「自分で決めるから、大きなリターンがある」

「猿岩石にも、無理やり旅をさせたんじゃない」土屋敏男が語る“仕事に夢中になる方法”

仕事
「これからは、遊びが仕事になる時代だ」「上手に遊ぶと、仕事へのメリットも大きい」。ビジネスの世界では、そんな言葉を聞くことが多い。

しかし、「最近の若者は遊ばない」なんて言われることも…。

R25世代は、どのように“遊ぶ”べきなんだろう?

今回お話を伺ったのは、伝説のテレビ番組『電波少年』『ウッチャンナンチャンのウリナリ!!』のプロデューサーとして知られる土屋敏男さん。今年の7月からは3Dアバターを使ったエンタテインメント「NO BORDER」でも企画・プロデュースを務めるなど、現場で活躍しつづけています。

そんな土屋さんに、「遊ぶように働く方法」をききました。

〈聞き手=長谷川リョー〉
【土屋敏男(つちや・としお)】1956年生まれ。1979年に日本テレビに入社。『進め!電波少年』『ウッチャンナンチャンのウリナリ!!』などの人気番組をプロデュースする。現在は、東京大学大学院情報学環教育部で非常勤講師も。2019年7月7日から、大阪城COOL JAPAN PARK OSAKA SSホールにて吉本興業が開催する超新感覚エンタテインメント「NO BORDER」でも企画・プロデュースを務めている
長谷川

長谷川

この連載では、さまざまな仕事人に「R25世代はどのように遊ぶべきなのか」について聞いていこうと思っているのですが…

『進め!電波少年』で「猿岩石のヒッチハイク」や「なすびの懸賞生活」など、今ではコンプラギリギリの企画を生み出していた土屋さんにとって「遊びと仕事」の境界線はあるのでしょうか?
土屋さん

土屋さん

ないね。やりたいと思えることは全部、仕事にできている感覚がある。
長谷川

長谷川

強い…。たとえば、僕が大好きな『電波少年』の伝説の企画「アラファト議長とデュエット」はどのような経緯で生まれたのでしょうか?
※パレスチナ解放機構のアラファト議長(当時)に会いに行き、「てんとう虫のサンバ」に乗せて「アラファト(あなたと)私が夢の国~♪」と一緒に歌うという思いつき感満載の企画。レポーターの松本明子さんがアポなし突撃した結果成功し、アラファト議長とデュエットを歌う映像は、人びとに衝撃を与えた
土屋さん

土屋さん

放送作家の1人が「アラファト(あなたと)私が夢の国~♪」って口ずさんだのを聞いて、それ面白いんじゃない?ってふざけてたら、ガザ地区まで行くことになってた(笑)。

でも、コンテンツとしての勝算もあったんだよ。いまでは「フェイクドキュメンタリー」が流行ってるけど、当時のテレビは「企画を失敗する」こと自体が新しくてさ。

遊ぶように仕事をするためには、「やりたくない意思表示をする」

長谷川

長谷川

土屋さんが、そんなムチャな企画を実現するなど「遊ぶように仕事ができている」のはなぜでしょうか?

テレビ業界が特殊なのかな、とも思ってしまうのですが。
土屋さん

土屋さん

いや、普通のサラリーマンにもできることだよ。仕事を“選別”すれば
長谷川

長谷川

選別…。嫌な仕事は断る、ということでしょうか?
土屋さん

土屋さん

初めて任される仕事だったら1回は引き受ける。でも、やってみて「あ、この仕事は受け身になっちゃうな」と感じたら、それ以降は断る。それが、仕事の選別。

俺も、『電波少年』がヒットしたあとに部長職のポストが用意されたことがあって。そこでは部下の育成とか査定が仕事の中心だったんだけど、好きな「コンテンツ作り」に没頭できなくて、嫌すぎて頭痛が止まらなくなったことがあったんだよ。

それで上司に「部長できません。部下のいない役職をください」って懇願したら「シニアクリエイター」っていうよくわからない肩書きが手に入ったのよ(笑)
長谷川

長谷川

よくわからない(笑)

土屋さんは「なんでもやる」イメージが強いですが、「やる」以上に「やらない」意思表示を尊重してるんですね。
土屋さん

土屋さん

そうだね。遊ぶように仕事をしたいなら、「やりたいこと」以上に「やりたくないことを意思表示する」のが大事だと思う。

やりたくないことって、直感的にすぐわかるじゃん。「あ、ダメだな」と思ったときに、拒否反応を示せるかどうかが大事でさ。
長谷川

長谷川

「やりたくない」って拒否しちゃってもいいんでしょうか?
土屋さん

土屋さん

いま、若者のチャレンジが推奨されて、なんでも手を上げることが「良い」と言われてるけど、消耗しちゃう若者もたくさんいると思うんだよね。

もちろん、打席に立たないとチャンスをもらえないのも事実だから、「チャレンジしろ」は大前提。

でも、やってみて自分の性質に合わないと感じたなら、「できません」「やりたくないです」を言う、自分のなかの“主体性”を尊重したほうがいい

「やりたくない仕事」をやめられるのは“自分の基準”があるから

長谷川

長谷川

多くの人って「やめたいけどやめられない」という仕事にとらわれてる気がします。

なぜ土屋さんはスパッとやめる決断ができるのでしょう?
土屋さん

土屋さん

明確に基準があって、仕事って「お金がモチベーション」になったら終わりだと思ってるのよ。「やりたくないけど、ギャラがいいから…」っていう状態になってたら。

逆に、本当に自分が没頭できるものが見つかったら、お金を払ってでも挑戦したほうがいい。
長谷川

長谷川

前回取材した、編集者の箕輪厚介さんも、どれだけ売れっ子になっても地味な作業を続けることについて「ツイッターで承認されなくても気持ちいい“自分の軸”だから」と話してました。
土屋さん

土屋さん

要は「世俗から離れてもそこに打ち込めるか?」ってことだよね。心の底からいいと思ったことは、他人の目なんて関係ない。

「努力しています」ってツイートして喜びを感じてもいいんだけど、何より大事なのは「自分が没頭できてるかどうか」だね。

有吉・森脇の2人に、ヒッチハイク出発前にかけた言葉とは…

長谷川

長谷川

そういう意味では、「猿岩石のヒッチハイク」や「なすびの懸賞生活」など、土屋さんのヒットコンテンツは「外部から遮断されて、何かに没頭する」というものが多いですよね!
土屋さん

土屋さん

そうだね。それにはひとつエピソードがあってさ…

ヒッチハイクの旅をはじめるために、香港から上陸して中国の深センに行くの。当時はそこからが中国で、国境の検問所があった。

そこで有吉と森脇の2人に、「本当に行くんだな?」ってきいたんだよ
長谷川

長谷川

念押ししたんですか?
土屋さん

土屋さん

脅しじゃなくて、「すごい大変な旅になるから、自分の意志じゃないと行けないと思う」と2人に言ったの。

帰るならそれでも構わないから、一緒に飛行機に乗って、東京に帰ろう」「どうする?」って。
長谷川

長谷川

2人はなんて答えたんですか?
土屋さん

土屋さん

行きます」と。それであいつらが自分の足で国境を超えていくわけ。

そのときにつくづく思ったのは、旅というのは行かされるものじゃないんだなと。やらされ仕事じゃなくて、自分で行く、前に進むから意味があるんだと思った。
長谷川

長谷川

映画のようなシーンですね…
土屋さん

土屋さん

番組では、俺が“悪魔のようなプロデューサー”で、若手芸人にムチャな企画をやらせるっていうテイだったけど、自分の意志でやらないと面白くないんだよね。

だから俺は、必ず企画を説明して「やりますか? やりませんか?」っていう場面を入れてた
長谷川

長谷川

ああ…! たしかにありました!
土屋さん

土屋さん

仕事って、誰かに強制されてするものじゃない。自分でするから面白くなるわけだし、見てるほうも感動したり、笑ったりできる。

その結果として、彼らはめちゃめちゃ大きなリターンを得ることができたんだよね
長谷川

長谷川

自分で選んだものをやりきった先に、大きなリターンがある。
土屋さん

土屋さん

まぁ、超えられる若者はほんと一握りなんだけどね。

60歳を迎えて、次なるテーマは「恩返し」

長谷川

長谷川

土屋さんが今後、チャレンジしていきたいことはありますか?
土屋さん

土屋さん

前半で「部下を育てられないことがわかった」って言ったんだけど、最近はちょっと思考が変化してきて。エンターテインメント業界に、少しでも「恩返し」したいと思うようになってきたんだよね。

今取り組んでる「NO BORDER」もその一環というか。テレビのあり方が多様になった今、ライブ型のエンタメがまた面白くなってくるんじゃないかと思ってね。
土屋さん

土屋さん

最近は同世代のプレイヤーで業界に恩返しするムーブメントが起きててさ。

やめちゃったけど、幻冬舎の見城徹さんのツイッターも、若手に対してメッセージを届けたいという、業界に対する恩返し的な意味もあったんじゃないかなと思ってるんだよね…
長谷川

長谷川

確かに、見城さんの言葉にエンパワーメントされた若者はたくさんいたと思います。
土屋さん

土屋さん

自分もまだ現役を退く気はないけど、日本がもっと盛り上がっていくために、エンパワーメントしたいね。
長谷川

長谷川

これからの活躍も楽しみにしています。ありがとうございました!
〈取材=長谷川リョー(@_ryh)/文=半蔵門太郎(@hanzomontaro)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=中山駿(@shunnakayama_)〉

土屋Pプロデュースの「NO BORDER」はこちらからチェック!

土屋敏男さんが企画・プロデュースを務める「NO BORDER」。

最新型3Dスキャナで撮影し、観客ひとりひとりのアバターを会場で生成。自分自身が踊り、演劇の一員になるという新感覚のライブエンタテイメントです!

スケジュール、チケットは公式サイトから。

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