ビジネスパーソンインタビュー
「自分の実力を信じて」みたいな、カッコいい話じゃなくてね。
「自信があったわけでも、可能性を感じていたわけでもない」斎藤工の“下積み”を支えた3つの哲学
新R25編集部
キャリアを積み始めたばかりのR25世代。
夢や目標に向かって頑張りたいけど、「この道で本当にいいのか?」「自分にこの仕事の才能あるのかな?」など迷ってしまうこともあると思います。
そこで今回は、アルバイト生活をしながら20代を“下積み”に捧げた俳優・斎藤工さんに、「下積みの極意」についてお話を聞いてみることに。
「仕事さがしはIndeed」でおなじみのcmで話題になり、30代で出演したドラマ『昼顔』が大ヒットするまで、どうして俳優の道を諦めずに歩きつづけられたのか…。
取材は、斎藤さんの「意外な宣言」からスタートしました。
〈聞き手=サノトモキ〉
【斎藤工(さいとう・たくみ)】1981 年生まれ。2001 年に俳優デビュー。2020 年の出演作は、ドラマ『BG~身辺警護人~』(EX)、 映画『8 日で死んだ怪獣の 12 日の物語』、映画『糸』など。2021 年に主演作『シン・ウルトラマン』(企画・脚本:庵野秀明、監督:樋口真嗣)が公開予定。齊藤 工名義で FILMMAKER としても活躍し、初長編監督作『blank13』(18 年)では国内外の映画祭で 8 冠を獲得。企画・原案・脚本・撮影・写真・声・監督を務めた『COMPLY+-ANCE』(20 年)が第 23 回上海国際映画祭(SIFF)に正式招待。監督作『ゾッキ』が 21 年公開予定。劇場体験が難しい地域の子供たちに映画を届ける移動映画館「cinēma bird」を主催するなど活動は多岐にわたる。
サノ
というわけで今日は、「下積みの極意」についておうかがいしたくて。
さっそくなんですが…
斎藤さん
あの…すみません。
最初にひとつだけ、お断りしておいてもいいですか。
はい
斎藤さん
あのですね…
今日お話しすることは、「1人の昭和生まれのおじさんのたわごと」と思って聞いてほしいんです。
サノ
おじさん!?斎藤さんをですか…!?
斎藤さん
そうです。
なぜかと言うと…今はすべての様式が僕の若いころとは違うと思うんです。僕の感覚でアドバイスすればきっとズレが出る部分もあるし、上の世代の考え方が若い人の足を引っ張ることもある。
なので、あくまでひとつの意見として受け取っていただきたいなと。
サノ
こ、この謙虚さ…素敵すぎんか…
好き
斎藤工の20代を支えた哲学①「“その他大勢”にならない」
サノ
では改めて本題に。
斎藤さんのキャリアは「20代を下積みに費やし、30代で遅咲きブレイク」と言われることが多いですよね。その間、俳優という夢を諦めたくなったことはなかったんですか?
斎藤さん
ありますよ、諦めようとしたこと。
サノ
!!
斎藤さん
僕のキャリアは、「強い意志や信念があって、夢を追いつづけた」みたいな話をイメージされることが多いんですけど…
正直、自信があったわけでも、自分の可能性を信じていたわけでもなくて。
僕はただ、「“その他大勢”にならないためにはどうすればいいか」という選択を繰り返してきただけなんです。
斎藤さん
僕は、どんな世界でも生き抜くためには「まわりに埋もれない個性」、つまりオリジナリティが不可欠だと考えていて。
だから、“その他大勢”になることを何よりも恐れてきたんです。
で、その観点からいくと…20代ってだんだん「諦めること」がマジョリティになっていくんですよ。
サノ
諦めることがマジョリティ…
斎藤さん
20代前半のころは、同世代のライバルたちがたくさんいるわけです。
オーディション会場に行けば、すごく優れた容姿の人、卓越した特技を持ってる人…自分よりいい条件にいる人たちがどんどん目に入ってくる。
彼らの活躍を眺めることしかできなくて、何度も「もう諦めて楽になろうかなあ」と思ったんですね。
サノ
斎藤さんでもそうなんだから、厳しい世界だ…
斎藤さん
でも、なんとかしがみついてるうちに、山を登るしんどさに耐え切れず、崖から手を離していく人たちがどんどん増えていった。
その姿を見て思ったんですよね。「今手を離すと、“マジョリティ”になっちゃうぞ…?」って。
斎藤さん
だから、「自分の実力を信じて、夢を追って…」みたいなカッコいい話じゃなくてね。
「みんなが手を離すなら、自分はもう少しだけつかまってみよう。何かあるかもしれない、当てはないけど」って…ずっとそんな心境だった。
ただ「その他大勢にならない」という“逆張り的”なスタンスでしがみついていたというのが、正直なところなんです。
「選ばれる人と“その他大勢”は何が違う?」見極めてオーディション通過率を上げた
サノ
他にも、「みんながやってることをしない」という姿勢が活きた経験ってあるんですか?
斎藤さん
オーディションの通過率が上がっていったのは、まさにその考え方のおかげだったと思います。
当時、オーディションに受からない僕がもっとも悩んでいたことは、「自分の商品価値のなさ」だったんですね。
この方に商品価値がない時代があったなんて
斎藤さん
それで、オーディションで選ばれる人と“その他大勢”の人は何が違うのか?を徹底的に観察してみたんです。
オーディションで自分の番が終わったら、ずっと採用する側の目線で勝手に審査して。
「あっ、この人ちょっとやりすぎてるな」とか、「おっ、いいねえ彼!」みたいな…(笑)。
クールな表情の裏でそんな妄想劇を…かわいい
斎藤さん
そうしたらわかったんです。
選ばれない“その他大勢”の人は、「いつも以上の自分を見せようと頑張ってる人」なんですよね。
僕もそうでしたけど、付け焼き刃で、通常とは違う自分を見せようと「背伸び」をしてしまう。
サノ
会社の面接とか面談とか、仕事でも同じような気がします。
いいところを見せようとするのってよくないんですかね?
斎藤さん
採用する側は「一緒に仕事をする仲間」を探してるわけだから、「普段のあなたがどういう人か」を見たいわけじゃないですか。
なのに僕らは、「悪いところは隠して、オーディションの間だけなんとか乗り切ろう」みたいに“通常じゃない自分”を見せてしまう。
そこに気づいて、「地元の友達に会ってる自分」くらいのボルテージで地に足を着けてオーディションを受けてみたら、どんどん打率が上がっていったんですよね。
サノ
「求められてるかつ、“大勢”がやらないこと」を狙い撃ちしたと。
すごい強い戦法だ…!
斎藤工の20代を支えた哲学②「『自分は○○になれない』から収穫を見つける」
サノ
斎藤さんはバラエティ然り、「どんな仕事も断らない」というイメージがあるんですけど、これってどうしてなんですか?
斎藤さん
たぶん多くの人が、キャリアをスタートさせるときに、自分なりに「こうなりたい」という座標Aを未来に置くと思うんです。
でも、思い描いた通りに進んでいくことって本当に難しいじゃないですか。
僕は、浅野忠信さんのような俳優になりたかったんですけど、彼のようになれないことなんて仕事をしていたらすぐにわかった。
斎藤さん
だからこそ僕は、「求められた役割」に応えていくという方法を取ったんですよね。
『昼顔』以降“お色気キャラ”みたいなパブリックイメージを持っていただけるようになったんですけど…
あれも、それまでも僕を知ってる人からは「そのキャラでいくの!?」とビックリされるくらい、本来の僕や、僕が思い描いていた俳優像とは違うんですよ。
サノ
そうだったんだ…
てっきり、そういうお方なのかと…
斎藤さん
いや、僕自身「そういうキャラがハマるのか…!」という感じで(笑)。
でも、「自分が全然思い描いてなかった地点に座標をもらえる」って、すごくありがたいことなんですよね。
斎藤さん
自分では考えもしなかった座標B「お色気キャラ」をいただいたからこそ、その”座標からの振れ幅”を面白がってもらって、座標C「バラエティ」でも弾けることができた。
これは、座標Aだけにこだわっていたら絶対に生まれなかった状況で。
僕なんかは、求められたものに応えていった結果、いつの間にか“自分らしさ”ができていたんですよね。
サノ
たしかに、「斎藤工」の唯一無二感すごいもんな…
斎藤さん
人生って、「こんなはずじゃなかった」と思うことの連続のなかでも、何か“収穫”だと思えるものがきっとあるはずだと思うんですよ。
「やりたかったこと」と違う仕事をするなかでも、やんわり叶っていることやうれしいと思えることって、自分の視点次第で必ずあると思うんです。
思い描いてたルートと違ってとしても、「求めてもらったこと」に応えていけば、景色と標高はちゃんと変わっていく。
サノ
「自分のありたかった姿」になれなくても、「求められたこと」に応えていけば標高は上げていける。
なんて心強い考え方だ…!
斎藤工の20代を支えた哲学③「しょせん、他人の物語のサブキャラ」
斎藤さん
最後にもう一個だけ、いいですか。
夢に向かって頑張るのが苦しくなってしまった人に、お伝えしたいことがあって。
サノ
おお…ぜひお願いします!
斎藤さん
僕、人生って「自分が主人公の映画」だと思うんです。
誰しも主人公としてストーリーを描いている最中だと思うんですけど、その渦中では痛みをともなうこともたくさんある。
それって、「自分を主人公と捉えてるから感じる痛み」がほとんどだと思うんですよね。
斎藤さん
僕たちは確かに自分の人生の主人公なんですけど、「他人の物語の中心にも自分がいる」という感覚までいっちゃうと、それは“自意識過剰”なんですよ。
「恥をかきたくない」とか「この人の期待を裏切りたくない」とかは、まさに典型的な例。
サノ
必要以上にまわりの目を気にしてしまうというか。
斎藤さん
でも、僕らは自分の物語の主人公である一方で、他人の物語においては所詮「サブキャラ」なんです。
斎藤さん
僕は脇役としてもたくさん作品に出演してきたので、“自分がセンターじゃない景色”を何度も経験してきた。
でも個人的には、もしかしたら主演作品より貴重な学びを得られたんじゃないかと思えるくらい、そこで得た「しょせん自分はサブキャラ」という観点にすごく救われていて。
親とか家族とか、自分のことを「重要人物」だと思ってくれてる人もいると思いますけど、やっぱり彼らでさえも、物語のセンターに立ってるのは彼ら自身なんですよね。
サノ
たしかに…誰もが「自分の人生の主人公」だからこそ、誰もが「所詮は他人の人生のサブキャラ」なのか。
斎藤さん
僕はその視点に気づけた瞬間、すごく肩の力が抜けた感覚があったんです。
だから最後に、小っちゃく提唱したかった(笑)。
誰だって、ずっと心を強くもって頑張れるわけじゃないと思うので。
サノ
論理的だけど、すっごくやさしい…今日は素敵な考え方を教えてくださってありがとうございました!
また悩みが生まれたら、相談させてもらってもいいですか…?
斎藤さん
ぜひぜひ!いつでも。
最後まで最っ高にイイオトコでした。ありがとうございました!
「とはいえ、もう夢にしがみつけないという人は場所を変えていいと思うんです。見切りをつけることもまた新しい地点に座標を置くことだと思うし、素晴らしい決断の一つだと思うので」
苦しさのなかで、いかに自分をやさしく鼓舞するか。斎藤さんは、そんな考え方を徹底されている気がしました。
・「“その他大勢”にならない」
・「“こんなはずなかった”のなかに収穫を探す」
・「主人公とサブキャラを行き来する」
斎藤さんの哲学、苦しいときにこそ思い出していきたいと思います。
〈取材・文=サノトモキ(@mlby_sns)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=中澤真央(@_maonakazawa_)〉
斎藤工さんのメッセージも添えられたIndeedの特別CM「これからの、仕事さがしにサーチあれ」が公開
【Indeed JAPAN-CM「これからの、仕事さがしにサーチあれ」篇 60秒】
新型コロナウイルスの拡大によって、日々の生活や働く環境は大きく変化しています。
Indeedは9月1日、「あらゆる様式が変化した“これからの仕事さがし”を応援したい」という思いを込め、60秒の特別CM「これからの、仕事さがしにサーチあれ」を公開。
CMには斎藤さんがステイホーム期間中に感じたという「大切なものが何かを考えた」というメッセージも添えられています。
「仕事をするとはどういうことなのか」「どんな仕事が、働き方が自分にはあっているのか」など、働くことを再度見つめ直してみるきっかけとなるような60秒。
ぜひ、斎藤さんのスペシャルインタビューも併せてご覧になってみてください!
【Indeed 斎藤工さんスペシャルインタビュー】
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