ビジネスパーソンインタビュー

“絶対やるべき”iDeCo(イデコ)に落とし穴!? 資産運用のプロが語る基本とおすすめ商品

iDeCoのメリット/デメリットを解説

“絶対やるべき”iDeCo(イデコ)に落とし穴!? 資産運用のプロが語る基本とおすすめ商品

新R25編集部

2019/05/20

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結婚、転職、出産…いろんなライフイベントが頭にチラついて、将来への不安を感じやすいR25世代。余裕があるなら若いうちから資産運用をして、いざというときのための資産をためておきたいところ。

気になって少し調べてみると、節税のおかげで「絶対に儲かる」とまで言われている「iDeCo(イデコ)」という制度があるよう。

世の中にそんなウマい話はないのでは!? 初心者がハマる“落とし穴”がありそう…自分でくまなくデメリットを調べるのは面倒だから、そのあたりのことを誰かに教えてもらいたい…!

そこで今回は、資産運用のプロに取材!

そのプロとは、ファイナンシャルスタンダード株式会社代表取締役の福田猛さん。iDeCoの基本的なメリットからおすすめの金融機関・商品なども聞いてみたら、やっぱり落とし穴、ありましたよ。

【福田猛(ふくだ・たけし)】ファイナンシャルスタンダード株式会社代表取締役。同志社大学卒業後、2003年大和証券株式会社入社し、資産コンサルティングに従事。2012年にファイナンシャルスタンダード株式会社を設立。2015年には楽天証券IFAサミットにて独立系フィナンシャルアドバイザー総合1位を受賞。著書に『金融機関が教えてくれない本当に買うべき投資信託』(幻冬舎)、『投資信託 失敗の教訓』(プレジデント社)がある

iDeCo(イデコ)の基本と、おすすめポイントを解説

葛上

正直なところ、資産運用まわりのことに疎くて…よく聞くiDeCoってどんな制度なんですか?

福田さん

iDeCoは個人型確定拠出年金ともいいます。ざっくりいうと、個人で運用する年金ですね。

以前ほど国が老後を保障できなくなってきているので、税金面で投資をサポートする代わりに、個人で投資信託(専門家に資金を預けて、代わりに運用してもらう金融商品)などを運用して老後の資産形成をしよう、という制度です。

「iDeCo(イデコ)」という愛称は、厚生労働省がオブザーバーとして参加している確定拠出年金普及・推進協議会により、公募されたアイデアのなかから決定されました。(

葛上

投資ということは、株の売買を短期間で繰り返すようなことをしなきゃいけないんでしょうか?

福田さん

いえ、iDeCoの場合は毎月決まった金額(上限あり)を掛け金として継続的に投資する「積み立て投資」です。なので短期間に売買するようなものではありません

ただ、運用できる金融商品は複数あり、どれを選ぶかによって投資の運用成績に差が出ます。そこは普通の投資と同じですね。

葛上

個人版の年金だから、長期的にゆったり投資する制度なんですね。「投資をサポートしてくれる」とのことですが、実際どんな風にサポートが受けられるんでしょう?

福田さん

iDeCoはお金の「入り口」「途中」「出口」という3つのポイントで税金の優遇があります

福田さん

まず入り口から説明すると、本来は給料を受け取ってから投資をしようとすると、税金が引かれた手取りから運用に回すことになります。

しかしiDeCoの場合は投資に回す資金を引いたあとの収入に課税されます。つまり所得税と住民税が節税できます(所得控除)。

たとえば年収500万円の人が年間20万円をiDeCoで運用するとしたら、差額の480万円に対して課税されるということ。これが得するポイントの1つですね。

葛上

なるほど! では、途中と出口についても教えてください。

福田さん

通常の投資だと売買で利益が出たら約20%の税金が課されますが、iDeCoの枠の中であればいくら利益が出ても課税されないんですよ。これが途中の優遇。

さらに、運用してたまったお金をすべて所得として受け取れるので、「退職所得控除」が受けられる、というのが出口の優遇です。

葛上

退職所得控除…ですか?

福田さん

これも節税の一種です。

日本は累進課税制が採用されてますよね。定年で退職するときには給料が高くなってることが多く、さらに退職金を加えると税率もバーンと跳ね上がりやすい。

その場合はせっかく退職金がもらえるとしても、かなりの部分が税金で差し引かれてしまい、退職金の意義が薄れます。

そこで、勤続年数に応じて退職金の一部を課税対象から外しましょう(※)と決まっているんです。これが退職所得控除。

※勤続年数が20年以下の場合は40万円×勤続年数、20年以降は800万円+70万円×(勤続年数-20)が退職所得控除額になります。

葛上

それはすごい! iDeCoは控除がカギってことですね。

福田さん

はい。また、退職金として一気に受け取らず、徐々に受け取ることもできます。その場合でも税金面での優遇が受けられる(公的年金等控除)ようになってます。

このように、iDeCoは入り口・途中・出口という3つのポイントで節税できるので、非常に得しやすい制度なんです。

25歳からiDeCo(イデコ)を始めた場合のシミュレーション

葛上

「得しやすい」とのことですが、仮に25歳の会社員が始めると、どれくらいになって返ってくるんですか?

福田さん

あくまでシミュレーションでしかないのですが、会社員の限度額である2.3万円(※)の掛け金を退職までの35年積み立てて、年4%の利回り(投資額に対する利益の割合のこと。運用成績によって変動する)で運用できたとするなら、積み立て金額の966万円が2076万円になります。

また、利回りが5%だと2500万円ぐらい。これぐらいは十分に期待できると思います。

※企業年金がない企業の場合

かんたん税制優遇シミュレーション|イデコ公式サイト

iDeCoによる節税効果は、こちらでもシミュレーションできます。

葛上

おお!ということは、だいたい2倍ぐらいにはなるんですね! だいぶ興味が湧いてきたのですが、あまりに優遇されている気がして逆に心配です。

何か初心者がハマりやすい落とし穴みたいなものってないんですか?

福田さん

あまり調べずに始めると後悔しやすいので、注意点という意味での“落とし穴”について解説しましょう。

【iDeCoの落とし穴①】60歳まで引き出せない

福田さん

そもそもiDeCoは個人で老後の資金を準備するための制度なんですよ。なので通常の年金と同じく受け取れるタイミングが決まっていて、iDeCoだと60歳以降にようやく受け取れます

知らずに始めた人にとってはデメリットと言えるかもしれませんね。

葛上

なるほど…株やFXと違い、儲かったからといってすぐに利益を現金化できないんですね。

福田さん

ただ、これはメリットでもあります。

葛上

そうなんですか…?

福田さん

長期の投資って、素人だとほとんどの人が途中でやめてしまうんです。そのせいでまったく利益が出ないことが本当によくある。

強制的に投資を続けさせることで長期的には利益が出やすくなるので、そういう意味では60歳まで引き出せないのはメリットとも言えますね。

【iDeCoの落とし穴②】掛け金を低く設定しすぎると、手数料が割高になる

葛上

iDeCoを始めたら、基本的に60歳まで毎月一定の金額を積み立てることになるんですよね。どれくらいの金額から始められるんですか?

福田さん

5000円以上であれば1000円刻みで変えられます。ただ、掛け金を低くできてしまうところに、初心者がハマりがちな落とし穴(デメリット)があります。

葛上

「低い掛け金でリスクを最小限に」って人は多そうですけど…?

福田さん

カンタンにいうと、手数料のせいでメリットがかなり小さくなってしまうんですよ。

iDeCoを始めるにあたって各種金融機関での口座開設が必要で、どこでも口座の管理手数料が毎月かかります。

たとえば「楽天証券」の場合は167円、「三菱UFJ銀行【標準コース】」だと545円が毎月かかります。(2019年4月時点)

葛上

まあ数百円ぐらいなら、それほど大きくないのでは?

福田さん

いやいや、その思考は危ないですよ(笑)。

仮に毎月の掛け金を5000円、口座管理手数料が500円だったとすると、何もしなくても10%が手数料で減ることになります。利回りがだいたい5%前後だということを考えると、かなり大きい。さらに、掛け金が少ないと利益も出づらいので損する可能性が高くなります

「数百円だから~」と選択を誤ると、せっかくのiDeCoのメリットがかなり小さくなってしまいますから注意ですね。

おすすめの金融機関はネット証券の2つ

葛上

ちなみに、手数料に差はありそうでしたが、すべての金融機関を比較したなかでおすすめはありますか?

福田さん

手数料の安いネット証券を選ぶのが基本で、なかでも知名度の高いSBI証券楽天証券が人気です。

葛上

手数料以外には比較すべき点はないんですか?

福田さん

あるとすれば扱っている金融商品のラインナップですが、正直なところ金融機関ごとにあまり差はありませんね。

なのでSBI証券楽天証券のどちらか、なじみのあるほうを選ぶのが無難だと思います。

【iDeCoの落とし穴③】若いうちに始めないほうがいい場合もある

福田さん

「得しやすい」という話をひっくり返すようで申し訳ないんですが、若い方はiDeCoを始めないほうがいい場合もあります。

葛上

えっ、そうなんですか!? 若いころから始めたほうが積み立てる金額が増えて良さそうですが。

福田さん

というのも、特に若いうちは給料を上げるほうが効率がいいんですよ。

仮に会社員が上限に近い20万円(/年)を積み立てて、利回りが標準的な5%だとすると、1万円がその年の利益になります。一方で、仕事を頑張って昇給すれば、年収は数十万円単位で上がりますよね。

だから若いうちは、まず給料を上げるために自己投資をする、というのが間違いない鉄則です。

葛上

じゃあどれくらいまでお金が貯まったら始めるべきですか?

福田さん

資産運用は「お金が貯まったら」ではなく、毎月の収支が大事なんですよ。

福田さん

たとえば月収25万円の人が15万円しか使わない生活を送っている場合、毎月10万円が貯まります。その状態が維持できるのであれば、すぐにでもiDeCoを始めてもいいと思います。

ポイントは「60歳まで継続できる金額かどうか」です。若い人の場合は引っ越しや結婚など、使うお金も多いのでそこは注意点ですね。

葛上

となると、なかなか始めづらい気も…

福田さん

どうしても気になるなら、似たように積み立て投資で優遇が受けられて、いつでも引き出せる「つみたてNISA」のほうが合っているかもしれませんね。近い将来の収支を考慮し、検討してみてください。

【iDeCoの落とし穴④】投資対象の価格は下がってはいけないと思っている

福田さん

ここからがもっとも大事な話です。iDeCoは制度的にはメリットが多くても、使い方によってはまったく活かせません。

特に差が出るのが商品選びです。初心者だと運用する金融商品(投資信託など)が適切に選べなくてムダにしてしまう人が非常に多いんですよ。

葛上

そうなんですね…! その辺りについても解説をお願いします!

福田さん

わかりました。おそらく初心者の方って「投資は、買った商品の価格が下がってはいけない」と思ってますよね。その思い込みは間違いです。

葛上

ええっ!? どういうことでしょう…?

福田さん

投資の運用成績は「価格×量」という公式で決まります。たしかに、一括で買ってそれを保持し続けるのであれば、購入時よりも価格が上がらないと利益は出ません。

葛上

ですよね。それが投資の一般的なイメージな気がします。

福田さん

しかし積み立て投資の場合は違います。

iDeCoの場合は毎月決まった金額分の金融商品を継続して買っていく「ドルコスト平均法」に則ることになり、商品の価格が下がるということは買える量(投資信託の場合は「口数」)が増えることになります。これが大事なんです!

葛上

んー…でも“価格”が下がってたら、いくら“量”が増えても意味なくないですか?

福田さん

ここまではそう。この後がポイントなんです!

投資信託の場合は、専門家が様々な投資対象を運用しているため、市場全体に投資することになり、“価格”が永遠に下がることはありません。いくら不況になったとしても、10年単位で見れば、“価格”は上がります。

つまり長期で積み立てを続けていると、“量”が増えている状態で“価格”も上がるタイミングがくるということ。そうなれば“価格”と“量”がプラス同士の掛け算になり大きな利益が見込めるんですよ!

葛上

なるほど! 積み上がった“量”が一気にプラスに働くんですね。ただ、逆に言えば最終的には価格が上がらないといけないということですよね…?

福田さん

はい。ただし上がらないといけない程度が短期の投資とは違います。

一括で購入した株式投資の場合は、購入時の価格を上回らなければ利益が出ませんが、長期の積み立て投資であれば最終的に半値になってしまっても利益が出ることは十分に考えられます

葛上

それはすごい!

福田さん

たとえば架空の投資信託で、毎月1万円を10年間積み立てたとしましょう。すると始めた当初は1口1万円だったのに、7年後には2000円まで下がり、残りの3年で5000円まで戻りました。

これを集計すると、投資した総額120万円(1万×10年)が最終的には総額139万円となり、19万円の利益が出ます。

葛上

おお、たしかに半値まで下がっても利益が出てますね。でも、購入時から“価格”が上がり続けて、それから大きく下がってしまう山なりのグラフになってしまったら損をするということでしょうか?

福田さん

そういうパターンになってしまったら、損する恐れがあります。でも数十年単位で続けていれば、何度か大きな山と谷がくるはず。

最終的にどのタイミングで売るかを見定める必要はありますが、長期で投資するなら利益を出すのは決して難しくありませんよ。

おすすめの金融商品は先進国株式型の投資信託

福田さん

ここまでの説明をふまえて、ようやく具体的な商品の話ができます。

“価格”の上下が起こるのは株式です。加えて株式のなかで投資対象が分散されてる投資信託を選ぶのが大原則です。

ほかにも定期預金などの商品はありますが、“価格”が変動しづらいので“量”もあまり増えず、ほとんど利益が見込めません。

葛上

安定を好む人が陥りやすい罠ですね。もう少し商品について詳しく教えていただけますか?

福田さん

わかりました。投資信託にもいくつかのタイプがあるんですよ。世界に幅広く投資対象があるものを選ぶのが原則で、ひとつだけ選ぶなら「先進国株式」をおすすめします

ただ、どこの地域も経済的につながってるので、他国の影響を少なからず受けることになります。なので幅広い投資対象の株式型の投資信託であれば、それほど差はないと考えて良いでしょう。

葛上

じゃあそれを積み立てるようにして、あとは放置でいいんですね!

福田さん

若いうちはそれで大丈夫です。ただし、先ほどお話した通り50歳ぐらいになって“出口”が見えてきたら再考しましょう。

たとえばiDeCoの枠内で、価格変動が起きづらい「バランス型」に入れ替えるとか。

葛上

すみません、バランス型って…?

福田さん

株式や債券(国や企業などが、投資家から資金を借り入れるために発行するもの)など、より幅広い投資対象を運用する投資信託です。投資対象が分散しているので、リスクを抑えた運用が期待できます。

iDeCoの積み立て期間が残り数年というところまできたら“量”はほぼ固定されるので、そのときの“価格”でよければ、価格変動の少ない商品に入れ替えましょう。

葛上

終わりを考える際も価格×量の公式が使えるんですね。

福田さん

はい。今回はあえて初心者がハマりうる落とし穴をメインに解説しましたが、使い方さえ間違えなければ得する可能性はかなり高いです。

なので資産運用に苦手意識を持っている方にも、ぜひiDeCoの活用を検討してほしいですね。

知識のない筆者にとっては、「投資対象の価格が下がることに大きなメリットがある」という教えが目から鱗でした。

この取材でiDeCoに対する懸念は払拭されたので、老後を見据えて真剣に検討します!

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本文中でも紹介のあった、つみたてNISAについても解説していただいています。こちらはiDeCoと違って、60歳まで引き出せない縛りはないよう。併用を含めて、活用を検討してみては?

〈取材・文・撮影=葛上洋平(@s1greg0k0t1)〉

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