ビジネスパーソンインタビュー
感情に寄り添ったハートドリブンなマネジメント
アカツキCEO「会社は目標やKPIを追う必要はない」→じゃあどうやって会社伸ばすの?
新R25編集部
日々の仕事で、目標などの数字に追われている人は多いと思います。
最近では、ビジネスの現場で「KPI(Key Performance Indicator)」という言葉が使われることも一般的になってきました。
しかし、「八月のシンデレラナイン」など人気ゲームを手掛けるアカツキのCEO、塩田元規さんは「合理性を追求してKPIを追うことは、逆に成果につながらない」と主張します。
塩田さんは「ハートドリブン」という言葉を掲げ、目標数字ではなくメンバーの「感情・直感・感性」に寄り添った組織をつくりあげているのだとか。
なんとなくいいこと言ってるのはわかりますが…でも…、
そんなのムリじゃない????
塩田さんを直撃して、「数字に頼らない成長の方法」をきいてきました。
〈聞き手=天野俊吉(新R25副編集長)〉
【塩田元規(しおた・げんき)】1983年生まれ。島根県出身。新卒で株式会社ディー・エヌ・エーに入社。2010年にアカツキを創業
「目標とインセンティブ」で動く組織の構造は、「DV」に似ている!?
塩田さん
新R25、一度取材されてみたかったんでうれしいですよ!
天野
それはありがとうございます!
さっそくですけど、塩田さんはなぜ数字でKPIをつくることは重要じゃないと考えるようになったんでしょうか?
会社員からすると、目標があって、それを達成するとインセンティブ(報奨金)があると頑張れると思うんですが…
塩田さん
たしかに、インセンティブがあると一見頑張れる気がしますよね。
でもそれって…表現がめちゃくちゃ悪いんですけど、DVみたいなところがあると思ってるんです。
天野
いや表現悪すぎでしょ!!!
塩田さん
殴って殴って、そのあとで「でもお前のことを愛してる」って(笑)。そしたら好きになっちゃうみたいな。
ふだんはツライ仕事に耐えて耐えて…一瞬だけ快楽があるという「目標とインセンティブ」の構造って、ちょっと似てるところありません?
天野
まあ…そう言われたらそうなのかも?
塩田さん
「痛みと快楽」があると、リーダーにみんな従う組織になるんですよ。
めちゃくちゃ怖いけど納得感ある
塩田さん
でもそんな組織で働いてて、幸せを感じる瞬間はせいぜい目標を達成した月1回だけ。
それって持続可能なものではないし、会社がインセンティブを与えなきゃいけないからリソースが限られる。
天野
たしかにインセンティブとかボーナスは、限りがありますね。
塩田さん
よく「全体の上位○%がA評価の昇給で…」みたいな人事の評価システムがあるんですけど、あれはまさに昇給させられる会社のリソースが限られてるものを、社員で分け合う発想でしょ。
そういう相対評価をすると、“まわりの人が不幸なほうが自分が幸せになる”っていう構造のなかで働くことになるんですよ。
天野
目標達成ボーナスにそんな側面があったとは…
塩田さん
本当は、与えられた目標達成のために頑張ることに、みんな根本的な違和感を持ってるはずなんですよ。
よく映画とかマンガであるじゃないですか。「この会社で出世するために頑張ってきたけど、俺は何をやってたんだろう…」みたいなやつ。
天野
サラリーマンもののよくあるパターンですね…
塩田さん
昔はそれでも幸せだと勘違いできる時代があったんです。「会社から逃げたら生きていけないんじゃないか」という恐怖があって、生存本能でしがみつく人が多かったから。
実際、「脱サラ」という言葉が一般的だった時代は「大手企業を辞めたら道を踏み外した」っていうケースも多かったと思うんですよ。
でも今は、会社を辞めても生きていける可能性が昔に比べて上がってるんで、“恐怖”がベースにある「目標とインセンティブ」型の組織には限界が来てるな~と。
「合理的な数字を追うことが、不合理な結果をもたらす」
塩田さん
僕がKPIがそこまで重要じゃないと思った理由はもうひとつあります。
「合理の不合理、不合理の合理」って言ってるんですが、合理的に数字を追っていくと不合理な結果になっていくんですよ。
天野
??
塩田さん
KPIだけ追って「この目標を達成しよう!」とか言ってると、着目してるはずのKPIの数字がどんどん悪くなっていくんですよ。
不思議じゃないですか?
天野
不思議です…どういうことですか?
塩田さん
たとえばスマホゲームを運営してて、数字をバリバリ追う。
アイテム(ゲーム内の課金アイテム)の売上をKPIとしてたとして、それが下がってくると、「こういうことをしてアイテムを買ってもらおう」ということをみんなが必死になって考える。
でもそれって、思考がすっごい狭くなってるんですよ。
天野
KPIに関係することしか考えられなくなる?
塩田さん
そうです。本当は、全然関係ないところが原因で売上が下がってるかもしれない。
KPIって、物事のすべての要素をバラバラにして、因数分解できるっていう思想です。でも実際は、世の中のすべては有機的につながっている。
目に見えている部分だけの「合理」を追求しても、見えていない部分のつながりによって、結果的に非合理な動きになっている…ということが往々にしてあるんです。
“KPIのワナ”は、つじつま合わせのための仕事が増えること
天野
ってことは、アカツキには“目標数字”はないんですか?
塩田さん
そうですね。会社が「売上いくらつくりたい」って現場に一方的に与えるみたいな目標数字はないっす。
天野
普通だと会社の売上の目標があって、それを達成するために営業は何をする、制作部門は何をする…と目標が決まると思うんですが…
塩田さん
あー、つまんないつまんない(笑)。
あるのは、現場が「今期はここぐらいまでやりたい」って言ってくるものの積み上げです。
天野
社長としてその数字が低いなって思ったらどうするんですか?
塩田さん
どうもしないです。「そうなんだ」って感じ。
そんな会社ほんとにあるんだろうか…?
塩田さん
そもそも会社が売上目標を持つのは、右肩上がりで伸ばしつづけなきゃいけないと考えるからですよね。僕はもう、それにムリがあると思うんです。
とくに上場企業だと、「四半期ごとにKPIを伸ばさなきゃいけない」と考えがちですよね。
天野
そうですね。上場してなくても投資家に向けて数字を報告したりしますし…
塩田さん
長期的には数字を伸ばしたほうがいいですよ。でも「四半期ごとに必ず数字を伸ばす」なんて、ムリでしょ?
あれ、ウソじゃない?
天野
う…
塩田さん
“KPIを置くことのワナ”のひとつは、みんながKPIに最適化した行動を取りはじめること。
そうすると何が起きるか?つじつまを合わせるようになるんですよ。本質的に意味があるかどうかは置いといて、KPIを達成するための行動を取る。
そんな“ウソの数字”のために時間使ってるのって、無駄じゃないですか?
天野
ううう…
塩田さん
気付いたらつじつま合わせの仕事が当たり前になって、「なんでこの仕事をするんだっけ?」という疑問すら言えなくなってくる。
ほとんどのサラリーマンが頭を抱えたくなることを言ってくる塩田さん
塩田さん
だから、世の中の会社は業績予想出すのが当たり前ですけど、うちは出してないんです。それを責められることもけっこう多いんだけど(笑)。
数字を追わずにどうやってチームを成長させるの? 「女の子って甲子園に出られないんです」
天野
数値目標を使ったマネジメントをしてないことはわかりました。
でも、それでどうやって組織を成長させていくんでしょうか? そこが「ハートドリブン」な経営のキモだと思うんですが…
塩田さん
目標として、数字以外の「こうなっていたい」というビジョンを必ず持つようにしてるんです。
俺らがゲームをつくって、世の中がどうなってたら成功なのか?を、可能な限り言語化するっていうルールがあるんですよ。
天野
出た! 「キミは仕事で世界をどう変えたいの?」みたいな話だ!
ぶっちゃけ自分の仕事で「世界を変える」なんて思えることあるんですかね?
「あ~、それも思う人多そうだな~」
塩田さん
アカツキの手掛けた「シンデレラナイン」「八月のシンデレラナイン」っていう、野球×美少女なゲームがあるんですよ。これ、どうやって企画されたと思いますか?
天野
えー、「今、美少女がスポーツやるゲームが人気」とか、「プロスピ人気だし」みたいな感じでしょうか?
塩田さん
そういう視点じゃないですね。
天野
くっ…
塩田さん
企画書を持ってきた責任者に、「なんでこれをやるの?」ってきいたら、「塩田さん、女の子って甲子園に出られないんですよ」っていう話をしはじめたんです。
天野
あっ、そうですね。女子マネージャーのベンチ入りは認められるようになってますけど…(←野球好き)
塩田さん
女子はいくら野球をやってても甲子園という夢の舞台でプレーできない。企画したメンバーは、そこに課題意識を持ったらしいんです。
「そんなことで本当にいいんでしょうか?」「だから、ゲームで女子が甲子園を目指す世界をつくりたいんです」と。
ゲームを通して、女性や、自分の夢に壁を感じてる人に勇気を届けたいって。
天野
なるほど!
塩田さん
つまり、「『八月のシンデレラナイン』が成功すると、世の中のマイノリティや、理不尽を感じている人を少し勇気づけられる」「自分はマイノリティな部分があるけど、新しいことをしてみようとか、常識を少し変えてみよう、と思える」。
そんなゲームだったらたくさん遊んでもらって、売上を上げることにも意味があるでしょ。
僕らは、そういう「KPIには落とし込めない目標」を徹底的に考えているんです。
「ハートドリブン」の二つ目のキモは“感情を表に出すこと”
塩田さん
もうひとつの「ハートドリブン」のキモは、人の感情に寄り添うこと。
社内では、感情を隠さないで表に出していいという文化にしてるんです。
天野
でも、そうするとネガティブなことを言う人がいて、士気が下がりませんか?
塩田さん
いや、みんな「効率的な組織」と「感情を表に出すこと」がトレードオフだと思ってるんだけど、組織では、じつは感情を扱わないほうが非効率なんですよ。
塩田さん
会社って“それっぽいこと言わなきゃハラスメント”があるでしょ。ワクワクしてないのに「ワクワクしてます」とかさ。そんなこと言わなくていい。
天野
(いつも頑張ってそれっぽいこと言ってた…)
塩田さん
たとえば朝イチでミーティングがあるけど、僕が前の日飲み会があって眠いとかあるじゃないですか。
感情を言えない組織って、ちゃんとしてるフリして眠さをガマンしないといけないんですよ。
天野
めちゃくちゃありますね。
塩田さん
そうすると、ミーティングに出席してるメンバーは「やべ、なんかわかんないけど塩田さん機嫌悪い。こえー」ってなるじゃないですか。
それで「提案方法変えたほうがいいかな?」とかめっちゃ考える。
塩田さん
こっちもはやくミーティング終わらせたいだけなのに、なんか理由つけて「これもう1回持ってきて!」とか言って(笑)。
それで、「何がいけなかったんだろう?」とかいってまたみんなで対策練ったりする。そういうムダなことに時間使ってる会社が本当に多い。
だから“感情を表に出す”ことは、チームを伸ばすカギになるんです。
決して、「数字VS.感情」の二元論な戦いではない
天野
そうか…「ハートドリブン」の神髄がわかりました。
ただ、今すぐ数字目標をなくすって普通の会社だとムリな気も…
塩田さん
ひとつ伝えておきたいのは、「KPIを追わなくていい」と言うとよく「仕事に数字は必要ないんですか!?」って勘違いされるんですけど、そうじゃないの。
塩田さん
人類はこれまで、ずっと“AかBどちらか”という二元論の戦いを続けてきてますよね。
「資本主義VS.共産主義」「男性VS.女性」とか。最近だと「大企業とベンチャーどっちがいいのか」「サラリーマンとフリーランスどっちか」みたいな。
天野
どちらか一方に決めなきゃいけないという。
塩田さん
二元論の戦いで相手を否定しあってると、「サラリーマンやってるのバカじゃない?」みたいな極端な話ばっかりになる。それは怒りを生みますよね。
僕が伝えたいのは、そんな二元論はそろそろ終わりにしようってことなんです。
世の中では、これまであまりに「KPI的に数字を追っていればいい」という思想が強くなりすぎていた。だからこそ、逆の思想を組織に取り入れるべきなんじゃないかと考えてるんです。
天野
なるほど。
塩田さん
売上を伸ばそう、と数字目標を置くのがダメなんじゃない。
大事なのは、「なんで売上伸ばしたいの?」っていう問いに答えられるよう、自分のなかで考えつづけるってことです。
自分で仕事の意義を問い直してみます…ありがとうございました!
〈取材・文=天野俊吉(@amanop)/撮影=森カズシゲ〉
『ハートドリブン 目に見えないものを大切にする力』
売上高281億円、営業利益136億円。
アカツキの成功を支える「ハートドリブン」な哲学が、10月3日(木)発売の塩田さんの著書で存分に語られています!
「全ての産業で感情価値が大切に」
「“働く”ことも機能的価値から感情価値へ」
など、ゲーム業界のみならず、すべての組織人に共通する「感情価値」の重要性が展開される同書。ぜひチェックしてみてください!
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