果物そのものは健康に良い食品である

サプリも逆効果!? 「健康のためフルーツジュースなどを飲むのはNG」と医師が語るワケ

カラダ
食事は単にお腹を満たすだけでなく、健康にも大きな影響があります。

体に良いと言われている健康食品を試したり、栄養を補うためにサプリメントを摂取したりしている、健康意識の高い方もいるでしょう。

しかし、カリフォルニア大学ロサンゼルス校医学部で助教授を務める医師・津川友介先生によると、私たちがイメージしている「健康にいい食事」のなかには、営利目的で作られた、科学的根拠のない情報が混ざっていることも多いんだとか。

津川先生の著書『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』では、信頼できる研究結果にもとづいた「本当に健康にいい食事」が解説されています。

今回は同書より一部を抜粋し、食品の「成分」が健康に及ぼす影響をご紹介します。
【津川友介(つがわ・ゆうすけ)】聖路加国際病院、世界銀行、ハーバード公衆衛生大学院での勤務を経て、2017年よりカリフォルニア大学ロサンゼルス校医学部・医療政策学部 助教授(医師)。日本医療政策機構理事。ハーバード大学博士課程修了(PhD)。ブログ「医療政策学×医療経済学」で医療に関する情報を発信している。著書に『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』 (東洋経済新報社)、『原因と結果の経済学』(ダイヤモンド社)がある
食べるものを考える時、肉や野菜といった「食品」と、リコピンや糖分といった「成分」の2つがある。
以前まではこの成分の中で何が体に良いのか研究されていた時代があるが、最近では、食品が重要なのであって成分はあまり重要ではないとされるようになってきている。

果物を例にして考えてみよう。

果物に含まれる成分である「果糖」は血糖値を上げるという点では健康に良いとは言えないものの、果物そのものは健康に良い食品であるというエビデンスが十分ある

実際に果物の中の果糖を抽出して摂取すれば血糖値はすごく上がるものの、果物を丸ごと食べれば血糖値はそれほど上がらない(ⅰ)ことが知られている。

2013年に当時はハーバード公衆衛生大学院の研究員であった村木功氏(現在の所属は大大阪大学大学院医学系研究科公衆衛生学教室)によって発表された英国医師会雑誌に掲載された大規模な観察研究の論文(ⅱ)によって、果物をとっている人ほど糖尿病のリスクが低いことが明らかになっている。

この論文で興味深いのは果物の種類によってこの糖尿病の予防効果が異なってくるということである。果物の中でも、ブルーベリーやブドウを食べている人ほど特に糖尿病のリスクが低いことがわかっている。

多くの果物は糖尿病のリスクを下げるが、カンタロープメロン(赤肉種のマスクメロン)は逆に糖尿病のリスクを上げることもわかった。
しかし、ここで重要なのは、果物や野菜のジュースやピューレなどの加工品ではダメだということである。

興味深いことに、フルーツジュースを多く飲んでいる人ほど逆に糖尿病のリスクが高いことがわかった。

1週間あたり3単位(コップ3杯分)のフルーツジュースを摂取している人は、糖尿病のリスクが8%高かった。

つまり、果物を食ベている人ほど糖尿病のリスクが低いのに対して、それを抽出したものであるフルーツジュースをたくさん飲んでいる人ほど糖尿病のリスクが高く逆効果であるということがわかったのである。

なぜ果物は糖尿病のリスクを下げるのに、フルーツジュースはリスクを上げるのか疑問に思った人もいることだろう。

果物を食べれば血糖値を上げる果糖が含まれるものの、同時に血糖値の上昇を抑えてくれる食物繊維もとっていることになる。

一方で、フルーツジュースは果糖のみを摂取していることになるので(水溶性の食物繊維は含まれるが、不溶性の食物繊維の多くは加工過程で取り除かれてしまうと考えられている)、血糖値が上がって糖尿病のリスクが上昇するのではないかと考えられている。

では、糖分と食物繊維のサプリメントを一緒にとれば良いのかというとそうでもない。

そのような研究結果はなく、多くの専門家は食物繊維はサプリメントでとるよりも食事でとった方が良いと考えている

健康を維持したいのであれば、果物はたくさんとり、フルーツジュースはできるだけ避けることをおすすめする。

野菜の成分「βカロテン」は、サプリで摂取すると“がん”のリスクが上がる

1970年代までに、生活習慣とがん発症の関連を調べた研究において、緑黄色野菜や果物をたくさん摂取している人に胃がんや肺がんが少ないことが報告され、これらに多く含まれるβカロテンによってがんが予防できるかもしれないと考えられるようになった。

そして、1990年代には、喫煙者およびアスべスト曝露のある人たちを対象に、βカロテンとビタミンAのサプリメントの効果を評価するランダム化比較試験(※1)が行われた。
※1 ランダム化比較試験…研究対象となる人を、くじ引きのような方法を用いて2つのグループが全く同じになるように分け、片方のグループだけに健康に良いと思われる食品を摂取してもらい、もう片方のグループには摂取しないでいてもらう方法
その結果、βカロテン(+ビタミンA)は肺がんを予防するどころか、むしろ肺がんのリスクを上昇させる(ⅲ)ことが明らかになり、この研究を継続することは倫理的問題があるということで、当初の予定よりも早く中断せざるを得なくなった。

βカロテンに関してはこれ以外にも数多くの研究が行われている。

複数のランダム化比較試験の結果を統合したメタアナリシス(※2)によると、βカロテンのサプリメント摂取は、膀胱がんの発症率を約50%高め(ⅳ)、喫煙者では肺がんと胃がんのリスクを10〜20%増加させる(ⅴ)と報告されている。
※2 メタアナリシス…複数の研究結果をとりまとめた研究手法
さらに、βカロテンをサプリメントとして摂取することで死亡率が約7%(ⅵ)増加することや、アルコール飲料を飲む人にとっては脳出血のリスクが高くなる(ⅶ)可能性があることもわかっている。

これらの知見からわかることは、緑黄色野菜の摂取は病気のリスクを下げるものの、そこから抽出されたβカロテンという成分を摂取すると健康になるどころか、むしろ病気のリスクを上げてしまう(ⅷ)可能性があるということである。

これらの研究が、健康のためには「成分」よりも「食品」に注目することが重要であることが認識されるようになったきっかけの一つである。

「リコピン」で病気が予防できるというエビデンスはない

βカロテンの例と同様に、「食品」としてのトマトはそれなりに体に良いものの(野菜は健康に良いがその中で特にトマトか健康に良いというエビデンスはない)、実はその「成分」であるリコピンが体に良いというエビデンスはない。

血中のリコピンの濃度を測ってみると、その値とがんや心筋梗塞に相関があるという研究結果はある。

しかし、リコピンを抽出してサプリメントとして摂取することによってがんや心筋梗塞の予防、死亡率の低下に効果があるというエビデンスはない (LDLコレステロールを下げるなど血液のデータに関しては効果がある可能性があるものの、実際に病気を予防するというエビデンスはない)。

ジャーナリストでありカリフォルニア大学バークレー校の教授であるマイケル・ボランは、その著書の中で食事や栄養に関する発見が都合良く解釈され、営利企業のマーケティングの手段として利用されていることに注意を喚起している。

テレビや食品業界は皆さんに健康になってもらうことが第一の目的だろうか。それとも、目新しくて、話題になって、そして視聴率がとれたり物が売れるようになることが一番の目的だろうか。

「成分」は多くの消費者の興味をひきつけるため、マーケティングに使われているということを忘れてはいけない。

生活習慣の予防やダイエットを念頭に健康的な食事を考える場合は、成分に注目するのではなく、食品や食生活全般に注目するべきである。

健康的な食事の指針として読んでおきたい一冊

世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事

世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事

『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』では、このような科学的根拠に裏付けされた「本当に体に良い食事」についての知識が得られます。

世の中にあるさまざまな情報から、自分の力だけで正しいものを見分けるのは、簡単なことではありません。健康になるために、ぜひこちらの書籍を読んでみてはいかがでしょう。