

語彙の“量”と“質”を高めるためには?
単語を覚えるだけじゃダメ。語彙力を鍛える方法を言語学者に聞いてきた
新R25編集部
Twitterで「○○おもしろかった(語彙力)」というような自虐ネタ風の投稿を見かけることからもわかる通り、語彙力を身につけたいと思っている人は多いよう。
「自分に語彙力があるのだろうか?」と気になった筆者は、調べて見つけた「語彙力診断」に挑戦。
しかし二字の漢字の類義語を選択する問題や、マナー的な言葉づかいを試す問題が出題されるケースが多く「語彙力というか、漢字の問題では?」「マナーチェックみたい…」とモヤモヤ…。
そこで、言語学者の石黒圭先生に「語彙力」について取材。
・語彙力の定義や意味
・語彙力の高い人の特徴
・語彙力を鍛える方法
などについて教えてもらいました!
【石黒圭(いしぐろ・けい)】言語学者、日本語学者。大阪府高槻市生まれ。国立国語研究所日本語教育研究領域代表・教授、一橋大学大学院言語社会研究科連携教授。 研究分野は文章論・読解研究・作文研究。著書に「語彙力を鍛える」「形容詞を使わない大人の文章表現力」「接続詞の技術」など。
語彙力は量×質。より重要なのは質(使えること)

川西
「語彙力」という言葉をよく耳にするんですが、そもそも語彙力とは、正式には何のことを言っているんでしょうか?

石黒先生
語彙力とは、ただ単語や言い回しを記憶しているだけじゃなく、それらを適切に選び、使うことができる力だと私は考えています。

石黒先生
語彙力には「知っていること」と「使えること」の2つの側面があり、それぞれ「語彙の量」と「語彙の質」と呼んでいます。これらのかけ算で語彙力は決まります。
語彙力 = 語彙の量(たくさん知っていること)× 語彙の質(うまく使えること)

石黒先生
私は特に、語彙の質が重要だと考えています。

川西
一般的には、知っている単語や気の利いたフレーズの数を増やすことこそが「語彙力」として普及している印象ですが、なぜ先生は“質”を重視するのでしょうか?

石黒先生
カンタンな話です。どれだけたくさんの単語やフレーズを覚えても、使いこなせなければ、あまり意味がないからです。

川西
それはわかります。でもある程度、“量”がないといけませんよね? 語彙力に課題を感じている人は、“量”を問題視している気がするんです。

石黒先生
おっしゃる通り、ある程度は必要になります。でも「この人、語彙力ないかも?」と思われてしまうのは、通常の語彙の範囲でうまく表現できてないことによる失点が多い気がします。
だから新しい語彙を暗記するよりも、すでに知っている言葉を見直すことが一番の近道だと思いますよ。
語彙の「量」を増やす方法

川西
“質”が大事とはいえ、最低限の“量”すらも身についていない場合、どうすればいいんでしょう? 知っている語彙の量が多い人に共通する習慣などあるのでしょうか?

石黒先生
あくまで私の持論ですが、いろいろな人と接する習慣、幅広い読書の習慣、多様な経験を積む習慣がある人は語彙量が多いと思います。

川西
ということは、それらを意識的に行えば、語彙力は鍛えられると?

石黒先生
そういうことになります。それでは語彙の量を増やすための方法を、ここから詳しくご説明します。
語彙の量を増やす方法① さまざまな人との対話

石黒先生
言葉って、人から人へ感染するんですよ。

川西
感染!?

石黒先生
はい。たとえば、私は仕事場で「それな!」という若者が使うフレーズをほとんど聞きません。でも自宅で娘がよく「それな!」と言うのを耳にすることがあって。
そのせいでたまに「それな!」って言ってしまうことがあります(笑)。これは娘の言葉が私に感染してますよね。

川西
あー、そういう経験は思い当たります。

石黒先生
こんなふうに年齢(年代)、性別、職業、生活区域が違うと、使われている語彙も微妙に違う。なのでいろいろな人と話すことで、語彙の量を身につけられるはずです。
語彙の量を増やす方法② 幅広いジャンルの読書

川西
読書は、わかりやすく語彙の量が増えそうですね。

石黒先生
そうですよね。でも、ただ読書をするだけだとイマイチかもしれません。

川西
なぜですか?

石黒先生
ものすごく偏っている恐れがあるからです。
たとえばビジネス書ばかり読む、スポーツ雑誌ばかり読むなど。そうなると、その分野の語彙にある程度詳しくなると、身につく語彙の量ががくんと減ってしまいます。
趣味という観点では決して悪くないんですけど、多趣味でないと豊富な語彙は身につきません。その意味で、いろんなジャンルの本に挑戦してほしいですね。
語彙の量を増やす方法③ 多様な経験

石黒先生
もうひとつ大事なのが、たくさんの経験をすることです。
実は、タワーマンションに住んでいる子どもは学力が伸び悩むという説があるんですよ。それは外で遊びづらくて、世界と触れる機会が少ないからだと私は思うんです。

川西
それと語彙にどんな関係が?

石黒先生
たとえば、ある子どもがいくつかのイタリアンレストランへ連れて行ってもらい、固いパスタと柔らかいパスタを食べたとします。
気になった子どもが両親に尋ねると、パスタの茹で時間が違うと教えられる。そこで歯ごたえの残る状態を「アルデンテ」と呼ぶと知ります。これって語彙が増えていますよね?

川西
レストランに行く体験だけで、たしかに量が増えてますね。

石黒先生
ジェノベーゼ、マルゲリータ、バルサミコ、ドルチェ、カプチーノ…。料理の世界は、言葉の世界でもあります。旅行でも、アートでも、新しい世界と出逢えば、それだけ語彙の量は増えるのです。

川西
さまざまなことに関心を持って触れていれば、自然と語彙力は高まるということですね。
語彙の量を増やす方法
✔さまざまな人との対話
✔幅広いジャンルの読書
✔多様な経験
語彙の「質」を高める方法

川西
語彙の量を増やす方法は理解しました。では先生が重要視されている“質”は、どうすれば高めることができるのか、教えていただきたいです。

石黒先生
わかりました。では、次に“質”を高める方法をお教えしますね。今回は読者の方に向けて、ビジネスシーンでも実践可能な方法に絞りましょう。
語彙の質を高める方法① 自分が話している声を録音する

石黒先生
自分では問題なく話せているつもりでも、気づいてない欠点があるものです。なので録音して聞いてみるといいですよ。鏡で服装を見るようなイメージです。

川西
やったことないですけど、たしかに言葉も“身だしなみ”のひとつとして捉えると、客観視することは大事そうですね。

石黒先生
はい。たとえば会話で「ちょっと」が多い人は気を遣う人、「やっぱり」が多い人は自己の思いが強い人、「でも」が多い人は頑固で譲らない人のように、選ぶ言葉で自分の性格が透けて見えてしまいます。

川西
聞くの少し怖いですね…(笑)

石黒先生
一方、若い人の場合、自分の話し方を意識しすぎて、言葉が不自然になることもあります。
特に敬語がやっかいで、「おっしゃられます」のように敬語が過剰になったり、「いただかれます」のようなおかしな敬語になったりします。

川西
やり過ぎというパターンもあるんですね。

石黒先生
個人的には若い人が、ちょっと図々しい言い方をしているほうがかわいいなと思うときがあります(笑)。

石黒先生
いずれにせよ、自分が話す様子を振り返り、より良いほうに改善していくのはビジネスマンには大事でしょう。その人の印象を大きく左右しますからね。
語彙の質を高める方法② メールを推敲する。成果を出している人のメールを分析するのも良し

石黒先生
メールやLINEの文章を書き上げたとき、すぐ送らずに推敲するのも大事かなと思います。この文章を読んだ人がどう思うのか、と考えるんです。

川西
反射的に送ったときに限って言い回しが変なことがあるので、気をつけたいですね。
でもどんなふうに意識すればよいのでしょうか?

石黒先生
すぐ実践できるものでいうと、読み手の立場からツッコミを入れることです。「これじゃ、わかんない!」「これ、変でしょ!」などと、自分の文章にツッコむのです。
たとえば「免許を新しくする」という言い方は意味が広すぎて、「これじゃ、わかんない!」とツッコみたくなります。
「免許」は「医師免許」「教員免許」などさまざまであり、「新しくする」も「一新」「再発行」などの意味になりかねません。「運転免許を更新する」なら、そうした誤解はなくなります。

川西
なるほど。抽象的な言葉を具体的に表現することで、誤解を防ぐってことですね。

石黒先生
次に、接続詞が話し言葉になってないかをチェックしてみてください。話し言葉を書き言葉に変えるだけで、文章としての質が向上します。
【接続詞】話し言葉→書き言葉の一例
だから/なので→したがって、そのため
とにかく→いずれにせよ
それから/あと→また/そして

石黒先生
それと、書き言葉の観点では、和語(漢字が訓読み)から漢語(漢字が音読み)へ言い換えるのもすごく大事ですよ。たとえばこの文章を見てみましょう。
【例文】「イタリアのセリエAは、世界中から優秀な才能をもつ選手を集めてくる」

石黒先生
この場合「集めてくる」の部分に改善の余地があります。いろいろな選択肢がありますが、物ではないので「調達してくる」や「収集してくる」はおかしい。
「獲得してくる」だと、より良さそうですね。または、埋もれている才能を見いだすという意味であれば、「発掘してくる」というものも良いでしょう。
このように、ひとつひとつ文章を推敲して、最も適切な言葉を選んでいくと、ビジネスパーソンにふさわしい洗練された文章になりますよ。

川西
同じ意味の言葉でも、適切に言葉を選べると文章の印象がすごく変わりますね。しかも、すごく難しい言葉を選んでいるわけではないので、これならできそうです!

石黒先生
はい、メールは本当に重要ですよ。
もし会社のチーム内でメールを共有してるなら、営業で成果を出してる人のメールと自分のメールがどのように違うのかなど、比較してみることも非常に重要だと思います。

川西
相手の心に届く文章を書けている人の言葉を、自分の言葉に取り入れるんですね。

石黒先生
そうです。「この言い回しはいいな」と感じたものはマネしたり、「この単語は傲慢に見える」と不快なものを省いたりするイメージです。
語彙の質を高める方法
✔自分が話している音声を録音して、適切な言葉を使えているかチェック
✔メールの推敲。「意味を限定」「和語→漢語」などを意識

川西
お話を伺って、意外と日常生活でも意識さえすれば、語彙力は高まっていきそうだなと思いました。

石黒先生
そうです。自分の言葉や文章、まわりの気になった言葉を丁寧に見つめて、自分の言葉に加えていってください。
石黒先生のお話を伺ってから、書き起こしのために録音していた音源で自分の言葉をチェックしてみました。
きちんと聞くと、気になることがいくつも出てきます。「やっぱり」や「えっと」がひたすら多い(笑)。これでは聞く側は聞き取りづらいですし、伝わりづらいなと痛感しました。
なので最近は「やっぱり」を減らすよう意識しています。まずは余計なものをそぎ落として、それができたら語彙を足していきたいと考えています。早く知的なしゃべり方ができるようになりたいものです。

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