小西みさを著『アマゾンで学んだ! 伝え方はストーリーが9割』より
この5つを洗い出してつなげれば、自分のストーリーになる。アマゾン流・自己PRのつくり方
新R25編集部
1994年にシアトルのガレージで起業したアマゾンは、2018年に時価総額が100兆ドルを突破しました。
その成長の裏には、アマゾンが自分たちのストーリーを伝え続けてきたからだと、2003年から13年間アマゾンジャパンでPRを担当していた小西みさをさんは語ります。
アマゾンが自社のPRをどのようについて強化してきたか、どのようにして世界から認められる存在になったのかというストーリーが描かれている、小西さんの書籍『アマゾンで学んだ! 伝え方はストーリーが9割』。
そのなかから、アマゾンのノウハウを活かした自己PRのつくり方を抜粋してご紹介します。
ジェフ・ベゾスはどのようにストーリーを考えるのか
ストーリーとは何でしょうか?
「物語」「脚本」「話」「筋書き」などと訳されます。私は「伝える人と受け取る人が共有しやすいパッケージ」として捉えています。
基本的には、
『アマゾンで学んだ! 伝え方はストーリーが9割』・ある光景が目に浮かぶ
・伝える側の伝えたいことがシンプル
・時間の流れ、方向性が見える
・受け取った側が次に何をすればいいのかがよくわかる
といった特長があるように感じています。
ただ、この記事でお伝えしたいのは、「ストーリー」という言葉の厳密な定義ではありません。
この「伝える人と受け取る人が共有しやすいパッケージ」を、ぜひビジネスツールとして効果的に利用しませんかと提案したいのです。
本章で詳しくお伝えしていきますが、アマゾンCEOのジェフ・ベゾスは世界屈指のストーリーテラーです。
あるとき、ジェフ・ベゾスが社員の私たちに、身振り手振りをまじえてアマゾン創業の頃の話を聞かせてくれたことがあります。
「シアトルのガレージで創業したんだけど、最初の頃は机さえなくってね。仲間と資料を床にわーっと広げて、こんなふうに寝そべってやったんだ。だけど、長い時間やっているとさすがに体が痛くなってくるから、膝にパッドを当てて仕事をしていたんだよ(笑)」
ジェフが、スケボー選手が当てるような大きなパッドを膝に装着し、仲間とともに楽しそうに仕事をしている光景が浮かびました。
そして、聞いていた私たちも「そんなふうに何もないところからこの会社は始まったんだ」と、身が引き締まるような思いになりました。
ジェフ・ベゾスという人は、本質的な価値について常に考え、非常に長期的なビジョンで事業を展開していきます。
わかりやすい言葉で表現すれば、「さまざまな短期的要因に振り回されて、長期的なビジョンの実現を邪魔されたくない」と思っているのです。
さまざまな要因とは、経済環境の変化、ライバル企業の動向などが挙げられます。
「私たちの目指すものは、もっと高く、もっと遠くにある」と思っている。そのことを相手に理解してもらうために最も効果的なのが、「ストーリーで伝える」ということなのです。
特徴を洗い出し、つなげるだけで、唯一無二のストーリーになる
私たちはよく「リソース」という言葉を使いますが、日本語に訳すと「資源・強み」という意味になります。
何かしらの思いを持って創業され、今日まで続いているすべての企業は本来すべて「他とは違う唯一の存在」であるはずです。
では、その他とは違う存在であることを特に際立たせている要素は何なのでしょうか?
『アマゾンで学んだ! 伝え方はストーリーが9割』・理念…どのような思いで創られ、どのような思いで仕事をしている企業か?
・人…どのような経営者が経営し、どのような社員が存在する企業か?
・商品・サービス…どのような商品やサービスを世の中に送り出す企業か?
・設備…どのような設備を持った企業か?
・環境・立地…どのような場所で運営している企業か?
これらを洗い出し、つなげてみるだけで、あなたの企業が唯一無二の存在であることが明確になります。
それは自然と「他の企業では語れない、あなたの企業ならではのストーリー」となっていきます。
最後に「だから、私たちは○○ができる」という言葉を添えれば、ストーリーと強みが一体化していくはずです。
例えば、「子供たちにおもちゃの楽しさを伝えるために創業した企業(理念)であり、『そこまで知っているの?』というほどおもちゃに精通した社員がたくさんおり、子供のような心でおもちゃに接して楽しさを理解している(人)。だから、私たちは子供の視点を持った〝おもちゃコンサルタント〟として活躍できる」
「『ありそうでなかった』と言ってもらえる日用品を企画開発し(商品・サービス)、ホームセンターに卸してきた(環境・立地)。だから、私たちは世界中のさまざまなメーカーと組み、学習環境、運動環境、睡眠環境などを改善する企画会社になれる」
…といった感じでしょうか。
個人の強み出しも、企業の強み出しも、同じプロセスで行う
自分自身の強みの再発掘も、少し表現を変えれば同じプロセスで行うことができます。
『アマゾンで学んだ! 伝え方はストーリーが9割』・価値観…どのような思いを大事にして生きてきたか? 今はどうか? 今後はどうか?
・友人・知人・家族…どのような人に囲まれてきたか? 今はどうか? 今後はどうか?
・趣味・特技…どのようなことに熱中してきたか? 今はどうか? 今後はどうか?
・持ち物…どのようなものを所有してきたか? 今はどうか? 今後はどうか?
・環境…どのような場所で過ごしてきたか? 今はどうか? 今後はどうか?
これらを洗い出し、つなげてみるだけで、「あなただけのストーリー」となっていきます。
「山梨に生まれ(環境)、大学時代は千葉で過ごし(環境)、そこでサーフィンに熱中(趣味・特技)。現在はワンボックスカーで(持ち物)、家族やキャンプ仲間(友人・知人・家族)とデイキャンプを楽しんでいる」などと並べてみます。当然ですが、あなたとまったく同じ人生を生きている人は誰ひとりとしていないことが再認識できるでしょう。
ここに「だから、私は○○ができる」という言葉を添えれば、ストーリーと強みが一体化していきます。
「だから、私は山梨と千葉の観光案内ができる」
「だから、私はサーフィンの初心者に手ほどきができる」
「だから、私はキャンプミーティングを企画・主催できる」
「だから、私は大勢の人が集まる、にぎやかな場を仕切ることができる」
…など、たくさん出せそうです。ビジネスにまったく直結しない強みでも、ビジネスに関連しそうな強みでもいいので、書き出してみると良いのではないでしょうか。
人脈も、時間軸も、弱みに見えるものも…最大限に広げて考える
企業の強み、個人の強みを出す際、ぜひ行ってほしいのは「最大限に広げて考える」ということです。
例えば、人。
企業であれば「自社だけ」、個人であれば「自分の知り合いだけ」と考えてしまいがちですが、企業の場合は「取引先が世界トップ企業」ということも強み、個人も「友人の知り合いにこんな人がいる。友人を介してその人とコンタクトがとれる」ということも強みにカウントしてしまうのです(ただし、「自分の知り合いの知り合いにはこんなすごい人間がいるんだ」と他人に自慢することが目的ではありません。ご自身の中で「自分って、自分が思っているよりも強みを持っているんだな」と気づくことが目的です)。
あるいは、時間軸。
企業も個人も「昔はこういうことをやっていた。でも、今はやっていない」(過去の出来事)は、ぜひさかのぼって強みに加えてください。また、「今まではそれをやろうと思っていない。でも、近々やろうと思っている」(将来的なプラン)も、やることがほぼ決まっているのなら強みに入れて良いと思います。
または、環境・立地。
自分たちからすると弱みに感じてしまうことが、他の人から見ると「それはすごく魅力的ですね」ということがあります。
例えば、「山と川だけで、他に何もない場所です」ということが、何もかも忘れてのんびりしたい人にとっては、最高の環境だったりするわけです。
こんなふうに、「知り合いの知り合いも自分の強み」「過去も未来も自分の強み」「一見弱みに見えるものもまた強み」として強みを洗い出してみると、ご自身の強みが想像以上に多いことに気づけるのではないでしょうか。
自分自身の強みは今から創ることができる
「自分自身の強みといっても、なかなか見つからないんですよね…」。
そんなふうに嘆く声をお聞きすることがあります。
そんな方に1つお伝えしたいのは、「今からでも自分自身の強みは創れますよ」ということです。
例えば、アフリカ大陸最高峰のキリマンジャロに登ったことのある人が周囲にあまりいないのであれば、キリンマンジャロに登頂してみる。
もちろん、体力作り、休暇の取得など、さまざまな準備や調整が必要でしょうが、登頂できたら、「キリマンジャロに登ったことがあります」と人に話せますよね?
「どういう経路で行くんですか?」「何日くらいかけて登るんですか?」「どんな景色だったんですか?」など、興味・関心を持ってさまざまな質問をされるはずです。その体験を1つするだけで、素晴らしい強みができたと言えます。
新たな肩書きを創るのも、1つの方法
また、「自分自身の強みを創る」の1つの方法として、「新たな肩書きを創る」「フィールドを変える」もおすすめです。
私の知り合いに岡本純子さんという方がいます。全国紙の新聞記者などを経て、現在は人材育成・研修、企業PRのコンサルティングなどを手がけています。
彼女は、アメリカに住んでいるときに、「孤独」が現代病の1つとして毎日のように報道されているのを見て、「周囲を見ても仕事熱心で無趣味なサラリーマンほど孤独に陥りやすい」と危機感を持ったそうです。
けれども、どうすれば、この問題意識を多くの人と共有できるのか―そこで考えたのが、「オジサン」に焦点を当てること。そして、“「オジサン」研究家”という肩書きを自ら創り、名乗るようになったのです。
2018年2月には『世界一孤独な日本のオジサン』(角川新書)を出版するなど、「オジサン」の「コミュ力」改善や「孤独にならない生き方」探求をライフワークとして活躍しています。
これは、新たな肩書きを創ることで世の中のより多くの人に伝わった好例だと思います。
別の知り合いには、五十嵐真由子さんという“スナック女子”(スナ女)代表がいます。彼女もフリーで日頃はPRの仕事をしていますが、傍らでスナック愛好家として全国のスナックを訪れ、『東洋経済オンライン』などのメディアを通じてストーリーを発信しています。
このようにご自身の研究したいジャンル、極めたいテーマが明確であれば、そこに肩書きをつけてみると良いのではないでしょうか。
また、「プログラマーとして専門家たちと仕事をしてきた人が、イベントなどで初めてマイクを持ち、プログラミングの知識を一般の方々にわかりやすく解説し、多くの人にプログラミングの魅力に気づいてもらう」といったことは、フィールドを変えることによる成功例です。
「自分にとっては当たり前のことを驚いてくれる人たちは誰か?」という視点で、自分の強みを探してみるのもおすすめです。
追い込まれるほど、人に伝わるストーリーができる
なお、私の経験上、追い込まれれば追い込まれるほど、「良いアイデアがひらめく」「素晴らしい強みが見つかる」「人に伝わるストーリーが出来上がる」と感じています。
アマゾンの「ペット用品」ストアをオープンするとき、「『ペット用品』ストアがオープンします」と伝えるだけでは弱いと思ったのです。
「何か良い方法はないか?」と悩み、社内・社外を問わず、リソースをフル活用した結果、ペット休暇を取得できる企業というアイデアにたどりつけたのです。
「必要は発明の母」という格言がありますが、「強みが何もない」と感じている状況は、強みを絞り出し、素晴らしいアイデアをひねり出す、絶好の機会と言えます。
発想の転換で、それまで弱みと思っていたことすら強みになります。
パソコンがうまく使えないとしたら、手書き文字を練習して味のある一筆を書けるようにしてしまえば良いのです。
球技が苦手ならば、「そんな自分が1カ月で球技の達人になりました」という企画を立てられる余地を残しています。
そんなふうに、自分の弱みを愛嬌と捉え、うまく生かしていくこともおすすめしたいです。
「ストーリー」を伝えつづけたからアマゾンの成長がある
アマゾンは毎年、CEOのジェフ・ベゾスのメッセージをまとめた「レター」を株主に届けています。
そのなかには「1997年レター」と「その年のレター」の2つが同封されているそうです。
「1997年レター」の中身は、1997年にジェフ・ベゾスが考えたアマゾンのビジョン。それはずっと変わらないという意味を込めて送ることで、アマゾンは株主から支持され続けているとのこと。
アマゾン成長のカギとなったストーリー戦略をぜひ学んでみてください。
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