「きちんと納税はしてるんですよ」
“家に住まない”が目的じゃない。アドレスホッパーの先駆者が伝えたい本当のメリット
新R25編集部
約1年前に、「家に住まない男」として紹介した市橋正太郎さん。
2017年12月末に賃貸マンションを解約し、最小限の荷物をスーツケース1つにまとめ、ゲストハウスやホテルを転々とする生活を始めています。
新R25では、彼の生活をいち早くキャッチし、その魅力を掘り出しました。
その結果、「新しいライフスタイル」として話題となり、市橋さんは『AbemaPrime』(AbemaTV)や『マツコ会議』(日本テレビ)などに呼ばれるほどに。
そんな彼は現在、勤めていた会社を辞めて、このライフスタイルを広める活動しています。
NHKでも紹介されたことで、筆者のまわりでも「アドレスホッパーをやってみたい!」という人の声を聞くようになりましたが…改めて読者視点に立つと、「本当にアドレスホッパーで1年以上生活していけるの?」「無理してない?」という疑問も…。
再度彼に取材を申し込んでみると、本人からも「アドレスホッパー」について語らせてほしいとのこと。
「アドレスホッパー」に興味を持っている人はもちろん、ちょっと偏見がある人も彼のメッセージに耳を傾けてください!
〈聞き手=ほしゆき〉
【市橋正太郎(いちはし・しょうたろう)】一拠点にこだわらず移動を続ける「アドレスホッパー」の実践者であり、Address Hopper Incの代表も務める。独立前は株式会社サイバーエージェントや株式会社mgramにてマーケティングを担当していた
ほし
市橋さん。
市橋さん
はい?
ほし
雰囲気変わりすぎじゃないですか!? 去年こんな感じだったのに!
こんなに穏やかな好青年が…
市橋さん
そう? 昨日髪を切ったからかな(笑)。
ほし
絶対それだけじゃないはず…今日はこの1年の変化について、詳しくきかせてください。
「家に住まない男」→「アドレスホッパー」になった理由
市橋さん
インタビューを始める前に、一言いいですか?
ほし
えっ、はい。
市橋さん
昨年、僕のことを「家に住まない男」として紹介してくださいましたよね。それはすごくありがたいんですが、その呼び名は辞めていただきたいんです。
ほし
それはどうして…?
市橋さん
「家に住まない」ってやはりホームレスや貧困といった、ネガティブなイメージを持たれてしまうじゃないですか。
でも、僕たちは決して「家に住めないから」という理由でこの生活をしているんじゃありません。だからもっとポジティブな表現にしたいんですよね。
ほし
ああ…それで「アドレスホッパー」という名前になったんですね。
市橋さん
そうです。
色々考えた結果、島を転々と移動する「アイランドホッピング」のように、住むところを転々とする「アドレスホッピング」というワードがしっくりきてます。
これなら、意思をもって自由に移動する僕たちの生活をポジティブに表現できるなと。
「宿が取れなかった」ことはないし、住民税も払っている
ほし
ではまず、「アドレスホッパー」に対する疑問から入らせてください。
1年以上も活動してて、「宿が取れなかった」というトラブルはありませんでしたか?
市橋さん
ないです。
「Booking.com」「Googleマップ」「Airbnb」などのサービスを駆使して検索すれば、すぐに宿は見つかります。
ほし
それはどの町でも?
市橋さん
そうです。
この1年で日本や世界を合わせて70都市以上を訪れましたが、泊まる場所に困ったことはないですね。
都内だったら、当日の夜まで宿が決まってなくてもなんとかなりますよ。
今日の寝床もまだ決まってないんですが、このあとに飲み会があるので、その後に近場で宿を取ろうかなと。
ほし
へええ。1つの宿に、どのくらい滞在しているんですか?
市橋さん
僕の場合は、宿を毎日変えていますね。1つのエリアにだいたい1週間くらいは滞在して、毎日違う宿に泊まるんです。そのほうが新しい出会いがあるので。
アドレスホッパーによっては1週間ごとや1カ月ごとに宿を変えたりとスタイルはさまざまです。
「もし宿が取れなくても、サウナがあるから大丈夫」とのこと
ほし
月々の宿泊代はどうですか? 以前は月12万円くらいだと言ってましたが…?
市橋さん
宿代は変わらず月8~12万円くらいです。
これまでで一番高い宿泊代は2万円くらい。そこに泊まったあとは3000円のドミトリーに泊まって出費を調整しました。
ほし
なるほど…ずっと気になっていたんですけど、「住民税」とかってどうしているんですか…?
市橋さん
僕の場合はシェアオフィスに住民票おいてますね。そこで住民税を払ってます。
ほかの人は実家やシェアハウスに置いて、その場所の自治体に支払ってます。
だから、きちんと納税はしてるんですよ。
「こいつは住民税を払ってない!」って勝手にレッテルを貼られることもあるんだとか…
現在の荷物は20Lのバックパックのみ。何を持ち歩いているの?
市橋さんが持ち歩いているバックパック
ほし
では次に荷物についてきかせてください。荷物はバックパック1つだけですか?
市橋さん
そうです。中身は、「3日分の衣類」「洗面具」「速乾タオル」「洗濯用洗剤」「パスポート」「仕事用PC」「延長コード」「モバイルバッテリー」ですね。
約20Lのバックパックに収まるようにしてます。
中身を全部見せていただきました
ほし
これだけなんですね!
市橋さん
1年間でPDCAを回した結果です。
ハブラシとか爪切りとか、すべて最小サイズのものを選ぶようになったかな。最初は枕を持ってましたけど、重いから持ち歩くのをやめました。
ほし
服は3日分で足りるんですか?
市橋さん
もともと1週間分を持ち歩いていたんですけど、「こんなにいるかな?」って思って減らしたんですよ。
当日に着た服は、その晩の風呂に入るときに一緒に洗って、部屋に干しておけば乾くので問題なかったです。
ほかのシーズンの服は、「サマリーポケット」(オンラインの貸し倉庫)に預けてます。
ほし
なるほど…「アドレスホッパー」になったことで物欲もなくなったんですかね。
市橋さん
というよりも、僕らの場合は「モノを所有するデメリット」のほうが多いなと思って。この生活だと、荷物が多いと移動することがおっくうになるじゃないですか。
僕ずっとコンタクトだったんですけど、メガネや替えのコンタクトを持ち歩くのが面倒で。今日の午前中に、ICLの手術を受けたんですよ。
これでさらに荷物が軽くなりますね。
※ICL=角膜と水晶体の間に薄いレンズを挿入し、コンタクトを常時つけている状態にする手術のこと
ほし
やりすぎでは!?
だからちょっと目が腫れぼったいのか…
ほし
ちなみに「サマリーポケット」から荷物を送ってもらうとき、住所ってどうしているんですか?
市橋さん
毎回送り先を指定できるので、宿泊する予定のホテルに送ってもらっています。
アマゾンでの買い物もコンビニで受け取ることができるし、郵便物とかは、郵便局の私書箱を設定している人もいます。
別に定住していなくても、その点は問題ないですね。
小さな「決断機会」が増えて、自分の人生をコントロールしている実感が持てる
ほし
実際に「アドレスホッパー」を続けてみて、変化したことはなんでしょうか?
市橋さん
この生活をしていると、毎日の小さな「決断機会」が増えるんですよ。
どこで寝て、どこの風呂に入るか、など日々の生活のなかで「自分で決めること」が圧倒的に多くなる。
それってめんどくさいように感じますが、自分の生活をコントロールしている実感が得られるので、生活の幸福度が上がりました。
市橋さん
あと、僕はあえて無計画に行動するようにしているんですよ。
たとえば過ごすエリアは決めているけど宿は決めずに行くとか、海外旅行でも1泊目以降の宿を取らずに飛行機に乗るとか。
ほし
どういうことですか?
市橋さん
現地についてから、その場その場で行動の判断をすることで、偶然の出会いや思いがけない発見が増えるんです。
そういう経験を意識的に増やすことで、不確実な出来事への対応力がつきました。
この髪型も「無計画」にした証拠なのかな…?
「アドレスホッパー」の本質は“移動”することだった
ほし
今回市橋さんから「読者に伝えたいメッセージがある」と伺いましたが…それはなんなのでしょうか?
市橋さん
僕がたまたま色んなメディアに取り上げていただいたことで、このライフスタイルがいろんな人に知られました。
もともとは自分の生活をワクワクさせるために始めたことなのに、「もともとやっていました!」「興味があります!」と同じようなライフスタイルを送る人から連絡がきたんですよ。
それがすごくうれしくて、毎月みんなで集まって「Hopping Night」というイベントをやるようになりました。
ただ…
ほし
ただ?
市橋さん
このライフスタイルがメディアに取り上げられれば取り上げられるほど、ネガティブな意見もくるようになったんです。
「若者が家に住まなくなって路頭に迷ったらどうする!?」「イケてる言い方しているけど、単なるホームレスだろ」みたいな。
でも、僕らの生活ってそんな「家賃を払いたくない」みたいな消極的な理由でやっているわけじゃないんですよ!!
いつのまにか「アドレスホッパー」に対して並々ならぬ情熱を持ったという市橋さん
市橋さん
この生活の一番の魅力は、「移動」することなんです!
ほし
移動…家に住まないことじゃなくて?
市橋さん
そうです。「アドレスホッパー」の本当の魅力は、毎日新しい出会いがあることなんです。
職場や住居といった固定されたエリアで生きていると、視野が狭くなる。でも、宿を転々とすることで、必然的に新しい価値観に触れる機会が増えました。
秋田県大館市に行ったときには、その地域の人々の懐の深さに驚きましたし、温泉に浸かっていれば自然と現地の方との会話が弾んで、東京で生きているだけでは聞けない話が聞けました。
そういう機会を毎日設けることで、自分たちの生活に変化を生み出せるんですよ!
市橋さん
ちなみに誤解されがちなんですが、別に家があってもいいんです。
ほし
そうなんですか!?
市橋さん
この生活の大事な部分って「みんなが移動に積極的になること」なんです。
会社員だったら、1週間知らない街に住んでみて、いつもと違う場所から会社に通ってみるだけでもいいんです。
見慣れない風景に刺激されて、いいアイディアが思い浮かぶかもしれませんしね。
ひとつの場所やコミュニティに留まりつづけず、どんどん移動して「自分の常識」を剥がしていければいいなと。
ほし
なるほど…市橋さんが「アドレスホッパー」の会社をつくったのって、そういうメッセージを多く人に届けるためだったんですか?
市橋さん
「アドレスホッパー」はメディア露出されるようになってきたけど、このままだとただのブームとして消費されてしまう気がしました。だからカルチャーとして育てて、もっと根付かせていきたいなと。
それに、この1年でたくさんのアドレスホッパー仲間ができたんですよ。彼らとチームになって活動していこうと決めて会社化したんです。
ほし
「アドレスホッパー」をカルチャーとして定着させる。まだまだ道は長そうですね…
市橋さん
今の目標は、このライフスタイルの良し悪しを正しく伝えて、もっと多くの人たちにとって「アドレスホッパー」を「ハードルの低い選択肢」にすることです。
まずはこのインタビューで、「アドレスホッパーなんて一部の人にしかできないだろう」という偏見をなくせたらいいですね。
今では地方から「ホッパーしに来てください」と、オファーが来るようになった市橋さん。
そこで仲良くなった自治体や県の方々と、地方に眠っているおいしいものや伝統を広く伝える仕事も行なっているそうです。前職のマーケッターとしてのスキルも活きていますね。
少し前まで会社員だったのに、家を手放したら「アドレスホッパー」として仕事が来るようになった、という話を聞くと、このライフスタイルの可能性はまだまだ広がっていきそうです。
取材後に市橋さんは次の場所への移住を開始しました
〈取材・文=ほしゆき(@yknk_st)/撮影・編集=福田啄也(@fkd1111)〉
市橋さんからのお知らせ
市橋さんたちの会社で、「アドレスホッパー」の本質を伝えるための雑誌を創刊する、クラウドファンディングプロジェクトが行われています。
クラウドファンディングの期間は5月20日まで。興味を持った方は、ぜひサイトをのぞいてみてください!
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