ビジネスパーソンインタビュー
「背中を見て学べ」という上司が陥りがちな“錯覚”とは? 組織のプロ2人が解説

職場の治療室Voicyチャンネルより

「背中を見て学べ」という上司が陥りがちな“錯覚”とは? 組織のプロ2人が解説

新R25編集部

2019/11/15

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ビジネスの現場では昔から、「背中を見て学べ」というものがあります。しかし、この教育法だと「どうしていいのかわからない」と悩む若者も多いはず。

カリスマ産業医の大室正志さんと組織人事コンサルタントの麻野耕司さんのVoicyチャンネル『職場の治療室』では、そんな「背中を見て学べ」という病はなぜ起こってしまうのか?ということを解説してくれています。

2人は提示する、「背中を見て学べ」の解決策とは?

「自分と他人は同じである」という錯覚から、以心伝心を期待してしまう

麻野さん

今日のテーマは、「背中を見て学べ」という病です。

こういうことを言う上司ってまだいるんでしょうね。

大室さん

高いストレスを抱えている若者から相談を受けると、「私はなぜこうしなきゃいけないかという根拠を示してもらわないと納得して動けないのに、上司はそれを言ってくれない」と悩んでいることがあるんです。

挙句、飲み会で上司から「理屈っぽいこと言ってくるよね」なんて言われて傷ついた、っていう人が結構いる。

麻野さん

上司は「言わなくてもわかる」って思っちゃうんだよなあ。

大室さん

上司の側からすると、説明すること自体がちょっと面倒くさいんでしょうね。

でもアメリカだと、人種も宗教も、文化的なバックグラウンドもまったく違う人たちと一緒に働くことになるので、「まずは説明しなきゃいけない」というクセがついてるんですよ。

日本の場合は、みんな似たような環境で育ってきたから、「俺がこう思ったら相手もこう思うに違いない」と、以心伝心を期待してしまう。

麻野さん

「背中を見て学べ」の根本には、「自分と他人は同じである」という錯覚があるのでしょう。

「俺はわかっているけれど、相手はわかってないかもしれない」というところに立ち戻る必要があるけれど、まだまだ僕たち日本人はその意識が薄い。

大室さん

たとえばお寿司屋さんのシャリの握り方といった、そういうひとつのプロダクトをつくる過程だけ習得するんだったら、「背中を見て学べ」でもよかったのかもしれません。

でも今の時代は、覚えることややらなきゃいけないことがたくさんあるし、コロコロ変わりますよね。

「背中を見て学べ」っていって弟子の期間を長引かせるのは、あまり得ではないんですよ。

麻野さん

背中を見て学ぶと、時間がかかりすぎますからね。育成の期間を短くしないと、このビジネススピードの早い時代には、なかなかついていけません。

大室さん

「背中を見て学べ」というやり方は、分野によっては、多分どんどん減っていくんじゃないかな。

お寿司屋さんでの修行なんかは濃密な体験もあるのかもしれないけれど、今はもう、料理学校で学んだ人が1年でミシュランとっちゃう時代ですからね。

そういう時代ではなくなってきているのかな、とは思いますね。

「説明しない上司」と同じくらい「質問できない部下」も多い

麻野さん

実は僕も「背中を見て学べ」をやっちゃいますね。だいぶ意識して変わりましたけど。

というのも、僕自身、説明されるのがめっちゃ嫌いなんですよ。

大室さん

あ〜、だから自分も、相手にあまり説明しないと。

麻野さん

わからないことがあったら自分から聞くので、「説明はいいから!」って思っちゃうんです。

説明を受けるより質問するほうが好きなんで、部下にも同じようにしてしまいます。

大室さん

でも、自分から質問できない人も多いですよね。「説明しない上司」と同じくらい「質問できない部下」も多い。

日本の学校の授業は座学で対話がないから、いざ「質問があったらどうぞ」と言っても、質問できないわけよ。

麻野さん

なんで質問できないんですかね? 「与えられた質問に回答する」っていう訓練をされているからなのかな。

大室さん

あとは、気を遣ってしまって質問できないこともあるんじゃないですか?

「いつでも聞いて」って言った上司が鬼気迫る表情で仕事をしていたら、「聞ける空気感じゃねーよ」ってなるでしょ。

麻野さん

それはよくあります(笑)。

だから、質問させる空気をつくるのも、上司の仕事なんですよね。

「背中を見て学べ」という病に対する処方箋

麻野さん

というわけで、今回の「背中を見て学べ」という病には、大室先生に処方箋を出してもらいたいと思います。

大室さん

今回の「背中を見て学べ」という病に対する処方箋は、「説明して学ばせろ」です。背中にはそんなにたくさんのこと書いてないから。

背中に情報量を背負えるのは、高倉健くらいですよ。

麻野さん

めっちゃ面白いじゃん(笑)。

大室さん

あなたが「背中で語れる」高倉健レベルだったら、背中見せるだけでいいんですよ。

でも普通の上司だったら、前を向いてまず腹を向けましょう

麻野さん

ちょっと処方箋からはずれますけど、「説明ができない上司」って裏を返せば「質問ができない部下」とのセットなんですよね。

この「職場の治療室」で毎回取り上げている病も、ある側面から見たら「上司の病」なんだけど、ある側面から見たら「部下の病」。

そういうふうに職場や組織が捉えていかないと、うまく紐解けないっていうのが、大室先生と僕の考えが共通しているところなんだと思います。

大室さん

何か敵を定めて「若者はわかってない」「おじさんはわかってない」っていう発言は強いんですよ。

でも僕って、その中間みたいなことをいつも言っていて。世の中って、誰か敵がいて、そこを攻撃するような、そんな単純なものではないんで。

麻野さん

僕たちの会社でコンサルティングするときも、「組織の問題は人にあるんじゃない。人と人との間にあるから、そこに着目しなさい」と言っています。

「人間っていう熟語も、人の間と書くでしょ」って。

大室さん

武田鉄矢みたいですね。

麻野さん

だいたい「経営者が悪い!」っていうときは、経営者と社員の間に問題があるし、「上司が悪い!」「部下が悪い!」っていうときは、上司と部下との間に問題がある。

そういう見方をしないと、よくならないことが多いですよね。

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