コロナ不況が噂される今、どんな会社にいるべきなの?
BtoBのビジネスは弱い!? “北の達人”木下社長が教える「逆境に強い会社の7カ条」
新R25編集部
毎日のように聞こえる「コロナ不況」という言葉。多くの企業が倒産するという悲観的な予測も見られます。僕らの職場でも、他人事ではなさそう…。
そんななかで注目を集める企業が、「北の達人コーポレーション」。健康食品などのネット通販事業で、2015年に東証一部上場。2017年末には、株価上昇率が昨対比11.6倍となり、上場会社のなかでトップという偉業を成し遂げた、知る人ぞ知る超スゴい会社なのです。
代表取締役の木下勝寿さんは、以前からTwitterで、まるでコロナ不況を予見していたかのような「危機を乗り越えられる会社のあり方」についての発信を行っていました。
今回は、そんな木下さんの「クライシスマネジメント論」をもとに、R25世代に向けて“危機に強い会社の特徴”を教えていただきました。
この取材のおかげで、どんな会社にいるべきなのか? 転職するならどんな業界にすべきなのか?が、完全にわかってしまいました…!
〈聞き手=天野俊吉(新R25副編集長)〉
木下勝寿/webマーケッター兼東証1部上場企業社長 (@kinoppirx78) | Twitter
【木下勝寿(きのした・かつひさ)】北の達人コーポレーション代表取締役。1968年生まれ、兵庫県出身。卒業後リクルートに入社し、28歳のとき起業。北海道を拠点に、健康美容の分野でeコマース事業を展開する
「ダメな会社はすぐわかる。徹底的に見てほしい」
天野
お忙しいなかオンライン取材を受けていただき、ありがとうございます!
木下さん
Twitterを見て興味を持ってくれたんですかね? ありがとうございます。
これから残念ながら多くの会社が経営に失敗していくと思うんですけど…言葉は悪いですがR25世代の若い人たちにはチャンスだと思ってるんですよ。
失敗例を見て、「何があかんかったんや」っていうのが学習できるチャンス。
Twitterではキレキレでしたが、実際には穏やかな口調の方でした。よかった
木下さん
逆境のときにダメになる会社、ならない会社がハッキリわかりますから、徹底的に見てほしい。
起業したい人にとっては“勉強の時間”になりますし、転職したい人も「給料が高い」とかじゃない、本当の会社の選び方がわかるはずです。
天野
すげえ、ぜひ聞きたいです…!
木下さんが考える“逆境に強い会社”の特徴って、何なのでしょうか?
木下さん
いろいろありますけど、まずは「BtoCビジネス」をやってる会社は強いです。
天野
そうなんですか? BtoBのほうが企業相手で安定してるイメージがありますけど…
木下さん
いや、僕は「toBはものすごい危うい」という考えを持ってます。
経済のスタートって絶対toCですよね。農作物とかを消費者に売るところからスタートしてるはずじゃないですか?
最終的に農作物を買う人がいなかったら、畑を耕す道具を売るビジネスってありえないんですよ。
天野
たしかに。
木下さん
バブルが崩壊するのは、そんな経済の原則を理解しないで、toBの動きだけする人が多いからなんです。
土地の値段が最初に上がるときって、土地を欲しい人がいるからですよね。1000万円の土地を欲しい人がたくさんいて、1100万円に上がる。
ところが、間に業者が入ると、自分が欲しいわけじゃないのに買う。1100万円で買って1200万円で売るビジネスをし始めるわけです。
これ、その1200万円の土地を最終的に消費者が買わないと、経済が完結しないんですよ。toCの“出口”がないと、お金って回らないんです。
木下さん
土地の値段が1500万円になって、消費者が「誰がそんな高いモン買うねん!」って思った瞬間にバブルが崩壊するんです。
ITバブルもサブプライムローンも、すべて同じ構造です。
天野
めちゃくちゃわかりやすい説明だな…
木下さん
僕が新卒でリクルートに入ったころは、求人媒体がメインのビジネス。でも、バブル崩壊直後の大不況だったのでどこも求人のニーズなんてないんです。
いくらいい媒体をつくろうが、toBのビジネスである以上、ニーズのない不況時にはお金にはならないことを痛感しましたね。
天野
なるほど…もろさがあるわけですね。
「逆にtoCの強みで言うと…」
木下さん
天野さん、セービングってわかりますか?
天野
え…?
木下さん
僕が入社した翌年、リクルートが、当時すごい勢いだったダイエーに買収されたんです。
ダイエーの主力商品が「セービング」。食料品から日用雑貨、下着まで自分たちでつくって安く売る、プライベートブランドの走りだったんです。
天野
へえ~! コンビニにPBが出てきたころのことは覚えてますが、ダイエーがやってたのか…
木下さん
そう。僕は「セービング」を見て、toCの物販ビジネスなら“消費者が喜ぶいい商品を作りさえすれば売れる”という鉄則を知ったんです。
天野
あれ、でもたしかダイエーってそのあと…
木下さん
ダイエーも経営破綻寸前になって、2004年にはイオンの子会社になりました。
理由は、「資産を固定しすぎたこと」。ダイエーの店舗は土地ごと自社物件だったので、売れない店でも撤退しづらかった。ここから、リアルの店舗にこだわって資産の固定費率が高いと、変化に弱くなってしまうことを学びました。
今で言えば、ネットで店舗を運営するのがベターでしょう。
木下さんが実体験をもって教えてくれる平成初期のビジネス史でした
木下さん
ここまでの話をまとめましょう。不況に強い会社とは…
①バブル崩壊の影響を受けにくいBtoCのビジネスモデル
②変化に対応しやすいインターネット
ただし、ネットのBtoCと言ってもスマホゲームなどの「ネット完結型」と、モノが介在する「物販」があります。一長一短ありますが、ネット完結型は技術やデバイスの革新などで一気にゼロになる可能性もあるので、
③環境に左右されにくい「物販」
この3つのポイントを押さえている会社のこと! 少なくとも2つは必要でしょうね。
そういう観点から、北の達人コーポレーションはeコマースの事業を選びました。
天野
おおお…!! すごい説得力。
ちなみに、ベンチャー起業家とかでBtoBのビジネスを始める人が多いのはなぜなんでしょうか?
木下さん
手っ取り早いからですね。5000円のものを200人に売るより、1人の担当者に営業して100万円売り上げるほうがスピーディーでしょう。
そのかわり、落ちるのも速いです。クライアントの担当者が人事異動で変わっただけで、1億円がゼロになることもザラ。
サイバーさん(サイバーエージェント。新R25の運営元の親会社)がすごいのは、最初にネット広告のようなBtoBのビジネスで立ち上げて、途中から不況に耐えられるようにBtoCに拡大し始めたところですよね。
天野
そうですね。(そうなんだ)
「僕はタクシーには乗るけど、ファーストクラスには乗りません」
天野
とはいえ、eコマースの会社以外で頑張りたい読者も多いと思うんですが…
ほかに「逆境に強い会社」の特徴はありますか?
木下さん
コストがリターンに見合っているかを考えている会社は強いと思います。
天野
ほう…「北の達人」はコストカットへの意識もすごいとお聞きしました。
やっぱり厳しくチェックして、出るお金を少なくしてるんでしょうか?
木下さん
いや、減らすことだけ考えてるわけじゃありませんよ。
たとえば僕は移動するときタクシーには乗りますが、飛行機のファーストクラスには乗りません。これ、なんでだと思います?
天野
なんで…
タクシーは言うても数千円だけど、ファーストクラスは数十万円かかるからじゃないですか?
木下さん
違いますね。
電車のかわりにタクシーに乗って移動時間が短くできれば、私の時間給というリターンがあるからです。
一方、飛行機はファーストクラスでもエコノミーでもかかる時間は変わらないですよね?
だから、ファーストクラスに乗ってもリターンがないんです。
天野
なるほど…!
木下さん
もうひとつ。会社の応接室にお花が飾ってあるとします。
花屋さんに頼むと、月数万円はかかる。これ、やめるべきだと思いますか?
天野
どうなんだろう。別になくてもいいはず…
でも、あまり殺風景すぎるのもよくない気がしますね…
木下さん
こういうときも、得られるリターンを考えてみてください。
たとえば、お花があって華やかな雰囲気になることで、採用面接での内定受諾率が上がるかもしれない。お花の効果で何%ぐらい上がるかを、仮説でいいから考えてみる。
内定受諾率が10%上がるなら、採用コストが何円下がるのか。その金額はお花代と比較したときつり合っているのか…?
このように、細かいところまで投資とリターンを計算している経営陣がいる会社は、間違った判断をしにくいでしょうね。
天野
おお…
こまけえ…でもこれが一流の経営者なのか…
「2代目、3代目社長が危ない」理由とは
木下さん
あとは…語弊があるかもしれませんが、“創業社長”が経営してる会社がいいと思いますね。
長年続いてる会社で、世襲や社内の持ち上がりで2代目、3代目社長っていう人は、リスクをイメージできないことが多いかもしれません。
天野
へえ…よく「3代目社長が会社をつぶす」とか聞きますけど、なぜなんでしょう?
木下さん
それは、先入観のせいで、ビジネスをする業界を固定してしまうからです。
天野
先入観?
木下さん
“業界の中”にずっといる2代目、3代目の人って、「うちの業界はこうだからしょうがないんだ」って言いがちなんですよ。
でも、先入観なく見ると、わざわざ不利なところでビジネスやってるだけなことが多い。僕らからすると、「業界変えたらええやん」って思っちゃう。
創業社長は何もない状態から始めるので、先入観がありません。うちは北海道の会社ですが、創業者の私は関西人。「自分は関西生まれだから…」と縁やゆかりにこだわっていたら今の当社はないと思います。
天野
場所も業界も、ゼロベースで考えていいはずですもんね。
木下さん
そう、最近よく「○○業界を国が救うべきだ」と言ってる人がいますが、それも違う場所でビジネスすればいい話だと思うんですよね。
天野
なるほど。税金で守られるべきカルチャーなどもあると思いますが、一方で“もうこの業界ムリだろ”って思うところもありますよね…
「スローガンが具体的な会社ほどいい」
天野
話が脱線するんですけど、「北の達人は、スローガンの言語化力がめちゃくちゃ高い」と聞いたことがあって。
たとえば「びっくりするほどよいものができたときにしか製品化しない」っていうスローガンがあるんですよね?
編集長の渡辺がYouTubeでも話してて気になってたんです
木下さん
それも、強い会社の条件と言えるかもしれません。
チームを率いる“言葉”をつくるときに重要なのは、徹底的に「日常業務で具体的にどう動けばいいかがわかる言葉」にすることです。
「びっくりするほど~」って、「品質重視」と意味は同じなんですよ。
天野
たしかにそうだな。
木下さん
仕事中に「品質重視してる?」って言われても「してます」って感じでしょ。
「これ、びっくりするほどええ商品なん?」って聞かれたら、どうです?
天野
「びっくりしましたね」とか「びっくりってほどじゃないです」って答えられますね。
木下さん
多くの会社が「質実剛健」みたいな社訓を掲げてるのは、最初にいろんな言葉が出ていたものが、だんだんまとまっていった結果なんですよね。それをまとめないほうがいい。
言葉が凝縮されていくプロセスに関わった人には通じるけど、後から入ってきた人に伝わらなくなって、スローガンの意味がなくなってしまうんですね。
「会社の“無収入寿命”を常に意識している」
木下さん
今回のコロナショックはこれまでのバブル崩壊とは違って、お店でモノを買う機会が減ってBtoCの市場から起きた不況です。
特殊なケースですけど、いろんな要因で商品が売れなくなるっていうことはありえるので、北の達人ではずっと準備をしてました。
天野
どんな準備を?
木下さん
僕は「無収入寿命」っていう言葉を使ってるんですが、会社に売上がまったくなくても、24カ月は社員の生活を保障できるようにしているんです。
天野
無収入寿命…初めて聞きました。
木下さん
会社の無収入寿命を常に意識していて、そのために等身大な経営を続けてるんですね。
借入しなくてもできる範囲の拡大しかしないし、稼いだ以上には使わず手元に資金を残す。
一部の会社は、借入して実力以上の拡大をしたり、もしくは永久に売上が下がらないという前提で資金を残さずに経営したりしている。長くやることを考えると、あまりいい状態とは言えませんね。
天野
これが、「北の達人がすごい」と噂される理由なのか…
達人は最後までにこやかだった
□BtoCのビジネスモデルを持っているか?
□モノを売る「物販」ができているか?
□資産が固定化されておらず、変化に対応しやすいか?
□投資とリターンを細かく計算している経営陣がいるか?
□先入観のせいで、ビジネスをする業界を固定していないか?
□後から入ってきた人にも伝わる、具体的なスローガンがあるか?
□売上がない状態に備えているか?
“達人”への取材で、「逆境に強い会社の7カ条」が完全に判明してしまいました。
未曽有の経済危機が訪れる可能性も示唆されている昨今…。
転職を考えている人も、就活生も、起業家志望のあなたも…この7カ条を意識して、サバイブしていきましょう!!
〈取材・文=天野俊吉(@amanop)〉
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