中村圭著『説明は速さで決まる』より

相手を引き込むヒントは「カーナビ」。コピーライターが普段から実践する“2つの説明術”

仕事
会議で質問されても、とっさに説明できずしどろもどろになってしまった…そんな経験はありませんか?

このような失敗は、説明力不足が原因。相手に一瞬で伝わる説明術を身につけることで克服できると、コピーライター・中村圭さんは話します。

コピーライターといえば、商品の魅力を短くわかりやすく伝える「説明の専門家」。

そのノウハウが詰まった中村さんの著書『説明は速さで決まる』より、説明力を底上げする3記事をお届けします。

聞き手を飽きさせない「脳内ナビ・ワード」

説明の途中から、明らかに相手の興味・意識が自分に向かなくなっている…

簡単に言えば、自分の話が飽きられているという体験はないでしょうか?

もっと相手の意識を、自分の説明に引き込みたい。

そんなときに使えるのが、ここで紹介する「脳内ナビ・ワード」です。

カー・ナビゲーション・システムは、「100メートル先を右折してください」など、音声によって、運転手に次にとるべきアクションを促します。

自分が設定したルートに従ってもらえるように、ポイントごとにちゃんと注意を呼びかけるわけです。

説明も同じで、最初に聞き手とルートを共有しても、いつのまにか相手と共有した説明のルートが、相手の頭のなかから抜けてしまうことが少なくありません。

大事な説明の場面や、相手がいまいち自分の説明を理解してないなという場面で使うことによって、グッと自分の説明に引き込める便利な技術です。

脳内ナビ・ワード①ニュー慣用句

代表的な脳内ナビ・ワードは、ニュー慣用句です。

「犬も歩けば棒に当たる」とか「猿も木から落ちる」とか、みんなが知っている慣用句ってありますよね。

これを少し改造してつくるのがニュー慣用句です。

たとえば、あなたが人材業界でいま若手の流出が激しいことを言いたい場合、「最近の若者は、『石の上にも3カ月』くらいの感覚ですよね」などと使ってみます。

本来の言葉は「石の上にも3年」で、3年くらい我慢していれば石が温まって心地よくなってくるから、我慢しようという意味の言葉です。

しかし、最近は新卒の若者が3年で転職するのが当たり前です。

決断の早い人だと3カ月くらいで職場を判断し、働き続けるか否かを決めてしまうこともあります。

つまり、若者の間では「我慢」の期間が短くなっているわけです。

それを端的に、かつ印象的に説明するために、既存の慣用句の表現をちょっと変えたニュー慣用句をつくり、相手に伝えるのです。

慣用句のいいところは、相手もなんとなくどういう意味か知っているということです。

みんなが知っている言葉でありながら、新規性ができます。

前提として、既視感がある説明は無視されやすいものです。

ニュー慣用句はみんなが知っている慣用句の一部を変えるだけなので、「えっ?なに?どういうこと?」と新しい情報として注意をひくことができます。

もちろん、マニアックな慣用句を選んではいけません。

相手と自分の共通認識を利用するのがこのテクニックの肝ですから、そもそも元の慣用句を知らなければ、うまく機能しなくなってしまいます。

なお、共通認識という意味では、別に慣用句や熟語のようなものでなくても、普段から使われている単語をちょっと変えるだけで効果があったりします。

たとえば、歯科業界で、「モテるのには美肌も大切ですが、美歯だも効きます。ホワイトニングなどいかがでしょうか?」というように、「美肌」を変えて「美歯だ!」という用語をつくってもいいでしょう。

ニュー慣用句をつくるコツは、日頃から「言いたいことを、こういう言葉だったらうまく使えるかも」とネタを探すような感覚で、本や雑誌、ネット記事を見ることです。

また逆に、「ここは伝えたい」というポイントが出てきたら、慣用句集などを眺めながら、説明に当てはまりそうな慣用句を探すのも結構楽しいです。

「みんなが知っているのに、新しい」という特性からSNSなどでも反応がよくなる技なので、ぜひ使ってみてください。

脳内ナビ・ワード②たとえ話

相手をグッと説明に引き込みたい。

そんなときに「たとえ話」は、非常に有効です。

たとえ話は、相手に合わせていろいろ変えていくことができるのがいいところです。

相手の趣味に合わせることもできますし、相手の年代に合わせることもできます。

オーダーメイドで相手に合わせてつくってあげるような感覚で使用することで、相手はぐんぐんと説明に引き込まれていくのです。

たとえば、あなたが後輩に、「仕事の効率が落ちたときのために、リカバリーする方法を持っていたほうがいいよ」と、アドバイスしてあげたいとします。

そのまま伝えると説教くさくなるかもしれませんね。

でも、もし相手がゲーム好きだということがわかっていたとしましょう。

すると、ゲームのたとえ話を使うことで、相手は聞きやすくなるかもしれません。

たとえば、「やる気が出ないときのために、自分なりの回復魔法を持ってたほうがいいよ」と説明を始めてみる。

これは「回復魔法」という彼の興味のありそうなジャンルの言葉を入れることで興味を引き、自分の説明したい方向へとナビをするテクニックです。

相手の興味のありそうなこと、理解できそうなことから話をすることで、グッと説明を聞いてもらえる確率は上がります。

野球好きの同僚であれば、スポーツにたとえてもいいでしょう

たとえば、こんな説明です。

「ルーティーンって大事ですよね。一流の野球選手がバッターボックスに入る前に毎回同じ動きをするやつです。私も朝起きたらやるルーティーンがあるんです。まずコーヒーを入れてから、窓際の机に座ってノートを見る。ノートには前日のうちに今日やることが書かれている。このルーティーンを使うと仕事がスムーズに始められるんです」

序章でも触れましたが、現代人は、ウェブ広告のリコメンド機能などで、自分あてにカスタマイズされた情報に慣れています。

そのせいで、自分に向けた情報じゃないと判断した瞬間に情報をシャットアウトしやすいです。

たとえ話を使ったテクニックは、「あなたに向けた情報です」というメッセージを暗に出すことができます。

自分あてにカスタマイズされた情報を好む現代人には、より有効な手段になってきているのです。

説明でキモを相手に刷り込む「無意識クラクション」

続いてご紹介するのは、こっそりと「ここ大事だよ」と相手の脳に教える「無意識クラクション」のつくり方です。

この技術も、僕たちコピーライターが普段から使っている技をふんだんに盛り込んでいます。

「無意識」としたのは、コピーライターの技術は、「ここが大事」と言わなくても、「大事」と感じさせることができるからです。

この技術を使えば、プレゼンの大事な場面でグッと相手の心をつかむこともできますし、SNSの投稿の締めに使うことで、グンと「いいね!」が増えたりします。

ここでは、そんな無意識クラクションのつくり方を2つお教えします。

無意識クラクション①「重ねる」

「ここが大事」

「聞いてほしい」

そんなときに、あなたはどうするでしょうか?

「ここが大切なポイントなのですが」と言ったり書いたりというのが頭に浮かぶかもしれません。

けれどコピーライターは、「3つのポイントがあります」と同じで、あえて相手の脳にストレスがかかるような言い回しは使いません。

そのときに使うのが、「重ねる」という技です。

たとえば、アイデアは、説明と同じようにターゲットを絞り、また本当に必要な要素だけに絞ったほうが強くなる。

そんなことをまずひと言で言いたいとします。

アイデアは絞れば、強くなる

このように言い切るのも悪くないと思います。

でも、ここではアイデアを絞ることの大切さを伝えたいわけです。

そこで、「絞る」を繰り返してみます。

アイデアは絞れば絞るほど、強くなる

どうでしょう。

アイデアを絞る大切さが、より伝わるのではないでしょうか。

いまのは単純に重ねる、もっともオーソドックスなパターンです。

きっと使いやすいと思います。

ただ、重ね方にはいろいろバリエーションがあります。

ほかにも、「離して重ねる」というのもよく使われる手法です。

たとえば、「家族など身近な人って、ついつい甘えて、使う言葉が雑になってしまいがち。でも、身近にいる大切な人だからこそ、使う言葉は、きちんとしたいよね」ということを説明したいとします。

これをシンプルにひと言で表現すると、

大切な人への言葉は、ちゃんと考えよう

ですが、アッサリしすぎていて、あまり印象に残りません。

ここで「なにか言葉を重ねられないだろうか?」と考えてみます。

そうすると、

大切な人への言葉は、大切に考えよう

と、「ちゃんと」の部分を「大切に」で重ねられると気づけます。

あえて同じ言葉を「重ねる」ことで、強調したいところを、さりげなく相手にアピールできるのです。

説明の冒頭や締めに使うだけで、グッと相手の心をつかめます。

無意識クラクション②「問いかける」

あなたは「なぞなぞ」って好きですか?

僕はそこまで好きでもないのですが、テレビなどを見ていて、なぞなぞの問題が出てくると、ついつい考えてしまいます。

人は問いかけられると、自然とその答えを考える習性を持っているようです。

なので、コピーライターも広告でよく問いかけを使います。

広告で商品について考えてもらうのに、問いかけはいい入り口になるからです。

クルマって、なんだろう。

良い暮らしって、なんだろう。

品質って、なんだろう。

こうした問いかけは広告だけでなく、講演で使うのもお勧めです。

たとえば、金融系の講義だったとします。

「金融知識が必要な理由って、なんだと思いますか?」

こう問いかけてみます。

実際に答えてもらう必要はありません。

でも、こう問いかけると、説明について考えるモードに入ってもらえます。

この視点に立つと、SNSも「問いかけ」であふれていますよね。

働くって、なんだろう。

夫婦って、なんだろう。

仕事って、なんだろう。

こういう問いかけが生まれるように、疑問を投げかけることで、そこには議論が生
まれ「いいね!」数や「シェア」数が伸びていきます。

問いかけられると、ついついその答えを考えてしまう。

シンプルですが、人をひきつけるのに問いかけは確実に効くのです。

仕事からプライベートまで、幅広く使える「説明スキル」を学ぼう

説明は速さで決まる 一瞬で理解される「伝え方」の技術

説明は速さで決まる 一瞬で理解される「伝え方」の技術

一瞬で伝える説明術を身につければ、上司や部下への質疑応答や、自己紹介に悩むことはなくなります。

会議はスムーズに進行できるようになり、企画のプレゼンでもチャンスをつかめるようになるでしょう。

仕事からプライベートまで幅広く使える「コピーライター直伝の説明術」を、ぜひ学んでみませんか?