藤田晋著『仕事が麻雀で麻雀が仕事』より

見習うだけじゃなくて、“養分”にせよ。私が麻雀から学んだ「成長しつづける人の特徴」

仕事
ここぞというところで、大胆な勝負に打って出られる「勝負強さ」。

ビジネスマンならぜひとも身につけたいスキルですが、そもそも「勝負強さ」を磨くことは可能なのでしょうか?

その質問に対し、最高の教材になるのは「麻雀」だと断言するのは、サイバーエージェントの藤田晋社長

藤田社長は、2014年にはプロも参加する「麻雀最強戦」で優勝するほどの雀士としても知られています。

2015年に『近代麻雀』で開始した連載コラム『仕事が麻雀で麻雀が仕事』では、麻雀で培った自身のビジネス観を伝えています。

今回はそのなかから、「勝負」「ビジネス」「成長」「人生」というテーマで抜粋した4記事を特別公開。麻雀に興味がない方もぜひご一読ください。

年齢で衰える理由は身体ではなく「学習意欲」

AbemaTVに将棋チャンネルが開設されたことを記念し、羽生善治さんと私の対談番組が企画されました。

その対談の中、若い世代が将棋のネット対局の棋譜データを研究し台頭してきた話のくだりで、羽生さんが「自分も匿名でネット対局を相当数打ってます」と仰っていました。

言うまでもなく今なお将棋界の頂点に君臨する羽生さんですが、そんな地位も名誉もある人が匿名を使ってまで新しい分野を研究してきたら若手はたまらないだろうと感服しました。

一方、麻雀界でも同じような現象は起きています。昔はほとんど資料として残ってなかった対戦データが、今はネット麻雀や配信動画によって大量に残ってます。それらを研究することは過去には考えられなかった上達への近道です。

新しいものを取り入れるのは若手の特権という印象がありますが、現在、鳳凰位に君臨する前原雄大プロ、最高位を連覇している近藤誠一プロは大ベテランと言っていい年齢にもかかわらず、貪欲に、謙虚に新しい戦術を学んでいる印象です。

このような学習意欲が高いベテランは本当に隙がありません。

逆に、若い世代に追い抜かれるベテランは、年齢で身体能力が減退したというよりは、学習意欲が衰えたと言えるのではないでしょうか? 勝負勘や大局観だけで勝てた時代に引き摺られていては、現代麻雀では勝負にならないと思います。

これは仕事においても全く同じことが言えます。インターネットが登場し、既存の大企業が我々のような新興企業の台頭を許した理由は、一言で言えば経営幹部の「勉強不足」です。

あの頃、大企業の経営陣(多くは60代、70代)が面倒臭がらずに真摯にインターネットと向き合い学んでいれば、我々が付け入る隙は全くなかったでしょう。

いかに若手社員が危機感を持っても、会社は社長が理解していなければどうしようもありません。トップが過去の成功、既得権を守ることに重きをおけば、衰退の始まりなのです

私自身も44歳になりましたが、日々激しい変化が起きるインターネット業界で第一線に居続けるために、新しいものが出てきたら必ず自分で使うようにしています。

新しいデバイス、今までにないサービス、使い慣れたものを捨て、それらを試すのは正直に言えば億劫です。でもその億劫な感覚こそが年齢的な衰えなのです。

養分にする

起業家という人種には実に様々なスタイルの人がいて、成功している人の共通項は何かと聞かれても、見つけるのは容易ではありません。

それでも多くの優秀な起業家と接してきた私が、共通していると感じる部分はあります。

その一つが、「人から聞いた話を翌日には自分で思いついたように話す」です。

それも借りてきたような話し方ではなく、いつの間にか自分の中で咀嚼し、自分の言葉に変換されているのです

逆に「孫正義社長を尊敬しています!」というように他人を神のように崇めている起業家からは伸びしろを感じません。

誰かを丸ごと受け入れている時点でその人を超えることはなさそうです


もちろん孫社長は素晴らしい起業家であり、みんなの大先輩ですが、人間なんて人それぞれであり、置かれている立場や環境によって考えもやるべきことも全然違ってきます。

本当に優秀な起業家は、自分のスタイルがまずあって、それを貫くために誰かの良い部分を貪欲に学び、役立てようとしているのです

麻雀ライターの福地誠さんの著書を読んでいると、時折「養分」という単語が出てきます。オンライン対戦ゲームなどで、自分の経験値を稼がせてくれる弱者を俗称的に養分と言います。

これはさすがに言葉の印象が悪いですが、誰かに敬意を払いすぎてしまう人は「養分にする」くらいのスタンスで考えれば丁度良いかも知れません。

憧れのプロにしても、麻雀本のセオリーにしても、他人の打ち筋を丸ごと真似することは出来ません。

自分のスタイルがまず先にあって、それを貫くために役立つものを見つけ出して自分の麻雀に取り入れていくしかないのです。それが大勝ちしても大敗しても、軸がぶれない強い打ち手になる第一歩だと思います。

現役最強の多井隆晴プロは、もはや麻雀界に学ぶ相手はいない筈ですが、タイプの違う打ち手からも、アマチュアからも、相手が誰であれ常に学べる部分を貪欲に探しています。それはまるで自分を更に最強にするための養分にしようとしているように見えます。

起業家と雀士は置かれている立場が似ています。誰かを見習うだけで成功することは出来ません。

自分が正しいと思う道を貫くために、あらゆる努力をし、全責任を負って一人で決断しなければならない、孤高の存在なのです。

ルールと向き合う

ビジネスの世界では、過去の経験がむしろ足かせになることがあります。

例えば私が起業してネットの広告事業に参入した時、ネット広告はまだ誰にとっても未知で新しいものでした。

それにもかかわらず、大手の広告代理店はどこも「広告というものは元来こういうもの」「テレビのCMと比較すればこうだ」と、自分たちの経験との比較で市場を捉えていました。

一方、広告業界の経験がまるでなかった我々は、ゼロベースで市場と向き合い、自分たちが正しいと思うことをやってきました。結果、現在に至るまでサイバーエージェントがシェア1位を獲得しています。

誰でも積み上げてきた実績や経験は次に活かしたいし、ゼロに戻ってまた始めるのは面倒です。

しかし、テレビからインターネットのように土俵が変われば、新しいルールの全く違うゲームに変貌してしまうのです。

そんな時、自分たちの価値観やプライドが邪魔をすれば、素直に市場と向き合ったプレイヤーに負けてしまいます。

4人打ち、3人打ち、東風戦、東南戦、オカ、ウマ、連盟Aルール、天鳳ルール…麻雀には本当に様々なルールが存在します。

麻雀の普及と進展の観点から言えば、私は統一ルールを作るべきだと考えていますが、色んなルールがある現状では、毎回ルールに適応する必要があります。

麻雀で勝つためにそれはとても重要なことで、いち早くそのルールにおける肝となる競争ポイントを見抜くことは、雀力そのものとも言えます。

麻雀も少しルールが変わっただけでと全く違うゲームに変貌します。

新しいルールと出会った時は、同じ麻雀なんだからと面倒くさがらず、まっさらな気持ちで新しいルールと向き合うことが大切です。

自分のホームグラウンドのルールを持っている人ほど、「このルールではここはリーチ」「このルールならオリたら損」と、自分の中の相対的な比較でルールを捉えてしまいがちです。

するとそこに歪みが生じ、まっさらな気持ちで素直にルールと向き合った人に負けてしまいます。

ビジネスも麻雀も、新しいルールと向き合う時には一度初心に戻る。

弊社もインターネット関連では大手企業になりましたが、今でも新しい事業に挑戦する社員には、どんなベテランであっても、私は「新卒に戻った気持ちで取り組むように」とアドバイスするようにしています。

麻雀は、勝てば面白く、負ければ面白くない

麻雀は勝てば面白く、負ければ面白くありません。身も蓋もない言い方ですが、これは真理です。

場末の雀荘と言われるような場所には、歴戦の強者しか残っていません。勝ってる人はまた来店したくなりますが、弱い人はカモられてもう行きたくなくなるからです。

オンライン対戦ゲームが発売されると、最初の頃は初心者も混じっていろんな人がプレーしていますが、1年も経てば廃人のように長時間プレーする強者だらけの状態になってしまいます。

勝ってる人はゲームが面白いから継続し、負けてる人はつまらないから止めてしまうからです

ゴルフは天気の良い日に大自然の中をてくてくと歩きながらプレーする、それだけでも楽しいのではないかと思うかもしれません。

実際は違います。スコアが良かったら最高だけど、スコアがボロボロだったらやはり面白くないのです。

仕事も同じです。20年近く経営をやってきて確信を持って言えますが、会社に不満を持っている人は、だいたい自分の仕事がうまくいっていない人です。

逆に、仕事で結果が出て、調子が良い人が不満を言っているのは全くと言っていいほど見たことがありません。

私はこの真理を学生時代に麻雀から学び、会社を起業した頃、いかなる手を使ってもまずは結果を出さなければならないと腹を括りました。

自分たちのやっていることに結果がついてくれば、働いている人もやる気になってくれるからです。

結果が全てではない」「勝てばいいという訳ではない」と言う人がいるかも知れません。もちろんそれもまた真実です。

でも、世の中を見渡してみてください。実際にその言葉を使っている人の大半は、自分に都合の良い言い訳をしているだけではないでしょうか

起業家でも、理想ばかり語って実績から目を背ける人がいます。

もちろんそういう人が成功しているのは見たことがありませんが、立ち上げ当初、悪魔に魂を売ってでも結果を出そうとしていた私から言わせれば、ただ現実から逃げているように見えます。

仕事も麻雀も、結果が出なければ面白くありません。だからと言って諦めたらそこで終わりです。「勝てば面白く、負ければ面白くない」この真理と潔く向き合って努力するしかありません。

挫折や敗北を受け入れ、それを乗り越えた先に成長があるのです

麻雀には、ビジネスの世界で活かせる気づきがある

仕事が麻雀で麻雀が仕事

仕事が麻雀で麻雀が仕事

麻雀はビジネスに似ている」と言いますが、実際、不平等な配牌から早く大きくアガりを目指す麻雀は、「ビジネスの世界の縮図」のようだという藤田社長。

仕事が麻雀で麻雀が仕事』には、全82回のコラムが一冊に収められています。

藤田社長が麻雀から学んだビジネスの本質。

麻雀を知らない方もぜひ、手に取って見てください!