

MCの天才たちに共通しているのは“優しさ”
日本アカデミー賞で、逃げ出すほどの大失敗。山里亮太が挫折を生かしてMCになれた理由
新R25編集部
「呆れるほど、自分のレベル上げしろ」
以前、新R25のインタビューで「10年以上、毎日反省ノートを書いている」「努力をやめようとは思わない」など、ストイックな姿勢について語ってくれた山里亮太さん。
最近では、10年以上朝の番組で「天の声」を務めたり、新番組『メイドインジャパン!』(TBS)、『逆転人生』(NHK)、『ひねくれ3』(テレビ東京)のメインMCを担当したりと、番組を“回す側”の仕事を任されることも多くなっているもよう。
山里さんがMCとして頭角を現すのに、どんなストーリーがあったのでしょうか…? 今回もその泥臭い努力について聞いてきました。
〈聞き手=柏木まなみ〉
思い出したくもない黒歴史。すべては準備不足のせいだった

柏木
いつもテレビで楽しく拝見しています!
最近はMCとしてのお仕事がかなり増えていますね。

山里さん
ありがとうございます。
ただ、MCとしてのお仕事をいただけるようになったのはうれしいのですが、完璧にできた日は一度もないんですよ…
『スッキリ』の「天の声」を担当しているのは山里さんのご友人とのこと

柏木
一度も…!
10年間もやっていたら、うまくできていると言ってもいいと思うのですが、どうしてそんなに自信が持てないのでしょう?

山里さん
それは、今みたいにMCの仕事をいただくようになる前に起きた、トラウマ級の失敗のせいです。
今でも思い出したくないくらいの黒歴史ですけどね。

柏木
何があったんですか? 詳しくききたいです。

山里さん
2006年の「日本アカデミー賞」授賞式に、会場を回すインタビュアーとして呼んでいただきまして…
この「本当に話したくなさそう」な顔…

山里さん
演者さんに出演作品についてインタビューする仕事だったんですが、事前に何も調べていなかったんです。
作品を見ていなければ、タレントさんのリサーチもしてなかったし、質問すら考えていかなかった。

柏木
えっ。結果はどうでしたか…?

山里さん
当然、大失敗です。
スタッフさんから渡された質問表をただ読むしかなかったんですが、その質問も間違っていて。
自衛隊とまったく関係ない映画なのに「どのくらい自衛隊の訓練したんですか?」って聞いてしまったり、俳優さんがボケてくれたことに気づかず「なるほど、わかりました」って言ってしまったり…

柏木
うわぁ…それはちょっとひどすぎますね…

山里さん
「授賞式にエンターテインメント性を持たせたいから」と、初の芸人インタビュアーとして呼んでいただいたのに…。「日本アカデミー賞」授賞式でもっともダメな回を作ってしまいましたね。
終わったあとは、マネージャーに「逃げるぞ」と言われてすぐに会場から飛び出しました。
翌年から、インタビュアーはアナウンサーに変わったそうです

柏木
失敗の原因は、やっぱり事前の準備不足ですか?

山里さん
完全にそうです。そのころは自分ならいけるだろうと、心のどこかで甘えてたんです。
でも、この一件で「なんとかなる」なんてものはない、と痛いほど実感しました。
そのとき、MCとしての僕は仮死状態になりましたね。「あいつにMCを任せてはいけない」という空気になりましたよ。
あのときの失敗を払拭できるような成功は、まだできていません。
徹底したリサーチ。本番後には必ず反省会をする

柏木
でも、そんなとてつもない失敗を経て、今ではMCとして上手に番組を回している印象です。
ダメだった時期からどうやって成長できたのでしょう?

山里さん
まず事前準備を徹底するようにしたことですね。
出演者の方々の事前リサーチをしっかり行って、その人がどんな話をできるのか? どんなパスを渡せばいいのか? などをたくさんイメージしておくようにしたんです。
そのイメージがたまれば、自然と自信がついてきます。

柏木
なるほど。

山里さん
でも、終わったあとの反省のほうがもっと大切かもしれませんね。
僕は今でも「ああ、なんでうまい切り返しができなかったんだろう…」「もっとツッコめばよかった…」と思うのなんて、しょっちゅうあって…

柏木
今もですか。

山里さん
はい。本番後はすぐにひとり反省会をするのがお決まりで。
「失敗したな」ってことをそのまま放置すると、心がサビてしまう気がするんです。

柏木
たとえばどんな反省をしているのでしょう? そして、それをどうやって乗り越えるんですか?

山里さん
最近だと、「大御所の方にツッコめなかった」という反省があったんですけど、「これは自分には無理だ」ってできない自分を認めてあげるようにしました。

柏木
それは開き直ってしまうということですか?

山里さん
いえ、できないことを無理やり克服するよりも、自分の得意な路線で成功するにはどうすればいいのかを考えるんです。
大御所や先輩にビビって、愛想笑いしかできなくなる傾向があるなら、その人に無理にツッコんでいこうとしない。
たとえば大御所の方がボケたときに、「何言ってるんですか!!」ってツッコむより、「いや、空気悪い!」と、ツッコミの対象を「現場の雰囲気」や「ほかの出演者の反応」などにスライドさせるんです。

柏木
スライド…本人に切り込むんじゃなくて、まわりにツッコむということですね。

山里さん
そうです。自分じゃ手の届かないA案ではなく、自分でも確実にうまくいくB案を作る。
自分でも成功できるパターンを増やしていくためには、自分の苦手分野をしっかり理解する必要があります。
反省会は自分を責めるのに使うんじゃなくて、自分を分析するために使うんですよ。
中居さん、加藤さん…尊敬するMCに共通しているのは「優しさ」

柏木
山里さんから見て、上手なMCの方にはどんな特徴があると思いますか?

山里さん
MCの先輩たちを見ると、やっぱり天才の集まりだなと思いますよ。ただ、そんな天才の方々にもひとつ共通していることがありまして。
それが優しさ、です。

柏木
優しさ…それはどんなシーンで活きているんですか?

山里さん
スタジオにいる人や視聴者さんをどう楽しませるか、というのがわかるんですよ。話をおもしろく調理したり、自分から悪役を買ってでたりするんです。
特にすごいのが中居正広さんなんですけど、あるとき『ナカイの窓』(日テレ)で芸能人100人が集まったスペシャル企画がありまして…

柏木
100人相手にMCですか…!

山里さん
中居さんの机の上には、100人の座席が書かれたメンバー表しか置かれていませんでした。
で、本番中、話を振ってひと盛り上がりしたら、そのタレントの名前にスッとチェックをつけるんです。

柏木
全員に話を振れるよう意識しているんですね。

山里さん
そうなんですけど、ずんの飯尾さんだけには話がまったく振られなかったんですよ。
「あれ? 飯尾さん、あんなにおもしろい人なのに、どうして話振られないんだろう」と思っていたら…収録が終わる30秒前にようやく飯尾さんに話を振って、飯尾さんがボケたら「ドッカーーーーン!!」とウケたんです。
その流れで「『ナカイの窓』また会いましょう!」って締めて、最後に頭を下げたあと、メンバー表の飯尾さんの名前にスッとチェックしてました。

柏木
ゴールまでの道筋の描き方、かっこよすぎます。

山里さん
ねえ! ホントに。
全員に対してどんなふうに話を振れば、ゲストの方に満足してもらえるだろうか、という優しさに満ちあふれているんですよ。でも、中居さんは一切そんな素振りを見せないでしょ?
そんな姿見たら、「この人にはかなわないな…」って思っちゃいますよ。

山里さん
そして、『スッキリ』のメインMC加藤浩次さんにも頭が上がりません。

柏木
加藤さんもですか!

山里さん
『スッキリ』にAKB48が生中継で出てくれたとき、「絡みすぎたらファンの方に申し訳ないな…」と勝手に思ってしまって、全然絡みにいけなかったんですよ。
結局、彼女らにそっけない態度のまま終わってしまって、「やっちまったな…空気悪くしちゃったな…」って思っていたら、加藤さんが「オイ! 天の声さんよお」って言ってきたんです。

柏木
生放送で怒られてしまったんですか…!?

山里さん
と、思うじゃないですか。
でも、加藤さんは「オマエ、照れると全然会話に入ってこないよなあ」って、僕の塩対応に対してとっさにフォローを入れてくれたんですよ。
そしたら僕も「も~恥ずかしいのよ~」とつなげられて、現場の空気がよくなりました。あのときの優しさは忘れられませんね…
出演者全員に対して優しさをもって接する姿勢は加藤さんから教えてもらっています。

柏木
中居さんも加藤さんも、素敵すぎます…!!
テレビではあまり見せない真面目なトークテーマに照れる山里さん
“気にしすぎる”性格でしかできないMCがある

柏木
今後MCとして目指したい理想の姿などはあるのでしょうか?

山里さん
僕はゲストとして来てくださった方が「今日の収録は楽しかった!」と思って帰ってもらえるMCになりたいんですよ。
だからそのために、ゲストの方のお話をすべて笑いに変えてあげられたら…と思っています。

柏木
それって具体的にどんなことができるといいんですかね…?

山里さん
その人が伝えたい話の意図をいち早く察知して、現場をそのリアクションに導いていかなければなりません。
ゲストの方が発言してくださっていることって、本人が「面白い!」と思って話してくださっていることですよね。だったら、もしそれをスベらせてしまったら僕の責任です。

柏木
なぜ、そこまでまわりの方を気にすることができるのでしょう…?

山里さん
僕は、普段から人の顔色をうかがってビクビクしながら生きている人間なんです。「怒ってるな」とか「つまんなそうだな」とか、他人のネガティブな感情に敏感で。
この性格は芸能界では不利だとずっと思っていたんですけど、タモリさんが「人見知りは芸能界で最高の才能だ」ておっしゃっていたんです。

柏木
おお…それはどうしてですか?

山里さん
人の顔色を気にしすぎる人ってことは、それだけまわりの方を意識できているってことですよね。
だからMCをやっていて、「あの人つまんなそうだな」ってことをすぐに察知できて、「あの人に話を振るにはどうしたらいいだろう?」ってクエスチョンが浮かぶんですよ。
僕がMCをやったとき、出演者が下を向いて帰っていくのだけは避けたいんですよね。

柏木
なるほど。でも、それこそが山里さん流の「優しさ」な気がします。

山里さん
そうなんですかね…
ただ、出演者の「楽しかった」、スタッフさんの「助かった」、現場にいる人の「笑い声」。これをトリプルでゲットできた日なんかは、「よし、今日はお酒飲んじゃお!」って思っちゃいます(笑)。
たとえ天才MCの方々みたいになれなくても、僕は自分のネガティブな部分を武器にして、その方々に追いつけるように成長したいですね。
インタビューの冒頭で、「僕なんかがMCを語っちゃいけないんですよ」と言っていた山里さん。
2006年の大きな失敗から反省を繰り返し、中居さんや加藤さんのような天才MCの背中を見て、それを吸収するのではなく、「いかにしてほかの方法で戦っていくか」という努力を積み重ねてきました。
コンプレックスを武器に芸能界を戦い抜いていくその姿勢は、イケてない(?)R25世代にとっての希望となるはずです。
山里さんが妄想小説集を発売!

柏木
最後に山里さんが今回上梓された書籍『あのコの夢をみたんです。』について伺いたいのですが、これは山里さんにとって初の小説作品なんですよね。

山里さん
そうですね。小説といっても、これはすべて僕の妄想なんですよ。

柏木
妄想…

山里さん
ひかないでください。
『B.L.T.』(東京ニュース通信社)さんで2010年から、旬な女優さんやアイドルを主役にした短編小説を書かせていただいてて。今回はそのなかから特に人気の高かった16本を厳選し、加筆・修正をしました。
土屋太鳳さんや中条あやみさん、松岡茉優さんといったそうそうたる顔ぶれですよ。
ちょっとSFの要素が入っていたり、ファンタジーな内容だったり、いろんな設定で妄想しました。

柏木
おお…そのストーリーを思いつくのは、もしかしたら山里さんの人の顔色を伺ってしまう性格が関係しているのかもしれませんね。

山里さん
そうかもしれません。
「あの人だったらこんな発言するかな…」とか「こんなリアクションはしなさそうだな」とか、これまでずっと人の顔を伺って生きてきたからこそ、この妄想小説ができたんだと思います。
本当に世に出していいものか…と思いますが、ぜひ読んでいただきたいですね。
〈取材・文=柏木まなみ(@kashimin222)/編集=福田啄也(@fkd1111)/撮影=森カズシゲ〉
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