宇野常寛著『遅いインターネット』より

インターネットは人々から思考力を奪っている。僕が今、「遅いインターネット」を提唱するワケ

トレンド
時間も場所も問わず、あらゆる情報に瞬時にアクセスできるインターネット。スマホ社会になった今、我々がインターネットに触れない日はありません。

ただ、評論家の宇野常寛さんは著書『遅いインターネット』のなかで、インターネットに「行き詰まりを感じている」と書いています。

その原因は、瞬時に情報をキャッチ・発信できる「速さ」にこそあるのだとか。

今回は、同書より、現代のインターネット社会に対する問題意識、そして、それを打開するために宇野さんが提唱する「遅いインターネット計画」の一部をお届けします。

「遅いインターネット」宣言

いま、必要なのはもっと「遅い」インターネットだ。

現在のインターネットは人間を「考えさせない」ための道具になっている。

かつてもっとも自由な発信の場として期待されていたインターネットは、いまとなっては、もっとも不自由な場となり僕たちを抑圧している。

それも権力によるトップダウン的な監視ではなく、ユーザーひとりひとりのボトムアップの同調圧力によって、インターネットは息苦しさを増している。

一方では予め期待している結論を述べてくれる情報だけをサプリメントのように消費する人々がいまの自分を、自分の考えを肯定し、安心するためにフェイクニュースや陰謀論を支持し、拡散している。

そしてもう一方では自分で考える能力を育むことをせずに成人し、「みんなと同じ」であることを短期的に確認することでしか自己を肯定できない卑しい人々が、週に一度失敗した人間や目立った人間から「生贄」を選んでみんなで石を投げつけ、「ああ、自分はまともな側の、マジョリティの側の人間だ」と安心している。

これらはいずれも、「考える」ためではなく「考えない」ためにインターネットを用いる行為だ。

ネットサーフィンという言葉が機能し、インターネットが万人に対しての知の大海として開かれる可能性は、つい最近まで信じられていたはずだ。

しかし、もはやそれは遠い遠い過去のことのような錯覚を僕たちにもたらしている。

そこで、僕はひとつの運動をはじめようと考えている。

遅いインターネット計画」と呼んでいるそれは、あたらしいウェブマガジンの立ち上げと、読者に十分な発信能力を共有するワークショップが連動する運動だ。

この国を包み込むインターネットの(特にTwitterの)「空気」を無視して、その速すぎる回転に巻き込まれないように自分たちのペースでじっくり「考えるための」情報に接することができる場を作ること。

Google検索の引っかかりやすいところに、5年、10年と読み続けられる良質な読み物を置くこと。

そうすることで少しでもほんとうのインターネットの姿を取り戻すこと。

そしてこの運動を担うコミュニティを育成すること。そのコミュニティで、自分で考え、そして「書く」技術を共有すること。

それが僕の考える「遅いインターネット」だ。

インターネットの行き詰まりの原因は、「速さ」にある

なぜ「遅い」インターネットなのか。

それは、いまのインターネットの行き詰まりの原因はその「速さ」にあると考えるからだ。

もちろん、「速さ」はインターネットの最大の武器だ。

世界中のどこにいても即時に情報にアクセスできる。

この「速さ」がインターネットの武器であることは間違いない。

しかし、インターネットはその「速さ」と同じくらい「遅く」接することができるメディアでもある。

インターネットの本質はむしろ、自分で情報にアクセスする速度を「自由に」決められる点にこそあるはずだ。

そこで、僕はいまあえて速すぎる情報の消費速度に抗って、少し立ち止まって、ゆっくりと情報を咀嚼して消化できるインターネットの使い方を提案したい。

そうすることで僕たちはより自由に情報に、界に対する距離感進入角度を決定できるはずだ。

いまインターネットと呼ばれているものは、いやFacebookやTwitterに代表されるソーシャルネットワーキングサービスを中心に再組織化されつつある現在の情報環境は、この速度を決定する主導権そのものを人間から剥奪している

たとえば、タイムラインに流れてくる情報に対しほとんど脊髄反射的に反応して「発信」する人々は、あるいはニュースサイトが閲覧数目的で選ぶ扇情的な見出しに釣られタイムラインの「空気を読み」、週に一度生贄として選ばれた目立ちすぎた人や失敗した人に石を投げつける人々は果たして「思考している」と言えるのだろうか

もちろん彼ら自身は自分で事物について考えをめぐらし、自分の考えを発信しているつもりなのだろう。

だがこうした人々の発信は驚くほどに一様で、そしてかなりの割合で情報の内容に対する検証を欠き、タイムラインの潮目を読んだだけの極めて表層的な内容に留まっている。

だからこそ何ものでもない彼らは、その実タイムラインに流されるだけであるにもかかわらず、まるで、自分が内実を伴った意見を発信しているかのような、世界に素手で触れているかのような錯覚に陥ることのできるこの発信の快楽に溺れていく。

そして、何ものにもなれない自らの人生を呪うことしかできない人々は、その現実から目をそらすための麻薬を用いることでより愚かに、凡庸に、そして卑しくなっていくのだ。

「発信」することで愚かになっている

誤解しないでほしいが、僕はインターネットが人々に与えた発信能力を取り上げるべきだとはまったく考えていない。

ただ、僕らが「メディアからプラットフォームへ」を合言葉にして、人々に発信能力を与えることが、人類を前に進めることと同義だというイデオロギーを信奉することはもはや不可能だと告げているのだ。

この四半世紀のあいだに、人類の何割かは確実に発信することでより愚かになっている

少なくとも発信する能力を得ることで、その愚かさを表面化させている

この現実から、僕たちは目をそらすべきではない。

何の知見もスキルもなく、ただ考えをダダ漏れさせることを手放しで礼賛できる時代は確実に終わった。

もちろん、こうした匿名/半匿名ユーザーの集合知の生むクリエイティビティは否定しない。

しかし、そのためには多くの幸福な偶然とシビアな条件が必要であることは(たとえばボーカロイド文化の勃興と衰退を考えれば)明白だ。

僕たちは、インターネットの匿名性の生むクリエイティビティを正しく受け止めるためにも、匿名性が保証される場を選定し、限定しなければならないのだ。

今日のインターネット・プラットフォームは情報をスローに受信させる術と動機をもたない。

だから僕はあくまでメディアの、記事を発信する側のアプローチで読者に情報をスローに受信する文化を育成しようと考えている。

そしてその上で読者たちにスローに再発信するノウハウを共有することができないかと考えている。

「遅いインターネット」で良質な発信者の育成を

遅いインターネット」は一見、「ただのウェブマガジン」の形式を取る。

その最大の特徴は形式ではなくあくまでその内容にある。そのレベルでしか伝えられないものがあるからだ。

まず僕はメディア(発信)とコミュニティ(受信)との関係を、僕なりのかたちで結び直そうと考えている。

そのために「一旦」両者を切断する

現代のインターネットのプラットフォームたちの与える安易で拙速な発信のもたらす快楽を、人々に一度忘れてもらう。

彼ら彼女らには良質な読者として成熟することを目的にしてもらう。

それに並行して、もう一度良質な発信を身に付けてもらうのだ。

プラットフォームではなく、メディアからのアプローチで、そして「モノ」ではなく「コト」によるアプローチでこの情報社会に対する距離感と進入角度を提示するコト

それが僕の考えたコンセプトだ。

このメディアはもうひとつの言論空間の構築を目的としたクラウドファンディングと読者コミュニティである「PLANETS CLUB」からの収益によって運営する。

「遅いインターネット」のウェブマガジンに、コメント欄はつけない。

他人の書いた記事に対して後出しジャンケン的にマウンディングすることがインターネットのインタラクティブ性ではない。

その上で、PLANETS CLUBでは受信と発信ノウハウ、つまり「読み方」と「書き方」の共有を行う。

ある情報に接したとき、まずその情報自体をしっかりと消化する方法が必要だ。読書メモ、視聴メモの取り方から背景知識の調べ方までを共有する。

そして次の段階としてそれを自分の発信に昇華する方法を共有する。

ソーシャルメディア上のコメントのような安易な発信ではなく、議論を具体的に前に進めるための発信とは何かそのために何が必要かを共有する。

こうして、ひとり、またひとりと「遅いインターネット」的に情報を発信するユーザーが増えていくことに、即効性こそ期待できないがボディブロー的に期待できる効果があると僕は考えている。

「遅いインターネット」とは、「ネットサーフィン」という言葉が生きていたころのウェブマガジンへの回帰と、現代の「速すぎる」ソーシャルメディアの状況に(批判的に)対応した質の高い情報発信を学習するコミュニティとが連動した運動なのだ。

従来の「インターネット」が持つ固定概念から脱却しよう

遅いインターネット

遅いインターネット

素早く検索し、素早く情報を得る

それがこれまでのインターネットのイメージでした。

しかし宇野さんは確信を込めて言います。

「インターネットの本質はむしろ、自分で情報にアクセスする速度を『自由に』決められる点にこそあるはずだ」

いま、私たちのインターネットに対する固定概念を、根本的に変えるときがきているのかもしれません。

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