ビジネスパーソンインタビュー
18歳から深夜のクラブで歌いつづけた
度重なる逆境も「受け入れる」。May J.がストイックでありつづける理由
新R25編集部
ディズニー映画『アナと雪の女王』の主題歌「レット・イット・ゴー~ありのままで~(エンドソング)」をきっかけに、一躍その名を日本中に知らしめた歌手・May J.さん。
そのご活躍の幅はとどまることを知らず、現在は世界のトップアーティストが集うジャズ・クラブ「BLUE NOTE TOKYO」で毎年ライブを行ったり、2018年にはロシアが誇るオペラとバレエの殿堂「マリインスキー劇場」にてポップアーティストとしては世界初となるオーケストラコンサートを行ったりするほどに。
今回は、歌手としての前進しつづけるMay J.さんに、知られざる下積み時代から、「心ないバッシングを受けた経験」まで、これまでの歩みについてお話いただきました。
〈聞き手=サノトモキ〉
【May J.(メイ・ジェイ)】 2014年、記録的な大ヒットで社会現象にもなったディズニー映画「アナと雪の女王」の日本版主題歌「レット・イット・ゴー ~ありのままで~(エンドソング)」を担当し、大ブレイク。カラオケ企画の番組で26連勝という記録を叩き出した圧倒的な歌唱力とパワフルかつ澄んだ歌声は、国内のみならず海外でも評価を集め、現在はジャズバンドライブや海外でのフルオーケストラライブを敢行するなど、ますます活躍の場を広げている
3歳のころ、生まれてはじめて描いた夢は…
サノ
メイジェイさんって、もともと歌手になることが夢だったんですか?
May J.さん
じつは私、3歳のときからディズニー映画で歌うような歌手になりたいと思っていたんです(笑)。
めちゃくちゃドンピシャだ…
サノ
どうして3歳でその夢を?
May J.さん
私は日本生まれ日本育ちなんですけど、母親が外国人で英語の教師をしていたので、幼いころから英語の教育を受けていたんですね。
その勉強法というのが、ディズニー映画を英語で観ることで。
サノ
なんてオシャレな3歳児だ…
May J.さん
だけど、英語を勉強するはずが、流れてくるディズニー音楽にあわせて歌うほうが好きになっちゃって(笑)。そういう環境で育つうちに、自然と「ディズニーの世界で歌う将来」に憧れるようになりました。
サノ
「レット・イット・ゴー」を歌ったときMay J.さんは、まだ今の僕と同じ25歳だったんですよね。
25歳で夢を叶えたのか…順風満帆で人生楽しそうだ…
May J.さん
いえいえ、「夢」と言いつつも、自分でも叶わない夢だと思ってました。ディズニーに存在を認識されるような歌手になれるとはまったく思ってなかったので…
デビューした18歳から3、4年なんて私、ずっと深夜のクラブで歌ってましたからね。
「誰も私の歌なんて聴いてくれない」深夜のクラブで泣いた日も
サノ
18歳の女の子が、深夜のクラブで…?
May J.さん
当然クラブなんて行ったことなかったので、そもそもクラブがどういう場所かもあんまりわかってなくて。
だから、いざステージに上がったときにはじめて「誰も私の歌なんて聴きにきてないんだ」と気づいて、ものすごくショックを受けました。
サノ
でも、一度曲が始まったらダンディなおじさまたちがやさしく耳を傾けてくれたりするものじゃないんですか?
大人の世界がよくわかっていない筆者
May J.さん
いや、ホントに、だーれも聴いてないの!(笑)
歌ってても何も反応してくれないし、むしろ私が歌い始めたらカウンターに飲み物を取りにいったりお手洗いにいったりして、ステージ前から人がいなくなっちゃうんです。
自分の力不足だとわかってはいたんですけど、「なんで…?」って悲しくなっちゃって
サノ
18歳でそれはつらい…
May J.さん
でも、私も負けず嫌いなんで、毎回強気でいくんですよ。「今日こそ聞いてもらうぞ!やってやるぞ!」って。
でも、やっぱり想像していたような反応にはならなくて、ライブが終わったあとそのままトイレに駆け込んで泣いたりしていました。
カバー曲「Garden」で光明を見出すも…
サノ
May J.さんは数々の名曲もカバーされてますが、クラブ時代もすでにカバー曲を歌われていたんですか?
May J.さん
カバーはまったくやってなかったです。オリジナルだけでした。
でも、3年くらいたったタイミングで、同じ事務所の先輩だったSUGAR SOULさんの「Garden」という人気曲のカバーをレコーディングして。それをクラブでも歌ってみたんですよ。
そしたら、私の曲では見向きもしてくれなかったはずのみんなが、目の前で一緒に歌ってるんです。それを見た瞬間、「え?」と思って。
サノ
そりゃどうしても、「オリジナル曲では盛り上がってくれなかったくせに…」って思っちゃいますよね…
May J.さん
あっいえ、「ライブってこんなに楽しかったの!?」という、よろこびの「え?」です!(笑)
それまでの3年間、私にとってライブは苦しいものでしかなかった。誰からの反応ももらえず、「私ここにいる意味ないじゃん…」と思いながらステージに立ちつづけていたので。
だから、「ライブが楽しいものだ」と思えたことが、うれしくてうれしくて。ただただ無邪気に「やったあ!」と思っていました。
ちなみにMay J.さん版「Garden」のMVは、YouTubeで再生回数2000万回超えの人気を誇っています
サノ
では、「Garden」のヒットで一気に右肩上がりに?
May J.さん
それが…むしろ本当に苦しくなったのはそこからで。「Garden」で少し歌手としての存在を知ってもらえるようになったあとも、思ったような結果を出せなかったんです。
「このままじゃダメだ」と思って、あるアルバムで勝負をかけました。
これまでも作詞や作曲はしてたんですけど、そのときはアルバム曲全部を自分で作詞して…「もしこれで結果が出なかったら、もう何をしたらいいかわからない」と思えるくらい、すべてを注ぎ込んでアルバムを作り上げたんです。
サノ
まさに、歌手生命を賭けた一作だったと。
May J.さん
だけど、全部を出し尽くしたはずのそのアルバムも、オリコンのTOP50にすら届かなかった。
May J.さん
「ああ、終わったなあ」と思って。
もう、何にもわかんなくなった。いつだってファミリーみたいに私を支えてくれていたレコード会社のみんなにも、いよいよ愛想をつかされちゃうんじゃないか、もう相手にしてもらえないんじゃないかと思ってしまうくらい、闇に沈んでしまいました。
だけどそんなとき、まさにそのレコード会社のスタッフさんが、「メイちゃん、いい仕事見つけてきたよ!」と声をかけてくれたんです。
「負けたらもう呼ばれない」というカラオケ企画の番組で26連勝!
サノ
あっ!? もしかしてそれが26連勝という圧倒的な記録を樹立した、あの…
May J.さん
「カラオケ企画の番組」です。
カラオケの得点で勝敗を決めるんですけど、負けたらもう次回は呼ばれないシステムで。せっかくチャンスをいただいた以上、全力で勝ちにいって少しでも名前を覚えてもらおうと思って挑戦しました。
サノ
次のCDが出せるかもわからない窮地に立たされていたところから、約2年にもわたる間無敗記録を更新つづけてその名を全国へとどろかせた…
ダメだかっこよすぎる…
May J.さん
当時、ショッピングモールでインストアライブや握手会をすると、1000人くらいの方がCDを購入して列に並んでくれたり、施設の閉店時間が来てもまだまだ列が並んでる…みたいなことが起こるようになったりして。
どこに行っても「毎週すっごく応援してます!」「カラオケ頑張ってください」って声をかけてくださるし、そんなこと、それまでの自分では絶対にありえない出来事だったので、反響はすごく実感していました。
サノ
2年間無敗って…普通、途中でめちゃくちゃプレッシャーを感じちゃいそうですけど、全然へっちゃらだったんですか?
May J.さん
…じつは私、めちゃくちゃプレッシャーに弱いんです(笑)。
サノ
えっ! テレビの世界で26連勝してるお方が…?
May J.さん
私は、常に自分の悪いところを見てしまうんです。注目されればされるほど自分らしく歌えなくなっていったし、番組の“バトル”では勝っていても、自分の歌声に納得できることなんて、ホントになかった。
「一瞬の満足」くらいはあるけど、ほとんど間髪入れずにまた自分の未熟さと向き合うモードに入るので、納得できることなんてなかったですね。
『アナ雪』歌唱への批判に…「歌と音楽で自分の存在を証明する」
サノ
ひとつ、どうしてもお聞きしたいことがあって。
May J.さんは連勝記録で話題を集めるなか、『アナと雪の女王』でついに夢だったディズニー映画の主題歌まで歌われますけど、同時に心ないバッシングにもさらされることもあったと思うんです。劇中歌のほうも人気だったというだけで、May J.さんが歌っているバージョンにこじつけみたいな理由をつけて「認めない」とか「嫌い」だとか…
当時、ものすごく悔しかったんじゃないでしょうか。
May J.さん
やっぱり、とにかく傷つきましたね…
まず、そんなにたくさんの反響をいただけることがはじめてだったので。
反響が少ない時期は、基本的には褒めてくださる方の声だけが届くんです。でも、反響が大きくなるにつれてどうしても批判の声も出てきてしまうんだなって。
サノ
やっぱり、すぐには立ち直れなかったですか…?
May J.さん
全然切り替えられなかったなあ。ひとつでもそういう反応を見てしまうと、「私ってそう思われてるんだ」って、ずっと心に残ってしまうんです。
そういう意見への反骨心を燃料にして前に進める方もいると思うんですけど、私の場合はとにかく落ち込んでしまって。
…でも、だからといって私、バッシングの内容に反論したり、「芸能人へのバッシングはやめよう」と誰かを諭すようなことはしたくないんです。
サノ
なぜですか? 反論したって全然おかしくない立場だと思うんですが…
May J.さん
それは、私自身が歌と音楽で証明していくべきものだから。
サノ
…!!
May J.さん
批判の声が聞こえるなかでも、本当に純粋に、私の声だけを楽しみに全国ツアーやライブに来てくださった方々を目にしたとき、「ああ、私はこの人たちのために歌い続けていくべきなんだな」と思えたんです。
反論したり、言葉で説明する必要はない。誰かを変えようとするんじゃなくて、自分自身を磨きつづけて、人の心を奥底から揺さぶることのできる歌手であることを証明していけばいい。そう決めたんです。
サノ
…確固たる覚悟が伝わってきました。お話しにくいことを言葉にしてくださって、ありがとうございます。
でも、そうやって人知れず頑張っている努力って、つい誰かに知ってほしくなっちゃったりしませんか?
May J.さん
全然ないですね…
「努力」って、今はまだできない何かを克服するためにするものだから、目標を達成してはじめて、結果とセットで褒められるものだと思うんです。
努力そのものはゴールでもなんでもないし、それを見せることには何の意味もないと思っちゃう。むしろ、まだ道半ばでもがいているカッコ悪い姿を見せることになるので、私は絶対に知られたくないです。
May J.さん
私は、誰にも知られることなく、勝手に目標を作って、一人で努力して、達成して、ある日突然その成果をみんなに披露したいんです。
それで、その結果を思いっきり褒められたい! そういうときはもう、「うわーーいっ!!!」ってなっちゃいます!(笑)
「案外、褒められて伸びるタイプなので!(笑)」
「基本はずーっと苦しい」けど…結局自分を追い込んでる時間が好きなのかもしれない
サノ
お話を聞いているとすごく伝わってくるんですけど、May J.さん、めちゃくちゃストイックですよね。
May J.さん
そうかもしれないですね。ジャズバンドで歌ってみたい、オーケストラで海外公演に挑戦したいというように、常にやりたいことや課題が見つかるので、歌手としての自分に満足することは本当にないし、なんだかんだいつも自分を追い込んでいると思います(笑)。
ステージでも、毎回すべてに納得がいく完璧なパフォーマンスを…“奇跡”を起こすつもりで自分の100%を出し尽くしてるんですけど、結局奇跡のようなことなんてほとんど起こせないじゃないですか。
だから、基本はずーっと苦しいです。
サノ
その苦しさから逃げたいと思うことはないんですか?
「もう少し自分にやさしくなって、楽になりたい」みたいな…
May J.さん
うーんでも、「自分にやさしくなる」というのは結局、「ハードルを下げる」ということでしょう?
たしかにハードルを下げれば、もっと楽しく歌えるようになると思うし、何を選ぶかは人それぞれだけど、少なくとも私はそれでは満足できないと思うんです。私は、ライブに足を運んでくださった方々が言葉を失うくらい、圧倒的に素晴らしい瞬間を届けたくて歌っているので。
結局、辛い辛いといいながら、どこかで“奇跡”の瞬間を待ち焦がれながら自分を追い込む時間が好きなんだと思います(笑)。
サノ
辛い時期に支えてくれたファンの方々と真摯に向き合っているからこそのストイックさなんだ…! めちゃくちゃ素敵です。
May J.さん
でも、じつは最近は少しだけ、肩の力を抜いて自分らしく歌えるようにもなってきたんですよ。
サノ
!! どうしてでしょう?
May J.さん
人と比べなくなってきたから。
20代までは、まわりに自分と同じようなステータスの、自分とよく似たライバルがたくさんいたからどうしても人と比べてしまったんですけど、30歳になってようやく、自分にしかできないポジションに入りつつあるというか…「自分にしか語れない人生になってきたな」と思えるようになったんです。
だから、20代のうちにストイックに挑戦しつづけて、本当によかった!
サノ
20代ストイックに踏ん張った先に自分だけのポジションが待っている…そう思ったら、明日からもまた頑張れそうです!
今日は素敵なお話、ありがとうございました!
逆境を乗り越え、夢を叶えてもなお、決して現状に満足することなくさらにその先のステージへ手を伸ばしつづけるMay J.さん。
就活で一斉にスタートを切る僕たちビジネスパーソンも、ついつい自分とまわりと比べて悩んでしまいがちですが、ストイックに自分と向き合いつづけることができれば、いつか自分だけのポジションにたどり着けるのかも。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
〈取材・文=サノトモキ(@mlby_sns)/編集=天野俊吉(@amanop)/写真=土田凌(@Ryotsuchida)〉
May J.さんからお知らせ
「平成ラブソングカバーズsupport by DAM」
さて、そんなMay J.さんは現在、平成ヒット曲のカバー集『平成ラブソングカバーズsupport by DAM』を絶賛発売中!
平成を彩った名曲の中から、誰もが知る、歌いたくなるラブソングを DAM 監修のもと選曲。
平成のヒットソングを、平成の30年間を共に歩んできたMay J.さんが歌いあげます。
また、8/3(土) 三郷市文化会館を皮切りに、全国ツアー「MayJ. Tour 2019 -New Creation-」の開催が決定!
J-POPはもちろんジャズ、オーケストラなど数々のジャンルを歌い続けてきたMay J.さん。
すべてを吸収し、今だからそこできる彼女だけの自由な歌声がここに。
https://www.may-j.com/tour19/新しい創造力”New Creation”で新時代の幕開けとなる全国ツアー開催!
8/3 (土)[埼玉]三郷市文化会館 大ホール
8/10(土)[群馬]藤岡市みかぼみらい館
8/11(日)[神奈川]海老名市文化会館
8/24(土)[兵庫]加古川市民会館中ホール
8/25(日)[滋賀]野洲文化ホール
9/14(土)[愛媛]しこちゅ〜ホール 大ホール
9/15(日)[高知]西土佐ふれあいホール
9/21(土)[愛知]Zepp Nagoya
9/22(日)[東京]Zepp Tokyo
10/5(土)[大阪]Zepp Namba
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