本は排他的だ。鎖国文化だ」って言ってるように聞こえちゃうかもしれないけど(笑)。
ライター・サノ
どうすれば、「上から目線」なんて思わずにアドバイスを受け入れられるようになるんだろう…? 冷静に、ロジカルに考えられる人が増えればいいのでしょうか?
ジェイソンさん
ロジカルに考えられる人が自然に増えることはないので、「いろんなやり方のいいとこどりをすれば成功しやすくなる」という事例を、実際に世の中に産み出すほうが効果的だと思います。
たとえば、ヨーロッパ式、アメリカ式のようないろんな国のやり方と、日本のやり方のいいとこどりを採用した日本企業がものすごく成功したら、それをマネする会社や人が多くなると思うんですよ。
ライター・サノ
圧倒的な成功事例を作って、マネしたくさせると。なるほど…!
ジェイソンさん
でもその流れはもう、始まってるんじゃないですか?
たとえば楽天とかは、世界70カ国・地域以上から人材を集めながら上手に成長してるわけで。うまいことバランスを考えて組み合わせる会社が増えると、それができない会社は勝てなくなる。
そうすれば、そのロジックがだんだん広がるはずです。
ジェイソンさん
でも、「耐えて耐えて、職人魂で成功する」という日本式の昔ながらのやり方だって、べつに終わらせなくていいですよね。
だって、実際にそのやり方で成功してる人は、それでいいじゃん。「よくできてるなあ、おめでとうございます!」ですよ。何一つ悪くないし、それで成功しているのなら、応援すべきだよ。
ライター・サノ
たしかに。
ジェイソンさん
それでうまくいかないときに、「たとえばアメリカでは、こういうやり方で成功してる例がありますよ」という意見が一つの参考になっていれば、それでいいと思うんです。
なのに、「アメリカ式にはこんなメリットがあるんだから、日本式でうまくいってる人たちもみんなアメリカ式に変えるべきだ…」みたいなニュアンスになってしまったりする。…まあ、そのほうがインパクトもあってキャッチーだしね。
ライター・サノ
…今回の取材、思いがけずとても大切な考え方を教えてもらった気がします。
ジェイソンさん
「なぜ日本人は変われないのか、アメリカ人芸人が斬る!」ってインタビューにしたほうがよかったんじゃないの?(笑)そのほうがウケますよ。
ライター・サノ
いや、今となってはそれは…すごく嫌です!
ジェイソンさん
ハッハッハ(笑)。そうだね。
じゃあ、よろしくお願いします! 僕の話した考えを、多くの人が理解してくれたらうれしいです!
ジェイソンさんへの取材を通して、自分のなかにある「変われない自分の背中を押してほしい」「変われない“日本人”を肯定してほしい」といった姿勢に気付き、とても恥ずかしくなりました。
もしかしたらそれは僕だけじゃないかもしれないし、多くの人が無意識に抱えたその姿勢が、知らず知らずのうちに、外国からやってきた方々に偏ったキャラクターを求めてしまっているのかも…。
これからは僕も、仕事や人生の選択に迷ったら、「日本人だから…」なんて言い訳めいた考えはせず、自分自身に「Why!?」と問いかけてみようと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
〈取材・文=サノトモキ(@mlby_sns)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=藤原慶(@ph_fujiwarakei)〉
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