複数のSNSを使い分けるのも有効!?

承認欲求が強くなる原因は? どうやって充たせばいい? 精神科医に聞いてきた

ライフスタイル
「自分の頑張りを上司に認めてもらいたい」

「SNSで『いいね』をたくさんもらいたい」


「大学時代の友人に『すごい!』と思われたい」


こんなふうに、認められたいという欲求を「承認欲求」と言います。

誰にだってありそうなものですが、「自分の承認欲求は強すぎるのではないか」なんて心配してる人もいるよう。

そんな悩める人たちのために、「承認欲求とは何なのか」「なぜ承認欲求が強くなってしまうのか」「うまい欲求の充たし方はあるのか」などを、精神科医の熊代亨さんに伺いました。
【熊代亨(くましろ・とおる)】1975年生まれ。信州大学医学部卒業。地域精神医療に従事する傍ら、現代の社会適応や心理的充足について、ブログ『シロクマの屑籠』で発信をする。著書に『「若作りうつ」社会』(講談社)、『認められたい』(ヴィレッジブックス)など
いしかわ

いしかわ

現代の若者は「承認欲求が強すぎる」なんて言われたりもしますけど、この「承認欲求」って具体的にはどういうものなんですか?
熊代さん

熊代さん

自分のSNSへの「いいね」通知が来るたびに、すぐにスマホを開いてチェックしてしまうような人が持っている欲のことですね!
いしかわ

いしかわ

(わ、私だー!!)
熊代さん

熊代さん

…というのは一例ですが、簡単に言えば他人から認められたいという感情の総称。褒められたい、ひとりの人間として認知されたい、といった欲求のことです。

程度の差はあれ、誰しもが持ち合わせています。心理学者であるアブラハム・マズローが定義している、5つある人間の根源的な欲求のうちの1つです。

承認欲求が強い人は、「所属欲求」が充たされていない?

いしかわ

いしかわ

「承認欲求は誰しもが持ち合わせているものだ」とおっしゃっていましたが、「承認欲求が強すぎる」と言われている人と、それほど強くなさそうな人がいる気がします。

この違いはなぜ生まれてくるんでしょうか?
熊代さん

熊代さん

ほかのところで充たされていれば違ってきます。たとえば承認欲求とは別で、「所属欲求」というものがあります。これはある集団に所属して生活したい欲求のこと。

家族や仲間など、所属しているコミュニティに恵まれていれば、わざわざ褒められたり認められたりしなくても、満足できるんですよ。
いしかわ

いしかわ

集団の一員であるだけでも充たされるんですね。
熊代さん

熊代さん

今は個々で活動している人も多いですけど、昔は大企業に入って仕事をすることに生きる理由を見出していた人も多かったんですよ。

承認欲求以外の欲求が充たされていれば、承認欲求が強すぎる“承認欲求おばけ”にならずに済む。

それに本来、私たちの承認欲求は、意外と日常的に充たされているものでもあるんです。
いしかわ

いしかわ

そうなんですか?
熊代さん

熊代さん

たとえば、いつも何気なくやっている、ちゃんと挨拶をして、礼儀正しく接してもらう、ということすら承認欲求が充たされる行為でもあるんですよ。

承認欲求が周囲より強くなっている人は、そういった“当たり前”が感じられなくなっているのかもしれません。

承認欲求が強いのは先天的? 後天的?

いしかわ

いしかわ

ということは、普通の生活が送れていれば承認欲求は充たされそうなものですけど、それが強まってしまう原因は何なんでしょう?
熊代さん

熊代さん

昔なら、親子関係や幼少期の経験が影響していると考えたでしょう。小さいときに承認欲求を充たしてもらえなかったから承認欲求が強い大人になってしまった、という説です。

ただ、最近は性格や行動は遺伝によって左右されるという学説がたくさん出てきているので、私は、どちらも無視できないんじゃないかなって思っています。
いしかわ

いしかわ

そうなんですね。ちなみに、大人になってから承認欲求が強まることもあるんですか?
熊代さん

熊代さん

もちろんあります。たとえば、学生時代までは普通だったのに、成人して仕事や人間関係がうまくいかなくなってしまって、「認められる」ことにやっきになってしまった人とか。

まったく褒めてもらえない・認めてもらえない時期が長びくうちに、こじれちゃうこともあります。

承認欲求はモチベーションにつながる

熊代さん

熊代さん

「承認欲求」と仰々しく言うとネガティブなイメージを持たれがちなんですけど、R25世代(20〜30代)くらいの若い人たちにとってはプラスに働くこともあるんですよ。
いしかわ

いしかわ

どういうことですか?
熊代さん

熊代さん

そもそも20〜30代は、必然的に承認欲求が高まるような年齢なんです。そして承認欲求によって成長していく、という側面があります。

たとえば、就活やプレゼンなど、自分が評価されるような立ち振る舞いをしなければいけないときってあるじゃないですか。そういうときには承認欲求がモチベーションになります。
いしかわ

いしかわ

ということは、逆に承認欲求がないと…
熊代さん

熊代さん

モチベーションが上がらない、という場合もあります。なので、まったくないよりは、ほどほどにあるほうが良いんですよ。
いしかわ

いしかわ

そうなんですね! なんだかネガティブなものとして捉えてました。

強すぎる承認欲求のなかには、病気が混じっていることも

熊代さん

熊代さん

ただ、あまりに承認欲求が強すぎる場合は、病気が絡んでいる恐れもあります。

たとえば「境界性パーソナリティ障害」(感情がとても不安定で、衝動が抑えられないなどが特徴の障害)の人は、「この人の承認欲求はおかしいんじゃないの?」と疑うほど認められることを求めることがある。

いつも認められてないと不安、という感じになるんですよね。すべての人に当てはまるわけではありませんが、こういうタイプの場合、精神疾患が関係していることはあってもおかしくありません。
いしかわ

いしかわ

なるほど。ほかにも承認欲求が強すぎるがゆえの弊害はあるんですか?
熊代さん

熊代さん

まず、「人間関係の構築」が難しくなる可能性があります。自分を褒めてもらいたいがあまりに、ほかの人に意識が回らない。

結果的に、自分のことしか考えてない、自己中な人になってしまうことがあります。そうなると良好な人間関係を築くのは難しいですよね。
いしかわ

いしかわ

うーん、たしかに…
熊代さん

熊代さん

また、承認欲求にモチベーションを頼りきっている人は、「自分がすぐに認めてもらえる」ところでしかモチベーションが上がらないかもしれません。

でも、職人や料理人として厳しい師匠に従事しなければいけない場合などは、すぐには褒めてもらえなかったりするじゃないですか。
いしかわ

いしかわ

つまり、承認欲求が強すぎると、就ける職業の幅が狭くなってしまうのか…。やっぱり「ほどほど」がいいんですね。
熊代さん

熊代さん

はい。自分が人に認められてるかどうかを絶えず気にしてしまう人は要注意です。

承認欲求が強い人はどうすればいい?

いしかわ

いしかわ

もし自分が「承認欲求が強いほうだ」とわかったら、どう対処すればいいんですか?
熊代さん

熊代さん

そうですね。いくつか考えられます。

所属するコミュニティを増やそう

熊代さん

熊代さん

今はSNSが承認欲求を焚き付けてきている部分もあると思うんですよ。

SNSは、「社会的欲求を充たしながら、人間関係を作ってくださいね〜」というツールだと思うので(笑)。「いいね」をもらいたくなる雰囲気ができていますよね。
いしかわ

いしかわ

たくさんの人から反応をもらえると、やっぱりうれしくなってしまいますね。
熊代さん

熊代さん

SNS慣れしていない人がそこにハマってしまうと危険です。承認欲求がアンコントラーブルになって、言動がエスカレートして炎上することもありますよね。
いしかわ

いしかわ

ひぇぇ、でもSNSはもう生活の一部だからなぁ…
熊代さん

熊代さん

必ずしもSNSをやめる必要はありません。その代わり、認めてもらえそうなコミュニティへの所属を増やす、というのは現代的ないい対策だと思います。

大したことのない集まりでもいいので、付き合いの場を広げてみましょう。

コミュニケーション能力を向上させよう

熊代さん

熊代さん

あとは、コミュニケーション能力の向上も大切です。
いしかわ

いしかわ

出た、“コミュ力”。
熊代さん

熊代さん

“コミュ力”は、高ければ高いほうが承認されやすいんですよね。ボタンの掛け違いみたいな齟齬が起こらない会話の能力だったり、SNSでうまい投稿ができたり。

そういったオンラインでのやり取りを含めたコミュニケーション能力があるといい。
いしかわ

いしかわ

“コミュ力”と聞くと会話能力のような印象ですけど、オンラインのテキストコミュニケーションでもいいんですね!
熊代さん

熊代さん

そう。人と話すのがあまり得意ではない人は、オンラインに軸足を置いて充たすのもいいと思いますよ。

先ほどの「所属コミュニティを増やす」という話は、オンラインでも言えること。アカウントを分けたり、複数のSNSを使い分けたりすることも有効です。
いしかわ

いしかわ

それだったらすぐに実践できそうですね!

“二次元の世界”で充たすのもアリ

いしかわ

いしかわ

ちなみに、自分で自分の承認欲求を充たす方法もあるんでしょうか?
熊代さん

熊代さん

人間関係にまつわる欲求は、1人で充たすのは難しいんですよ。

ただ、1つだけ可能性があるのは、ソーシャルゲームをはじめとする“二次元の世界”です。
いしかわ

いしかわ

“二次元”! そんな方法もあるんですね。
熊代さん

熊代さん

“ソシャゲ”でほかの人よりも優れたキャラクターを集めたり、アニメの世界でキャラクターに承認されたり。

これらも社会との関わりが極端に狭くならない範囲でやるなら、全然アリだと思いますよ。

承認欲求をなくす必要はない。歳をとると勝手に充たされるかも

いしかわ

いしかわ

…ちなみに、承認欲求が完全に充たされることってあるんですか?
熊代さん

熊代さん

不思議なことに、歳をとると勝手に充たされるんですよね。

若いうちに頑張っていると、どこかしらに着地することになります。そうすると、人からの評価に敏感になったってしょうがない、という境地に至ります。

だから若いうちは、無理に承認欲求をなくそうとしなくて良いと思いますよ。
いしかわ

いしかわ

つまり結論は…
熊代さん

熊代さん

「気にせず頑張れ!!」のひと言に尽きますね(笑)。

他人に評価を求めるのは悪いことじゃありません。暴走してアンコントラーブルになるのには注意が必要ですが、自分の「認められたい」という気持ちを大切にしてあげてください。

承認欲求は、R25世代の最大のモチベーションですから。
〈取材・文=いしかわゆき(@milkprincess17)〉

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