沼田晶弘著『one and only ―自分史上最高になる―』より

“無言の圧力”は気にするな。カリスマ教師が「やりたいことがなくてもいい」と主張する理由

仕事
突然ですが、あなたの今の仕事は「やりたいこと」ですか

「やりたいことが見つからない」「やりたいことを仕事にできない」「やりたいことと得意なことが違う」などなど…あらゆる形でR25世代を悩ませる“やりたいこと問題”。

就活中はもちろん、社会人になってからもふと「本当にやりたいことって何だっけ?」と考えてしまった経験が、誰しもあるのではないでしょうか。

そこで意外な解決策を教えてくれたのが、ユニークな教育手法で知られ、数々のメディアに引っ張りだこの人気小学校教諭・沼田晶弘さん

小学校の先生というと、なんとなく「立派な夢を持ちましょう」などと言われそうなイメージですが…実はその真逆

著書『one and only ―自分史上最高になる―』のなかで沼田さんは、「明確なやりたいことがなくてもいい」と主張しています。実際、沼田さん自身も「やりたいことが特にない」まま、人気教師への道を歩んできたんだとか。

「やりたいことが特にない」人が、やりがいを感じる仕事に出会うためにはどうしたらいいの?

同著のなかから、その答えに迫ります。

「やりたいこと」=サムシング・スペシャル?

最近、若い人からこういう悩みをよく相談されます。「自分が得意なことと、やりたいことがちがう」。

そして、「やりたいことと得意なことがちがう」という悩みの一方で、「やりたいことがない」という真逆の悩みも耳にします。

この悩みには、実はけっこう共感しちゃいます。

ボクには、いまも昔も、「やりたいこと」がないのです

無気力、って話じゃありません。おそらくボクは、基本的に「現在」だけで生きているのでしょう。

いいのか悪いのかわかりませんが、性質的に「いま」のことしか考えられなくて、将来ああなりたい、こうなりたいと、あんまり思っていないのです。

なんとなく、「やりたいこと」とは、特別なもの――サムシング・スペシャルでなくてはいけない、という意識がありませんか?

ボク自身、毎日平凡に暮らし、週に1、2回くらい近所の飲み屋で飲んで、月1回はゴルフ…そのくらいでけっこう最高で、「やりたいこと」の人生は、満たされちゃっています。

それだってまぁ別にいいはずで、「インフルエンサーになる」とか「世界一周」とか、特別感のある夢が「やりたいこと」でなくてはいけない、という無言の圧力のようなものを、ボク個人的には感じています。

よく「沼田先生は今後、なにがやりたいですか?」と聞かれます。「なんにもないです」と答えると、「えっ?」という反応をされます。

「日本の教育界を変えたい!」的なビッグな発言を期待されている空気もうっすら感じるのですが、さらさらそんな気もなく、もう本当に、「今日これでよかったか」「明日子どもたちとなにするか」のくり返しだけで毎日ヘトヘトです(笑)。

やたら子どもに将来の夢を聞きまくるボクたち教師にも責任がある気がするんですが、「やりたいことがない」というとき、「スペシャル探し」の文化になっていないか? という疑問です。

そこまで、「やりたいこと」のハードルを上げないでも、もうちょっとのんびりした考え方でもアリなんじゃないでしょうか?

特別な夢ばかりたくさんもっていないと、ボクたちは成長できないのかというと、いやいや、ぜんぜんそんなことはありません

大切なのは「いま現在。成長するには、現在の自分の立ち位置を明確に認識することです。

あまり極端に「やりたいこと」至上主義になると、「やりたいこと」を言い訳に、現状の仕事や生活を「やりたくないこと」と低く見積もって、全体のパフォーマンスを下げてしまいかねません

すると「やりたい」とか「やりたくない」とかもう関係なく、チャンスが逃げていってしまう。

だから、明確でスペシャルな「やりたいこと」がいまはなくたって、あんまり自分を責めないでください。

「やりたいこと」は特別でも平凡でもどちらでもいいし、なくてもまぁ、とりあえずいまのとこ問題なし、くらいの気楽な価値観もまた、広まってほしいところです。

「期間限定チャレンジ」のススメ

ところで、ここでちょっと「そもそも論」を投げかけてみようかと思います。

「やりたいこと」って、一体、なんでしょう?

本当に「やりたい」なら、もうすでに「やっている」はずなんです。「やりたい」じゃなくて「やっていること」になっているはずなんです。

これはぜんぜん言葉遊びなんかじゃなくて、現実問題、「やりたい」とか言っているうちは、「できていない」ことなのだと、まずはちょっとシビアに、その認識からスタートしましょう。

だから、「やりたいこと」がある上で一歩前に踏み出せていない人の場合には、ボクはいつもこのようにアドバイスします。

「期間限定で、やってみたら?」

身近なことをいえば、うれしいことにボクの教育法をマネしてやってみたい、という後輩の教師がいてくれたりします。

ただ、ボクの教育スタイルは独特なので(自分ではど真ん中ストレートだと思ってるんですけど…)、厳しい意見や批判を受けることもままあるわけです。

それでも、「沼田先生の方法を『やりたい』」という後輩には、冗談交じりに「オレが骨を拾ってやるから。まず期間を決めて、やってみたらいいよ」と言います。

この「期間限定」チャレンジのアドバイスは、けっこうみんなに効きます。

引き返せる保証もあって安心感がありますし、なにより、期間限定でもなんでも、とにかく「実際にやってみたんだ」という、成功体験をつくることもできるからです。

「やりたい」ことがあるなら、何週間〜何か月だけと、期間を決めて本気でチャレンジしてみましょう。

自分で期間を限定すると、チャレンジするハードルが、気持ちの上で少し下がると思います。

まずそもそも本当に「やりたいこと」だったのか? そこも確認できて、ジブンスキャン(自己認識)にもなるはず。逆に「得意なこと」にも、向き合えるでしょう。

「やりたいこと」を、欲求だけでためこんでいるのが一番もったいない

「得意なこと」は、そうたくさん見つからないかもしれませんが、「やりたいこと」をや
るのは、本来はすごくカンタンなはずです。

チャレンジ前夜のボクたちの不安や恐怖は、ほとんど思い込みからきているもの。自分でつくりあげてしまった思い込みに恐れずに、まずは一日でもいいです。

「やりたいこと」をやって、自分の不満を「セルフで」解消してみましょう。まずは、動きだすことです。

「やりたいこと」は絶対、向こうから勝手にきてくれることはありません。自分から獲りに行きましょう!

「得意」×「やりたい」のコラボレーションを目指そう

多くのご縁が重なって、現在の東京学芸大学附属世田谷小学校に勤務することになりました。

それからというもの、毎日目の前の子どもたちのことと、ボク自身の日常生活のことで精いっぱい。

天職だったのかもしれませんし、そうじゃないのかもしれません。

オレはここで勝負する! とまで意気込んではいませんでしたが、ここでなら自分の生きていく根拠がある…というか、なにより子どもたちがそれぞれに輝く方法を、一緒に考えていけるという自信だけは、ありました。

知らない間にひたすら人間観察しているような自分なので、とりあえずそこに関しては向いてる、と。

この「とりあえず向いてる」が、いまの仕事のやりがいと地続きであるのです。

ボクにとって「得意なこと」を活かしているうちに、教師の仕事で食べていけるようになり、結果的にはこうしてビジネス書まで書かせていただいているように、さまざまな仕事に枝分かれし、多くの出会いに恵まれています。

いろんな人と出会い、いろんな話ができることは、ボクにとってめちゃくちゃ刺激的で「好きなこと」であり、この場合「やりたいこと」の範疇でしょう。

つまり、ボク個人の実感にすぎませんが、「得意なこと」と「やりたいこと」が、完全に相反するものだとはどうしても考えにくいのです。両方をかけ合わせることで、仕事には、ハリが出てくるのではないか、と。

「やりたいこと」「得意なこと」「そもそもやりたいことがないこと」…

いずれにしても、それらのトピックで悩みのある人は、一回立ち止まって、自分ができること・できないこと・やりたいこと・やりたくないこと――「やりたくないこと」、これを基準に考えるのもアリでしょう――じっくり振り返ってみましょう。

そうしたら「得意なこと」と「やりたいこと」との間に、なんらかの共通点やコラボレーションできる要素を見つけられるかもしれません。

いまのところ、「得意なこと・やりたいこと」問題に関しては、両者のコラボが少しでもできていることがベター、というのがボクの答えなのですが、みなさんの意見はどうでしょう?

カリスマ教師が子どもたちと学んだ「成長のヒント」が満載!

one and only 自分史上最高になる

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one and only―自分史上最高になる―』にはほかにも、沼田さんが子どもたちとともに学ぶ日々のなかで発見した「成長のヒント」がたっぷり紹介されています。

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