決断すればするほど学びが増える

視点は自分より“2つ上”を意識。リーダー志望の若手が積むべき「決断経験」とは?

キャリア
記事提供:朝渋
チームで、あるいは個人で何かを進めるときに避けては通れないのが「決断」。

とはいえ、「決断」をするタイミングの多さに対して、実際にどのような決断がいいのかは具体的にはほとんど語られてきていないのが事実です。

麻野耕司さんの著書・『THE TEAM』と朝渋のコラボ第2弾である今回のテーマは、チーム作りのための5つの法則「A・B・C・D・E」のなかの「Dの法則」について。

ゲストに株式会社サイバーエージェント取締役人事統括・曽山哲人さんを招き、チームを率いるリーダー育成のための「決断力」についてお話ししていただきました。

〈文=ゆぴ(17)〉
【麻野 耕司(あさの・こうじ)】リンクアンドモチベーション取締役・ヴォーカーズ取締役副社長。慶應義塾大学卒業後、リンクアンドモチベーションに入社。中小ベンチャー企業向け組織人事コンサルティング事業の執行役員に当時最年少で着任し、新規事業として国内初の組織開発クラウド「モチベーションクラウド」を立ち上げる。2018年10月にヴォーカーズ取締役副社長に就任
【曽山哲人(そやま・てつひと)】株式会社サイバーエージェント取締役人事統括。上智大学文学部英文学科卒。株式会社伊勢丹(現・株式会社三越伊勢丹ホールディングス)に入社し、紳士服の販売とECサイト立ち上げに従事したのち、1999年株式会社サイバーエージェントに入社。インターネット広告事業部門の営業統括を経て、2005年人事本部長に就任。現在は取締役として採用・育成・活性化・適材適所の取り組みに加えて、ソーシャルメディアでの発信なども行っている

チームの未来のために、「速く・強く決める」

麻野さん:チームで何かを進めるときに、右に行くのか左に行くのかを決めることが多々あるかと思います。文字通り、チームの命運は何を選ぶのかに”左右”されます。

Dとは、”Decision”(意思決定)のことです。

これは、チームだけではなく、一人ひとりも人生の帰路に立たされたとき、どういった選択をするのかが非常に重要となっています。

意思決定には、下記の3つのパターンがあると考えています。

独裁…チームのなかの誰かひとりが意思決定する

多数決…チーム全員の投票で多数の賛同を得た案で意思決定する

合議…チーム全員で話し合って意思決定する

私たちは小さなころから何かあれば「みんなで話し合って決めなさい」と言われることも多かったので、「合議」は今までもっとも推奨されてきた方法とも言えるでしょう。

この意思決定方法は関わっているチームメンバーの納得感が得られやすい。ただし、「スピードが遅い」というデメリットもあります。

一方で、「独裁」とは、「血統によって決まった王様から国民が意思決定権を取り戻していく」という文脈で作ってきた民主主義の社会では悪いイメージがありますよね。

ただ、必ずしも独裁が悪いとは限らなくて、たしかに納得感は下がるかもしれないけど1人で決めるぶん、スピードが圧倒的に速い

現在は環境変化のスピードが速くなってきており、スピードこそがビジネスの成否を分かつと言っても過言ではありません。

そのなかで、これからは要所要所で「独裁」を取り入れられないチームはなかなかうまくいかなくなるかもしれない。

これからは、恐れずに「誰かひとりが決める」というシチュエーションを作らないといけないんです。

速く・強く決める

これはリーダーに限らず、メンバーに求められることで、すべての人がリーダーになる前からやっていくべきことだと考えています。

リーダー育成で大切な「決断経験」と「決断経験学習サイクル」

麻野さん:サイバーエージェントで重視されているのが「リーダー育成」だと思います。リーダーを育てるためには、「決断」の機会を与えることだとつねづねおっしゃられていますね。

曽山さん:そうですね、それに関しては『THE TEAM』の217ページにサイバーエージェントのナレッジが書いてあるのでぜひ読んでほしいんです(笑)。

私自身、人事を2005年から14年間やってきて、どうやったら創業者のような人材が育つのか、というのをずっと考えてきました。

結論として、『アントレプレナー』である新しいことを作る人を育てるには、新しいことをやってもらわないといけないと考えています。

そのなかで、私が影響を受けたのは、『クリエイティブ人事』(光文社新書)で共著させていただいた神戸大学の金井 壽宏先生です。

みんな、リーダーを育てたいって言うけど、リーダーをやらせてないんだよね」とおっしゃっていて、それがすベてだなと思いました。

キーワードは「決断経験」です。

決断がすべての財産であり、これがたくさんある人は自信を持っています。

先日、サイバーエージェント社長である藤田晋が入社式で新卒に向けたメッセージが「No Pain, No Gain」だったのですが、痛みなくして得られるものはない、壁にぶつかった人ほど大きく成長できると言う話でした。

要するに、決断すればするほど学びが増えるということなんですよ。

麻野さん:その「Pain」も「Gain」も決断から生まれる、というのは面白い概念ですよね。

リンクアンドモチベーショングループもリーダー育成をテーマにしていますが、成長する人としない人には明確な差があって、何をやっても明確に失敗か成功だったかを認識し、失敗したならばそれは自分に原因があると認識し、ちゃんと糧にできているかどうかなんです。

失敗だか成功だかわからないまま曖昧にして、自分に原因があるとも知らず、フワッとそのままにしておく人って成長しないんですよ。

それは、「決断」をしている自覚が浅いんだろうな、と思います。
曽山さん:私はそれを「決断経験学習サイクル」と呼んでいます。

決断」「認識」「内省」の3つをぐるぐると回していくこと。活躍しているリーダーは多くの人がこうしたことを行っているんですよね。

『THE TEAM』にも「部下のことを知るために『モチベーショングラフ』を書く」というのがありましたが、実はこれを自分のために書けば、この学習サイクルを加速させることができるんです。

何かがあって成功や失敗をしたならば、その前に一体どんな「決断」があったのかを紙に書いてみる。人って、目に見えるだけでもいろいろ考えるので内省することができるんですよ。

紙でなくても、FacebookやTwitter、ブログでもいいです。たとえば、今日のイベントも発信することでリアルタイムで決断して内省していることになります。SNSでも、「決断経験学習サイクル」は回せます。

きちんと意味付けをすることで、同じような失敗をしないし、成功すればさらに大きな成功に挑戦することができるようになります。

麻野さん:決断しなきゃ」って身構えなくても、人生は決断の積み重ねだから無意識のうちに「決断」をしているんですね

でもそれを、振り返ることもないまま生きてしまうと決断力が上がらない。内省が大事なのかもしれませんね。

1年目でも決断力を強くできる「決断の再生産」とは?

曽山さん:リーダー育成のために、人事の立場としてはなるべく早い段階から新人をリーダーにさせるのがベストだとは思いますが、一方で自分のなかで育む方法もあります。

まずは、「バーチャルでの決断経験」。たとえば、経営者の自伝などのストーリーを読んで、「自分だったらどうするか?」というのを考えるんです。ケーススタディなどもひとつのバーチャル決断ですよね。

私が知っているものすごいことをやっている人は、実際の決断経験の環境が少ないとしても大量の本を読んで、大量のバーチャル決断をしています。

そして、「決断の再生産」です。

それは、上からの指示や命令を、「やれって言われたからやる」と捉えるのではなく、「よしやってみよう」と自分の決断として自分のものにすることです。

これなら、1年目からでも実践できますよね。

麻野さん:たしかに、私たちの部門でも成長していくリーダーは全部自分の決断に落とし込んでいますね。

「麻野さんが決めたんだけど」というふうにメンバーに落とすのではなく、「今回はこれに決めました、なぜならば…」というように。

そうなると、メンバーの反対や不満も自分で引き受けなきゃいけなくなります。

だからこそ、トップの「決断」に対するメリットやデメリットを深掘りするし、どうしたらメンバーからの賛同が得られるのかを考えるようになります。落とし込まれて磨かれていくから、すごくリーダーとして成長するんですよ。

僕も、自分がリンクアンドモチベーションのトップのように振る舞おう、と決めているんです。だからこそ、トップが決めたことに対しても食ってかかります。

なぜなら、自分の決断として人に伝えようと思うと、納得いくまで意見を聞く必要があるからです。

それがトップとして意思決定する疑似体験になり、成長につながると実感しています。

抜擢しなくてもできる「権限委譲」の3つのポイント

曽山さん:ちなみに、トップと同じ視点でやると言うのはいつごろ決めたんですか?

麻野さん:僕が新卒のときに新卒採用のリーダーになったんですけど、そのときに最終面接だけはトップの小笹で、その前の面接は僕が担当していたんです。

でも、最終決定権は小笹にあったので、面接シートのコメントに「こういったところは自分では見極められないので、小笹さんよろしくお願いします」と書いていたら、ある日ぶちギレられました(笑)。

俺に決断を任せるな、お前が決めて持ってこい」って。

そうしないとあらゆる能力が磨かれないし、「ラグビーのフルバック」(1番後ろのポジション。敵に抜かれてしまうと点を取られる)の気持ちでやれ、お前が内定をだす権限を持っているつもりでやれ、と言われましたね。

そして、いざ「会社の非常の重要な部分に自分が決断する」という気持ちで臨んだら、緊張感が全然違いました。学生の未来はもちろん、会社の未来も担うわけですから。

だから、そのときに採用したメンバーは自分が採用したと思っています。全員のキャリアに責任があると感じているし、そのメンバーを不幸にさせたくない、という思いが自分でビジョンやビジネスを生み出す、という行動につながってきた部分があります。

曽山さん:その、「お前が決めて持ってこい」はすごく象徴的なシーンだなと思いますね。

権限委譲のポイントは3つあるんですよ。

裁量…権限やポジション・肩書

配置…役割分担、担当の変更

決断経験…新しい業務や新規プロジェクトを任せること

このなかのどれかを提供する。そうすると、「自分で決めてね」になるわけです。

企業や組織によってはなかなか管理職やリーダーに抜擢ってできないこともありますけど、これは抜擢をしなくてもできますよね。

サイバーエージェントもいきなり全員を子会社社長にはできないですが、上記のような形で何かしらの権限委譲をしています。

成長するコツは「2つ上の視点を持つ」こと

曽山さん:あとは、僕がよく言っているのが「2つ上の視点を持つ」です。

たとえばマネージャーだったら1つの上の部長、さらに1つ上の役員が考えていることまで自分ごと化して考えること。

さすがに1年目で社長の視点を持つのは難しいかもしれませんが、2つ上の人がどう考えているのかなら、少し背伸びをすることで聞ける可能性が高くなります。

マネージャー候補のメンバーと面談をするときに、よく聞くんです。「もし自分が2つ上の立場になったらの戦略や経営をどうする?」って。そうすると言える人と言えない人に大きく分かれるんですよ。

麻野さん:…これはサイバーエージェントの秘伝のタレだなぁ…

曽山さん:僕は、「やりたい」という人がいたら、「いいじゃん、じゃあ今日やるとしたらなにをやるつもり?」と聞くようにしています。

以前私も言われたことがある言葉で記憶に残っているのは「なってからでは遅い」ということなんです。やりたいなら、もう準備を終えている状態でなければいけない。
麻野さん:ちなみに、どうやったら2つ上の人たちが考えることをイメージできるようになるんですかね?

曽山さん:1番わかりやすいのは「実際に話してみること」ですね。成長するには、視点の高い人と付き合うことが一番の早道です。

麻野さん:たしかに、人間って「普段一緒にいる5人の平均になる」といわれていますよね。

特に、スタートアップの世界では「トップとNo.2の差は、No.2と平社員の差よりも大きい」なんていいます。それは、付き合う人が変わってくるからなんですよ。

トップはほかの会社のトップと話すから、これからの社会や業界などの話になりますよね。

一方で、No.2は社内のメンバーと接することが多いから、いわゆる見ている世界、視界が全然ちがう。

だから、極端ですが経営幹部として成長しなければならない人に「ほかの会社のトップと1カ月間5人会食してこい」なんて言うと一気に視界が広まるし、その機会を作るのはかなり重要でしょうね。

正解を「探す」のではなく、正解を「作る」

麻野さん:ちなみに、これから企業に入る場合は、どんなところに気をつけて選べばいいと思いますか?

曽山さん:伸びそうなところを探して「決断」をすることですかね。

まわりの人はいい意味でも悪い意味でも勝手なことをいって「こういうことをやったほうがいいよ!」とアドバイスをするもの。私もそうです。

でも、それはあくまでその人の視点から見た勝手なセリフだし、それで迷いすぎて動けなかったり、極端なほうに行ってしまうことが往々にしてあるため、自分のストーリーに合わせて決めることが大事だと思います。

麻野さん:たしかに、面接でも「親の反対が就職の妨げになっている」みたいな話があるんですけど、「親の反対」なんてまったく影響がないものですよね。

だって就職するときに親の同意書なんていらないじゃないですか。それは、「親に反対されるのがイヤ」っていう自分の「決断」なんですよね。

僕もリンクアンドモチベーションで辛いことなんていっぱいありましたけど、頑張れたのは「自分で決めた」っていう感覚があったからだと思います。

冒頭で「速く、強く決める」と言いましたが、この「強く」ってすごく大事なんですよ。

実は正解か不正解かというのは、「決断」をした段階では決まってない。だから、いい決断をするんじゃなくて、「この決断をいい決断にするんだ!」と思うのが大事なんです。

曽山さん:「正解探し」じゃなく、「正解作り」ですよね。

勇気を持って「決断」するために、大切なものを明確にする

麻野さん:僕、もともとヘタレ男なんですよ。でも、今は勇気があるんですよね。

それは、本当に自分にとって大事なことを知ったときに、それ以外を失うことは何も怖くないと悟ったから。

僕にとってそれは、社員の健康仲間との関係です。以前に社員旅行でやった腕相撲でメンバーが骨折したとき、「こいつの腕が元どおりになるなら今年の売上はゼロでいいわ!」なんて思った自分がいました。

ただ、それが明確になったぶん、それ以外のことはさして重要じゃないな、と思いました。だから、失敗をしてもいいからチャレンジしようって思えるんです。

自分にとって大事なものがちゃんとわかれば、それ以外のことは怖くなくなる。勇気を持って「決断」できるようになりますよ。
〈文=ゆぴ(17)(@milkprincess17)〉

本記事の提供元はこちら